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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
9章 バンパイアとバンパイア

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193 内輪もめ

 月夜の帝都ドミティラは、白銀の光で絢爛と輝いていた。深い眠りに沈む街並みは、静寂とともに落ち着き払った美しさを湛えていた。

 しかし、インスラ地区では今にも破裂しそうな緊張感が支配していた。


 始祖(プロジェニタ)であるレオナルド・ヴァレンタイン――宰相ユリウス。


 そしてもう一人の始祖(プロジェニタ)、マルコ・ブラッドベイン――三将の一。


 二人のバンパイアが、対峙していた。


「マルコ・ブラッドベイン、貴殿は地球から訪れたバンパイアだと聞いております」


「……」


 レオナルドの言葉に、マルコは無言を返す。


「そして我が部下、アルフレッド・ブラッドローズが貴殿の手により命を絶たれたとも聞きました。その真実を直に聞かせていただきたい。貴殿の口から出る言葉次第では、ここで全てを決着させる覚悟もあります」


 レオナルドはユリウスの姿を維持したままだ。彼はマルコに対し、冷徹なまでに静かな眼差しを向けた。その言葉は周囲の空気を一層重たく、そして厳かなものにした。


「その名を聞いたことはないですね。だが、我が敵である化け物は数知れず討ち果たしてきました」


「くっ……」


「この地で、バンパイアがニンゲンに戻る不思議な雨が降っています。そんな奇跡が起きても、ニンゲンに戻らない異端のバンパイアが散見されました。そんな化け物を討ったとして、何か問題でも? もしや貴公も、ヴェネノルンの血を飲んだのですか?」


 マルコの口調は明らかに煽るものだった。それが逆にレオナルドを冷静にした。二人の紳士は目を逸らさず、静かに見つめ合う。


「……この姿で戦闘は困難ですね」


 宰相ユリウスは自らの衣装を一瞥し、スキル〝変貌術(シェイプシフト)〟を解除した。その瞬間、彼の姿は本来のレオナルドに戻り、膨大な闇脈(あんみゃく)が噴き上がった。


「見事な変貌ですね。しかしレオナルド、あなたはリリス様から受けた指令は実行されないのですか?」


「……何を仰っているのでしょう」


 マルコの問いに、レオナルドの表情がわずかに硬くなった。とぼけるように、あるいは避けるように、彼はマルコから視線を逸らした。それを見たマルコは、更なる追撃を仕掛ける。


「ヴェネノルンの血を飲んだあなた達は、もはや純血種とは呼べません。リリス様はあなた達に、この地から去るよう命じたはずです」


「純血種という概念にこだわって、ヒト族には勝てません。リリス様が異世界(地球)へ渡られた後も、我々は準備を進めてきました。この地に、バンパイアの王国を築き上げるために」


「国を興そうとした獣人自治区。彼らがどうなったのか、あなたは知っていますよね」


「我らはデーモンとは共闘しません」


「しかし、ヴェネノルンの血は飲んでいる。デーモンを憑依させた獣人とそれほど大きな違いはありません」


「それでも……。リリス様の願い、バンパイアの国を作るという壮大な目標は、達成しなければならない。ヴェネノルンの血を飲んだとしても!」


「果たしてそうでしょうか。ヴェネノルンの血によって制御不能に陥ったバンパイアは数多くいます。落伍者(アウトキャスト)に至っては、自我を失います。そのような国民を見たリリス様はどう思うでしょうか?」


「いや、それでも――――」


「我らバンパイアは闇の中に生きる存在。決して表舞台には立つべきではありません。ニンゲンと共存していくべきなのです」


「……それなら証明してみせましょう。ヴェネノルンの血が、我らをより高みへと導くという事実を!! ニンゲンと共存などしなくていいということを!!」


 声を荒らげるレオナルド。腰を落とし、眼前の(マルコ)を睨み付けた。


「話し合いで解決できないと言うのなら、実力で示すしかありませんね。あなた、始祖(プロジェニタ)でしょうに……。頭が悪すぎやしませんか?」


 レオナルドを煽りつつ腰を落とすマルコ。


 二人の会話は最終的に対立に至り、和解は果たせなかった。


「それでは始めましょうか、レオナルド・ヴァレンタイン」


 マルコの声は冷たく響き渡り、月明かりの下、彼のリムレス眼鏡が一瞬だけ閃いた。彼の手から血が滴り落ち、地面に触れると同時に鋭い剣へと変わった。それは彼の能力、血液を操る力の一端だ。


