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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
9章 バンパイアとバンパイア

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191 実験体

 俺はナイトメア・タワーを探しながら星空を駆けた。月明かりで地上を確認しながら進んでいるから、なかなか見つからない。


 ナイトメア・タワーの特徴は聞いているが、初めての土地で探すには厳しい条件だ。


 やがて、聞いていた特徴に一致する塔が視界に飛び込んできた。


 切り立つ山々の中腹にそびえ立っている。おそらくあれだ。


 近付いていくと闇脈(あんみゃく)が感知できた。間違いない。あれがナイトメア・タワーだ。


 姿を消して尖塔に降り立つ。


 東京タワーと同程度の高さだろうか。しかし岩山の中腹に建っているおかげで随分高く見える。


 姿を消したまま静かに中へ入っていくと、四つの玉座がある広間だった。会議室のようだが、装飾が凝っている。バンパイアの趣味なのだろう。あまり好きになれない。


 闇脈(あんみゃく)もヒトの気配も感じられない。このフロアには誰もいない。俺は階段を降り始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ナイトメア・タワーの二階。高級ホテルのような客室で、宰相ユリウスとバンパイアの二人が話し合いを行なっていた。


 始祖(プロジェニタ)、エレナ・ヴァレンタインが口を開く。


「宰相ユリウス、再度お尋ねします。あなたがルーベス帝国の皇帝になりたいと言って、私たちに話を持ちかけましたね。それで私たちが皇帝を殺害しました。その結果はどうなりましたか?」


「……皇帝の弟である私ではなく、未亡人となった妻、フラウィアが玉座に就きました」


 宰相ユリウスは、冷や汗を滝のように流しながら答えた。


 それを見て、もうひとりの始祖(プロジェニタ)、セレスティア・ムーンが優しい声をかけた。


「そんなに緊張しちゃって、どうしたの? あの二人がスキル〝変貌術(シェイプシフト)〟で皇子と皇女に化けちゃったからさ、私たちも動こうと思っているだけよ? さっさと宮殿の地図を書きなさい」


 優しい声だが、その眼は笑っていない。


「し、しかし! これ以上バンパイアが増えると、ルーベス帝国の運営に支障が……! あなたたちは一体何を考えているのですか? エレナ・ヴァレンタイン様! セレスティア・ムーン様! お答えください!」


 宰相ユリウスは必死に訴えるが、二人のバンパイアは冷ややかな笑みを浮かべるばかり。



 そして、彼女たちはゆっくりと姿が変わっていくのを見せつけた。


 エレナは、女帝フラウィアへと。


 セレスティアは、大司祭ルキアへと。


 それを見た宰相ユリウス。彼の額から頬に、一筋の汗が伝っていく。


「支障など出ませんよ。ハマン大陸のニンゲンの歴史を、私たちがどれほど長い時間見守ってきたと思っているのですか?」


 エレナに続いて、セレスティアが口を開く。


「宰相ユリウスに化けたレオナルド。私が彼を愛しているって知ってるよね? だから手伝いに行くのよ。国の統治は任せなさい」


 その言葉を聞いたエレナは、ピクリと眉を上げる。


「いい加減、諦めたらどうです? 私の兄は、セレスティアのことなど何とも思っていませんよ?」


 吐き捨てるように言い放つエレナ。


 その言葉で、エレナとセレスティアは牙を剥いて睨み合い始めた。


 宰相ユリウスはその様子を見て、更に冷や汗が吹き出していた。それに気付いた二人のバンパイアは、睨む相手を変えた。


「とにかく、宮殿の地図を書きなさい!」


「女帝フラウィアは雲隠れして、どこにいるのか分からなくなっているのよ!」


 エレナとセレスティアが宰相ユリウスに詰め寄る。彼女たちから闇脈(あんみゃく)が吹き出し、宰相ユリウスは恐怖に震え上がった。


「わ、分かりました……。や、約束は守ってくださいね」


 身の危険を感じたのか、宰相ユリウスは震える手で地図を書き始めた。


「ふうん……。ここが謎の区画? 何があるのか分かりませんか?」


 エレナは出来上がった地図を眺めながら、宰相ユリウスに問いかける。


「わ、分かりません。この区画は王族しか立ち入ることが許されていないのです。何度か入ろうとしましたが、気がつくと別の通路を歩いている始末で……」


「まっ、いいんじゃない? 宮殿ごと叩き潰せば何があるのかわかるでしょ」


 セレスティアは面倒くさそうに言った。


「それもそうね。私たち始祖(プロジェニタ)の四人で、ドミティラ・アウグスタ宮殿を支配下に置くという手もあるわ。リリス・アップルビー様が心地よいと感じる、バンパイアの国を作りましょう!」


