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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
9章 バンパイアとバンパイア

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181 神話の英雄

 帝都ドミティラの上空にて、リアムとメリルは慌ただしくコントロールパネルを操作していた。監視モニターに映し出されていたソータたちが、こつ然と消えたからだ。他の異常は一切なく、朝のインスラ地区は静かに存在していた。


「あっ!?」


「どうしたっすか?」


 大声を上げたメリルに驚き、手を止めるリアム。


「ほら、ファーギが言ってた暗黒晶石(ダーククリスタル)に切り替えればいいんじゃないの?」


「あっ! そっすそっす!! いま切り替えます!!」


 ファーギが開発した暗黒晶石(ダーククリスタル)は、魔石と同じような使い方ができる。要は電池代わりだ。しかしながら、その性能は魔石と桁違いなうえ、聖と邪の属性を持たせることが可能だ。


 リアムが慌てて、地上を写しているカメラとモニターの動力を、暗黒晶石(ダーククリスタル)に切り替える。


「うわぁ……。何これ?」


「な、何すかこれ?」


 モニターに映し出されたインスラ地区を見て、その異常な光景に二人はうなり声を上げる。境界となる壁の外では、朝日が差す賑やかな街並みが見えるが、インスラ地区は墨汁を垂らしたような暗闇に包まれていた。


 帝都ドミティラでは、これから始まる一日の準備で、人々は大忙しだ。モニター越しに見えている光景、つまり、インスラ地区の異常に気付いているものは誰もいなかった。


「ファーギが急いで取り付けたのは、こうなることを見越してたのね」


「そっすね。さすがファーギ。ほらあそこ」


 モニターを指差すリアム。そこには、ファーギを先頭にして進む、パーティーの面々が映っていた。それを確認して、操縦席には安堵の空気が漂う。


『聞こえるかリアム』


 モニターの隣にある魔導通信機から、ファーギの声が聞こえてくる。


「はいっす。一体そこはなんなんすか? とりあえずファーギたちは、モニターで追えてるっす」


『それならいい。わしらの周りで何かあったら、すぐに知らせてくれ』


「了解っす!」


 ファーギとの通信が終了すると、リアムはパネルを操作し始める。


「まだ早いんじゃない?」


「準備だけしとくっす」


「……それもそうね。即応できるよう、私たちも気を抜けないわ」


 上空に浮かぶバンダースナッチから見下ろす映像は、まさに死者の都(ネクロポリス)だった。異なる世界が目に映るのは、暗黒晶石(ダーククリスタル)の力によるものであり、それは魔導通信をも可能にしていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺はファーギたちと離れ、()として行動している。暗くなったインスラ地区を一人で歩き回るという、単純な作戦だ。これはもちろん、リリス・アップルビーを誘き出すためである。


 ミッシーやファーギたちは、今回は分散せずにひと塊になって動いてもらっている。こういった場合、ばらけると各個撃破されてしまうのがオチなので、それを避けた形だ。


「ふははははははっ!! 貴様はここに何をしに来た?」


 前方に霧が集まると、突然ニンゲンが――いや、バンパイアが現れた。スキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟を使って来たようだ。


 早速かかった獲物に、ニヤけそうになる。


「何しにって、リリス・マッスル(・・・・)ビーに会いに来たんだけど」


「……あ?」


 茶髪色白のバンパイアは、苛立って牙を剥く。こいつらリリスをイジると、過剰反応するなあ……。


「聞こえなかった? リリス・ワックス(・・・・)ビーに会いに来たって言ったよね? リリスって、ツルツルーんって滑るの?」


「…………きさま」


 マルコ・ブラッドペインと名乗ったバンパイアは、リリスと呼び捨てにしただけで激高する。今回は意図的に名前を間違ってみたが、効果は抜群だ。

 目の前の名も知らぬバンパイアは、激しい怒りのせいで身体を震わせ始める。


 おや……? 怒っちゃいるけど、それだけじゃない。

 怒りの表情はメキメキと音を立てて、顔の形が犬のような獣へ変化していく。身体が肥大化し、内圧に耐えられなくなった服が裂ける。映画みたいですごいな。

 現れた身体は灰色に変色して、生き物とは思えない色味を帯びていた。


 背筋が曲がったかと思うと、背中に一対の大きな羽が現れる。まるでコウモリの被膜だ。両手両足はニンゲンとは思えないくらい長く伸び、刃物のような鋭い爪が鈍く光っていた。


