表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
9章 バンパイアとバンパイア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/341

185 ソル・エクセクトル

 死者の都(ネクロポリス)に戻って、上空から確認する。廃墟の宮殿にあるはずの高い塔はやはり見えない。空間魔法でも使っているのだろう。でなければ、あんな高い塔が、建物の内部にあるはずがない。


 そして、俺と十二刃(トニハ)を地球送りにしたシャドウストームは消えていた。


 一旦バンダースナッチへ戻ろう。とりあえず俺は転移した。


「ひゃっ!?」


 マイアが驚いた声を上げる。転移先はブリーフィングルームで、彼女はいままさにお食事中だったのだ。


「あ、ごめんごめん。みんな操縦室にいる?」


「はい。無事だと思ってましたっ、ソータさん!」


「てことは、さっきの見えてたのか?」


「ええもう……。あのボロ屋敷から噴き上がった赤い竜巻ですよね? ハッキリ見えてました。あのあとソータさんと魔導通信が繋がらなくなって、みんな心配してたんですよ?」


「ごめんな。あれなあ、地球に転移して宇宙に放り出されるって、悪質な罠だったよ。本来はそう言うものじゃ無さそうなんだけど。……とりあえず操縦室へ行こう」


「はい!」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 操縦室に全員揃ったところで、詳しい状況説明を行なった。みな難しい顔をしている。そして、少しばかり混乱している。目的が短期間で変わっていくことに。


 俺は最初、ルイーズ・アン・ヴィスコンティから依頼を受けた。内容はリリス・アップルビーの討伐。対価はエリス・バークワースの居場所を教えてもらうこと。


 大将軍、ルキウス・アントニウス・スカエウォラからの依頼も、リリス・アップルビーの討伐だった。


 だが、リリス・アップルビーはもうここにはいない。奴は地球人を連れてガレイア連合国へ向かった。


 本来であれば追わなければならない。


 しかし俺たちは追うのをやめた。今は、帝都ドミティラの住民を、バンパイアの脅威から救おうとしている。


 最終的に、リリス・アップルビーを討つことに変わりはない。パーティーの仲間はそう思っていた。


 そこで今回、俺が話した内容は、実はリリスがイイ奴かもしれない説。


 そりゃ混乱するだろうね。俺もいまいちリリスがイイ奴だとは思えないし。ただ、シビル・ゴードンの話は、聞き流せない。だからリリスの情報は、共有しておくべきだと思ったのだ。


 話し終えると、ファーギは真っ先に質問してきた。気になっていたのだろう。


「状況は分かった。しかしその抗体カクテル治療薬はどうやって作るんだ?」


「魔導バッグがあるでしょ? 俺がそこに抗体カクテル治療薬を山盛り入れていく。ヒュギエイアの水と一緒に使えば、バンパイア化を治せるからさ」


あれ(・・)に少し手を加えれば使えそうだな?」


「ああ、いけると思うよ」


 あれとは、暗黒晶石(ダーククリスタル)を混ぜて作った神威神柱(グローイングピラー)のことだ。これは奥の手として準備していたやつで、バンパイアを滅ぼすことに特化した兵器だ。ヒュギエイアの水も含ませておけば、前回防御された赤い障壁も破れるだろう。


 形は神威神柱(グローイングピラー)と同じだが、粉末にした暗黒晶石(ダーククリスタル)を混ぜ込んでいるので、灰色の竹の棒に見える。


 形が竹なので、中の空洞に抗体カクテル治療薬を詰めることができる。それだけの手間だ。しかしうまくいけば、大勢のバンパイアを強制的にニンゲンに戻すことができる。


 それはバンパイアにとって、余計なお世話かもしれない。


 しかし、王都ハイラムのような事態が起これば、バンパイアは滅ぼさねばならない。犠牲者を出さないためにも、バンパイアはニンゲンに戻した方がいいだろう。


 ファーギはこれからすぐに取りかかると言って格納庫へ向かった。ミッシーたちも手伝うそうで、仲間たち総出で抗体カクテル治療薬の注入を行なうことになった。


「俺は先行して屋敷に突入する」


「……大丈夫か?」


 操縦室を出て行くみなに声をかけると、心配そうな顔でミッシーが声をかけてきた。


「ああ、大丈夫」


 あの屋敷にはまだ、マルコ・ブラッドペインとリリア・ノクスがいる可能性がある。俺は奴らを逃さないよう、早めに動くことにした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチで一通りの確認が終わり、宮殿の庭に舞い降りる。もう一度周囲に異常がないことを確かめ、荒れ果てた庭から本殿へ向かう。


