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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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165 バンパイア化

 夜の帳が下りた瞬間、俺たちは行動を開始した。アキラとリーナの後に、俺は付いて行く。アキラはまず、勇者の一人である三浦(みうら)たちの隠れ家に向かうそうだ。


 アキラはどうしても、第一王子のフェイル・レックス・デレノアの安否を確認したいという。三浦たちがフェイルを匿っている隠れ家は、ルイーズが教えてくれた。

 彼女はデレノア王国の情報屋だと聞いているが、俺が想像していた以上に情報網が広い。ルイーズってマジで何者なんだろう……。


 夕暮れが訪れても、王都ハイラムの賑わいはまだ衰えていない。魔石ランプの柔らかな光が街灯や信号機を照らし出し、人々は笑顔で行き交っている。彼らの服装はこの世界では一般的なもので、多くの者が学生服に似た服を身に着けており、これは勇者たちの影響に違いない。


 俺たちも街の人々と同じような格好をしているので、特に怪しまれた様子は見受けられなかった。


「……こっちだ」


 街の様子に見とれていると、かすれた声でアキラが俺を呼ぶ。大通りから脇道へ入り、さらに路地裏に入って行く。両側を石造りの建物で挟まれた小路だ。そこを真っ直ぐ進むと、行き止まりになっていた。


 クロノス(汎用人工知能)がサイレントアップデートを行ったおかげで、突き当たりに隠蔽魔法がかかっていることに気付く。まるで霧に包まれたような不透明さだ。それをアキラが解除すると、木製の頑丈そうなドアが現れた。


 アキラがノックすると、ドアの小窓が開く。中からこちらを見る目が二つ現れた。


「……っ!?」


 アキラの顔を確認して、ものすごく驚いたようだ。小窓が閉じられると、すぐにドアが開いた。


 そこに立っていたのは、一昨日会った三浦(みうら)麗奈(れな)だった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 隠蔽魔法で隠されていたのは、宿屋の裏口だった。三浦は急いで俺たちを招き入れ、地下へと案内する。壁には色々と魔法陣が描かれており、外からはここに人がいると気づかれないように工夫されていた。通路は暗くて湿っぽく、息苦しい空気が漂っていた。


 地下に宿屋の客は見当たらない。降りてこないように、何か策を講じているのだろう。


 三浦がドアを開けて、部屋の中へ通す。ここはこれまでと違い、魔石ランプで明るく照らされていた。宿屋で使い古したものがたくさん置かれ、倉庫のような感じがする。奥にもうひとつ扉があり、その中から二人分の気配を感じた。


 部屋の真ん中にはテーブルが置かれていた。俺、アキラ、リーナ、それと三浦で向かい合って座る。


「さて、ここなら話せるわ。あなたたちがここに来たという事は、ルイーズの情報で動いていると認識していいかしら?」


 三浦は挨拶もそこそこに本題へ入る。彼女の視線はアキラへ向いていた。


「そうだ」


「一応ルイーズ夫人から、アキラが来るかもしれないって連絡はあったわ。奥の部屋に二人ともいるから、五体満足なのを確認しなさい。あ、間違ってもドアを開けないで、小窓から覗く程度にしてね……」


「協力的で助かるよ……」


 アキラは立ち上がって、奥のドアの小窓を覗き込む。同時にアキラの背中から驚きの気配が伝わってきた。


「おいおい、こいつら二人とも拘束してるって、どういうことだ……?」


「こいつら……? 不敬な言い方はやめて。中に居るのは、フェイル・レックス・デレノア第一王子殿下と、妹殿下のアリシア・デレノア・ブラックウッド公爵夫人よ。拘束しているのは、彼らがバンパイア化するかもしれないから……」


 俺も小窓から覗いてみると、二人とも縛られてベッドの上に横たわっていた。彼らの顔は青白くて血色が悪く、目がうつろ……いや、寝てるなあれは。二人とも首筋に噛まれた痕が残っており、呼吸が苦しそうにしている。


 その様子は、バンパイアに変化することを拒んでいるようにも見えた。


 前に聞いた話では、フェイル・レックス・デレノアだけ(・・)が、城から逃げ出したと聞いていたが、妹も一緒に逃げ出していたのか。それに、二人ともバンパイアに噛まれている。


『どう思う?』


 クロノス(汎用人工知能)に聞いてみる。


『視診だけでの推測ですが、おそらくウイルスによる空気感染はありません。しかし患者二名は、バンパイアウイルスに感染していると思われます。発症のメカニズムまで特定するなら、ソータが患者に触れてください。私が解析します』