 こういう変身って、どんな仕組みなんだろ。細胞とかどうなっているのか興味がある。なんて見当違いの考えを追いやり、足を一歩踏み出す。


 先に動いたのは俺だが、バンパイアのほうが早かった。


 気付くと目の前に爪が迫っており、慌てて後ろへ飛ぶ。


 バンパイアから視線を外した覚えはない。


 それなのに、突然目の前に現れたという事は、俺の反応速度よりバンパイアのほうが早いという事だ。


 ミッシーたちから聞いたバンパイアは、割と楽に倒せていて、脅威度は低かったはず。


 しかし、このバンパイアは空を飛び、俺の目でも追えないくらい速い動きをする。


 何か違いがあるはずだが、……そういえば、空を飛ぶとは聞いてなかったな。


「ふははははははっ!! 俺の速さに追いつけてないようだなっ! 反撃もできないかっ!!」


「んなこたねえよ」


 こいつの速さの秘密はあとだ。抗体治療薬の球体を作って、その中にバンパイアを閉じ込める。外側に闇の血しぶき(シャドウ・サングイン)を使った障壁を張って、脱出もできないようにする。


 バンパイアにしてみれば「いつの間にか突然水の中にいた」という感覚だろう。


「……ほーん」


 呼吸してないな。こういった場合ニンゲンならば、口や鼻から空気が漏れ出るはずだ。突如呼吸ができなくなったことで、パニックになるかもしれない。

 それなのにこのバンパイア、ただ驚いているだけで、息を吐き出したりパニックになったりしていない。


 呼吸をしないって、生きたニンゲンとは言えないよな。バンパイアがニンゲンの範疇に入るのか知らんけど。


 色々考えながら、閉じ込められたバンパイアを観察していると、徐々に変化が起き始める。変形した身体がヒトのそれへ戻り、色艶のある肌やニンゲンとしての顔立ちを取り戻していった。


「ごぶっ」


 呼吸も取り戻したようだ。抗体治療薬の中で、ニンゲンに戻った男が溺れそうになっている。男から感じていた闇の血しぶき(シャドウ・サングイン)が消え去ると、そこには茶髪イケメンが溺れそうになっているだけとなった。


 バンパイア化が完全に治ったと判断していいかな……?


 ニンゲンへ戻ったと確認するために障壁を解除すると、辺り一面に抗体治療薬が流れ出す。同時に茶髪イケメンも流れでてきた。


「――――――っ!!」


 素っ裸の男は、よろよろと歩きながら殴りかかってくる。そんなヘロヘロパンチで、何がしたいのか。


 拳を掴んで突き放すと、大げさなくらい驚いた顔をしながら倒れる。力も弱体化して、人並に戻っているな。さしずめ、自分の非力さに驚いたって所か。


 というか、言葉が解らん。さっきまでこっち(異世界)の言葉を喋っていたんだけど、ニンゲンに戻った途端、不明な言語を使い始めた。


『翻訳が遅れました。彼の言葉は古典ラテン語で、現代の教会ラテン語とは随分違っています。はだかの彼は、何をした貴様、と言ってました』


『古典ラテン語……? うん、ありがとね』


 クロノス(汎用人工知能)との会話を終え、地面に尻餅をついたまま、俺を睨んでいる男と向き合う。素っ裸だけど。


「あんたイタリア人か? 名前は?」


「ぐっ……、クソっ、貴様何をしたっ! 私はアルバ・ロンガの王、アスカニアスである!! そもそも貴様は何だ! アジア人風情が、私にたてつくなどあってはならない暴挙であるっ!!」


 アスカニアス? アルバ・ロンガ? なに言ってんのこのヒト……。


『古典ラテン語とアスカニアスと言う名前。それに都市国家のアルバ・ロンガとなれば、彼がローマ神話に登場する伝説の人物、アスカニアスだと推測されます』


『ふぁっ!? マジで?』


『マジです』


 神話の人物か……。実在していたとしても、全然知らん名前だからピンとこないな。申し訳ないけど。


 しかしそうだとするなら、アスカニアスという人物はバンパイア化して、現代まで生きていた、という事になる。そのバンパイア化が解けたのなら……。


「おっ、おい!! 貴様っ!! 何をしたと聞いている! 答えろ――」


 慌てふためくアスカニアスは、みるみるうちに老化していく。全身に皺が増えて皮膚がたるみ、背骨が曲がってヨボヨボのおじいちゃんになる。アスカニアスは、俺を睨んだまま力なく倒れた。


