表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
9章 バンパイアとバンパイア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/341

186 冤罪

 リリア・ノクスは周囲の気配を十分に調べて、この場に潜んでいた。しかしファーギに背後を取られ、彼女は動揺していた。


「ドワーフのくせにショットガン?」


「ああそうだ。なんか文句あっか?」


 二人の軽い口調は、周囲の空気を一瞬で重くした。


「ふっ……。魔力、神威、冥導、魔法の源泉として、様々な素粒子があるが、あなたたちはバンパイアではない。我らの闇脈(あんみゃく)魔法は使えません。そんな武器を使っても無駄ですよ」


闇脈(あんみゃく)魔法……?」


 リリアの言葉に、首を傾げるファーギ。


「ドワーフのSランク冒険者、ファーギ・ヘッシュ。あなた程の人物でも、バンパイアには詳しくないのですね」


「素粒子という考え方はソータから習った。バンパイアが魔法で使う素粒子は、闇の血しぶき(シャドウ・サングイン)だろ?」


「……ぶっ!? 闇の血しぶき(シャドウ・サングイン)!? そんな名前ではありませんよ?」


 ファーギの返事を聞いて、リリアは吹き出す。


「ああ、なるほど。闇の血しぶき(シャドウ・サングイン)は、ソータが名付けたから間違っていたって事だな。ということは、その二つは同じものってことか」


 納得したファーギは笑みを浮かべる。


「……笑顔になる余裕はないと思いますが。あなた方はどう足掻いても、闇脈(あんみゃく)魔法に勝てません。この魔法のおかげで、バンパイアは不死身ですから」


「そうか。それじゃあドラゴンブレス弾でも試してみようか」


 ファーギが魔導ショットガンを構えると同時に、リリアは霧へ変化した。


 それでもなお、ファーギはトリガーを引くと、一瞬だけ静寂が訪れた。


 次の瞬間、ドラゴンブレス弾が発射された。

 銃口から噴き出す火花は、まるでドラゴンが咆哮するかのようだった。神威結晶と暗黒晶石(ダーククリスタル)が反応して出来たペレットが空気で激しく反応し、火花が猛烈に燃えさかりながら、空気を焼いていく。


 ファーギが銃口を動かすと、まるで火炎放射器のように周囲を焼き尽くした。炎さえ上がらず、あらゆるものが瞬時に炭化していく。


「ぐわあぁっ!?」


 リリアは何もない空間から、はじき飛ばされるように出てきた。ピンクのメイド服と金色の髪の毛は、見るも無惨に焼け焦げていた。


「これでも灰にならないか……。物理攻撃だけで上位バンパイアを倒すのは難しいな。しかし、足止めには成功だ」


 ファーギは満足げな表情で、黒焦げのリリアに近付いていく。彼女は灰にこそなっていないが、身体に付着したペレットがいまだ激しく燃焼している。メイド服なんてとうに焼けてしまい、彼女はすでにただの黒い塊となっていた。


 リリアの横に立ち、ファーギは口を開く。


「おい、霧になって逃げようとするなよ? 次は出力を上げて、一瞬で灰にする。分かったら返事しろ」


「ぐっ……。その武器は、何でしょうか?」


 リリアがまだ喋れる状態であることに驚きつつ、ファーギはその言葉を無視して続ける。


「お前たちが、帝都ドミティラの人々を襲っていないことは分かっている。そこで聞きたいんだが、お前たちは何故、ルーベス帝国から討伐依頼が出てるんだ?」


「その物言い……。あなた方は知った上で、我らバンパイアを襲撃したのではないのですか? 我々はルーベス帝国から冤罪を着せられているんですよ」


「……帝国から冤罪だと?」


「くふふふ……。知っているとは思いますが、我らはこの異世界のニンゲンをバンパイア化しておりません」


「はぁ? お前たちはデレノア王国で騒動を起こしてただろ?」


「ヨシミ・イソエの単独犯です。我らが関与していないとご存じでは?」


「……」


「ヨシミ・イソエは自らリリス様に接触し、バンパイアになることを切望しました。その後は、彼女の暴走によるものです。それと、ソータ・イタガキの無差別攻撃により、リリス様は大きなダメージを受けました。そのせいでリリス様は勇者たちを数名殺害し、回復せざるを得なかった」


「だから何だ! お前たちはさっき、ルーベス帝国の冒険者たちを皆殺しにしたじゃないかっ!!」


「地球では人工血液が開発されています。我らリリス様に従っている者は、ニンゲンの血を必要としないのに、黙って滅びろというのですか? 我らに自衛するなとおっしゃりたいのですか?」


