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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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169 内部分裂

 岡田(おかだ)(いさむ)の後ろを追いながら、アキラとリーナはエルミナス城の長い通路を進んだ。二人の濡れた肌から落ちる水滴を、柔らかな赤い絨毯が静かに吸い取っていた。


 通路の両側に飾られた花は、暗い影に沈んで枯れていた。窓からは、激しく降り注ぐ雨が見えている。轟音と共に稲妻が走る。突風で庭園の木々の枝が折れて飛ばされる。


 なによりここは人気(ひとけ)がなく、薄ら寒い空気で満たされている。城の内部は、暗く、寂しく、不気味な場所だった。


「ここだよ」


 岡田がドアを開けると、そこにはかつてクラスメイトだった懐かしい面々が揃っていた。その数は約十名。


 アキラとリーナ、二人とも動作がゆっくりなのは、岡田のスキル〝魅了(カリスマ)〟のせいだろうか。十名ほど在席する勇者たちには目もくれず、二人とも部屋の中を見渡した。


 そこは五十人入っても大丈夫なほどの広さがあった。壁には花や動物、星などの細かい装飾が施されており、美しく見とれてしまうほどだ。

 窓枠は金色に輝き、光を反射してキラキラと煌めいている。


 高い天井から下がるシャンデリアのガラスの玉は、透明な雨粒のようだ。そこから柔らかな光が広がり、外の暴雨風と部屋の中はまるで違っていた。


「よーし、みんな席についてくれ」


 岡田がパンパンと手を叩くと、アキラを含めた全員がノロノロと動き始めた。

 部屋の中央には、大きなテーブルが置かれている。それには白い布がかかり、上には花瓶に飾られた花やキャンドルが置かれている。


 部屋の内装は、王城たる豪華なもので絢爛だ。しかしながら、岡田以外の表情は簡素で、ブリキのロボットのようであった。


 そんな異様な雰囲気に慣れているのか、構わず岡田が話し始める。


「とりあえずコマ(勇者)が揃った。かねてより計画していた作戦を実行に移すからな? んでさ、アキラとリーナ、二人は初めてだから、作戦の概要を説明しておくよ」


 彼はそう言って説明を始めた。


 岡田(おかだ)(いさむ)磯江(いそえ)良美(よしみ)は長年協力して、デレノア王国を大きく肥大化させた。


 しかしここ最近、ヨシミの様子がおかしいことに気付いた岡田は、密かに調査を開始する。その結果分かったのは、ヨシミがバンパイア化しているという事実だった。


 危機感を覚えた岡田が、懇意にしている情報屋(ルイーズ)に確認を取ると、王族が全てバンパイア化していると発覚する。


 ここ十日間ほどの間に、とてつもないことが起きていると知った岡田は、かねてより仲のいい(スキルカリスマ)勇者たち(を使っている)を集めたのだ。


「そういう訳で残念だけど、ヨシミ先生には退場していただこうと思っているんだ。このタイミングで? と疑問に思うかもしれないけど、戦力的に勝てる状況になったからね。……入ってくれ」


 岡田の声で、部屋のドアが開く。バンパイア化を免れた王城の兵士に案内され、三浦たち五人の勇者が入ってきた。意識ははっきりしているようだ。テキパキと動き、席につく五人。その様子から、岡田の話に納得している雰囲気を醸し出している。


「これで全員そろったな。俺たちが十一人。アキラとリーナ、三浦たちを合わせると十八人になる。ヨシミ先生の手勢は、彼女を含めて十三人だから、敵わない相手ではない」


「岡田……? あんた正気なの? さっきの光魔法で、街のバンパイアは一掃されてるわ。言いたいことは分かるけど、街の状況を見て? ヨシミ先生が生き残っているのかすら分からないのよ?」


