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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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167 王都ハイラム脱出

 あ、こりゃ無理だ。


 俺たちは地下室から宿屋の一階に出て、外の様子に絶句した。


 無数のバンパイアが街中に散らばり、次々と住人を襲っている。彼らは逃げまどうニンゲンの群れに紛れ込み、影のように動く。またたく間に首に食らいついて、血をすすっている。その濃い血の香りを嗅ぎつけ、新たなバンパイアが現れ、その数はみるみるうちに増えていった。


 バンパイアたちは、俺たちに気付いていない。


「……」


 フェイルとアリシアは、その様子を見て無言だ。恐怖で顔をしかめているが。


 勇者連中も、どうしようかと迷っている様子。

 そんな中、アキラが声をかけた。


「リーナ、何か策は……?」


「う~ん。詰んでる気がするね……。入り口の防御魔法陣は誰が描いたの?」


「あ、描いたのはあたしです」


 三浦が名乗り出た。この宿屋もおそらく三浦が経営する宿屋だ。ミウラ亭って看板もあるし。


 ――ドン


「ひゃっ!?」


 三浦が短い悲鳴をあげた。

 バンパイアが俺たちに気付き、入り口のドアを叩いた。やつらは中に入れないと分かると、怒り狂いながらドアを叩き始める。


 彼らは王都ハイラムの住人たちだ。バンパイア化しているが、何だか様子がおかしい。


 聞いてみよう。


「いま障壁を張ったんで、バンパイアはもう入って来れないです。でね、ちょっと聞きたいんですが、あれってバンパイアです? ゾンビっぽくないですか?」


 バンパイアとは、闇に潜む不死の存在である。彼らは人間の血を吸って生きるが、それはただの食事ではなく、仲間を増やす手段でもある。

 彼らは太陽の光に弱く、銀やニンニクで撃退が可能。しかしそれでも、彼らは闇の王者として君臨する。


 そんなイメージなんだけど、目の前のやつらは生きる屍のように知性がない。


「ゾンビだなんて、久し振りに聞いたわね……」


「あれはもう、代を重ねて劣化してしまった落伍者(アウトキャスト)と呼ばれるバンパイアだ」


「ソータくん、こっちに来てまだ日が浅いでしょ? ああいったバンパイアは、親から子、子から孫、孫から、といった風に増えていく段階で、その能力や知性が欠落していくのよ。だから代を重ねると、ゾンビみたいになっちゃうの」


 山下(やました)(あずさ)(もり)大樹(だいき)原田(はらだ)久美子(くみこ)と、次々に俺の言葉を拾っていく。


 劣化バンパイア落伍者(アウトキャスト)ね。そんな奴らに噛まれて、すぐにバンパイア化するなんて、悲惨すぎるな。


 ――ドンドンドン


 血に飢えた劣化バンパイアたちが集まってきて、障壁を力任せに叩き始めた。


 ふーむ……?


 アキラとリーナが、俺をチラチラと見ている。


 なるほどね。ミッシーたちには止められているけど、こんな状況だ。俺の力を隠すとか言っている場合じゃねえな。


 まずはフェイルとアリシアを安全な場所に移動させよう。


「みなさん、一旦このゲートに入ってください」


「おおっ! ソータ、貴様ゲート魔法が使えるのか! 見事だ!!」


 フェイルはどこに繋がっているのか確認もせず、ゲートをくぐった。彼を護衛する気でいた勇者たちが止める間もなく。それでなのか、三浦たち五人の勇者も、迷わずゲートをくぐっていった。


「アキラさん、リーナさん、行きますよ」


 二人ともゲートの向こうにある光景を見て、進むべきか迷っていた。だから、少し強引だとは思いながらも、彼らの背中を押してゲートをくぐった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 はい。予想通り俺たちは剣を向けられ、武装解除させられていた。


 俺がゲートを繋げた場所は、イーデン教総本山、アスクラ大聖堂(カテドラル)の中だ。


 この大聖堂は、数々の芸術家たちによって飾られている。身廊の壁には、アスクレピウスの奇跡や教義を描いた壁画があり、天井には彼女の象徴である杖と蛇が彫り込まれた金色のモザイクが輝いている。祭壇には、彼女の像が祀られており、その周りには白い花が飾られていた。