 レオナルドもまた、自身の血を操り、鞭のような形状に変えた。彼の目は燃えるような赤色に輝き、戦闘への決意を露わにした。


 二人の間に緊張が流れ、周囲は静まり返る。それは嵐の前の静けさ、戦闘の始まりを予感させる静寂だった。


 そして、一瞬の沈黙の後、二人は同時に動き出した。血の剣と血の鞭が激しく交錯し、その衝撃波が周囲の建物を揺らす。インスラ地区の静寂は一瞬で破られ、戦闘の音が大きく響き渡った。


 マルコは血の剣でレオナルドの攻撃を防ぎつつ、自身も攻撃を仕掛ける。彼の動きは洗練されており、無駄のない動きでまるでダンスのようだった。


 一方、レオナルドは血の鞭を使い、マルコの攻撃を避けつつ、自身も攻撃を仕掛ける。彼の動きは野生的で、力強い動きはまるで獣のようだった。


 二人の戦闘は激しさを増し、その影響で周囲の建物が次々と破壊されていった。しかし、二人はそんなことに構わず、ただひたすらに戦い続けた。


 戦闘が続く中、マルコは一瞬の隙を見つけ、レオナルドに向けて血の剣を投げつけた。

 レオナルドはそれを見切り、血の鞭で剣を弾き飛ばした。


「なかなかやるな、マルコ。だが、それでは私を倒すことはできない」


 レオナルドの声は冷酷で、彼の目はマルコを見下ろすように輝いていた。


「それはあなたが決めることではありません、レオナルド」


 マルコは冷静に反論し、再び血の剣を形成した。彼の目は冷たく、レオナルドを見つめる視線は鋭く、闘志に満ちていた。


 再び戦闘が始まり、二人の間で血の剣と鞭が交錯する。その激しい戦闘の影響で、周囲の建物が次々と破壊され、更地へ変わっていく。その音はインスラ地区の外まで響いていた。


 二人のバンパイアはただひたすらに戦い続けた。


 少しずつ均衡が崩れ始めた。


 始祖(プロジェニタ)は、基本的に互角の能力である。


 ただし、学んだ知識や技術で、多少の優劣がつく。


 多少である。


 今回は、多少ではなかった。


 レオナルドは、マルコを圧倒し始める。


 レオナルドの血の鞭がマルコの血の剣をへし折った。


 それだけではなく、血の鞭がマルコに巻き付き、彼は身動きが取れなくなった。


 マルコは血の鞭を引き千切ろうと力を込めたが、びくともしない。


 それならばと彼は、闇脈(あんみゃく)魔法で血の鞭を引き裂こうとする。


「マルコ、あなたはもう闇脈(あんみゃく)魔法は使えませんし、スキルも封じました。私の鞭はヴェネノルンの血が混じっています。聖獣(・・)の力を侮らないでください」


 レオナルドはあざ笑いながら、マルコに種明かしをした。


「くっ……。この力は、我らと対極の聖属性。レオナルド、あなたはどれだけヴェネノルンの血を飲んでいるのですか?」


「ヴェネノルン一頭くらいですね」


「そんなことをすれば、バンパイアは滅んでしまいます」


「我々の錬金術を舐めないでいただきたい。滅ぶのは私ではなく、あなたです」


 レオナルドの言葉で、血の鞭に火がついた。その業火は一瞬でマルコを灰に変えた。マルコは断末魔さえ上げることができなかった。


 あまりにも高熱だったからなのか、血の鞭の炎は近くの家屋に燃え移る。インスラ地区の密集した木造家屋は、すぐに大火事へ発展していった。


 そんな中、始祖(プロジェニタ)マルコの灰が集まって、ヒトの形を取り始めた。彼はこの場で甦り始めたのだ。


「さて、このまま甦ると面倒です」


 レオナルドはソータが作った抗体カクテル治療薬を取りだし、それを地面から生えたように顔を出しているマルコに振りかけた。


「ぐわあああああああああああああああああああああああ!!」


 抗体カクテル治療薬でニンゲンに戻ったマルコは、激痛で絶叫を上げた。


 当然だろう。


 甦ったのはまだ、彼の首から上だけ。


 どこからそんな声が出るのだろう。レオナルドはそんな顔でマルコを見つめている。


 マルコの叫びはすぐに途絶え、その瞳から光が失われた。


 生首の状態で地面に転がったマルコは、みるみるうちに老化していき、干からびていく。


「ふんっ……。純血種にこだわって滅びてしまっては本末転倒。バンパイアの国など作ることは叶いません。さて、マルコの部下は八咬鬼(ハチオウキ)でしたか……」


 レオナルドは、干からびたマルコの首を踏み潰しながら魔導通信機を取りだした。


「こちらは済みました。配置についている執行官を動かしてください」


『了解しました、レオナルド様(・・・・・・)


