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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
10章 大陸横断

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209 スターダスト商会アトレイア倉庫

 デレノア王国の勇者、竹内(たけうち)剛志(つよし)。俺は目覚めた彼から、これまで起きたことをざっと聞いた。


 ひと言で言うと、全ての元凶はヨシミにあった。


 ヨシミがバンパイアであること。王族や諸侯がヨシミによってバンパイア化されていること。彼女がデレノア王国の最高権力者になっていたこと。


 竹内はそれに気づいていなかった。彼は不審に思いながらも、マラフ共和国への進軍を続けていたそうだ。


「ふうん……。じゃあさ、魔導通信機で僕たちに連絡しなかったのはなんで?」


 佐々木はようやく普段の口調に戻った。ぎこちない口調だった竹内は、それでようやく普通に話し始めた。


「風の噂で聞いたんだ。……王都ハイラムがバンパイアで埋め尽くされたって。で、その犯人がヨシミ先生だって聞いてさ……」


「で?」


「すまない! ヨシミ先生を盲信していた俺がアホだと分かって、恥ずかしくて連絡できなかったんだ!」


 佐々木はそれを聞いて深いため息をついた。


「僕たちもヨシミ先生がバンパイアだと知らなかった。彼女の言うとおりに魔道具を創造(クリエイト)し、デレノア王国が有利になるようにした。だから、その気持ちは分かるよ……」


 黙って見ていた俺は、仲直りしそうな空気を感じてホッとする。ミッシーとファーギも同様だった。


 タイミングを見計らって問いかける。


「竹内さん、ちょっと聞きたいことがあります。みんな座りませんか?」


 応接室に入ったばかりで、俺たちは立ったままだ。大きなカウチに座り、みんなでローテーブルを挟んで向かい合った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ややこしいことになっているので俺から話します――」


 始祖(プロジェニタ)ルイーズ・アン・ヴィスコンティ伯爵夫人。

 こいつは、魔女(カヴン)のマリア・フリーマンから指示を受けて動いている。目的は、敵対勢力のリリス・アップルビーを亡き者にすること。


 勇者であり始祖(プロジェニタ)磯江(いそえ)良美(よしみ)

 こいつはリリス・アップルビーの狂信者だ。


 勇者であり子爵(ヴィカウント)山田(やまだ)奈津子(なつこ)

 こいつがややこしい一因だ。

 ルイーズの()でありながら、ヨシミ(異なる主)を救出するために動いている。


 そしてスターダスト商会の子爵(ヴィカウント)エミリア・スターダスト。

 こいつは、スターダスト商会を隠れ蓑にして、ヴェネノルンの血を飲んだバンパイアの勢力を広げようとしている。その指示を出しているのは、リリス・アップルビーの創造主であるアダムだ。


 アダムは説明すると長くなるので割愛した。


 一気に喋り終えて、勇者佐々木と勇者竹内が難しい顔をする。やはり仲間の勇者がバンパイアになったことで思うところがあるのだろう。岡田たちがダンピールになったことで二人の勇者は驚いていたが、メリルたち四人のダンピールを見ているので、佐々木に関しては胸をなで下ろしていた。


「ソータくん、目先のことを考えるとさ――」


 脱走した始祖(プロジェニタ)磯江(いそえ)良美(よしみ)


 彼女を間接的に脱走させたのは、ヨシミを慕う子爵(ヴィカウント)山田(やまだ)奈津子(なつこ)


 佐々木はその確認を取ったあと、他の勇者にもヨシミ派のバンパイアがいると語った。


 ただし、ヨシミと山田、このふたりをバンパイア化した人物は異なっている。


 これがヨシミたちにどういった影響を与えるのか。血の繋がりに逆らうことができるのか。彼女たちは今どこにいるのか。


 そんな話になった。


「佐々木さんは、中村さんのかたき討ちを望んでるんですよね?」


 いちおう確認で聞いてみた。


「そうだね……。僕の目の前で、中村くんは山田に殺された。僕は絶対に山田を殺す」


 佐々木の目には復讐の炎が宿り、怒りに染まっている。


「そこなんですよ。山田の親であるルイーズは、この国、マラフ共和国へ逃げ込んでいます。対してヨシミは、王都ハイラムで脱走しました。山田はどちらと合流するでしょうか?」


「……」


 佐々木が考え込むと、竹内が口を開いた。


「だいたい状況が分かった。それならこの街に手がかりがあるぜ。多分だけどな」


 これが普段通りの話し方なのだろう。竹内は自信に満ちた口調で話していく。


 竹内は、スターダスト商会の支店にバンパイアが出没するという依頼を受けたが、他の冒険者たちも同じ依頼を受けていたらしい。これはダブルブッキングで、冒険者ギルドのミスだった。


