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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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175 アキラとリーナ

 何となく腑に落ちた。ルイーズが転生者だという話が事実ならば、色々な疑問が氷解する。日本のことに詳しく、漢字に堪能だったのはそのためだろう。いくら諜報に長けていようとも、あまりにも不自然過ぎだった。

 二人きりになったタイミングで話したのは、他の者に知られたくなかったからだろう。


 ぶっちゃけ言うと、どうでもいい話だ。でも、彼女は未練がないふりをしながら、何度も日本を匂わせてきた。その意図が分からない。承認欲求か? この性格ならありうる……。


「何で今になって打ち明けたんですか?」


「……いえ、地球が温暖化で滅亡寸前だと伺っております。それで、避難先をこちらでも準備しようかと思いまして。よろしければ日本人の受け入れを優先でお願いしたいですわ」


 オホホと笑いながら言うルイーズ。


「うーん……。どれくらいの人数が受け入れ可能ですか?」


「五千万人くらいは問題ありませんわ」


「……ルイーズ。あんた亡命するとか言っておきながら、その話がなくなった途端、日本人を五千万人も受け入れると言うのか」


 面倒くせえ。もう敬称抜きでいいや。現実味のない提案で、ふざけているとしか思えない。急遽受け入れるようになったとしても、五千万人なんて人数的に無理がありすぎるし、衣食住が確保できなければ、たちまち破綻する計画だ。


「フェイル陛下と協議した結果です。受け入れ先は既に確保してありますし、自治区としてですが、日本の主権を保証します」


 自治区と聞いて、頭に浮かんだのは獣人自治区。あんな感じで閉じ込められたら、日本の人々が辛い目に遭ってしまう。下手すりゃ暴動が起きて、獣人自治区の二の舞だ。その可能性は皆無とは言えない。いやー、これは俺ひとりで決めていい事案じゃない。


「……」


「ソータさん? 日本人が入植すれば、勇者たちが率先して守ってくれるでしょう」


 ルイーズは心配ありませんよ、と言いたげな顔だ。


「そうでしょうね。しかし、ここは修羅の大陸と呼ばれてます」


「ハマン大陸は、デレノア王国がほぼ掌握しています。リリス・アップルビーを仕留めてもらえれば、この国は安泰でしょう」


「……ちょっと待ってくださいね――――」


 いまはドラゴン大陸に新しい街を建設している最中だ。日本人はそこに避難するはずだが、この状況だと……? やはりこれは相談した方が賢明だな。

 俺はいま、電話が念話と同じ感覚で使えるようになっている。これ便利でいいんだよな。


『もしもし。松本総理ですか?』


『板垣くん!? 随分とご無沙汰だね!! 今までどこに居たんだい?』


こっち(異世界)で、色々と手を打っているところです。さっそくですが、ドラゴン大陸への入植は順調ですか?』


『それがねえ、法整備に手間取っていてさ……。まだまだ時間がかかりそうだ。反対派の声も強くてさ、国内がかなり混乱してる。異世界へ行きたい若者と、経済の利権者たちが対立してるんだよね……』


『あと三年しかないって公表しました?』


『まさか、……出来るわけが無い。いま公表したら、もっと治安が悪化する』


『そうですか。実はですね――――』


 俺は松本総理に、デレノア王国の話を伝える。三十年前にクラス召喚された中学生たちが、この世界で勇者として生きているという事を。


 そこで松本総理が話を遮った。彼は日本人勇者たちの活躍を明かし、日本国民が異世界へ移住することを勧めると言い始めた。とてつもない力が得られるという与太話付きで。


 そんな詐欺みたいな話に引っかかるわけないだろうと思ったけれど、松本総理は自信があるみたいだ。

 そんな事がまかり通るのか? でもなあ、清濁併せ呑むのが政治家だと聞くし、今の状況で清く正しくなんて言ってられないのだろう。その辺はもうプロに任せておこう。


 松本総理との通話を切り、ルイーズに話しかける。


「前向きに検討するみたいです」


「……えっ?」


「……あ。松本総理に電話して聞いてみました。衣食住に加え、安全面が担保できなければ移住なんて無理だと思いますが」


「いやいや、どうやって連絡したの?」


 電話のくだりで、ルイーズは口調が素になるくらい驚いている。


「電話するスキルですよ」


 クロノス(汎用人工知能)やアイテールの話をすると面倒なので、スキルって事にしておこう。ルイーズや勇者たちも、割と出鱈目なスキルを持っているので、これくらい出来ても不思議ではないだろう。


「……なるほど。とりあえずは納得しておきます。では、よろしくお願いしますわ」


「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 ルイーズの真意は分からないが、悪意は無さそうだ。それに、入植先の選択肢が増えるし、いい話だと思っておこう。


「では、日本人受け入れのため、日本政府と連絡ができる魔道具の準備をお願いします」


 ニヤリとするルイーズ。


 危うく舌打ちしそうになって、とっさに我慢した。


 このメギツネ……。まさかとは思うが、日本人を受け入れるというのは建前で、地球と連絡が取れる通信機が欲しかったわけじゃねえだろうな?


