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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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170 ヴィスコンティ伯爵邸襲撃

『ソータ、目を離さないでください』


 侵入者たちとスチールゴーレムの激闘が始まると、クロノス(汎用人工知能)の声が聞こえてきた。


『どうした?』


『いえ、データを収集したいので』


『ほーん……?』


 クロノス(汎用人工知能)がそう言うなら、観察しておこう。俺が地面に降り立つと、ミッシーが隣に立つ。力を抜いた自然体で、何が起きても瞬時に対応できるようにしている。


 ルイーズ以下、ヴィスコンティ伯爵邸の皆さんは、屋敷の中に避難していく。


 時を経ずして、庭にいるものは、侵入者たちとスチールゴーレム、俺とミッシーだけとなった。


「ルイーズさん、何も言わずに避難しちゃったけど、あいつらが何なのか知ってる風だったな」


 ミッシーは侵入者たちとスチールゴーレムの戦いから目を離さず、俺に話しかける。


「んー、あいつらたぶん勇者じゃないかな? 顔をよく見てみ」


 男女ともに日本人顔で、アキラと変わらないくらいの年齢だ。髪の毛を染めている者も居るけれど、日本人の顔つきは一目で分かるからなあ。


「そう言われるとそうだな……。そうなるとソータ、お前の同胞じゃないのか?」


「そうかもね。でもさ、三十年前に召喚された日本人なら、もうこの国の勇者だと言ってもいいんじゃないかな」


「敵対することも辞さず、ということか?」


「そういうこと」


 十人の勇者と十体のスチールゴーレムが火花を散らす。双方の動きは疾風のごとく、一瞬たりとも目が離せない。魔法とスキル、力と力、これらが激しくぶつかり合う合間に、クロノス(汎用人工知能)が全力で解析しているのだ。


 飛び交う魔法の欠片は、俺が全て障壁ではじいている。屋敷に直撃すれば、死傷者が出る惨劇となる。一瞬たりとも気が抜けない。


「あ……」


 ミッシーが驚きの声を漏らす。


 スチールゴーレムの一体が破壊された。ステンレス製の小さな鉄球が庭の芝生に散乱する。一瞬だけ見えた大きな魔石は、すぐに消え去った。そうなるように仕込んでいるからね。


「均衡が崩れたな。そろそろ動くか?」


「ミッシー、くれぐれも殺すなよ?」


「ははっ、私はお前とは違う」


 あ、ジト目になった。ミッシーたちに力を見せるなと散々言われているのに、ちっとも守らないのは俺の方だ。その俺が殺すなと言っても説得力がないのだろう。


 勇者たちの装備は、魔物の牙や爪に対抗するために、すごく硬そうな金属で作られている。鎧は月明かりで鈍く輝き、敵に恐怖を植え付ける。盾はどんな攻撃も跳ね返すほど堅牢だ。靴は素早く動く能力を与えているようだ。


 なによりも彼らの剣こそが最も恐ろしい。

 その刃は月光で密やかに瞬き、その柄は罪の色に染まっている。剣を握った勇者たちは理性を奪われ、まるで獣のように荒ぶっている。魔剣とかそういった類いのものかもしれない。


 アキラとリーナもヤバい装備をしていたけれど、こいつらの武器も相当ヤバいな。


「ソータ、半分任せる」


 ミッシーは五人の勇者を相手にするみたいだ。大丈夫かなと思ってチラリと見ると、祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを構えている。


 ……それで射ったら、いくら勇者でも死んじゃうんじゃないの?


「んじゃ残り半分を拘束(こうそく)するね」


 殺すなよと言う意思を込めて言ってみた。


 一体のスチールゴーレムを倒した勇者たちは、獣のように咆哮する。


 そして勇者たちは、獣が小動物を捕食するかのごとく、全てのスチールゴーレムを蹂躙した。


 バラバラに散らばった小さなステンレス玉。これを有効活用しよう。


 念動力(サイコキネシス)を使って、ステンレス玉を操っていく。


 それに気付いた勇者たちは、構わず俺たちに向かって飛んでくる(とびかかってくる)