 竹内より先に調査に行った冒険者たちは、勇者のような格好をした黒髪のバンパイアたちに遭遇した。彼らは絶望的な戦力差を感じ、一旦引き返したのだ。

 冒険者たちがギルドに戻ったところで、竹内と大喧嘩になったという。


「それがさっきの喧嘩なんですね。……つまり、山田はルイーズとすでに合流し、アトレイアの街に来ていると?」


「ソータの言うとおりだ! なかなか飲み込みが早い奴だな。ひょろっとして魔力も感じないのにさ!」


 初対面で名前呼び。勇者竹内は随分フランクな人物のようだ。俺の見てくれなんてどうでもいいだろ。


「そのダブルブッキングの件ですけど、ギルマスはさっき何も言ってませんでしたね。もう解決したんですか?」


 俺の問いに竹内が応じた。


「解決してたら喧嘩にならないだろ。あいつらは仲間の冒険者を集めて、もう一度スターダスト商会に向かう――ヤベッ!!」


 ヤベッって言いたいのはこっちだ。その冒険者たちの命が危ない。俺が口を開こうとすると佐々木が遮って話し出した。


「アトレイアの街には、山田とその仲間が来ているはず。僕がバンダースナッチに乗せてもらったのは、山田たちがスキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟で霧に変わって海の方へ去ったからだよ」


 はあ? 今ごろその話をするの? さっき言えばよかったじゃないか。それよりバンダースナッチに乗るときに言えよ!


 そう思ったが、佐々木の瞳には激しい怒りが見て取れた。


 山田(やまだ)奈津子(なつこ)は絶対に殺す。いまはその事しか頭にないようだ。じっと見つめる俺に気付いて、佐々木は言葉を続けた。


「ははっ。ソータくんがさ、すごく優しいのは分かるよ。中村くんを亡くして落ち込んでいるときさ、無言でバンダースナッチに送り返したでしょ。あれはとても感謝している。けどさ、あのあとバンダースナッチで話し合ったでしょ」


 あー、あの件か。佐々木は俺が優しいという言い方をしているが、あのあと俺と佐々木は軽く押し問答になった。そのとき俺は佐々木に、山田を探しに王都ハイラムに帰れと言ったからな……。意固地になって情報を出さなかったのだろう。


 人間関係は本当に難しい。


「ところで竹内さん。ヤベェってなんですか? あの言い方だと、別に依頼を受けた冒険者たちが、お目当ての場所に向かっているように聞こえますが」


 勇者がバンパイア化しているのなら、メリルたちのダンピール化がかわいく見えるくらい強くなっているはずだ。そんじょそこらの冒険者が束になってかかっても、蹴散らされて終わりだろう。


 俺は汗をだらだらかいている竹内をじっと見つめた。


「竹内さん()依頼を受けてるんですよね?」


「お、おう!」


「ここにいる面子でスターダスト商会へすぐに向かいましょう。場所は分かってるんですよね?」


 そう言って俺は部屋を見渡した。ミッシーとファーギ、佐々木と竹内、それに軍師のヘルミ、全員が頷いた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 アトレイアの街は、いわゆる城郭都市である。人口十万人の人々は、外敵を阻む壁に守られて暮らしていた。城壁の高さは五十メートルを誇り、近接する森から現れる魔物が入れないようになっている。


 城壁の外には畑などない。高い木々が城壁に接しないように切り倒されている。アトレイアの周囲は、荒れ地が広がっていた。


 ただひとつある街道は石畳の舗装などなく、長年かかって押し固められた砂利道だ。人通りはほとんどなく閑散としている。


 これはアトレイアの街が、主に海運に従事していることが原因でもある。陸路を進むより海路の方が安全なので、必然的な結果と言えよう。


 そんな砂利道を駆け抜けていく馬車が五台。御者を含め、三十人ほどの冒険者が完全武装で乗り込んでいた。


「そういえばよ、スターダスト商会の倉庫って、なんでわざわざ城壁の外に造ったんだ?」


「アトレイアはマリーナ・アクアリウスが治める城郭都市だからな。マリーナが経営するマーメイド商店が仕切っていて、土地がないんだよ。そんなことも知らないって、お前新入りか?」