 岡田に異を唱える三浦。彼女たち五人の勇者は、岡田のスキル〝魅了(カリスマ)〟に対抗できる。岡田の話に納得はしても、言いなりになることはないのだ。


「三浦、お前たち五人が俺たちと敵対していることは承知している。だけどさ、いまはそんな事言ってる場合じゃないって分かってるよね? 今が好機なんだ。夜が明ける前に動かないと、生き残った奴らは闇に潜んで居場所が分からなくなる。ヨシミ先生が滅んだかどうか、確認はできてないからね」


 岡田と三浦は、互いにヨシミを討つ方向で話をしているが、その作戦の詳細でぶつかっている。話は平行線のまま時間が過ぎ、突然雨音がやんだ。


 しんと静まり返る中、アキラが口を開いた。


「岡田、……カルヴァン・タウンゼント・デレノアはどうなった?」


 先ほどまでとは打って変わり、アキラの瞳には強い意思が込められている。隣に座るリーナも同じく、操り人形ではなくなっていた。

 それを見た岡田はたじろぐ。彼のスキル〝魅了(カリスマ)〟が効いていないことが明らかだ。


「わ、分からない。城内を捜索して、バンパイアどもを狩ったけど、国王の姿はなかった」


 アキラとリーナは、万が一にでもバンパイア化しないために、ヒュギエイアの水を事前に飲んでいる。

 それが奏功したのだろう。神威結晶が生み出す聖なる水は、スキル〝魅了(カリスマ)〟の効果さえ無効化していた。


 アキラとリーナは状況を探るために一芝居打っていたのだ。


「そうか……」


「な、なんだ! 何か言いたいことがあるんなら言えよ! お、俺はあの時、俺たち勇者の立場を守ることで必死だったんだっ!!」


 ゆらりと立ち上がったアキラに気圧され、岡田は慌てて飛び退く。


「あの時……? ああ、それならもう一区切りついた。その件でお前をどうこうするつもりはない。俺は国王を討ちに来ただけだ。そのためにヨシミ先生が障害になるのなら、岡田……、お前に喜んで協力するよ」


 その言葉を聞いてホッとする岡田。しかし、続く言葉で主導権がアキラに移る。


「まず、お前のスキルを解除しろ。こいつらの動きを見て、他の勇者と戦えるとは思えない。まるで令和時代のロボットだ。まさか使い捨てにする気じゃねえよな?」


「くっ……」


 使い捨てにする気だったのだろう。岡田は苦い顔でスキル〝魅了(カリスマ)〟を解除した。


 すると、これまでぼんやりしていた勇者たち十人が目覚める。


 ざわめく室内。そこには、それぞれの声が飛び交う。アキラに対しての謝罪、今の状況を打破するための方策、デレノア王国の今後の見通しなどだ。


 岡田のスキルに支配されていても、その間の記憶が消失したわけではないらしい、とアキラは感じた。彼はリーナに目配せをしながら話し始める。


「俺は流刑島の住人だが、故あって国王を討つことになった。そのためにヨシミ先生が邪魔になるのなら、俺は彼女も討つ。要は岡田が言った目的と変わらない。そこで作戦なんだが――――」


