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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
8章 勇者とバンパイア

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164 メギツネ

 朝日が差し込むブリーフィングルームに、俺たちは集まった。話さなければならないことがある。


 流刑島での騒動は、ひとまず収束を見せた。テッドの仲裁が功を奏したのだ。


 ミッシーと俺でとっ捕まえた勇者、宮崎(みやざき)健太郎(けんたろう)は、テッドの空艇(くうてい)オブシディアンで拘束されている。大事な生き証人だそうだ。


 ここにいるのは、俺とミッシーとファーギ。そして、修道騎士団クインテットのテッドとアイヴィー、マイアとニーナだ。

 話し合いを切り出したのは、アキラとリーナで、総勢九名が顔を合わせている。


 昨日アイヴィーが行った尋問で、アキラが無実ではないものの、二十年前にデレノア王国の勇者たちに陥れられたことが判明した。


 しかし、修道騎士団としては、アキラ一人の言葉で無罪にするわけにはいかないという立場だ。


 この世界の法律なんて知らないけれど、デレノア王国の法によってこの地に送られてきたのは事実である。だから、サンルカル王国の修道騎士団が無罪と言っても、当然認められないそうだ。


 だけど、アキラはそんなこと気にしていない。


「俺は娘たちに会えたし、大切な友と再会できた。この島でやることは残っているけど、先にルイーズとの約束を守らなきゃならない」


 アキラは、もう一度デレノア王国へ行くつもりだ。国王カルヴァン・タウンゼント・デレノアを暗殺するために。


 アキラの顔には、意気込みが溢れている。それはきっと、娘たちとの再会が叶えられたからだろう。あのメギツネ(ルイーズ)はこうなることを見越して先手を打った、類い稀な策略家だった。


 でも今回の件は複雑な問題である。見越していた、と一言で済ませられるような話ではない。予知能力でもなければ、アキラの娘たちを十日も前から動かすことなんてできるはずがない。


