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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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174 カミングアウト

 俺は仲間と共にヴィスコンティ伯爵邸の食堂で今後の作戦を話し合っていた。ルイーズからの依頼の進捗報告と、リリスの対策を決めるためだ。パーティーの面々に加えて、アキラとリーナ、そして三浦たち五人の勇者も参加している。


「おほほほっ!」


 ルイーズは俺がリリスに逃げられたと思い込んでいるらしく、嘲笑うように高笑いをする。しかし、その笑顔はすぐに凍り付いた。


 食堂のドアが開き、ミッシーとファーギに案内され、フェイル・レックス・デレノア第一王子と、アリシア・デレノア・ブラックウッド公爵夫人が入ってきたからだ。その後ろからは、ライル・サンルカル第一王子がいた。


 この屋敷からサンルカル王国にゲートを繋いだのは俺で、迎えに行ったのはミッシーとファーギだ。もちろんコッソリやった。

 あと、ライルは何でついてきたし。


 ルイーズはめちゃくちゃ驚いた顔で立ちあがり、すぐさま臣下の礼を取った。執事もメイドもみなルイーズに倣って礼をする。

 アキラやリーナ、勇者たちもみな片ひざをついているというのに、うちのパーティー面子だけが椅子に座ったまま動こうとしない。もう少し礼儀を弁えたほうがいいんじゃないの? なんて考えている俺も突っ立ったままで何もしていない。


「気にしなくていい。席についてくれ」


 フェイル第一王子の声で、みな席に戻った。うちのパーティー面子がざわついていたが、しばらくすると食堂が静まり返った。「はい、皆さんが静かになるまで三分かかりました」なんて校長先生が言いそうな空気を感じたのは俺だけだろう。


 フェイルは立ったまま食堂を見わたして口を開いた。


「今回の件で、私が国王になったようだ。ここには国外のものもいるが、証人の意味合いを含めて同席してもらおう――――」


 フェイルは自分の考えを述べ始めた。


 まずは先代の国王の葬儀を行う。これは故人に対する敬意と、新しい国王としての正統性を示すために必要だ。


 次に即位の儀式を行う。これは新しい国王としての権威と責任を宣言するためだ。即位の儀式では、神器や冠などの象徴的な品物を受け継ぐことや、貴族や民衆に忠誠を誓わせることが行われる。


 国王が変わったことで、他国や国内の勢力が動く可能性もあるので、政治的な同盟や敵対関係を確認する。これは外交政策や、安全保障を決めるためだ。


 同時進行で、自分の側近や顧問を選ぶ。これは新国王としての統治能力や信頼性を高めるためだ。新国王は自分の意思や方針を実行するために、有能で忠実で協力的な人々を周囲に置く必要がある。


 フェイルはその話の中で、ルイーズを参謀に任命すると宣言した。

 彼女はエルフの国へ亡命する計画を立てている。俺も片棒を担いでいるので、どう返事をするのかと見守っていると、ルイーズはフェイルの参謀になれという言葉に、あっさりと頷いた。


 俺はミッシーに目配せをする。ヴィスコンティ伯爵家の一族郎党をエルフの国で受け入れるという話は、現在ミッシーが窓口になっているからだ。


「フェイル陛下(・・)……、一つだけお願いがあります。国内(・・)に残るのは、わたくしだけにしていただきたいのですが……」


「…………よかろう」


 ルイーズの言葉に、フェイルは不機嫌な顔で承諾した。


 なるほど……。フェイルはルイーズが亡命しようとしている事実を知っていたんだな。それでもなお参謀になれと言うのは、ルイーズの聡明でしたたかな頭脳を評価しているからだろう。


 ルイーズがデレノア王国に残ると決断すると、話は次の段階へと進んだ。


 サンルカル王国の第一王子、ライル・サンルカルは、デレノア王国第一王子、フェイル・レックス・デレノアを次期国王として認め、その後ろ楯になることを宣言したのだ。


 なるほど……。ライルはこのためについてきたんだな。


 それに加えて、アリシア・デレノア・ブラックウッド公爵夫人も、フェイルを新国王に推すと表明した。彼女はフェイルの妹だし、そうなるのは当然の流れだろう。公爵家という強い後ろ盾を得たことにもなるし。


 正直この茶番を見て、面倒くさいと思った。

 色々と根回ししなきゃいけない貴族社会って、しがらみだらけなんだろうね。


 ライルは後ろ楯になると言ったけれど、下心があるのは明らかである。たしか、サンルカル王国とデレノア王国に国交はなかったはずだ。それどころか、デレノア王国は流刑島を経由して、サンルカル王国に侵攻しようとしていた。


 それなのに、後ろ楯になるということは、王子同士で何かしらの密約を交わしているのかも知れない。


 フェイルの話が終わると、俺たちは部屋を出ていくように促された。これからルイーズ、フェイル、アリシア、それにライルの四人で話し合うらしい。


 フェイルは俺たちのことを証人だと言っていたが、それも建前に過ぎない。部屋を出る時に、フェイルは俺たちに向かって言った。


「ルイーズを参謀にすることは決定事項だ。亡命させるのはやめておけ」


「……はい」


 俺はそう言うしかなかった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺たちのパーティーは二階の広間に集まっていた。そこで情報交換をしていると、マイアから声がかけられた。