 アキラの話す傍らで、勇者たちにヒュギエイアの水が入った小瓶を渡していくリーナ。もちろん岡田にも。しかも大量にだ。これはファーギからもらったものだ。


 二十年前の件で負い目があるのだろう。アキラの言葉に素直に耳を傾け始める勇者たち。アキラとリーナ、三浦と岡田、彼ら四人を中心に、作戦の詳細が詰められていった。


「岡田、結局ヨシミ先生はどこに居るんだ?」


 アキラが問う。強大な力を持つヨシミを討つための策は練った。しかしそのヨシミ本人の行方が分からないのだ。


「さてね……。ヨシミ先生は王城暮らしだ。だから俺たちは真っ先にこの城を捜索したんだけどな……」


 岡田が応じると、これまで活発に意見を交わしていた皆が黙ってしまった。広い王都には隠れる場所なんていくらでもある。


「しらみつぶしで探すって訳にもいかないわよね? 岡田、あんたの言う、情報屋に聞いてみるといいかも?」


 三浦が口を開いた。たしかにルイーズであれば、ヨシミの隠れ家を知っているかもしれない。そう考えたのだろう。岡田は頷いて口を開く。


「……雨もやんだことだし、いまのうちに情報屋に接触してこよう」


「あんたその情報屋って誰なのよ? 信用できるの?」


 三浦が岡田に詰め寄る。ルイーズ・アン・ヴィスコンティが岡田の情報源だと、この場では岡田しか知らない。


「情報屋の情報を漏らすなんてあり得ないだろ……。信頼関係だけで成り立っているようなものだ。こっちが不義理なことをすれば、あっちは報復してくるに決まってる」


 岡田は勇者のひとりでもある。情報屋ごとき、力ずくで話を押し通すことも可能だろう。しかし、三浦の言葉に反論した岡田の様子は、少しだけ怯えていた。


 そんな岡田をみてアキラが口を開く。


「岡田……? その情報屋って、貴族か?」


「だから! 言うわけないだろ――――っ!?」


 突如、天井のシャンデリアの淡い明かりが消えた。窓から差し込む月の光だけとなり、部屋の中は暗く沈む。この場の者たちは、一瞬で武器を手にして身構えた。


「王城なのに、こんな事起こるのか? 通路も暗かったし」


「いや、魔石の在庫は山ほどある。この部屋は個別に魔石を使ってるから消えるはずがない」


 アキラの問いに答える岡田。もちろん二人とも臨戦態勢である。


「あっ……」


 部屋の奥にいた勇者のひとりが短く悲鳴をあげた。全員がその方向を向くと、声を上げた本人が、しわしわのミイラのようになって、バラバラに崩れ去った。


 それをみた一同は一瞬呆気に取られたが、瞬時に気を引き締める。

 月光を浴びた白い霧がヒトの形になり、妖艶な美女が現われたからだ。


「アキラちゃん。……このバンパイア、あたし知ってるわ」


「うん? どういうこと?」


「あの女は、あたしを流刑島に追いやった張本人、――――リリス・アップルビーよ」


 白いドレスに身を包んだ女が月明かりに浮かび上がった。青い瞳は月の光を映し、金色の髪は月の光を纏って揺れている。


 彼女には邪気のかけらもなく、月の女神のごとく静かに佇んでいる。その美しさに見惚れない者はいないだろう。


 しかし、微笑んだ彼女の顔は、邪悪そのものであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺はバンパイアの灰を吸い込むのが嫌で、大きな水球を上空に放った。けれど加減を誤って土砂降りになってしまった。それで空中を漂う微粒子が洗い流されたので良しとしよう。などと言い訳を考えながら、ヴィスコンティ伯爵邸へ舞い降りる。


「ソータ!!」


 エントランスホールに入ると、ミッシーが駆け寄ってきた。とても心配したと顔に書いてある。ファーギたち俺のパーティーは、この屋敷の警備の人たちと一緒に、ニンゲンの救助活動に出ているようだ。


「ヴィスコンティ伯爵邸は無事みたいだね」


 ミッシーと話していると、ルイーズや執事、それにメイドさんたちが姿を見せた。


「ご苦労様です、ソータさん。先ほどの光魔法や、土砂降りは……、ソータさんの御業(みわざ)ですか?」


「いえ、違います。そんな事より、一旦ゲートを開いておこうと思って。ルンドストロム王国の王都、シルヴァリス近辺に行けますので、万が一を考えて避難された方がいいと思います。大丈夫だよな、ミッシー」


 ルイーズに返事をしつつ、ミッシーにも確認を取る。


「どうだろう……? まだ確認してないし、日程を前倒しにしたと言えば、平気だと思うが……」


 ミッシーからはあまりいい返事がもらえなかった。それもそうだよな……。ヴィスコンティ家は、三十日後を目安に亡命する予定だ。こっちが大変な状況だと話が伝わってなければ、相手方もいい顔をしないはずだ。


