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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
9章 バンパイアとバンパイア

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179 早朝の悪夢

 俺が壇上でさらし者になった後、冒険者たちはルキウスの号令でインスラ地区へ向かった。朝のうちから徹底的に調べて、眠っているバンパイアを片っ端から討伐するそうだ。


 しかし、俺たちのパーティーは、ルキウスに案内され宮殿の中へ招かれた。理由は分からないが、何か確かめたいことがあるらしい。


 宮殿は広大で、廊下を歩きながらも見渡す限り豪華な装飾が目に入る。ルキウスがドアを開けると、そこは作戦会議室だった。


「入れ」


 その言葉で、俺たちのパーティーがゾロゾロと中へ進む。


 作戦会議室は本殿の一角にある部屋で、中央には長方形の大きなテーブルが置かれている。テーブルの上には地図や書類、筆記用具などが散乱しており、壁には国旗や女帝の肖像画などが掛けられていた。


 部屋の一方には大きな窓があり、そこからは庭園や帝都の景色が見える。窓際には花瓶や置物などが飾られており、女帝のセンスと教養が感じられた。


 貴族や官僚、軍人など、大勢がテーブルを囲んでいた。彼らは皆、厳粛な表情で話し合っている。緊張感が漂う中、時折窓から聞こえる鳥のさえずりや風の音が、この部屋が平和な宮殿の一部であることを思い出させてくれる。


 しかし、ここって作戦本部みたいな場所だよな。俺たちがノコノコ入ってもいい場所なのか?


 ルキウスが咳払いをすると、彼らはようやく俺たちの存在に気付いた。かなり集中していたみたいだ。


 部屋を見回したルキウスが声を上げる。


「こいつらが、フェイル・レックス・デレノアと、アリシア・デレノア・ブラックウッドのバンパイア化を防いだ者たちだ。被験者を連れてこい」


 衛兵が敬礼して、奥のドアへ向かう。


 というか、ルキウス……。あんた、フェイルとアリシアがバンパイアウィルスに感染し、その後回復した事まで知っているのか。

 回復させたのは俺だけど、その情報はどこから漏れた……?


『誰にも口止めしてませんよね?』


『……はい』


 すかさずクロノス(汎用人工知能)から突っ込まれる。別に秘密にする必要はないと思っていたけど、マズったかもしれない。

 しかし、被験者って何だ?


 衛兵に促されて、俺たちは席につく。作戦会議を行なっているテーブルとは別の場所だ。ルキウスも俺たちと一緒に座った。しばらくすると、衛兵が汚れた服の男を引きずって、会議室に入ってくる。


 その男は俺たちの前に立たされた。


「ソータよ、彼を見てどう思う? フェイルとアリシアをバンパイア化から救ったお前なら、何か分かるはずだが……」


 ほう……。フェイルたちは、俺が回復させたと特定済みみたいだな。まあでも、よくよく考えると、さもありなん。俺が口止めしなかったから、ルーベス帝国に筒抜けだったのだ。


 デレノア王国とルーベス帝国は戦争中か、あるいは戦争間近である。それ以前に、ここは修羅の大陸だ。つまり、お互いの国に諜報員がいても何ら不思議ではない。


「……ん?」


 立ちあがって男を視診すると、首の血管辺りに咬み傷を見つけた。バンパイアに咬まれたのかな……? そうだと断定できないのは、この男がバンパイア化していないからだ。


「ソータ、その男は間違いなくバンパイアに噛まれている」


 俺の不審げな顔を見て、ルキウスが声をかけてくる。


「ほむ……」


 咬まれてもバンパイア化していないということは、この男はバンパイアウィルスの抗体を持っているということか。しかし、そんなことあり得るのか……?