「……」


 話しているうちに、リリアの身体は回復していく。黒い炭が剥がれ落ち、中からスベスベの白い肌が現われる。よろりと立ち上がったリリアは、焦げた肌はひとつも無くなっていた。


 リリアは一糸まとわぬ裸体で、堂々と立ち上がる。彼女は焼けていない手袋で、ソル・エクセクトルを握りしめていた。ファーギはその様子を見て、目を伏せながら話す。


「では、リリア・ノクス。お前が言う冤罪とは何だ? それが証明出来ないのなら、ここで滅ぼす。どうせまた甦るんだろうがな……」


「証明は出来ません。それ故に、我らはデレノア王国とルーベス帝国の冒険者ギルドに追われているのです」


 今回のリリス・アップルビー討伐は、ルイーズ・アン・ヴィスコンティの個人依頼(・・・・)である。冒険者ギルドは通していない。ファーギはその小さな齟齬を見逃さなかった。


「デレノア王国? ワシらが受けた依頼に、国は関与していない」


「ほう……。では個人依頼ですね」


 ファーギが口を滑らせたことで、リリアはスッと眼を細くした。


「……」


 しまった。そんな顔でファーギは黙り込む。


「個人依頼の受注は、冒険者ギルドの規約違反では?」


 正論パンチで、ファーギは顔を背ける。それを見たリリアは続ける。


「ガッカリですね。片方の言い分だけ信じて疑わないとは。それでは、こちらからも個人依頼(・・・・)を出します。デレノア王国で依頼を出した人物と、ルーベス帝国の上層部、この二つを調べて下さい。報酬は――――」


 リリアが話している途中で、本殿の壁が内部から爆発した。ものすごい速さの瓦礫が飛び散るが、リリアとファーギは全て避けていく。しかし、二人とも吹き出した黒煙に包まれてしまった。


「では、個人依頼の件、頼みましたよ」


 リリアの声がファーギの耳もとで聞こえる。それを最後に、彼女の気配は煙のように消えてしまった。


 見通しのきかない黒煙の中、ファーギは腕を組んで考え込む。そうしていると、風魔法で発生した竜巻が黒煙を払っていった。


 魔法を使ったのはミッシーだった。彼女は立ち尽くすファーギを見つけて駈け寄る。


「ファーギ!? こっちにマルコが来なかったか?」


「来てないな……。おそらく、また逃げたはずだ」


「逃げた……?」


 ミッシーはハッとした顔で、宮殿へ視線を向けた。そこからは誰の気配も感じられない。それを確認したミッシーは、ファーギに詰め寄る。


「ソータは?」


「うぉい、近い近い」


 ファーギは、ぐっと顔を近づけたミッシーから逃げるように離れる。そして二人は本殿内部へと駆け込んでいった。

 誰もいなくなった中庭では、風魔法で巻き上げられた(すす)が黒い雪のように降りそそいでいた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「なかなかの暴れっぷりだな……、ミッシー」


 ファーギは呆れながら、本殿の奥へと進む。壁には無数の穴が開き、太い柱が半分に折れている。もともと荒廃していた本殿は、ミッシーとマルコの激しい戦闘の爪痕で、さらに荒れ果てていた。