「ソータさん、お気遣いありがとうございます。ただ、わたくしが一番最初に逃げるわけにはいきませんわ……」


 ルイーズがそう言って、執事やメイドさんたちを見る。ここに来ているのは、いわゆる表方で、屋敷の裏方も大勢いるはず。彼らの家族を置いて逃げるわけには行かないと言ったところだろう。


 ルイーズに案内されて食堂へ行くと、使用人たちの家族や親戚がたくさんいた。バンパイアが大発生したことで、避難してきたという。

 まだ全員の避難は終わってないらしく、使用人の自宅を中心に、警備の人たちが捜索しているそうだ。


 ファーギたちもついて行っているそうなので、大丈夫だろう。ただ、この屋敷の戦力が心許ない。勇者クラスのバンパイアとまともに戦えそうな人物は、ミッシーと……、ルイーズ、執事、この三人だけだ。


 ミッシーの力はとてつもなく上がっている。武者修行の成果というか、吹っ切れた感じがする。だけど、ルイーズと執事は、その力を隠している。そう考えると、この屋敷を出ていったファーギの判断は正しいのかもしれない。


「どうしたソータ……?」


「いや、ちょっと――心配なんだ」


 ミッシーが心配だと言えなかった。


「そんなにご心配なさらずとも、あれを数体置いていってもらえば、屋敷の守りは完璧になりますわっ!」


 俺がモヤモヤしていると、空気を読まないルイーズの声が響いた。あっけらかんとした口調で、あれ(・・)という。


「何のことでしょう?」


「お戯れをっ! ドラゴン大陸での件は聞いておりますわ! スチールゴーレムが飛び回って街づくりをしているとか」


 ……こいつ、どこまで知っている。松本総理のことや、アキラの娘たち、それにドラゴン大陸の出来事まで知っているとは。

 ルイーズに何らかの特殊能力があるのは間違いないけど、彼女はそれを明かす気は無さそうだ。


「はぁ……、分かりました。庭に何体か置いていきますので」


「ありがとうございます! ささ、こちらへどうぞ」


 ルイーズはそう言って、俺を庭へ連れて行く。ミッシーや屋敷の人たちもついてきた。


 ……ルイーズって、ほんと白々しいなあ。

 俺も腹芸の一つでも覚えておかないと、今後こういった手合いに対処できなくなるかもしれない。


 皇帝エグバート・バン・スミス、サンルカル王国第二王子のテッド・サンルカル、この二人にもしてやられてるからな〜。


 ルイーズもそうだ。敵じゃないからいいものの、逆だったらと考えると色々困りそうだ。


 俺は庭に出て、大きな魔石(・・)入りのスチールゴーレムを十体創り出した。もう慣れたものだ。雨上がりの夜、月明かりをはねかえす小さなステンレス玉の塊。神威結晶を使わなかったのは、自重しただけだ。


 それを見たルイーズたち屋敷の人たちは、息を呑んで驚いている。ミッシーは頭を抱えていた。仕方ないだろ、……ルイーズは知ってたんだからさ。


「とりあえず、バンパイアや敵対勢力が庭に入ってきたら排除するように指示を出してます。彼らは喋れませんが(・・・・・・)、こちらの言う事は聞こえています。屋敷の関係者を優先して人命救助に動きますので、ルイーズさんに任せますよ」


 もう夫人とか言うのは止めにしよう。おちょくられてる気がするし。


「ソータ……。程々にしておかないと」


「あー、うん。分かってる」


 ミッシーのジト目にも慣れてきた。


「ほんじゃ、俺は依頼達成の任に戻ります。ミッシー、気を付けてな」


 浮遊魔法で浮かび上がったときだ。屋敷の正門が爆発して木っ端微塵になったのは。


「ルイーズ・アン・ヴィスコンティ!! あなたを逮捕します!!」


 こいつら誰よ……? 破壊した門から入ってきた人物は、十人もいる。みな同じ装備で、えらく神々しい。


「あらーっ! 丁度よかったわ! スチールゴーレム、やっておしまい!」


 ()る気満々のルイーズが指示を出すと、十のスチールゴーレムがかき消えるように動いた。

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