 そんな聖域にゲートが開いて、中からゾロゾロと人が出てくれば、騒動になることは必然である。


 剣を向けられたフェイルが「無礼な」と言ったところで、慌てて三浦がなだめている。他の勇者たちは、アスクレピウスの神聖なる気配に触れ、安らかな表情になっていた。


 だが、俺たちは依然として不審者の集団である。修道騎士団は隙を見せずに、剣を抜いたままで俺たちを睨んでいた。


「あーっと、お騒がせしてすいません。冒険者のソータが来ていると、ライル王子殿下にお伝え願えますか?」


 俺が名乗り出ると、修道騎士団のひとりが反応した。


「あれ? ソータさん? 流刑島に行ってたんじゃ?」


「あ、お久しぶりです。取り次いでもらえますか?」


 名前は知らないけれど、この前ここで指名依頼を受けたときに見かけた女性だ。彼女は「了解しました」と敬礼して走り去った。


 事態が大騒ぎへと至らずに済んでホッとした。しかし、残りの修道騎士団は依然として剣を収めることを拒んでいる。彼らにとって、俺たちは見知らぬ者だし、剣を向け続けるのは妥当な判断だ。


 ただ、フェイルやアリシアは、デレノア王国の王族だ。修道騎士団が知らなかったとしても、彼らが他国の王族に剣を突きつけたと世間に知れ渡ることは避けた方がいいだろう。


「ええっと。指名依頼は完了しました。テッド(・・・)は、まだ流刑島にいますよ。それより、この場にいる修道騎士団の皆さんにお願いしたい。こちらのお二人は、デレノア王国の王族です。どうか剣を下げてください」


 見知らぬ俺の言葉でも、第二王子のテッドを呼び捨てにし、デレノア王国の王族という言葉は、修道騎士団をひるませるに値する力を持っていた。


 彼らは金属音を立て、剣を鞘に戻していく。フェイルとアリシアに対し、すこしだけこうべを垂れる姿は、敵意がないことを示していた。


「ふう……」


 こんなとこでもたついてる場合じゃないんだけど、しょうがない。次期国王となる者を、下手な場所に置いていくわけにも行かないし。


「おい、貴様……。ここはどこだ?」


 一息ついたところで、フェイルが驚きと戸惑いを浮かべながら話しかけてきた。確かにその驚きも無理はない。なぜなら、デレノア王国ではアンジェルス教が国教とされている。ここはイーデン教の聖堂で、建築様式が異なっているのだろう。神威も感じ取っているかもしれない。


 フェイルやアリシアにとって、異国に足を踏み入れていることを示す物があちこちから目に入っているはず。特に、ステンドグラスから差し込む朝日は、ハマン大陸とは遠く離れた場所であることを明示していた。あっちは夜中だったからな。


「ここは、サンルカル王国の王都パラメダで、イーデン教のアスクラ大聖堂(カテドラル)です。王子殿下の命を守ることを最優先に考えた結果、安全な場所にゲートを繋げました」


「……」


 フェイルは目を見開いて、俺の顔を凝視する。そのまま動きが止まってしまった彼に代わり、アリシアが尋ねてきた。


「ソータ殿……? わたくしたちが通り抜けたゲートは、サンルカル王国へ繋がっていたというわけですね?」


「さようでございます」


 アリシアは「信じられない」という顔で周囲を見回す。彼女だけではなく、アキラやリーナ、五人の勇者たちも同様に驚きを隠せないでいる。

 ゲート魔法は、個々の熟練度や魔力の量、魔力の使用効率などで、移動できる距離が変わる。そもそも非常に難しいので、ゲート魔法を使える者は少ない。


 ミッシーや、ファーギ、それに、地球へのゲートを開ける密蜂(みつばち)のモルト・ローを見てきているので、俺の感覚がズレていたのかもしれない。

 俺が使ったゲート魔法は、勇者たちにとって信じられないほどのものだったのだ。


 何でこんな遠くまでゲートを繋げられるんだ?