「これでも手加減した……」


 ミッシーはそう言って、心配そうに辺りを見回す。ソータはどこに行ったんだろう。彼女の顔にその思いが浮かんでいる。ファーギはからかう気にもならず、黙ってついていく。


 本殿内部は静まり返っている。何者の気配も感じられない。二人の足音だけがやけに大きく響いていた。


「らせん階段か」


 ファーギは顔を上に向けて気配を探る。ミッシーは黙って耳を澄ました。


「……」


 この宮殿内部は誰の気配も無い。ミッシーは悲痛な表情で唇をかみしめた。彼女が声に出そうとしても、喉からは虚しく空気が漏れるだけだった。


 ソータは確かにこの宮殿へ入っていったはずだ。彼がここから出ていけば、それを確認したバンダースナッチから連絡が入る。しかし、魔導通信機は無言のままだった。


「何だあれは?」


 ファーギの声でミッシーは我に返った。彼はゴーグルをかけて見上げている。何か見えているのだろうか。そう思ったミッシーは、ファーギからゴーグルを奪い取った。


「おいっ!? いま見てるってのに、何を――」


 声を荒らげるファーギは、ミッシーの真剣な眼差しに言葉を飲み込んだ。


「空間が歪んでる……。ファーギ、これどう思う?」


 ミッシーの目には、空間にひび割れが走っているように見えた。


「空間を切り裂いた跡だな。いまは閉じているみたいだが、不安定で危険な状態だ」


「空間魔法……? まさかソータがそこに……」


 ミッシーの顔色が一段と青ざめた。そして彼女は躊躇いもせずに、空間魔法を発動させた。


「お、おいっ!? なんの跡なのか分からないんだ。無理矢理開けると何が起きるか分からんぞ!!」


 慌ててファーギが止めるも、ミッシーの空間魔法は発動してしまった。するとそこに、黒い深淵の裂け目が現われ、恐ろしい吸引力で周囲のものを飲み込み始めた。


 近くにあった破れた絵画や割れた花瓶は、あっという間に黒い穴の中へ消え去った。そして、ミッシーとファーギまで吸い込まれそうになる。


 危険を感じた二人は、転移魔法でその場を離れた。


「……」

「……」


 黒い裂け目から十分な距離を取り、二人は言葉も無く見つめる。黒い裂け目の吸引力は衰えを知らず、それどころかみるみるうちに強力になっていく。


「あれはいったい……」


 唖然とするミッシーにファーギが応えた。


「あの裂け目はおそらく、リリア・ノクスが持っていた短剣が作ったものだ。あれはバンパイアが簡単に持てるものじゃない。聖なる気配を発していたから、たぶん神器だと思う」


「バンパイアが神器?」


「ああ、そうだ。頑丈な手袋を付けてたから、持ててたんだろうな」


「ということは、あの裂け目にソータが吸い込まれたかも知れないと?」


 ミッシーとファーギは、黒い裂け目に吸い込まれないよう離れている。万が一に備え、いつでも転移出来るように準備していた。周りの物はそんなのお構いなしに、轟々と吸い込まれていく。


「しかしこの状況、どうすればいい?」


 ミッシーがファーギへ問いかけると、黒い裂け目が大きく広がった。


 ――――ズドン


 石床の割れる音が鳴り響く。同時に吸い込まれていた空気がピタリと止んだ。ミッシーとファーギはハッとして、音がした方を向く。


「ミッシー、ファーギ、あなたたち二人は、ソータを心配して来ていたのですね」


 そこにはソータの姿をした別の人物が立っていた。顔かたちは同じだが、瞳の色が銀色に変化している。それだけでも異常なのに、ソータの言葉は、自分自身を他人事のように話した。


 違和感どころでは無い。ミッシーとファーギはすかさず戦闘態勢を取る。


 ところが次の瞬間、ソータに似た誰かの気配は消え去り、彼の瞳は黒に戻った。

 ソータは自分の手を見つめ、そして周囲を見渡す。


「お? ……おお?」


 太陽の中心部に転移したソータは、一度死亡している。しかしクロノス(汎用人工知能)がデストロイモードへ移行したことで、彼の魂を肉体に縛り付けていた。その後は、クロノス(汎用人工知能)はソータの能力を十全に使いこなし、太陽の中心部からの脱出経路を探っていた。


 クロノス(汎用人工知能)がそうしているうちに、ミッシーの空間魔法が死者の都(ネクロポリス)への通路を開いた。高重力下で座標の特定が出来なかったクロノス(汎用人工知能)は、ようやく帰り道を見つけて、そこへ飛び込んだのだ。



 そこに立っている人物がソータだと確信したミッシーは、すごい勢いで走り出す。彼女は減速せずにソータに抱きついて、顔をうずめた。


「……おう、ミッシー。いまいち状況が掴めてない――――。あ、大丈夫。つか、心配かけたみたいで、申し訳ない」


 ソータがふと全てを理解したような態度は、クロノス(汎用人工知能)から状況説明を聞いたからだろう。


 ミッシーは抱きついたまま離れない。ソータは戸惑いながら、彼女をギュッと抱きしめた。


「心配どころじゃない……。あなたがいなくなったら私は生きていけないと思った。もうこんな思いはしたくない」


「……ほんとごめん」


 二人はそっと離れて、お互いの瞳を見つめ合う。そこでソータはやっと気付いた。ミッシーが涙ぐんでいることに。


 ミッシーはいつもキリッとして、凜々しい態度を崩さない。それなのに今回、一時的にとはいえソータが行方不明になったことで、いつもの彼女ではなくなっていた。こういった経験がないソータは、どうしていいのか分からずに、オロオロし始める。


「ごーほん。ごほほん」


 ファーギのわざとらしい咳払いで、二人とも我に返る。


「ソ、ソータ! 次からは気を付けるんだぞ!」


 涙を流していることに気付き、ミッシーは顔を赤らめながら、ソータからスッと離れた。


「あ、ああ。気を付けるよ。しかし――」


 ソータは気持を切り替えたのか、目を閉じで周囲の気配を探り始めた。


「誰もおらんよ……。リリア・ノクス、マルコ・ブラッドベイン、二人とも姿を消した。それと、二人に話がある」


 ファーギがそういった事で、三人ともいったんバンダースナッチへ戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