「失礼します」


 男の手を握って触診すると、闇の血しぶき(シャドウ・サングイン)を感じた。


『ソータ、予想通り、彼はバンパイアウィルスの抗体を持っています。……解析が完了しました。バンパイアウィルスの抗体から、ワクチンと抗体治療薬の作成が可能となりました。魔法での作成も可能ですが、周囲から怪しまれないために、製造工場を建造することをおすすめします』


『工場……? この世界に、そんなの作る設備や技術はあるのかな?』


 と言って気付く。この世界には魔法があり、魔石を使った自律運動をするゴーレムや空艇(くうてい)があることを。ということは、工場を作るくらい、造作もないだろう。


「何か分かったか?」


 ルキウスが緊張した面持ちで話しかけてくる。いつの間にか、パーティーの仲間たちや、会議室の貴族たちまで、固唾を呑んで見守っていた。


「スキルを使って調べました。彼はバンパイアウィルスに感染していますが、抗体があって発症していません。……バンパイア化の予防薬と治療薬が作れそうなので、少し待ってください」


 そう言って、男の手をグイグイもみほぐしていく。その行為に意味はなく、ただの時間稼ぎだ。あまり早く結果を伝えてしまうと、怪しまれそうだし。

 そろそろいいかな……?


「薬ができました。あ、注意事項がひとつあります。この薬は、十年ほどかけて非臨床試験から臨床試験を行ない、安全性を確かめてからでないと――」


「安全性を確かめる? 何だそれは? スキルで調べて、それを元に作った薬なら、すぐに投薬しても大丈夫だぞ」


 げっ、クロノス(汎用人工知能)のことを隠そうと思って、でまかせを言ったら拙い方に話が転がってしまった。


『ソータ? 私が解析したのです。効果がなかったり副作用が出たりなんてあり得ませんからね?』


『あはは~、ですよね~。てか先に言ってちょうだい?』


 クロノス(汎用人工知能)と喋っていると、ルキウスからの視線がきつくなる。さっさと答えろと言いたげである。


「では工場を建てて、大量生産――」


「帝国には優秀な錬金術師がいる。彼らに薬を渡せば、すぐにでも増産体制が整う。ソータ、現物を作成してもらっていいか?」


 うほー、製薬に対する考え方もまるで違っている。


「ええ、それはもちろん。……では、錬金術師の方はどちらに?」


 そう言うと、部屋の中で声が上がる。


「ふぉっふぉっふぉっ。優秀な錬金術師とは、財務官のガイウス・コルネリウス・タキトゥス。つまり、わしのことじゃ。よろしくな、ソータ殿」


 俺に近づいてくるガイウスは、ルキウスよりずっと年上に見える。彼の自信に満ちた態度は、経験や知識に裏付けられたものだろう。礼儀正しくお辞儀をして、握手を求めてきた。その目には冷静な判断力と厳しい評価力があるように感じられる。


「はじめまして、ソータ・イタガキです。えっと、こちらがワクチンで、こちらが治療薬です」


 二つの小瓶を瞬時に創り出し、ガイウスに渡す。手品みたいなことをして、また驚かれるかなと思っていると、そうでもないみたいだ。


 彼らルーベス帝国の者より、パーティーの仲間の方が驚いている。後でミッシーたちから小言を言われることは確定だな。


「無償で、というわけにも行くまい。これでもわしは、帝国の財務官じゃ。何なりと褒美を取らせるぞ。望みを言うのじゃ」


 じっと見つめてくるガイウス。というか「何なりと」と言ったな……。


「では、デレノア王国との戦争をやめてください。俺からデレノア王国の勇者たちに口添えすれば、あちらも引くと思います」


 デレノア王国とルーベス帝国が戦争をやっているのかどうか、俺はぜんぜん知らない。けれどここは、修羅の大陸だ。もしも戦争やっているのなら、本当にやめてほしい。その想いから出た言葉だ。