「へへっ。最近来たばかりだ」


「そっか。レイブン・ハート。よろしくな。しかし、いい装備だな。儲かってるのか?」


 金色の髪の毛で青い瞳、年の頃は四十半ば。長年戦ってきた精悍な顔には、いくつかの切り傷が残っていた。ひときわ目を引くのは、背中に担いだ大型の魔導ライフルだ。


 握手しようと手を出してきたレイブンを無視しながら、新人が答えた。


「まあ、そこそこかな」


 冒険者の行動範囲はそれぞれ異なる。レギオンに属して街に住み、家庭を持ち、体力的な限界を感じるまで冒険者を続ける者。一方で、根無し草のように世界中を放浪する者もいる。このふたりの冒険者は、どうやら後者のタイプである。


 砂利道に揺られてしばらくすると、馬車がゆっくり速度を落として停まった。


 どうやら到着したらしい。彼らは馬車から降りて周囲を確認する。


「ほえー。この倉庫はスターダスト商会でも、かなり大きな部類だ」


「何だ新人。スターダスト商会の倉庫を他で見たのか?」


「ああ、いくつか見たことある。知ってるか? この商会、マラフ共和国で、バンパイアを増やしてるんだぜ?」


「……おい新人。さすがにそれはない。この国の軍事力は、ドワーフのミゼルファート帝国に匹敵する。ゴーレムや空艇(くうてい)の技術も負けてないしな」


「まっ、そういうことにしておこう。それよりみんな行っちまうぜ?」


 話しているうちに、彼らは置いてけぼりを食らっていた。仲間の冒険者たちは先へ進み、スターダスト商会の倉庫へ近付いていた。


 この倉庫は砂利道の街道から遠く外れ、森の中に四軒建っている。各倉庫は一辺が五百メートルの正方形で、高さは二十メートルだ。近くには空艇(くうてい)の発着場が隣接されていた。


 まだ午前なのに、たくさんの空艇(くうてい)が離発着している。


 彼ら冒険者は、スターダスト商会に許可をもらって来ているわけではない。


 そもそもの依頼は「バンパイアがいるかもしれない」というものだったので、堂々と入っていけば、バンパイアがいた場合、彼らはすぐに逃げてしまうだろう。さらに、冒険者の物々しい装備を見たら、スターダスト商会の警備員が中に入れるはずがない。


 遅れて続く冒険者ふたりは、すでに破られた金網を抜けて、倉庫の敷地内へ入った。


「一回ここに来たんだっけ?」


 新人が口を開いた。


「お前は朝いなかったな。この倉庫の中に、黒髪のバンパイア集団がいたんだよ。そいつら滅ぼして、灰を持ち帰りゃ依頼達成だ。ひとりのバンパイアで五百万ゴールドだから、破格値もいいところだぜ」


 この辺りに人の気配はない。正面入り口は左手の方角で、こっちは側面になるからだ。ひとりの冒険者が通用口に張り付いて、ピッキングでカギを開ける。魔法を使えば探知されてしまう。それを避けるために、彼らはアナログな方法で進んでいた。