『創れる?』


『ソータの魔導通信機を複製して、機能を強化すれば可能です。作成しますか?』


『うん。お願い』


 クロノス(汎用人工知能)に頼むと、机の上にスマホのようなものが出現した。神聖な雰囲気がするので、動力は神威結晶を使ってそうだな。


 ルイーズは目を見開いて驚き、俺に質問を浴びせかける。もちろん答えるわけがない。しばらく押し問答が続き、ようやく諦めさせることに成功した。


「さて、そろそろ俺は発ちますね。短い間でしたけど、大変お世話になりました。心より感謝します、ヴィスコンティ夫人」


 立ち上がってそう伝える。リリスは必ず討つという意思を込めて言ったからだろうか。ルイーズは何か言いたそうにしていたが、その口から言葉が紡がれることはなかった。


 俺はルーベス帝国へのゲートを開いた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 一方、王都ハイラムのエルミナス城では、捕らえられたヨシミの尋問が済んだところだった。アキラたち勇者は、山田たちを城の牢に閉じ込め、一息つくために各々の部屋へ戻っていた。


 その一室では、リーナが真剣な面持ちでアキラに問いかけている。


「アキラちゃん、あたしリリスを追いたいんだけど……」


「リリスが原因で流刑島に送られたって言ってたな。……今ごろになってどうした?」


「なんであたしが流刑島送りになったのか、アキラに話してなかったよね――――」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 当時のリーナは、ルンドストロム王国で英雄として称えられていた。それを祝うため、式典が行なわれようとしていたとき、冒険者ギルドからリーナ宛てに指名依頼が入った。


 それは海を渡ったオーステル公国からの依頼であった。リーナは式典を無断欠席し、依頼のためにオーステル公国へ渡る。


 依頼内容は、特殊なスキルを持った少女の保護であった。


 その少女のスキルは、感情で周辺の天候が変化するという、見たことも聞いたこともないもので、オーステル公国の辺境では、大きな水害が発生していた。


 リーナは悪天候を乗り越えて少女が住む村に到着し、接触することに成功する。


「あなた……ドラゴニュートなの?」


「はい……。この大陸では珍しいですよね」


 その少女は、バンパイア化していた。村人たちは何者かによって全員殺戮されており、生き残りはその少女ひとりだけだった。それに少女がバンパイア化したことで、スキルが暴走。すでに制御不可能となっていた。


 少女は懇願する。


「私を殺してください」


 そんな話、リーナは当然断った。彼女は少女の村に数日間滞在し、何とかしてスキルの暴走を解除しようと試みた。しかし、当時のリーナの知識ではどうすることも出来なかった。


 苦悩したあげく、結局リーナは少女を殺害してしまった。スキルの暴走による悪天候の勢いは恐ろしく強大で、広大な範囲を水没させていたからだ。


「私を咬んでバンパイア化させ、村の住人を皆殺しにしたのは、アダム・ハーディングという男です。私はどうでもいいです。だけど、私の家族を殺したことは許せません。リーナさん、どうかお願いです……。かたき討ちを――」


 息絶える間際、少女はそう遺した。リーナはぐしゃぐしゃに顔をしかめ、大粒の涙をこぼしながら奮起した。


 彼女はアダム・ハーディングなる人物を討つため、冒険者ギルドへ戻って事の経緯を報告した。


 するとあろうことか、リーナは少女のスキルを暴走させて殺害してしまったと糾弾され、逮捕されてしまったのだ。


 もちろんリーナは無罪を主張したが、あるはずのない証拠が挙がっていた。少女の自宅に、スキルを暴走させるための秘薬があったというのだ。


 オーステル公国は、リーナがその秘薬を少女に与えていたと断定。


 その結果、リーナは流刑島送りになっていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 じっと話を聞いていたアキラは、ふと顔を上げる。