 こう聞かれることが強く予想され、どう言い訳しようかと迷う。


 そうこうしていると、聖堂の袖廊(しゅうろう)のドアから、ライル・サンルカル第一王子殿下と、彼を呼びにいった修道騎士が駆け込んできた。

 二人とも相当慌てて来たようで、肩で息をしている。



「突然すみません。少し説明させてください――」


 俺の簡単な説明で、ライルは状況を察したようだ。以前会ったときはフランクなヒトだと感じたけれど、その表情は険しい。そして、詳しく話を聞いていくうちにさらに険しい顔へ変化していった。


 俺だけならたぶん咎められなかったと思うけれど、流刑島の住人やデレノア王国の王族と勇者までいる。だが、バンパイアウィルスが猛威を振るう地から逃れてきたと分かると、ライルの顔が少しだけ緩んだ。


「……バンパイアウィルスか。この国はイーデン教の者が多いからね。回復魔法を使える者がほとんどだし、学校で教わる授業で、自衛のための光魔術(・・)を使いこなせるように、子どもの頃から訓練している」


 故に、この国にバンパイアが潜入しても、すぐに滅ぼされてしまうらしい。

 ライルは続ける。


「状況は分かった。僕の方でデレノア殿下( フェイル )ブラックウッド( アリシア )公爵夫人を手厚く保護しよう」


「急な話ですみません……」


 話がスムーズに進んで良かった。ライルはフェイルとアリシアに挨拶して、お互いに情報交換を始めた。初対面のようだが、そつなく話が進んでいく。


 三人とも王侯貴族だ。その話は牽制のし合いで、タヌキとキツネの化かし合いのように感じた。


 デレノア王国の危機的な状況を伝え、支援を訴えるフェイル。


 ブラックウッド公爵家が、フェイルの後ろ楯になる。


 デレノア王国に平和が戻れば、サンルカル王国に大きな富をもたらすことになる。


 そんな(から)手形(てがた)を、笑顔で受け取るライル。


 どうやら場所を移すようだ。


 俺には縁のない世界だと感じつつ三人を見送っていると、ドアを開けたライルが立ち止まった。


「ソータ君、あとは任せるよ。修道騎士団クインテットのみなは、ソータ君の指示に従ってね?」


 そう言い残したライルは、バタンとドアを閉じた。


「……なんのこっちゃ?」


 あとは任せる? 修道騎士団クインテットが俺に従う? 疑問だらけだ。

 そもそも俺はこの国の住人ですらない。


「第一王子が口頭で全権委任したのよ……。あんた面倒な立場になったわね」


 リーナの声で、ハッとする。さっきまで剣を向けていた彼女たちは、その態度を一転させ、既に片ひざをついてこうべを垂れていた。


「つまり、書面がないから、俺が下手を打てば、ライルは知らぬ存ぜぬを突き通す。逆にいい結果であれば、ライルの手柄としてサンルカル王国に宣伝できる。そういうことか……」


「まっ、お前なら大丈夫だろ!」


 アキラから背中を叩かれる。その明るい声とは違い、哀れむ表情で俺を見ていた。


「ははは……。ぁ~、面倒くせぇ。えーっと、修道騎士団クインテットの皆さん、全員この大聖堂から出て、通常業務に戻ってください」


 俺はそう言って、彼女たちにお辞儀した。不満そうな顔しても連れてかないよ。ダメ。絶対。これからデレノア王国で暴れる(・・・)んだから、構ってられなくなるし。

 毅然とした態度を取る俺に、しょげた顔を向けながらぞろぞろと出ていく修道騎士団のみなさん。


 残ったのは、アキラとリーナ、三浦たち勇者の五人となった。


「フェイル殿下とアリシア夫人は大丈夫だと思う?」


 不安げな顔で三浦に訊ねられた。


「うーん……?」


「ちょっと、あんたがここに連れてきたんでしょ?」


 俺が首を傾げると、リーナがツッコミを入れてきた。でも、心配はいらない。ライルとは一度顔を合わせて、少しだけ話しただけの間柄だが、テッドと同じように人となりが良い。透き通った心根で、腹は黒い。そんな印象だ。


 それは完全に俺の主観だが、この場所が担保している。アスクレピウスの神々しい気配に包まれた大聖堂。このような場で、ライルがウソをついて陰謀を張り巡らせていたら、神罰が下るだろう。腹は黒いけど。


 ね、アスクレピウス様。


『都合のいいように解釈するな』


 むおおっ!? アスクレピウスから念話が来た!!


 さすがイーデン教の本拠地、アスクラ大聖堂(カテドラル)だ。


『はい! かしこまりました!』



「ちょっとー、ちゃんと答えてよ。何クネクネしてんの? ねえ、バカじゃん?」


「やかましいわ! んじゃ作戦会議といきますか」


 リーナにツッコミを返しつつ、俺は今後の展望と、王都ハイラムのバンパイア攻略の作戦を話し始めた。

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