「今朝のことはバレてないみたいだ。先に進むぞ」


 カギを開けた冒険者が倉庫の中に入ると、仲間の冒険者たちが続々とあとを追う。


「俺が殿を務める。新人、お前俺の前を歩け」


 レイブンはそう言って進み始めた。


 倉庫の天井に届きそうなくらいうずたかく積まれた荷物は、ブロックごとに整理されて置かれている。まるで迷路のように入り組んだ通路を進んでいく冒険者たち。


 しばらくすると、先頭を進む冒険者が手を挙げた。止まれのサインだ。


 冒険者たちに緊張が走る。


 ――ギィーン


 新人の後ろから、剣戟(けんげき)が響いた。彼が振り向くとレイブンがバンパイアの爪を剣で受け止めているところだった。


 ――ズドン


 前方では爆発音が響いた。


「おい新人! ちっーとばかし拙いかもな!」


 レイブンはバンパイアを斬り飛ばして灰に変えた。しかし、彼の前には大勢のバンパイアが牙を剥いていた。


「あー、めちゃくちゃ多いな。囲まれてんじゃね?」


 新人は気配を察したのだろうか。積まれた荷物の上を見上げている。


「おいいっ! 新人、さっさと手伝え!!」


 レイブンはバンパイアを次々と灰に変えながらも、ギリギリ耐えている。これ以上バンパイアが増えればひとたまりもないだろう。


「しゃーねえ。これも金のためだ」


 新人は腰の剣を抜き、バンパイアに斬りかかる。その剣はまたたく間にバンパイアを灰に変えていった。


「おまっ!? ランク高そうだと思ったけど、相当強いな! A、いやSランクか!?」


「まさか。俺はCランク冒険者だ――」


 そう言った新人は、声を残して姿が消えた。スキル〝身体強化〟と〝加速〟を使ったのだろう。このふたつは、互いの欠点を補い長所を伸ばす鉄板の組み合わせである。


 新人は先ほどより更にバンパイアを滅ぼす速度が上がり、レイブンは驚きの声を上げた。


「あの獣人冒険者がCランク? 絶対に嘘だろ!」


 レイブンと新人が相手にするバンパイアは、またたく間に滅び去った。残心を終えた新人冒険者は前方を加勢するために走り始めた。


「ははっ。調子に乗ってるねぇ――ニンゲン」


 倉庫の天井近くから聞こえてくる声。冒険者たちがそこを見ると、これまでとは違うバンパイアが大勢立っていた。


「あいつは一般(コモン)じゃねえぞ! 騎士(ナイト)だったら一攫千金、子爵(ヴィカウント)だったら一攫万金だぞっ!!」


 冒険者たちは上位のバンパイアが現れても、怯むどころかかえって闘志を燃やした。それもそうだろう。彼ら冒険者たちは、エスペリア港から渡ってきたデレノア王国のバンパイアハンターたちなのだから。


 ひとりの冒険者は、アンジェルス教が配布している聖水を、水魔法と混ぜて打ち出す。


 ひとりの冒険者は、手の甲の聖印が光り輝き、その光でバンパイアをまとめて灰に変えた。


 次々と倒されていくバンパイア。彼らは完全にバンパイアを圧倒していた。


 そんな中ひとりの冒険者が声を上げた。


「お? おいっ!! あいつ見たことあるぞっ! 名前はたしか――ミランダ・シャン! 騎士(ナイト)だから、こいつも儲かるぞっ!!」


 ルーベス帝国のスターダスト商会にいたバンパイアだ。


「おっしゃー! テメエらゴーグル装着!!」


 リーダーの冒険者が魔導ライフルを構えて叫んだ。銀色に光るその銃から、白い閃光が倉庫の中に放たれる。


 その光は、目が潰れるほど強烈だった。倉庫の中の色彩は、すべて白に飲み込まれてゆく。そう、これはただの光ではない。


 魔導ライフルには無数の魔法陣が刻まれているのだ。

 そのうちのひとつが光魔法陣。残りは多重魔法陣。つまりこの魔導ライフルは、光を極限にまで増幅する発光弾を撃ち出すのだ。


 炸裂した発光弾は、巨大倉庫にある影をなくし、隠れていたバンパイアたちを灰に変えていく。どうやらこの倉庫には、ひとりのニンゲンも居なかったようだ。


「これでしまいか……? 灰を集めるのが大変そう――がはっ!?」


 リーダーの冒険者は最後まで言葉を続けられなかった。彼の腹から四本の爪が突き出ていた。彼はその痛みで顔をしかめる。


「おほほ? ヴェネノルンの血を()めないでいただきたいですわ」


 あの光はバンパイアを幾度となく灰に変えてきた。それなのに騎士(ナイト)ミランダ・シャンは平気な顔で立っていた。


「あなたたち冒険者ですよね。少し伺いたいのですが、この街に黒髪の冒険者たちはもう(・・)いないのかしら? 知っているニンゲンは生かしておいて差し上げますわ。そうでなければ……」


 ミランダは赤い目を輝かせて、スキル〝魂の鎖(ソウル・ジャック)〟を使っていく。強力な暗示をかけ、彼らに嘘をつかせないために。


 次々と暗示にかかっていく冒険者。彼らの瞳は虚ろになり表情が抜け落ちた。


「おいクソバンパイア、そのスキルは目を閉じれば効かないんだぜ?」


 レイブンはいつの間にか近付いて、ミランダの背後から剣を振り下ろした。


「ねえ、どうしてあなたたちは不意打ちのチャンスを逃して、わざわざ声をかけるのですか? バカですか? 声をかけたら不意打ちになりませんよ? バカですよね? だからニンゲンは嫌いなのです」