 それを黙って聞いている宰相ユリウス。歯を食いしばりながら「話が違う」そう言いたげな表情を浮かべていた。


「私は……。私は兄が許せなかった。あんな暴君を野放しにすれば、国が滅びると思ったのです。だから私が皇帝になるために、あなたたちに金銭を支払って、皇帝の暗殺を依頼したのです」


「うん、それで?」


 セレスティアはニヤニヤしながら先を促した。


「それなのに、あなたたちはルーベス帝国をバンパイアの国にしようとしているのですか?」


「時期が悪かったと思って諦めてください。リリス様の帰還に合わせ、我らバンパイアは準備を進めなければなりません。これ以上言うなら――殺しますよ?」


「……くっ!」


 宰相ユリウスはエレナの言葉を聞いて、汗だくの顔を背けた。


「セレスティア、これから向かいましょう?」


「ええ。この地図で、女帝フラウィアの居場所を突き止めましょう!」


 その言葉を残し、二人の始祖(プロジェニタ)は霧となって消えた。


 一人残された宰相ユリウスはボソリと呟いた。


「私は権力に固執するあまり、頼る先を間違えてしまった……」


 宰相ユリウスは、がっくりと肩を落とした。


「こんばんは――」

「ひいいっ!?」


 ソータがすっと部屋の中に姿を現した瞬間、宰相ユリウスは椅子から転げ落ちた。彼は仰天した表情のまま、パクパクと口を動かすだけだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 スキル〝変貌術(シェイプシフト)〟で、奴らが姿を変えていると分かった。俺も今度使ってみよう。


『悪用厳禁です』


『……分かってるって』



 盗み聞きは罪深い行為だと自分に言い聞かせつつも、今回の件の真相に少しでも近づきたいという思いが抑えられなかった。


 椅子から落ちた宰相ユリウスは、驚きのあまり動けないでいる。


「驚かせてすみません。冒険者のソータ・イタガキです。はじめまして」


 そう言うと、痩せた年配の男性――宰相ユリウスは、銀色の髪を振り乱して抗議してきた。


「ぼ、冒険者……? は? 冒険者がここまで入って来れるわけがない! あなたは一体何者なのですか?」


「だから冒険者ですって。とりあえずあんたは拘束する」


 こいつのために来たわけではないが、重要人物に違いない。時間停止魔法陣を貼り付けて、ゲートを開く。繋げた先は、ドミティラ・アウグスタ城。


「……」


 ゲートの向こう側に、城を守るゴーレムが続々と集まってきた。


 中々の反応だ。異変に気付いて、すぐさま行動に移る。ゴーレム同士の連携も行き届いている。


「宰相ユリウスを拘束しました。これ時間が止まってるので、動けません。安心してください」


 そう言うと、ゲートの先に集まったゴーレムたちが場所を空けてくれた。俺はそこに動けなくなった宰相ユリウスを置いた。どこか、ゴーレムたちの心が動いたような気がした。彼らは誰の脳神経を模倣しているのだろうか。


「じゃあこれ、フラウィア様に届けてください。こいつが黒幕だった可能性もあるので」


 コクコクと頷く木製ゴーレムたちを見て、俺はゲートを閉じた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 透明化したまま一階に到着した。ここに来るまでに三人のバンパイアとすれ違った。地のバンパイアが随分と少ないと感じていたが、このフロアにはたくさんのバンパイアがいた。広いエントランスホールには大きなカウチが何台も並び、バンパイアたちがくつろいでいる。カウンターバーでは、お酒を嗜んでいる者もいた。