「流刑島でおとなしくしていたのは、何か理由があるのか?」


 リーナの実力があれば、島を抜け出すことも不可能ではない。彼女はアキラの隣に立っても、遜色のない戦いをするし、勇者たちに匹敵する強さを持っているのだ。


「あたしが逃げたら、外交問題になるからに決まってんじゃん? オーステル公国とルンドストロム王国は、仲が悪いの」


 リーナは、ルンドストロム王国の式典を無断で欠席している。その上、他国で問題を起こしたとして、彼女は汚れた英雄としてやり玉に挙がっていた。


 アキラはこれまで断片的な情報しか耳にしていない。リーナが今回話してくれたことで、色々な点で納得がいったようだ。


「……なるほど。それじゃ今回無罪になったことで、アダム・ハーディングってバンパイアを追うことにしたってことか」


「そういうこと。あたしはひとりで行くからね? アキラはようやく家族と会えたんだから、あたしのことは気にしないで」


 リーナはそう言って、席を立つ。しかし、ドアに向かいながら、チラチラとアキラを見る。


 アキラが流刑島に送られたとき、リーナは既にそこにいた。アキラが暴力で流刑島をぶっちめたとき、隣にいたのはリーナである。この二人はもう二十年来の付き合いがある。


「はぁ……。相棒を放っておけないだろ? ……俺も手伝うよ」


 その言葉を聞いて、リーナはパッと花開く笑顔を見せる。しかしその笑顔はすぐに真面目なものへ変わった。


「娘ちゃんたち、置いていくの?」


「……置いていく。さくっとアダム・ハーディングを討って帰ろう。そいつの行き先に心当たりはあるのか?」


「オーステル公国へ行くわ。あそこの冒険者ギルド、明らかにおかしな動きをしてたからね」


「ブライトン大陸か……。行くのはいいんだけど、足はどうする?」


「あの子にお願いしようかなと。ほら、リリスを光の柱で焼いた彼。空艇(くうてい)を自作してるって聞いたんだけど」


「あー、佐々木(ささき)優希(ゆうき)か。借りられるかどうか聞いてみるよ。……ソータを巻き込んだ方が早い気もするけどな」



 その日、エルミナス城の門が閉ざされたとき、アキラとリーナの姿が消えていた。

 彼らがどこへ行ったのか誰も知らない。それを知って激怒した虎住人のスザク。彼を中心に、捜索隊が組まれる騒動へ発展していった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ルーベス帝国の帝都ドミティラ。この地は貧富の差が激しく、地区が変われば街の景観がガラリと変わる。

 帝都には巨大なスラム街が形成され、そこはインスラ地区と呼ばれていた。


 東へと広がる丘陵地帯に身を置くこの地区は、家々が斜面に連なっている。ひとつの建物が次の建物に飲み込まれるように覆いかぶさり、その独特の地形で住居の配置は複雑怪奇。知らずに歩くと、袋小路になってしまう、そんな巨大迷宮のような街並みであった。


 その中のひとつ、木造二階建てのぼろ屋。床板は剥がれ、窓枠にはまったガラスは全て割れていた。

 リリス・アップルビーはそこで太陽の光を浴び、窓から入る冷たい風に吹かれている。彼女は霧のように希薄な気配で、本当にそこにいるのか定かではなかった。


 その部屋に現われたヒト型の影が起き上がり、みるみるうちに実体化する。彼の名はマルコ・ブラッドベイン。リリス最古の部下で、彼女に忠実な執事。冷静沈着、知的な性格で、血液を操るバンパイアである。


「リリス様……。インスラ地区は、ほぼ支配下に収めました。地球からの入植も順調に進んでおります」


「そうですか。では、地球からの入植者を、北のガレイア連合国へ逃がします」


「……えっ? 死者の都(ネクロポリス)を居住地にするのでは?」


 実在する死神(ソリッドリーパー)として活動しているリリスは、地球からの入植者をバンパイア化していない。彼女は元からの眷属を使って、その勢力を伸ばしていた。


「それでもいいのですが、ルーベス帝国の動きが怪しいの。ここは安全策をとって、地球のニンゲンを避難させましょう。それより、ソータ・イタガキの姿を確認しました。彼は必ずこの地に現われるでしょう」


「ソータ・イタガキというと、リリス様が要注意人物に指定されてましたね。彼はそんなに危険なのですか?」


「私と同等の力を持つと考えてください。この人相書きをコミュニティ内に配り、警戒を厳とするようお願いします。もしソータ・イタガキを目撃した場合、攻撃などせず、まず私に報告してください」


「――リリス様と同等っ!? まさか! ……はっ、承知いたしました!!」


 リリスが渡す写真(・・)を見ながら、マルコは驚きの声を上げた。しかし、リリスの一瞥で従順となり、影となって消え失せた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ぶわっ!?」


 ゲートから出ると突風が吹いて、思わず声が出てしまった。この前リリスと相対した草原だ。

 ルーベス帝国は……、あっちか。


 日は高くて、見通しもいい。地球じゃあり得ない空気のきれいさだ。遠く見える岩壁の上に、白い外壁が見えている。あれが帝都ドミティラだ。


 そこを目指し、俺は転移魔法を使った。

8章完結です。自戒より9章を開始します。


いつもお読みになっていただき誠にありがとうございます。

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