「ぐっ……。戦争と言うが、攻めてくるのはあちらの方じゃ。あの出鱈目な強さの勇者どもを、どうやって説得し、どうやって停戦できると思う?」


「勇者たちには、俺から釘を刺しておきます。これ以上強引に領土拡大をするなと」


 デレノア王国の国土は、ハマン大陸の半分以上を支配下に置いている。これ以上武力による領土拡大をするなら、勇者たちをぶちのめそう。うん、そうしよう。


「……ほんとかね?」


「ええ、マラフ共和国へ進軍していたデレノア王国軍も壊滅しましたし、首謀者のヨシミ・イソエも逮捕されました」


 そこまで言っても、ガイウスの疑いは晴れない。顎に手を当てて考え込んでいる。そんな状況を見て、ルキウスは我慢できなくなったのだろう。俺とガイウスの会話に入ってきた。


「ガイウス殿、デレノア王国のカルヴァン・タウンゼント・デレノアは崩御した。いまは息子のフェイル・レックス・デレノアが王位を継ぎ、新体制になっている。近い将来、停戦どころか、終戦という道も開けているのだ」


 ルキウスの言葉で、ガイウスはようやく了承した。というか、戦争中だったのか。


「……了解じゃ。それでは早速、薬の量産を始めるとしよう」


 おや……。その顔は、納得してない? ガイウスは俺を睨み付け、数人の部下と抗体持ちの男を引き連れて部屋を出ていった。


 何なりと褒美を取らせる、なんて言ったのは、ガイウスなんだけどさ……。額面通りに言葉を受け取るなということなのか?


 いやー、これってあれだ。今日は無礼講と言われて、調子に乗ったやつの末路みたいだ。腹芸のまねごとをして、大失敗しちゃったな。


 まいっか。ひとつ勉強になったと覚えておこう。


「ソータよ、済まなかった。非礼を許してくれ」


 ルキウスが俺に頭を下げると、ルーベス帝国の者たちが騒然とする。あちこちから息を飲む声が聞こえ、椅子から立ちあがって驚愕する者までいる。


 あー、これって、大将軍という国の重鎮が頭を下げたことで、みな驚いているのだろう。なんつーか、色々と面倒くさい……。


「あはは……。気にしてませんよ。俺たちは民間の冒険者ですし。ここに連れてこられたのは、今の件でですよね? 俺たちは、インスラ地区へ向かいます」


 ルキウスは頷きながら話す。


「他に何かないか? 必要なものがあれば、こちらで準備するぞ」


「あ~、そうですね……。この街に大きなスポーツ施設がありましたよね」


「すぽーつ施設?」


 おや? スポーツが通じなかった。


「えっと、街中にある、大きな円形の建物のことです」


「闘技場か……?」


「あ、たぶんそこです。インスラ地区で逃げ遅れた人たちを、そこに避難させるつもりです。彼らを保護できるように、軍を待機させてください」


「……ほう? 貴様ゲート魔法が使えるというのか」


 スッと眼を細くするルキウス。彼の緑眼が俺を捕らえて放さない。


「ふふっ、ははははっ、あーっはっはっはっはっ! 貴様いい度胸してるな! 俺から目を逸らさないやつは久しぶりだっ!!」


 何がどうツボったのかさっぱり分からん。腹を抱えて笑い出したルキウスは、部下の視線に気付いて素に戻る。


 ルキウスは部屋にいる兵士たちに向き直り、号令を発する。


「よーし、お前ら! 一個中隊を引き連れ、闘技場で待機させろ。ゲートが開いて出てきたものがニンゲンなら保護、バンパイアなら即座に滅ぼせ!! …………何をやっている! さっさと動け!!」


 一気に慌ただしくなる室内。


 俺たちの出番はここまでだ。ルキウスに挨拶をしながら、お貴族様の扱いは面倒くさいと再確認。


 一区切りついたところで、俺たちは部屋から出た。


 宮殿の廊下を歩きながら、俺たちは作戦を練る。リリスはおそらく、俺を狙ってくるはずなので、囮を買って出た。

 俺が派手に暴れている間、ファーギやミッシーたちが、バンパイアたちをこっそり殲滅していく。そうすれば、リリス・アップルビーも出てこざるを得ないだろうという作戦だ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 宮殿を後にしてインスラ地区へと進む途中、俺たちは見るからに貧しそうな人々とすれ違う。マイアが言うには、彼らはインスラ地区に住んでいる者たちらしい。