 浮遊魔法くらい使えるか。勇者だもんな。


 だけど、もう手遅れだ。


 ステンレス玉は勇者たちの背後で蛇のように素早く動く。


 そして、こちらに飛んでくる彼らを丸呑みにしていき、五名の勇者を見事に捕縛した。


 念動力(サイコキネシス)だけで拘束すると、ルイーズに何か言われそうなので、こういう回りくどいやり方になってしまった。


 ――――ズドン


 地面が震えるほどの爆音と共に、残り五名の勇者が一斉に吹き飛ぶ。


 ミッシーが放った一本の矢は五本に分れ、その上で勇者に突き刺さることなく、直前で衝撃波を起こした。


 その衝撃で勇者たちは意識を飛ばし、放り投げられたぬいぐるみのように地面に転がる。


「……ふふん」


 俺を見るミッシーが、得意げにしている。


「すごいな……」


 素直にそう感じた。なぜならこの勇者たちは、これまで戦ってきたどの相手よりも強かった。しかし彼女は、彼らを難なく生きたまま倒すという離れ業をやってのけたのだ。


『興味深い結果が得られました』


『というと?』


『異世界の神が、彼ら勇者に加護(かご)を与えています。そのため大召喚術でこの世界に来たとき、様々な特殊能力が付与されています』


 クロノス(汎用人工知能)は、その情報をどうやって知り得たのだろうか。俺と一体化したとはいえ、クロノスに関しては分からないことだらけだ。


 こう考えていることは、クロノスに筒抜けになっているはずだ。だけどお構いなしに勇者の解析情報を伝えてくる。


 この世界には俺が思っている以上に神々が存在している。女神アスクレピウス、竜神オルズ、魔法陣のクロウリー、これまで三柱に会った。カリストはどうなんだろう? 自ら女神と名乗っていたけど、アスクレピウスの話だと精霊だという話もあったし、昇格して神に到ったとも聞いた。


 会ったことはないけれど他にも神殺し(ゴッズイーター)を打った鍛冶の神ヘファイス、冥界の神ディース・パテルがいる。


 勇者に特殊能力を与えたのは、女神ルサルカ。ハマン大陸で信仰を集めているアンジェルス教の女神だ。


『残念ながら、新しい魔法やスキルは見当たりませんでした。全てソータが持つ力の下位互換です』


『いやいや、そんなに残念がらなくても平気』


 属性魔法でブラックホールが出来るとか、宇宙がヤバいとか、そんなのばっかりだし。勇者に力を与えた女神様の名前が分かっただけでも御の字だ。


「ソータ……?」


「むおっ!?」


 目の前にミッシーの顔があって驚いた。鼻先がくっ付きそうなくらい近い。


「お前、たまにゴーレムみたいになる時があるな。いま考え事してる暇はないぞ?」


「ああっと、ごめんごめん。さてと、勇者たちはどうやって拘束しようかな」


 クロノス(汎用人工知能)と喋って、考え込んでしまっていた。しかし、ゴーレムとは酷い言われようだ。そう見えたのなら仕方ないけれど、これからは注意しなければ。


「ファーギから魔封陣付きの手枷(てかせ)を借りているが……、人数が多いな。一応これは、勇者クラスでも魔法が使えなくなる代物だ」


 ミッシーが魔導バッグから革製の手錠っぽいものを五個取り出す。テッドが宮崎(みやざき)健太郎(けんたろう)を拘束していたものと同じだ。


「うーん……?」


「どうした?」


「ミッシーそれさ、勇者がスキルを使ったら意味がないよね?」


 宮崎(みやざき)健太郎(けんたろう)手枷(てかせ)をはめられて、修道騎士団クインテットが万全の警備をしていたはず。勇者であろうと、魔法だけ封じれば、あとは対処できるという事なのだ。


 しかし、ここには十人も勇者がいる。なにより警備するのに人手が足りない。


「そうだが……、仕方がないだろ? 勇者相手を簡単に拘束できるものなんて、そうそうあるはずがないからな」


「……何とか出来るかも? とりあえず、それ貸してみ」


「……ん」


 少し不審な顔をしながらも、ミッシーは俺に手枷を渡す。それを細かいところまで観察し、どんな魔法陣が使われているのか調べていく。


『これ魔封陣だよね?』


『そうですね』


 目立たないように小さく魔法陣が描かれている。これはサラ姫殿下の指輪に刻まれていた魔封陣と同じだ。これだと、ここの勇者たちは簡単に破ってしまうかもしれない。うーむ……。あのときたしか、絶対封魔陣ってのが使えるようになっているけれど、魔法だけ封じても心許ない。