 呆気ない末路だな……。バンパイアになって、ヒトの血を吸って生き長らえてきたのだ。ニンゲンに戻れば、それまで止まっていた身体の時計が一気に動き出し、早送りしたように年を取ったのだろう。


「お……、おい。助けてくれ」


 アスカニアスは地べたに這いつくばり、顔も上げることができなくなった。彼の命乞いに答える義務はない。長い年月をかけて、大勢の命を奪ってきたバンパイアだし。


 しかし、このまま滅んでしまっては勿体ない。長い間バンパイアだったのなら、リリスの情報もよく知っているはずだ。


「死にたくないか、アスカニアス」


「……も、もちろんだ」


 だいぶ弱ってるな……。老衰で逝ってしまうまであとわずかだろう。


「あんたさ、もうバンパイアではないって自覚してるか?」


「じ、自覚している。何だ、この問答は。さっさと助けろ」


 言葉じりは強いけど、弱々しくて細い声なので、迫力がないし恐くもない。


「このままだと、老衰で死んでしまうな。あー、どうしようかな~。リリスどこに居るか知ってるヒトいないかな~?」


「ぐぅぅ……。リリスは、この地を離れている。地球からの入植者を、お前たちから守るために」


「……間違いない?」


 俺たちから守るためって、どういう事だ? ああ、そっか。リリスは実在する死神(ソリッドリーパー)の幹部なので、()を敵対視してるって事か。


「……ああ」


 肯定したか……。死の淵に立たされた者が、自身の命を救うために虚言を吐くこともある。だが、アスカニアスの瞳は真実を告げているように感じた。


 このまま続けると、アスカニアスにまさしく死が訪れてしまうだろう。彼を救うために神威を使いたいが、バンパイア化の影響が残っていれば、と考えると、ためらわざるを得ない。


 ……しかしこのままでは。うむー、ちょびっと試してみるか。

 俺はほんの一瞬、神威を使った回復魔法を試みた。すると、アスカニアスの乱れた呼吸が、わずかに落ち着いた。


 実験成功だ。んじゃ次いこう。魔導バッグから小瓶を取りだして、アスカニアスに一滴かける。中身はヒュギエイアの水だ。


 うむむ。効果は絶大。たった一滴で老化が止まるどころか、少し若返った。神威結晶を触媒にして、回復魔法、治療魔法、解毒魔法、再生魔法、四つの効果がある水だからな。


 次は一瓶まるごとアスカニアスにぶっ掛けてみる。


「おおっ!?」


 アスカニアスが驚いて声を上げる。ヒュギエイアの水の効果がすぐに現れた。彼の身体が発光し、しわしわの老人から、若々しい青年へと若返ってゆく。


 アスカニアスは飛び起きて、手を見て腕を見る。そして顔を下に向ける。腹から足まで、自分の目で確認し、ヒュギエイアの水の効果で若返っていることを確認していた。

 その表情は憑き物が落ちたように清々しく、暗い街中でも希望に満ちた瞳が明るく輝いていた。


「アスカニアス王、あなたは、バンパイアだったときの記憶は残っていますか? 良ければ協力を仰ぎたいのですが」


「ああ、記憶は残っているさ。私は八咬鬼(ハチオウキ)と呼ばれるバンパイアで、三将の一、マルコブラッド・ベインの配下だった(・・・)。リリス・アップルビーから見ると、私は孫に当たる存在だ。ソータ・イタガキ、貴様の態度は気に入らんが、協力するとしよう」


 アスカニアスはこの街で起きていることの詳細を話し始めた。


 リリスは、この死者の都(ネクロポリス)に、実在する死神(ソリッドリーパー)の人員を大勢入植させていたそうだ。ただ、入植者をバンパイア化させていないので、とこしえの闇の世界はとても不評だったらしい。