 魔導通信機から漏れ聞こえる女性の声は、ルーベス帝国の大法官マルキア・ポルキア・カトーのもの。彼女は実力行使できる組織を、軍とは別に持っている。法を強制執行させるために。


 レオナルドは宰相ユリウスの姿で、ドミティラ・アウグスタ宮殿を調べ回っている。そのとき彼は、大法官マルキア率いる法の執行機関、教師(レクトール)に目を付けていた。


 後日レオナルドは、そのトップである大法官マルキアをバンパイアに変えた。


 ルーベス帝国五人の高官のうち、ひとりは死亡、ふたりはバンパイアという状態だ。これではもう国としてたち行かないであろう。


 通話が終わると、レオナルドは霧と化してその場から消えた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺は冒険者ギルドのマスター、タクルスから連絡をもらって、慌てて帝都ドミティラへ戻った。ゲートを繋げた先は、冒険者ギルドの屋上だ。


 周囲を確認すると、インスラ地区のほうからもうもうと黒煙が上がっている。タクルスが言っていた、帝都が燃えているとはこのことだろう。あそこの住人は一時退去しているから大丈夫だと思うけど、住む場所が無くなったら厳しい生活を強いられる。


 下を見ると、冒険者ギルドの周りに人が押し寄せている。おそらく闘技場に避難していたインスラ地区の住人たちだ。


 ヒュギエイアの水を発生させ、インスラ地区上空で静かに弾けさせる。一発目で煙が晴れた。家屋が燃えている箇所は、かなり広範囲に及ぶ。二発目でようやく鎮火した。滝のように降らせてしまって水害みたいになってしまったけど、焼失するよりはマシだろう。


 火事の原因が分からないので、いったんタクルスに話を聞いてみよう。


 階段を降りると、案の定インスラ地区の住人たちでごった返していた。彼らをかき分けてカウンター前に辿り着き、職員のお姉さんにタクルスの所在を尋ねる。


「……こちらへどうぞ」


 この前話した受付嬢だったので、身元確認無しで奥に通される。


 ここって割と緩いんだよな。俺は顔パスになるほどここに出入りしてないぞ。この前は情報漏洩してたし。


「……うん?」


 闇脈(あんみゃく)を感じた。


「どうしました?」


「いや、なんでもないです」


 通路を進んで到着したドアの前。ギルマスの執務室だ。受付嬢はノックしてドアを開ける。


「ギルマス、ソータ様がお越しになりました。事態が切迫していますので、直接お連れしました」


「ありがとう。下がっていいぞ」


 受付嬢にそう言ったタクルスは、俺を手招きする。


 ふたり向かい合ってカウチに座ると、タクルスが状況説明を始めた。


 曰わく、大将軍ルキウスは、軍を使ってインスラ地区を焼き払おうとしている。


 曰わく、大司祭ルキアは、大勢いる負傷者の治療を拒否している。


 その事態に対処すべく、大法官マルキア・ポルキア・カトー率いる法の執行機関、教師(レクトール)が出動していると。


 そんな話、信じられるわけがない。


 いつの間にか、タクルスはバンパイア化していたのだ。


 ほんの数時間前に会ったときはニンゲンだったのに、どうしてこうなった。


 タクルスから溢れる闇脈(あんみゃく)の量は、木っ端バンパイアのそれではない。さっき戦った子爵(ヴィカウント)並みの力がありそうだ。


「ぶはっ!? おいおいソータ、こんなとこで水魔法なんて使うな!! こっちは真面目な話ししてるんだぞ?」


 ふむ……。抗体カクテル治療薬とヒュギエイアの水の混合物をぶっかけても変化無し。つまりリリス一派のバンパイアで無く、土着バンパイアの仕業ってことか。


 ここに来るまで感じた闇脈(あんみゃく)はひとつだけ。タクルスからのみ。冒険者ギルドの職員や、居酒屋の店員、押し寄せたインスラ地区の住人、誰一人バンパイア化していなかった。