「うーん」


 シビルによると、エリス・バークワースとマリア・フリーマンの二人は、デーモンと組んで何か企んでいるかもしれない、という不確定な情報しか得られなかった。


 リリス・アップルビーに関しては行動が謎だ、という結論に達した。


 リリスはシビルの指示に従い、真面目に働いているらしい。シビルがそう言う根拠は、欧州連合からリリス一派に対する評価が非常に高いからだそうだ。異世界へ入植した地球人から、その証しとも言える感謝状が届くほどだという。


 また欧州連合は、リリスを通じて異世界の国々への橋渡しを依頼し、実在する死神(ソリッドリーパー)との関係を密にしているらしい。


 善悪二元論で、リリスを判断するのは難しい。道徳的価値観の明確化という点では、善悪二元論は優秀だと思う。でも、二つに分けて単純化することで、今回みたいな事象の複雑さや多面性に対応できなくなる。


 どちらが善でどちらが悪か、結局これは相対的な概念だ。リリスの行動は、彼女にとっての正義なのだろう。


 それはいい。ただし、リリスの目的が何処にあるのか、それによっては結局のところ彼女を討つ必要があるだろう。気を引き締めて慎重にいこう。


 色々と考えながら、らせん階段まで辿り着いた。


「おや……? ソータ様、あなたはどうして死んでないのですか?」


 また耳元で声がする。さっきと同じく、リリア・ノクスだ。ただ、余裕のあったさっきの声音とは違い、少しだけ驚いているように聞こえた。


 どうやら彼女は、シャドウストームで俺を始末できたと思っていたようだ。一般的に考えれば、生身の身体で宇宙空間に放り出されたら命はないだろう。


「割と頑丈なんでね。そろそろお遊びは止めにしないか? 俺は情報を聞くまで、あんたをいつまでも追うぞ?」


「まあっ!? そんなストーカーみたいなことをなさるのですか?」


「あんたがそう言うのなら、ストーカーでも構わない。俺が知りたいのは、リリスの行方だ」


「リリス様を呼び捨てにするのはやめてもらえませんか?」


 リリアの声が平坦になり、怒りの気配を一瞬だけ感じることができた。何となくコツが掴めてきたな。バンパイアは親となる存在をイジると、感情の制御ができなくなる。


「リリス・カップ・ルビーがどうしたって?」


「貴様っ!!」


 はい激怒。リリアの気配が、俺の真上にあることが分かった。その気配は、らせん階段のずっと上で、ここからは誰がいるのか見えない。ただしその気配は、宮殿よりもずっと高いところにある。


 やっぱり空間を拡張しているはずだ。俺は上を見上げ、転移魔法を使った。


「……お? うわあああああああああああっ!!」


『サバイバルモードへ移行します』


 転移先は火の海だった。危機的状況だったのだろうか、クロノス(汎用人工知能)の声がする。


 何だここ!? 瞬時に障壁を張ったからよかったものの、あまりの高熱で次々と破壊されていく。神威を使って障壁を張り直しても張り直しても、熱でどんどん割れていく。


 いやいや、これ割れてんじゃねえな。障壁がプラズマ化している。


 つまりここは、空間自体が超高温って事か? 上も下も無く真っ白な空間が広がっている。身体が重く感じるのは、何でだ? これ気圧か!?


クロノス(汎用人工知能)、ここどこ?』


『……解析が終了しました。周囲の温度は約千五百万度もあり、気圧は約二百億です。その影響で超高密度状態となり、空間がゆがんでいるため、座標の特定ができません』


『つまり、転移魔法が使えないってことか……。ここがどこなのか分かる?』


『推測になりますが……』


『それでいい。聞かせてくれ』


『ここはおそらく、太陽の中心部です』


 クッソ!! 俺が転移したことで罠にかかったってことか。


 太陽の中? そりゃねえぜ……。どう考えたって、やり過ぎだろ。


 あ、ヤベえ……。熱すぎて意識が飛び飛びに……。


 デストロイモード? 何言ってんだお前……。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「しかし単純な方ですね。リリス様をイジったくらいで、わたくしたちが怒ることはありません。マルコや十二刃(トニハ)を使い、何度か芝居しただけなのに、あっさり始末できました」