 姿を消しているから、気付かれることもない。とりあえず確かめてみよう。


「――っ!? 何だこれは!!」


 ヒュギエイアの水と抗体カクテル治療薬の混合物を降らせたところ、バンパイアたちが騒ぎ出した。しかし、彼らは濡れそぼつだけ。ニンゲンに戻ることはなかった。


 つまり、彼らはヴェネノルンの血を飲んだ者たち、あるいは親のバンパイアからその特性を受け継いだ者たちということだ。そこでふと疑問が湧く。果たして彼らは人間と同じく、子を成すことができるのだろうか。


 水浸しになったフロアで混乱するバンパイアを尻目に、俺は階段を降りていく。通路沿いに見える錬金術の研究施設にもバンパイアたちが多数いたが、目的の人物はいなかった。


 何の実験をしているのかはよく分からないが、筒状のガラス管の中には人間が浸かっていた。口にはマスクがつけられて、呼吸はしている。しかし意識はなかった。


 近くのバンパイアの会話を盗み聞きすると、ガラス管の中のニンゲンはホムンクルスらしい。人造人間を造るとは、ここのバンパイアは地球並みの技術力を持っているのか。


 更に階下へ進むと、立哨がドアを守っていた。


 彼らを時間停止魔法陣で動けなくして先へ進む。地下牢か……。悪臭が立ち込める中を進んでいく。牢の中には、白骨化しているものや、獣に変貌したようなものまで、様々な死体が転がっていた。


 上の錬金術施設で何かの実験でもやっているのだろう。


「……おい」


 ネロ皇子とユリア皇女の二人に声をかける。闇脈(あんみゃく)なし、怪我もなし、汚れも目立っていない。ここに入れられて、そう時間は経っていないようだ。


 いや、相当疲弊しているな。黒ずんだ石の床に横たわり、二人ともぐっすり眠っている。さすがにこれは不憫だ。回復魔法をかけておこう。


「……む。……ユリア、起きろ」


 先に目を覚ましたネロ皇子は、ユリア皇女を揺り起こす。


「ん……。お兄様、どうなさいました? ……っ!?」


 鉄格子を挟んで立つ俺を見て、ユリア皇女は短い悲鳴をあげた。ここは薄暗いからな。俺がバンパイアに見えたのかもしれない。ネロ皇子も俺の姿を見て警戒心をむき出しにしている。


「突然のお邪魔をお許しください。フラウィア様の命により、お二人の救出に駆けつけました」


 彼らは皇族の血を引く者だ。礼儀正しく挨拶しなければならない。しかし、俺は正式な作法など知らない。とりあえず丁寧な言葉遣いでごまかそう。


「お、お前は……! お前が吸血鬼じゃないと証明できるのか? もう錬金術の実験なんてごめんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「お、お兄様!?」


 ヤベェ、すでに錬金術の実験台にされていたのか。


 ネロ皇子の背中が反り返り、体が倍以上に膨れ上がった。服が破れて飛び散ると、毛深い肉体が露わになった。細身だった体は筋肉質となり、身長もぐんと伸びた。


 馬とライオンを足したような獣の顔に変わり、彼は黄色い目で俺を睨みつけた。


「落ち着いてください、ネロ皇子! 私はあなた方を助けに来たのです!」


 俺は両手を上げて、できるだけ穏やかな声で呼びかけた。しかし、獣と化したネロ皇子の目に理性の光は見えない。


「グオォォォォォ!」


 轟音と共に、鉄格子が粉々に砕け散った。ネロ皇子の巨体が、俺めがけて飛び掛かってくる。


「お兄様、やめてください!」


 ユリア皇女が悲痛な叫び声を上げる。しかし、暴走したネロ皇子には届かない。


 俺は瞬時に判断を下した。これ以上の騒ぎは、上階のバンパイアたちに気づかれてしまう。何としても早く事態を収束させねばならない。


「申し訳ありません、ネロ皇子」


 俺は念動力(サイコキネシス)で、獣と化したネロ皇子の体を縛り上げた。しかし、彼の怪力は尋常ではない。見えない念動力(サイコキネシス)が軋むような音を立てる。


 ――――バチッ


 油断したつもりはないが、想定以上の力で念動力(サイコキネシス)が断ち斬られてしまった。


 うむむ。まずいな。この二人に傷一つつけちゃいけない。さて、どうすっかな。

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