 ミランダは振り返りもせず、レイブンの剣を、右手の人差し指と親指の爪で摘まんで止めた。彼女は振り返りざまに、レイブンの首をはね飛ばす。


 つもりだった。


 ――キン


 軽い金属音は、新人冒険者の(つめ)が、ミランダの爪を切った音。


 ミランダは、あり得ない、そんな表情で口を開いた。


「お前、デーモ――」


 新人冒険者は自らの爪で、ミランダの首を冷酷に斬り飛ばした。ミランダの首は床に落ちる前に、灰と化した。


 凄まじい動きを見せた新人冒険者に命を救われたレイブン。彼はギリギリで難を逃れた。


「助かったぜ。しかしお前、すげえな! いや、その前に、リーダーを治さなきゃ。おい新人、これ知ってるか?」


 レイブンは魔導バッグから小瓶を取り出した。中身はヒュギエイアの水だ。


 リーダーは腹を刺し貫かれてうずくまっている。瀕死の重傷で、間もなく息を引き取るだろう。


 レイブンはリーダーの背中にヒュギエイアの水を浴びせた。するとみるみるうちに傷が塞がっていく。


 それを見た仲間の冒険者たちはホッとしていた。


「よーし! バンパイアの灰には聖水ぶっ掛けて集めるぞ! お?」


 レイブンが勝ち鬨を上げようとした時に、新人冒険者は姿が消えていた。


「何だあいつ……? せっかく大儲けできるのに、灰を集めないで帰りやがった――っ!? みんな気を付けろっ、何か来てるぞ!!」


 その声で緩んだ空気が瞬時に引き締まる。冒険者たちは武器を構え直し、周囲を探る。


「あらら? ミランダさん、死んじゃったみたい。エリザ、この状況どう思う?」


「死んじゃってるみたいだね。レオン兄様、やったのはこのバンパイアハンターよね。どうする?」


「とうぜん皆殺しっしょ! あ、リリーはおとなしくしててね」


 三人のバンパイアが、積み上げられた荷物の上に現れた。どうやら三人兄妹のようだ。リリーと呼ばれた女の子はまだ幼い顔立ちである。レオン、エリザ、ふたりの年長バンパイアは、レイブンたち目がけて襲いかかった。


 レイブンは剣を構えながら、仲間たちに叫ぶ。


「こいつら、明らかに一般(コモン)とは違う! 気を付けろ!」


 レオンはレイブンの剣を、素手で受け止めた。


「ふーん、こんなのがバンパイアハンターか。ちょっと期待はずれだな」


 レオンが力を込めると、レイブンの剣は簡単に折れてしまった。


「な、なんだと!?」


 驚愕するレイブンを、レオンは軽々と持ち上げる。


「お前ら、ニンゲンのくせに調子に乗りすぎ」


 そう言って、レオンはレイブンを壁に叩きつけた。壁に穴が開き、レイブンの姿が見えなくなる。


 一方、エリザは他の冒険者たちを相手に戦っていた。彼女の動きは優雅で、まるでダンスを踊っているかのよう。しかし、その一挙手一投足が致命的な攻撃となり、冒険者たちを次々と倒していく。


「あら、こんなにたくさんのおもちゃがあるなんて。楽しいわ」


 エリザの笑みは残酷さを帯びていた。彼女の周りには、倒れた冒険者たちが散乱している。


 リーダーの冒険者は、魔導ライフルを再び構えた。


「くそっ! もう一発だ!」


 しかし、引き金を引く前に、彼の首筋に鋭い痛みが走った。


「いけませんわ。危ないおもちゃは、没収です」


 リリーが彼の背後に立っていた。幼い顔つきとは裏腹に、その目は冷酷な光を宿している。


 リーダーの手から魔導ライフルが滑り落ち、彼の首も身体から転げ落ちた。


「お兄様、お姉様。もう終わりにしましょう?」


 リリーの声に、レオンとエリザは動きを止めた。


「そうだな。これ以上遊んでも面白くない」


「でも、まだ生きてる子もいるわよ?」


「構わないわ。生かしておいて、私たちの情報を広めてもらいましょう」


 三人のバンパイアは、残った冒険者たちを冷ややかな目で見下ろす。


「覚えておけニンゲンども。俺たちは始祖(プロジェニタ)の血を引く、純血種(ピュアブラッド)のバンパイアだ。お前らごときじゃ、俺たちには敵わない」


 レオンの言葉に、生き残った冒険者たちは震え上がる。


「さあ、他のニンゲンが来る前に、あなたたちは皆殺しです」


 エリザの提案に、ふたりは頷いた。彼らはスキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟で瞬く間に姿を消し、生き残りの冒険者の背後に姿を現した。


 殺戮が始まった。静寂が破られ、冒険者の断末魔の叫び声が響く。そんな中、壁の穴から、レイブンが這い出してきた。


「くそっ……あんな化け物、どうやって倒せばいいんだ……」


 彼の呟きは、誰にも届かなかった。

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