 今回のガサ入れでとばっちりを受けないよう、しばらくの間追い出されたのだ。彼らを引率している衛兵は、闘技場のほうへ向かっていった。みなうつむき加減で歩き、表情は暗い。一時的とはいえ、強引に家を追い出されたから仕方がない。


「あまり時間をかけない方が良さそうだな、おっさん」


 背後からアイミーの声が聞こえてくる。おっさんは俺のことだ。いつまで経っても名前で呼ばれないので、少し悲しくなる。あと俺はまだ二十六歳だ。


「おいジジイ、新しい魔道具あんだろ? さっさと渡してくれよ」


 ハスミンの声だ。テイマーズの保護者的存在なのに、この扱い。ファーギはもう少し、言葉遣いの教育にも力を入れてほしいところだ。


「お願いしますは?」


「……」


「お願いしますは?」


「お願いします、ジジイ」


「よし!」


 教育するところが少し間違っている。ファーギは確かに爺さんだが、ジジイって呼び方も良くないだろう。そんな緊張感のない俺たちは、インスラ地区の石造門をくぐる。


 衛兵に冒険者証を見せなければ通れないという、完全封鎖状態だ。崩れた塀には、多くの衛兵が集まって、出入りできないように守りを強化していた。


『リアム、メリル、準備はいいか?』


『いつでも行けるっす!』


 魔導通信機で確認を取り、俺たちは大通りを進んでいく。聞こえるのは俺たちの足音と風が奏でる音色だけで、ニンゲンの気配はまるでない。不気味な雰囲気が道路を支配し、行く手を塞いでいるかのようだ。


「下がれ、ソータ」


「……おう」


 ミッシーに言われて、事前に打ち合わせた隊列になる。


 先頭にスライム、その後ろにファーギ。テイマーズの三人と続き、ミッシー、マイア、ニーナ、最後尾が俺となっている。


「もう少し増やすね」


 ジェスの声が聞こえると、前方だけではなく両脇にもスライムが現れた。この大通りを埋め尽くす勢いの数である。


「……さっきの冒険者たちの気配が無いな」


 先頭を進むファーギの声だ。インスラ地区の住人たちが避難しているので、元々人影はない。しかし、先に到着しているはずの冒険者たちの気配まで無いのはおかしい。


 歩きながら目を閉じて、視覚情報を断つ。集中して周囲の気配を探り、その範囲を広げていく。背後には帝都ドミティラの雑多な気配があり、前方には希薄な気配を感じた。ここに住むインスラ地区の人々は、帝国軍が避難させているので、前方の気配は、バンパイアか冒険者のどちらかだ。


「目を閉じてると、危ないぞソータ」


 ミッシーの声が聞こえてくる。


「ああ、ちょっと気配を探ってる」


 俺は足を止めて、気が散らないように集中する。前方にある朧げな気配までの距離は、……相当遠い。しばらくすると、その気配が徐々にはっきりとしてくる。


「何だと思う? この気配はニンゲンじゃないと思うが」


 ミッシーの声が耳に入ってきた。気配を探るのに夢中で、彼女が隣にいることに気づかなかった。


「眠っている人が、目を覚ます前の気配に似ているな」


 少し離れたところから、ファーギの声が聞こえる。


 目を開けると、テイマーズのスライムたちが周囲を警備し、俺たちを守っていた。テイマーズの三人も、一生懸命気配を感じようとしているが、俺たちほどは感じられないようだ。


 マイアとニーナも目を閉じて、朧げな気配が何かと探っている様子だ。


「百人近い冒険者の気配がこつ然と消えるなんて、中々ないと思う。あの気配がなんなのか調べに行こうか」


 俺の言葉でみな歩き始めた。ここの住人たちによって踏み固められた土の路は、風に吹かれてほこりっぽい空気を巻き起こしていた。

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