 その声がすると、らせん階段にリリア・ノクスが現われた。彼女は天井付近を見つめる。そこには裂けたような黒い穴があり、何処かへ繋がっているように見えた。


「リリス様から預かっていた、この短剣、……恐ろしい力ですわ」


 リリアは厚手の革手袋をして、煌びやかな短剣を握っていた。


 それはソル・エクセクトルと銘が刻まれた、バンパイア討伐の最終兵器と呼ばれる短剣だ。金色に輝く刃には太陽の力が宿り、白銀の柄には鍛冶の神、ヘファイスの紋章があしらわれていた。


 この短剣を振るうものは、空間を斬り割くことができる。ただし、その裂け目はゲートであり、中に入ったものは太陽の中心部へ転移する。

 短剣を振るった者のみ、その裂け目が見えるので、非常に厄介な武器として恐れられていた。


 遠い昔、汎用性の高い最終兵器として、ヘファイスが打ったものだが、この短剣は本来、バンパイア用のものではない。斬った空間に入ってしまえば、バンパイアだろうが何だろうが、全て太陽の中心部へ転移させられるからだ。


 その噂を聞いたリリスは恐れ戦き、ヘファイスを襲撃して強奪した。


 リリア・ノクスはその短剣をソータに使ったのだ。


 ただし、ソル・エクセクトルは、聖なる武器である。ゆえにバンパイアが使うには問題があった。


 鍛冶の神ヘファイスが鍛えたため、バンパイアが直に触ると彼らは灰になってしまう。そのためリリアは、そうならないように厚手の手袋をしているというわけだ。


「さて、こちらは片付いたので、マルコを手伝いにいきましょうか」


 リリアは金色のおさげを揺らしながらピョンと飛び上がり、霧となって姿を消した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチから降下してきたミッシーとファーギは、風を切って地面に着地した。浮遊魔法の腕前は、以前よりも格段に上がっている。二人は素早く周囲を見回し、敵の気配を探ってゆく。


 月に照らされた小路に人影はなく、ひっそりとしている。そこには、ニンゲンもバンパイアも誰もいなかった。


「ソータが入ったのは、あのボロ宮殿で間違いないな」


 ミッシーは遠くに見える建物を指差して言った。


「そうだな。作戦通り、ワシは裏から潜入する」


 ファーギはそう言って走り出し、二人は二手に分かれた。


「ソータ……」


 ミッシーはその場で動かず、顔をうつむかせる。風になびく緑髪が月光にきらめく。彼女の頬にも月明かりが映るが、その表情は暗いままだった。

 彼女は心配でたまらない様子のまま、祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを手にした。


 ミッシーは辺りの様子を探りつつ、小路を進んでいく。荒廃した宮殿まであと少しの距離だ。彼女はより警戒を強め、崩れ落ちた正門を通り抜ける。


「おはようございます」


 中庭へ入ると、突如耳元で声がする。驚いたミッシーは飛び退いて姿を消した。


「……おや? どこへ行ったのでしょうか」


 霧が現われて、マルコ・ブラッドベインが姿を現す。彼はミッシーを見失い、辺りを見渡しながら気配を探る。


「むっ!?」


 遠く離れた屋根の上で、ミッシーの緑眼が炎のように燃えた。彼女は祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを構え、スキル〝斥力(ノックバック)〟を放つ。


 マルコはそれに気付いたが、反応できなかった。彼は無抵抗のまま、矢の強大な力で吹き飛ばされる。崩れた正門から水平に飛んでいき、本殿の壁を突き破っていく。そこからは何かが崩れたり割れたりする音が鳴り響き、やがて静寂が訪れた。


「上位のバンパイアでも、スキル〝同化(アシミレイト)〟とスキル〝瞬間移動(テレポーテーション)〟の組み合わせは有効みたいだ」


 ふっと正門に姿を現したミッシー。彼女はマルコを追って、本殿の中へ駆け込んでいった。そのとき彼女は気付いていなかった。中庭に隠れているもう一人のバンパイアに。


「ふふっ……。あの子、やっぱり強いわね」


 リリア・ノクスは手に持った短剣を見つめて、笑みを浮かべる。その刃はまるで太陽のように光り輝いていた。


「さあ、次はあなたの番よ。ソータ・イタガキと同じように、太陽の中心部へ送ってあげる」


 リリアはそう言って、ミッシーを始末するために本殿へと向かう。


「おい、ソータがどうしたって?」


 背後から聞こえた声で、リリアは立ち止まる。振り返ってみると、そこには魔導ショットガンを構えたファーギが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