「これ使おうか」


「なっ!? 何だそれは?」


「鉄製の手枷だよ」


 俺の手のひらに、手品のようにパッと現われたものに、ミッシーが驚く。


 これは土魔法で創り出した鉄の輪っかだ。もちろん悪用防止のために、魔法陣は見えないようにしている。だいぶん前に覚えた魔法陣だけど、こんな場面で出番があるとは。


「いつの間にそんなものを……?」


「うん、いま作った。土魔法の応用と魔法陣の組み合わせだ。これをはめると、対象者の時間が止まるから、取り扱いには注意してね」


「あ、ああ。相変わらず出鱈目で呆れるな……」


 呆気に取られているミッシーに、鉄の輪っかを五つ渡す。彼女は俺をチラ見しながら、気を失っている勇者に手枷をはめに行った。


 俺は自分の担当勇者を念動力(サイコキネシス)で締め上げて鉄球を解除する。身動きの取れない状態にしたところで、一応確認しておこう。


「魔法やスキルを使ったら殺す。俺の質問に答えなかったら殺す。俺が不審に感じたら殺す。理解できたらハイと返事しろ」


 強めに締め上げているので、肺に空気を吸い込めない状態だ。彼らの顔には恐怖が滲み出し、俺を化け物のように睨みつける。


 念動力(サイコキネシス)を少し緩めると、五人全員が勢いよく頷いた。


「この中にリーダー的なやつは居るか?」


「……はい、あたしです」


「名前は?」


山田(やまだ)奈津子(なつこ)です」


「ダンジョンで霧になって逃げたやつのひとりか?」


「はい、そうです」


 アキラみたいに骨のあるやつだと思っていたけれど、ちょっと脅しただけでペラペラ喋り出す。勇者だから心まで強いというわけでも無さそうだ。

 あと、殺す気は一ミリもない。こいつらが死んでしまったら、デレノア王国が立ち行かなくなる。


「うぐっぅぅ!?」


 魔力が動いたので、名も知らぬ勇者のひとりを握りしめる(・・・・・)。骨の折れる音が何度か聞こえてきた。殺さないけれど、何かしようとすればその限りではない。


「不審に感じたら殺すと言っただろ? 次は警告無しで握り潰すからな」


 通常、念動力(サイコキネシス)は目に見えないものだが、骨が折れて吐血する勇者の周囲に、彼自身を掴んでいる赤く染まった巨大な手の形が浮かび上がる。その光景を目の当たりにした勇者たちは、心まで折れてしまったようだ。


 そんな中、山田(やまだ)奈津子(なつこ)だけが舌打ちする。


 ……なるほどね。従う振りをして隙を窺っていたってところか。だけど今度こそ本当に観念したようで、情報を聞き出すことに成功した。真偽の程は分からないけれど。


 彼らが吐く情報に、アキラから聞いていた名前が出てきた。山田は、磯江(いそえ)良美(よしみ)が首謀者だという。ここに来た十名の勇者たちは、ヨシミ先生(・・・・・)の指示に従って、俺を探していた(・・・・・・・)そうだ。


 王都ハイラムの空には、警戒網を張るドローンが飛んでいる事も分かった。勇者たちは、俺がヴィスコンティ伯爵邸に居ることを知っていたのだ。


 ドローンねぇ……。まったく気付かなかった。


 そのヨシミ先生のことを聞いてみると、彼女はいつの間にかバンパイア化しており、何故そうなったのか分からないらしい。


 おそらくリリス・アップルビーの仕業だろう。


 勇者たちすら知らない情報――リリス・アップルビーの事を、ルイーズがどうやって知り得たのかは不明だ。しかし、彼女のことを考え出すとキリが無い事も確かだ。


 山田の話を聞き終えて、骨を折った勇者を回復させ、彼ら五人に手枷をはめていく。ミッシーが倒した勇者たちもろとも屋敷の中に運び込み、ルイーズの案内で地下室に転がしておく。


 ルイーズはぴくりとも動かない勇者たちを見て、俺に質問攻めを浴びせた。だけど、彼女に時間停止魔法陣があることを話す気はない。ああでもないこうでもないと、のらりくらりを繰り返し、何とかルイーズを諦めさせることに成功した。


 俺が腹芸を上手くやるのは無理っぽい。めちゃくちゃ疑われたまま話が終わった。


 俺はその他もろもろを済ませ、ミッシーと一緒に庭へ出た。


「ファーギたち遅いな」


「近場の者たちは全て救出済みだからな。いまは遠くまで足を伸ばしているのだろう。じきに戻るはずだ」


 俺の言葉に、心配ないと言ってくるミッシー。だけど彼女の表情は、心配で仕方ないという表情を浮かべている。


 ファーギたちドワーフの六人と修道騎士団の二人は、二手に分かれている。共にルイーズ家の警備の者たちが道案内をしている。


 うーん。俺も心配になってきたぞ……。


 王都ハイラムのバンパイアはある程度一掃できたはずだが、夜が明けるまでまだ時間がある。闇に逃れた生き残りのバンパイアがいれば、と考えると不安は尽きない。


「おーい、ソータ! 無事だったみたいだな!! 心配してたんだぞー!!」


 瓦礫になった屋敷の門から、ファーギの声が聞こえてきた。俺のパーティー面子は全員無事で、警備の人たちも無事だった。なによりも、彼らは百人近い人々を連れてきている。


「お前のほうが心配されていたみたいだな」


 ニカッと笑顔を見せるミッシー。そう言う君もファーギたちを心配してたんじゃないの? とは言わない。そんなもん余計なひと言だ。


「そうみたい。でもみんな無事でよかったよ」


 屋敷の中から警備の人たちが出てきて、避難してきた人々を手厚く出迎えている。警備の者たちの家族も居るみたいで、無事を祝福しながら喜んでいた。


「さて、俺は行ってくるよ」


 浮遊魔法で浮かび上がった俺の手を取り、ミッシーがじっと見つめる。月に煌めく緑眼は、俺を引き止めているように感じられた。


「屋敷の方は任せろ。無事に帰ってこいよ……」


「ああ、もちろん」


 ミッシーの手を離すとき、名残惜しさがこみ上げる。彼女は俺を見つめたままだ。だから俺は強引に空へ視線を移した。

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