「ソータさん、これからどうするつもりですか?」


「ルイーズからの依頼を遂行するよ。リリス・アップルビーの居場所もだいたい分かったし」


「えっと、場所はどこですか?」


「ルーベス帝国だ。でっかい都市が見えてたから、そこだと思う」


「……そんなところまで行ってたんですか」


「そそ。というかどしたの?」


「いえ……。あたしたちもソータさんの隣に立ちたいんです」


 マイアがじっと俺の目を見つめる。彼女は黒眼黒髪で、爽やかな美人さんだ。修道服姿で、明るい空気を振りまき、俺たちのパーティーのムードメーカーでもある。


 しかし今は違う。真剣な眼差しで俺から目を離さない。


「あたしたちってことは、ニーナも?」


 マイアの隣にいるニーナも同じく、真剣な眼差しで俺を見つめている。

 うーん……。何となーく既視感があるのは何でだ?


「ソータ、マイアとニーナは、私が面倒を見る……。お前はもっと仲間を信じろ」


「お? ……あっ!!」


 ミッシーが割って入ったことで思い出した。マイアとニーナは、ミッシーが行方不明になる前と似た雰囲気をまとっているのだ。


 今回の作戦は、俺とアキラたちでバンパイア化した国王を討つ、というシンプルなものだった。ミッシーたち他の面子は、ヴィスコンティ伯爵邸の警護だ。パーティーの面子が出来るだけ危険を冒さないようにと、俺が強く提案してそうなった。


 俺は無意識のうちに、彼らを危険から遠ざけていたのだ。だからと言って、パーティーの面子を前面に立たせるのはちょっとなぁ……。デレノア王国にリリスがいたことは、想定外の事態だったし。


「ソータさん、あたしたちバンダースナッチで追いかけることも出来るんですよ? ……行き来先が分かっていれば。それに……、あまり心配させないでください」


 マイアの瞳から涙が溢れ出した。


 リリスを追う前に、一度ここに戻るべきだったのか。

 成り行きとは言え、俺がまたしても独断専行してしまった事実は変えられない。


 ふと気付くと、テイマーズのアイミー、ハスミン、ジェスの三人、メリルとリアムの二人、みんな俺のことを心配そうな顔で見ていた。


「ソータ、お前がワシらと違うのは重々承知している。だが、その身体が無理をしているのは明らかだ。少しはワシらを頼ってくれ。仲間だろ?」


 そう言ったファーギに腰を叩かれた。うーん。無理してないと思っていたけれど、周りから見ればそうなのかも知れない。でも、仲間かあ……。そうだな。俺ももう少し彼らを頼ったほうがいいのだろう。


「ああ、わかった」


「んじゃ早速だけど、おっさん!」


 アイミーはニコニコしながら、これからどうやってリリスを討つのかと、計画を立て始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 あれから三日経った。ライルをサンルカル王国へ送り、アキラとリーナを流刑島に送り届けた。王都ハイラムでは、カルヴァン・タウンゼント・デレノア国王が崩御したことで、葬儀の準備に追われている。


 勇者たちは、岡田を中心に纏まり、これからのことに当たるそうだ。


「どうすればこうなるんだ……?」


 岡田が絶句している。彼はヴィスコンティ伯爵邸の地下に来て、時間が止まった十名の勇者たちを見ていた。


 この地下室には、俺と岡田、案内してきたルイーズの三名がいる。


「魔道具ですよ」


「時空間魔法でも、ここまでカッチカチにならないんだが?」


 床に転がされている勇者をペチペチと叩きながら、俺の言葉に岡田は疑いの眼差しを向ける。というか「手枷に時間停止魔法陣を使ってます」なんて明かすわけがないでしょ?


「どうしますか? 手枷を外せば、彼らは動き始めます。ただ、彼らはヨシミ先生の手の者(・・・)ですよね」


 彼らはヨシミのスキル〝絶対服従(ドミネーション)〟で操られている可能性があるからなあ。岡田のスキル〝魅了(カリスマ)〟以上に強力なものだ。それ故に迂闊に手枷を外せなくて、ちょっと困った状況になっている。


 岡田と一緒に、うむむと悩む。


 そうしていると、ルイーズが勇者のひとりに手を充てた。

 と同時にクロノス(汎用人工知能)の声がする。


『スキル〝能封殺(アンチスキル)〟を確認しました。解析します……。改善と最適化が完了しました。これ以降、ソータにも使えます』


 名前から察するに、スキルを解除するスキルかな? あるいは、スキルの使い手がスキルを使えなくなるとか?