 うまいやり方だ。トップを掌握し、それっぽい理由で指示を出す。そんなことやってんのは、宰相ユリウス、ネロ皇子、ユリア皇女、その三人しか思い浮かばない。


 大将軍ルキウスさんよお……「帝都は任せろ」なんて言っておきながら、なんという体たらく。


「ソータ……? 話聞いてんのか?」


 オークのタクルス。人なつっこい顔でわりと好きだったけど、ごめんな。


 タクルスに時間停止魔法陣を貼り付け、動けなくする。その場でドミティラ・アウグスタ城へのゲートを開き、そこにタクルスを投げ入れた。このまま放置すれば、バンパイアが増えるかもしれないし。


 火事は収まったけど、事態はより深刻になってしまった。


 俺は執務室を出てカウンターへ向かった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「みんな聞いてくれっ!!」


 大声を張り上げると、ごった返したカウンター前の騒ぎがピタリと収まった。風魔法で声を大きくしたからな。


「依頼を出したいのなら、金を持ってこい!! ただな、火事はもう消えた。いまはもう煙も出てないぞ!!」


 ほとんどが火事を消してくれと騒いでいたから、俺の言葉で収まった。数人が外に出て確認しに行く。彼らはすぐに戻ってきて、火事が消えていると報告した。


 それで納得したのか、冒険者ギルドを埋め尽くしていた人びとが避難所へ戻り始めた。


 彼らがいなくなると、さっきの受付嬢が話しかけてきた。


「ギルマスはまだ執務室ですか?」


 そう聞かれるのも当然だろう。俺がやった行為は、本来ならギルマスがやらなければならない仕事だ。それなのに、一介の冒険者が来客を追い返してしまったのだから。


「うーん……。俺の話を聞いて、血相変えて飛び出してったんです。すいません出しゃばってしまって」


 口八丁で誤魔化しておく。


「はあ……タクルスは冒険者だったときの癖が抜けないんで、私たちも困ってるんですよ。どこへ向かったか聞いてますか?」


 ため息交じりの受付嬢。


「……さ、さあ?」


「まったくもう、タクルスのクソジジイめっ!!」


 ふんすと鼻息荒く、受付嬢は仕事に戻っていった。ジジイってほど年食ってないけどな。


 俺は冒険者ギルドを出て裏路地に入った。そこでドミティラ・アウグスタ城へのゲートを開いて、先に投げ込んだ三人を確認しに戻った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「……なんだこれ。バンパイアにシェルターの場所がバレたのか」


 ドミティラ・アウグスタ城から、ゾロゾロと木製ゴーレムが出てきていた。城内庭園では、大勢のバンパイアと、城を守る木製ゴーレムとの激しい戦闘が繰り広げられていた。


 俺の前に転がっている、ネロ皇子、ユリア皇女、ギルマスのタクルス、三人とも時間が止まっているので無事だ。このままにしておいて大丈夫かな。いや、やっぱやめとこ。持ち運べない重さじゃないし。


 入るかどうか分からないけど、試してみよう。


 ファーギ特製の魔導バッグを腰から外し、大きく口を広げる。そこに三人とも放り込んでいく。大丈夫っぽいな。手を突っ込んで混ぜくると、三人とも触ることができた。よし成功。


 そして俺は、ドミティラ・アウグスタ城の周りに、抗体カクテル治療薬、ヒュギエイアの水、ふたつの混合水を雨にして降らせた。


 その上でバンパイアと木製ゴーレムの戦いを観察する。


 バンパイアに変化無し。奴らは土着バンパイアで、ヴェネノルンの血を飲んでいるということ。つまりニンゲンに戻すことは不可能だ。


 残念だ。滅ぼすしかない。


 飛びかかってきたバンパイアに、神威の衝撃波(ショックウエーブ)を放つ。バンパイアの腹に直撃した衝撃波は、いとも簡単に風穴を開けた。


 バンパイアは何が起きたのか分からないまま、内臓をまき散らして灰と化す。抗体カクテルの雨も降らせているので、甦ることもできないだろう。


「リリスがマシに思えるな……」


 ヴェネノルンの血を飲ませているやつ、そいつを探し出して滅ぼそう。


 その前に、女帝フラウィアが無事なのか確認しなきゃ。


 俺は執務室へのゲートを開いた。

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