 空気感染の可能性がないと聞いて、胸をなでおろした。


「アキラさん、三浦さん、ドアを開けてもらっていいですか? ちょっと診察するので」


「ダメに決まってるでしょ? バンパイア化したら、人間ではなくなるのよ。それに、あなたは日本人だって聞いたけど、医者の資格はあるの?」


「三浦、こいつに任せてくれないか?」


「あ、えっと……、うんいいわよ」


 三浦は俺に対して冷淡に接していたが、アキラの一言で顔色が変わった。彼女はアキラの言葉で、頬を染めたのだ。この二人には何かあるんだろうけど、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 ゲスい考えを追い払っていると、三浦がドアを開けた。それと共に部屋の中から熱気と臭気が溢れ出してくる。鼻が曲がりそうだ。


 フェイルとアリシアはそれぞれ別のベッドに横たわり、手足を鎖で縛られていた。バンパイア化しても襲えないように、という予防措置だろう。


 俺はフェイルのそばにある椅子に座り、手首に触れる。もちろん俺に触診などできない。ウイルスの情報をクロノスに解析させるためだ。医者らしく振舞わないと、三浦に疑われるかもしれないからな。


『このウイルスは初めて見るタイプです。ウイルスは宿主の上位者、つまり噛んだバンパイアを認識し、完全に服従するようにプログラムされています。ウイルスの自己保存本能としては、不自然すぎる仕組みです。何者かの意図が隠されていると考えられます』


『空気や飛沫や接触感染は?』


『ありません。いえ誤りです。少々お待ちください……。再解析が完了しました。バンパイアの唾液が感染源です。ウイルスの性質上、血を吸った方が上位者となり、下級のバンパイアが生まれます。その際、バンパイア化するしないは、上位者の決定次第となります。倫理観のないバンパイアが生まれると、ネズミ算式に増えていくことになり、パンデミック(爆発的な感染)に繋がる可能性も――』


『あー、その辺で。これってさ、治せる?』


『はい、可能です。上位者に気づかれずに、かつ体内のバンパイアウイルスを滅ぼせば完治します』


『ん? どうすんの?』


『患者に神威を使った光魔法を使ってください。出力の調整はこちらでやりますので』


 出力調整をクロノス(汎用人工知能)に任せる? は? 流刑島の地下にあった森型ダンジョンひとつ潰しておきながら、よくもそんなことを言えたもんだ……。

 それにさ、光魔法なんてバンパイアが滅ぶ定番というかなんというか。


『アップデートしたので大丈夫ですっ!』


 あ、忘れてた。クロノス(汎用人工知能)は、俺の心を読むんだった。


 んじゃま、とりあえず軽く光魔法を使ってみるか……。聖属性魔法とかの方が効果的かも?


 色々と思案しながらも、俺は手首を握りしめたまま光魔法を使う。刃を出すとか、爆発させるとか、そんなイメージは無し。目の前のフェイルが治るように念じる。


 すると、フェイルの手首から光が溢れ出し、やがて全身を包んでいく。


「……おおぉ?」


 そんな微妙な声を上げたのは三浦だ。驚いているのか、疑問に思っているのか分からない。アキラは黙って俺がやることを見ている。


 バンパイアウイルスだけが滅んでいくのが、何となーく伝わってくるな。クロノス(汎用人工知能)のフィードバックだろうけど。


 フェイル・レックス・デレノア。彼の顔はとても魅力的であった。髪は漆黒。身体は細く筋肉質で引き締まっていた。痩せ細っていると言った方がいいか。


 イケメン王子か……。年齢は俺より十くらい上かな。


「ぐうぅぅっ……」


 苦しそうな声を上げ、フェイルが目を覚ました。彼の目に最初に映ったのは俺だ。


「貴様っ!! 何者だ!! レナ(三浦)はどこ……だ……?」


 そうなるよな……。目が覚めて、知らんやつが手を握ってたら、俺だって恐怖だもん。


 しかし、その顔は時の流れに逆らうかのように若々しく、その瞳は深い闇に秘められた光を放ち、気品と力強さを物語っていた。


「王子殿下。私はここに」


 三浦がサッと近寄り、片ひざをつく。


「アリシアはどこだ? ――そこかっ!!」


「お待ちください、王子殿下!!」


 光魔法でウイルスの除去は成功したようだ。しかし、フェイルは寝たきりで、ろくに食事を摂っていなかったのだろう。体力が落ちた状態で、急にベッドから起き上がって体勢を崩した。


 四肢を鎖で拘束されているというのに。


 ベッドから落ちたフェイルは、左手首の骨折と左肩の脱臼という、大怪我を負ってしまった。

 しかし、三浦がすぐに回復魔法と治療魔法を使い、骨折と脱臼は完治。事なきを得た。


 さて、お姫様を起こしますか……。


 アリシアにも光魔法を使って、バンパイアウイルスを滅ぼした。それで彼女も目を覚ましたのだが、思いっきり引っ叩かれてしまった。


 平民が高貴な方の手を握っていたから、というのもあるけど、納得いかん。


 彼女は兄よりずっと若く見えて、その瞳は青くて澄んでいた。髪は茶色くてふわふわで、耳にかけると可愛らしさと知性が際立っていた。


 二人とも三十代だが十代に見える。バンパイアウイルスのせいなのか……?