『スキル〝能封殺(アンチスキル)〟の効果は、スキルの解除および、対象のスキルを封じます』


『わかった。さんきゅ』


『えへへー、どうしたしまして!』


 最近はクロノスの性能が上がったのか、スキルの解析も上手いことやってくれている。スキルは本来、訓練しなければ得られない。だからズルしてる感が強いけれど、今さらって感じもするしなあ。


「こちらの方の手枷を外してください。おそらく大丈夫です」


 しれっとした顔でルイーズが言う。やはり、ここにいる勇者たちは操られていたって事か。

 あ、奴隷化した流刑島の住人も、このスキルで解除したんだろうな。


「分かりました」


 俺は勇者山田(やまだ)奈津子(なつこ)の手枷を外す。岡田は魔導バッグから短槍を取りだして、いつでも攻撃できるように構えていた。


「……んっ」


 目を覚ました山田が、ルイーズ、岡田と順番に確認し、俺を見たところで怯え始めた。俺が念動力(サイコキネシス)で脅したからだ。


 山田は床に座ったまま、俺から目を離さない。


「ヨシミ先生のスキルが解かれても、記憶は残ってるみたいだな」


「ひっ!?」


 確認を取ると、山田は座ったまま後ずさりを始めた。この様子から、記憶が残っているのも確定だ。


 岡田が俺を見て頷く。


「山田たちは俺に任せてくれ」


 そう言った岡田に、ルイーズが続く。


「それでは、わたくしが触った勇者たちの手枷を外していきますね」


 ルイーズがスキル〝能封殺(アンチスキル)〟を使い、ヨシミのスキル〝絶対服従(ドミネーション)〟を解除していく。ついでとばかりに手枷を外すと、勇者たちの時間が動き始めた。


 勇者たちが「ここは何処だ」とざわつき始めると、岡田が冷たく言い放った。


「ヨシミ先生は、俺たちが拘束している。彼女は何かのスキルを使って、お前たちを操っていたみたいだ。気分はどうだ?」


 おー、岡田の野郎、いけしゃあしゃあと言いやがった。彼はスキル〝魅了(カリスマ)〟で似たようなことをしていたというのに。



「失礼します」


 執事がノックして地下室に入ってきた。その後ろにはアキラとリーナ、それに双子の姉妹と虎獣人のスザクがいた。


 アキラは罪人として流刑島に送られたが、新国王フェイルの恩赦で釈放された。


 リーナはオーステル公国で罪を犯したが、ライルの交渉で無罪になった。彼は外交ルートを使って、オーステル公国と話し合うと言っていたからな。


 つまり、アキラとリーナは、無罪放免。流刑島から出ても脱走にならないってことだ。

 俺は思わず声をかけた。


「よかったですね」


「お、おう」


「……ありがとね」


 アキラははにかみながら俺と握手をし、リーナは微妙な顔で頷いた。リーナに関しては複雑な事情がありそうなので、そっとしておこう。


 そんなことを考えていると、岡田から声がかかる。


「やっと戻ってきたか。こいつらを王城に護送するから、手伝ってくれない?」


「お安い御用だ」


 アキラはそう言って頷いた。岡田はアキラの背後にいる双子とスザクから、めちゃくちゃ睨まれているけど、気にも留めていない。


 岡田はリョウタと共に、アキラを追い詰めた人物だ。

 彼らのせいで、アキラの愛する妻であり双子の母親であるマリエルは、この世を去ってしまった。アキラは悲しみを乗り越えて前に進もうとしているが、双子の姉妹とスザクは、まだ心に深い傷を抱えているのだろう。


 そんなギスギスした空気の中、岡田は勇者たちに向き直る。


「ヨシミ先生が王都ハイラムにバンパイアの群れを放った理由を探るために、山田たち勇者から話を聞く必要がある。もちろんここではなく、王城へ場所を移してからだ」


「はい、皆様。とりあえず上に行きましょうか」


 ルイーズの声で、地下室の全員が移動を始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 アキラたちを見送り、俺は屋敷に残った。ルイーズと話を詰めなければならない。俺は食堂で彼女と二人っきりになった。


「そろそろ教えてもらってもいいですか? ミッシーさんたちはどちらへ行かれたのでしょうか?」


「ルーベス帝国へ向かいました」


 ルイーズの言葉に返事すると、彼女はキョトンとした顔になった。知ってるくせに白々しいなあ……。


 ルイーズがフェイルの参謀になったことで、ヴィスコンティ伯爵家の亡命するという話は立ち消えとなった。

 彼女の旦那さんである、グウィリム・アン・ヴィスコンティ伯爵が、妻を置いて亡命など出来ないと言い始めたのだ。


 フェイル・レックス・デレノア新国王は、そこまで見越して彼女を参謀にしたのだろう。ヴィスコンティ伯爵の後ろ盾を得て、彼の国王としての地盤を固めるためにも。


「……今回は本当に助かりました。エルフのルンドストロム王国にも連絡がついて、亡命するための段取りも白紙に戻してもらいました。ちなみに、ソータさん……」


「はい?」


 話すのを途中で止めて、ルイーズが俺を見つめる。


「わたくしは転生者なんです。生前は日本で暮らしていたのですが、今はこの通り。デレノア王国で成り上がりましたわ」


「……はあ?」


 突然のカミングアウトで、俺は面食らってしまった。

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