 入植者たちの反乱が起きる寸前まで治安が悪化したところで、俺たちの存在が分かり、リリスは死者の都(ネクロポリス)の放棄を決断した。彼女は入植者を引き連れ、北にあるガレイア連合国へ向かったそうだ。


 入植者たちをバンパイア化すれば、死者の都(ネクロポリス)でも不満が出ないのでは? とアスカニアスに問うと、リリスはあくまで実在する死神(ソリッドリーパー)としての活動を優先し、構成員に手をかけることはなかったという。


 変なとこで義理堅いのな……。


 そこを聞くと、アスカニアスは自信を持って答えた。リリスはバンパイアの頂点に立つ存在真祖(オリジン)であるが故に、配下の始祖(プロジェニタ)子爵(ヴィカウント)騎士(ナイト)一般(コモン)、そして落伍者(アウトキャスト)に対し、常に規範となる行動を取らなければならないという。


 ほむ……。

 真祖(オリジン)だからと言って、鶴の一声で従わせるって訳じゃないんだな。


 ヨシミは恋する乙女のように、リリスを盲信していた。あれはスキル〝絶対服従(ドミネーション)〟の影響か? そう考えると腑に落ちた。


 スキル〝絶対服従(ドミネーション)〟で、ほぼほぼ絶対服従になるけれど、その効果が永続するわけではない。ちょいちょい上書きして、効果を持続させなきゃならないってことだ。


 そんなスキルを、配下のバンパイア全てに使うわけにもいかないだろう。手間がかかってしょうがないし。


 そうなると、配下のバンパイアから信頼を得るために、真祖(オリジン)として相応しい振る舞いをしなければならない。でなければ、バンパイアたちが序列の枠を超えて反乱を起こす可能性もある。という事か?


 真祖(オリジン)とか始祖(プロジェニタ)とか、仰々しい序列があっても、絶対では無いのだろう。


 部下に突き上げられる上司かよ。


 ちょっとだけ身近に感じるも、リリスは長い年月を生き抜いてきたバンパイアだ。起こりうることを思慮深く計算し、先の先を読みきった計画を持ってそうだ。油断しないでいこう。


 目の前のアスカニアスは、不安げな顔で俺を見つめている。ニンゲンに戻ってしまえば、もうリリスの配下ではない。八咬鬼(ハチオウキ)とか言ってたけど、そこへ戻ることも不可能だろう。


「アスカニアス王、あなたがここに留まれば、おそらく命は無いでしょう。それは分かってますよね? 行く当てはありますか?」


「私はこの世界に来て間も無い。知り合いも居なければ、住む場所も無い。……しかし、自分で何とかしよう。これもまた、私がバンパイアになって罪を犯したことに対する罰なのだろう……」


 自分で何とかしようって、裸一貫でやり直すつもりか? ほんとに裸だけどさ。


 インスラ地区で逃げ遅れた人々がいれば、保護して闘技場へ送ることになっている。けれど、アスカニアスの場合、この世界のニンゲンじゃないからなあ……。困ったな。どうしよう。


 あっ!


『おはようございます』


『板垣くんっ!? 君はいったい何をやっているんだね? 松本総理から連絡があったけど、もう少し詳しく教えてくれないか? それと、ドラゴン大陸がすごいことになってるんだけど、見に来ないのかい? あと――――』


 岩崎(いわさき)一翁(いちおう)陸将補(りくしょうほ)に、念話の電話が繋がると、彼はせきを切ったように話し始めた。随分話してないので、俺の知らないところで色々と動きがあったみたいだ。


『岩崎さん落ち着いて。ちょっと保護してもらいたい人物がいるので、そっちに送ります。古典ラテン語を話すので、翻訳が必要になります。よろしくお願いしますね』


『はあ? 何を言って――』


 念話の電話を切ってアスカニアスに向き直る。


「これから日本へ送ります。悪い人たちじゃないので、おとなしくしてくださいね」


 俺の言葉に目を剥くアスカニアス。彼はバンパイアとして生きてきたので、現在の地球の状況も知っているはずだ。


「やはり貴様は日本人だったのか……」


「そうですよー」


 陸上自衛隊統合情報部が管轄する地下施設、六義園(りくぎえん)にゲートを開き、そこに向けてアスカニアス王の尻を蹴飛ばした。

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