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 テーブルの部屋に戻った俺は、フェイル・レックス・デレノア第一王子と、アリシア・デレノア・ブラックウッド公爵夫人から頭を下げられていた。

 王侯貴族は、頭を下げないという先入観は簡単に崩れ去る。


「本当に助かった。感謝の言葉も足りないくらいだ。いや、それどころではないな。俺が王を倒したら、そなたに騎士爵の位を授けよう」


 フェイルが突然俺に向かって、妙なことを言い始めた。


「お兄様? 騎士爵なら今すぐにでも受章式(アコレード)ができますわ。でもお兄様……、私たちを助けてくださったのに、騎士爵なんて安いもので済ませず、男爵でも子爵でも授けてあげればいいのに」


 それに乗っかるアリシア。俺がこの国で爵位なんてもったら、デレノア王国に忠誠を誓え、なんて事を言われかねない。


「大変申し訳ありませんが、受章など私にはおこがましいことです。お断りさせていただきます」


 キッパリ断った。貴族やってる場合じゃねえんだよ。


 俺の顔を見て、本気で断っていると察したようだ。フェイルはすぐに引き下がり、これからどうするのか話し始める。


 声の漏れない地下室に六人。初めて会った俺やアキラやリーナにも構わず、フェイルはこれまでの経緯を話し始めた。


 国王のカルヴァン・タウンゼント・デレノアがバンパイア化したことに気付いたとき、フェイルは既に詰んでいたそうだ。城の中の執事やメイド、家臣やその家族、警備する衛兵から近衛兵にいたるまで、全てがバンパイア化していたという。


 先日フェイルが這々の体で城から逃げ出す際、彼はバンパイア化した王妃(母親)殿下から噛まれてしまったそうだ。たまたま城を訪れていた妹のアリシアと共に。


 旧知の仲である三浦に助けを求めたのが二十日前。フェイルとアリシアの具合が悪くなったのが十日前。三浦はその間、様々な方法でバンパイア化を食い止める方法を探していたらしい。


「そこでだ……、ソータ、貴様の力を貸してほしい。バンパイアウイルスの拡散を止めるためには、貴様の光魔法が必要となる」


 通常はバンパイアに光魔法なんて使ったら、灰になってしまうそうだ。


 ……またか。創作ものと話が似ている。ここまで来ると、地球上にある色々な話は、この世界をモデルにした誰かが居るのかもしれない。そう思えるほど、色々な点で話が一致する。


「俺が手を貸さずとも、勇者に任せればいいのでは?」


「おほほっ、貴族に向かってその物言いは、あまり感心しませんよ?」


「気にしないでいい。こいつは命の恩人だぞ?」


 俺の言葉に注意したアリシア。そのアリシアに注意するフェイル。貴族だからどうのこうのって価値観は理解出来ない。


 俺はあくまでリリス・アップルビーの討伐を優先する。アキラとリーナの手伝いは、その過程に過ぎない。だからフェイルの言う、バンパイアウイルスの拡散を止める結果は得られるはずだ。


 さっきポロッと、王を殺すなんてこと言ってたし。


 フェイルの話を受けても受けなくても、結果はそんなに変わらないはずだ。


 じっと俺を見つめるアリシア。目力が強くて気圧されてしまいそうになる。


 するとドアの外に突然人間の気配が現れた。


 四人も居る。気配消すの上手いな……。


 三浦がドアを開けると、そこに立っていたのは金子(かねこ)雄大(ゆうだい)だった。彼は三浦と共に行動している勇者の一人で、この前顔合わせは済んでいる。


 あとの三人、山下(やました)(あずさ)(もり)大樹(だいき)原田(はらだ)久美子(くみこ)も部屋の中へ入ってきた。


「うおっ!? 失礼しました」


 俺とアキラの姿を見て驚き、フェイルとアリシアの元気な姿を見てさらに驚き、そして金子たち四人は片ひざをついた。


 面倒くさいな、このやり取り。


「まだ交代の時間じゃないでしょ? 四人とも来るなんて、何かあったの?」


「フェイル王子殿下、アリシア公爵夫人、お二人ともご無事でよかったです。それと三浦、ヤベーことになってるぞ?」


 金子は、緊急事態を知らせるべく口を開いた。


 城から溢れ出したバンパイアが、街の住人を襲い始めたという。フェイルたちのように潜伏期間があるわけでもなく、噛まれてすぐバンパイア化し、周囲の人々を襲っているという。


 そんな話を聞いてうんざり。俺はため息を堪えるので精一杯だった。

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