 ルイーズに何か特別な魔法やスキルがあるのか、なんて考えても答えは出てこない。推測するだけ無駄だ。


 ただ確かなこともある。俺自身もルイーズから依頼を受けているから、動くしかない。ただし「何か裏がある」という不安が拭えない。


「どうした?」


 テッドの魔導通信機が振動し、俺たちの前で通話が始まった。


「……マジかよ。……分かった。監視はもういい。マラフ共和国軍、デレノア王国軍、双方に見つからないよう戻ってこい」


 テッドが通信を切ると、少しイライラしたように話し始める。


「マラフ共和国に繋がっていたトンネルの出口で、マラフ軍が待ち構えていたんだけど――」


 マラフ軍が全滅した。マラフ共和国が送り込んだ兵力が少なかったということと、勇者一名がとてつもないスキルで戦い、ものの数分で決着がついたらしい。


 その後、数千名のデレノア軍は行方知れずになった。


 それを聞いたテッドがぼやく。厄介なことになったと。


「俺が出した依頼は完了だな。申し分ない結果で満足してるよ。さて、ソータ」


「断る」


「まだ何も言ってないだろ?」


「テッドのことだ。また何か妙な依頼を出すつもりだろ? あと、俺はもう別の依頼を受けてんだよ」


 正式な依頼ではないけど。


「なんだそれは? 俺が依頼しようとしていたのは、サンルカル王国南方戦線、傭兵募集の依頼ではなくて、マラフ共和国で行方不明になった――」


 勇者のいるデレノア王国軍の捜索だそうだ。そんなの俺に頼まずとも、別の冒険者に依頼すればいい。だからハッキリと断った。


 俺にとって最優先の目標は、エリス・バークワースの捜索だ。彼女はこの世界に災厄をもたらす存在だ。彼女を見つけ出し、命の灯火を消さなければならない。


 そうしなければ、デーモンが再びこの大地にあふれ出す。


 そのためには、リリス・アップルビーの抹殺が必要だ。これを成し遂げなければ、ルイーズは俺に情報を提供しないだろう。たとえルイーズを脅したとしても。


「そういう訳で、他の冒険者を当たってくれ」


 ヴィスコンティ家亡命の件もあるし。


「……しかたないな。別を当たるとするよ。ファーギ、ミッシー」

「断る。ワシはもうソータのパーティーだからな」

「別を当たってくれ。私はソータと共に行く」


 二人とも即座に断る。そんなつれない態度を見て、テッドは残念そうにしている。


「はぁ、……分かったよ。んじゃ、マイアとニーナもこのまま同行させてくれ」


 テッドはため息をつきながら、マイアとニーナへ視線を飛ばした。

 俺としては、この二人に同行してもらうのは心強い。そう思いながら彼女たちを見ると、何か決心したような顔で頷いた。


「んじゃ俺たちのパーティーは、面子の変更は無しってことだな」


 ブリーフィングルームの外側に、テイマーズの三人とリアムにメリル、五人の気配がある。何を話しているのか気になっているのだろう。

 だからなのか、俺の言葉で、ホッとしたような気配が伝わってきた。


 話の内容を細部まで詰めると、お昼時を過ぎてしまった。テッドとアイヴィーは、ジルベルトに対する尋問を行うと言って、バンダースナッチを後にした。


 俺たちのパーティーは、ヴィスコンティ家の亡命支援と、バンパイアウイルスの発生源と目されるリリス・アップルビーの討伐を目的としている。


 アキラとリーナは、罪人としてこの島に流された身だ。だが今回は、ルイーズ・アン・ヴィスコンティからの依頼を受け入れた。本来ならば、そんなことは許されないはずだが、テッドたちは見逃してくれるという。


 暗黙の了解を破り、デレノア王国が暗躍していると明らかになった。ダンジョンを使った地下トンネルによる侵略戦争だ。それが、テッドたちの心境に変化をもたらしたのだろう。


「ほれ、これ使え」


「なにこれ? 魔導バッグ?」


「そうだ。前やったやつだとバンダースナッチが入らないだろ?」


「そっか、……助かる。ありがとな、ファーギ」


 俺が持っている魔導バッグだと、あまり大きなものは入らない。それで新しい魔導バッグを作ってくれたのだろう。正直助かるのでありがたくいただく。


 その後の準備は速やかに行われた。ここにいる全員、魔導バッグを所有しているから、というのもある。必要なものは魔導バッグにどんどん詰め込んでいく。


「アキラさん、ジルベルトや娘さんたちに挨拶しないでいいんですか?」


「ああ、昨晩のうちに話してきた。準備もしてきたからいつでもいける」


「了解。んじゃ移動しますか」


 俺たちはブリーフィングルームで解散する。俺とファーギ、ミッシーの三人で、操縦室へ向かった。他の面子は各自の部屋へ戻って、持ち物のチェックや忘れ物の確認をするそうだ。


 流刑島をバンダースナッチで飛び出し、雲の上まで上昇した時点で俺は全員に障壁を張った。バンダースナッチの動力を止め、全員でハッチから飛び出す。


 落下するわけではない。俺が浮遊魔法で全員を空中に浮かばせる。そして、ファーギからもらった魔導バッグにバンダースナッチを収納した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 というわけで、俺たち一同はヴィスコンティ伯爵家へ到着した。

 三度目の訪問とあって、警備の者たちは剣を抜くこともなく、執事が快く迎えてくれた。彼は風格ある仕草で、俺たちを屋敷へと案内する。


「お……?」


 エントランスホールには、武具の山が積まれている。執事が得意げな顔をしているのは、それらが自慢の逸品だからだろう。


「ヴィスコンティ家から、皆様への感謝の気持ちを込めた贈り物です。こちらの剣は――」


 執事が熱心に説明し始める。大剣、片手剣、小型の盾、大きな盾、金属鎧、革鎧と、多彩な種類が並んでいる。全て一流職人の手によるもので、勇者との戦いに備えて作られたものだという。サイズは空間魔法で微調整できるそうで、体格に合わせて着用できるそうだ。


 驚嘆に値するものだと思いながら、俺は武具の山を眺めていた。しかし、俺以外の者たちは興味を示さない。俺はファーギから譲り受けた、黒い革のコートを羽織っている。パーティーの仲間も、それぞれに武具を用意している。しかも全て、ファーギ自らが作り上げた武具だ。唯一異なるのは、ミッシーの祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグだけ。


 アキラとリーナも、凄まじい武器を携えているらしい。


 俺はコート以外、ありふれた服装をしているが、防具や武器は正直不要だ。


 結局俺たちは準備されていた武具を受け取らずに、食堂へと向かった。


「お帰りなさいませ。お早いご帰還でしたわね。初めてお目にかかる方もいらっしゃるようですね。わたくしルイーズ・アン・ヴィスコンティと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 食堂の主席に優雅に座るルイーズが、微笑みを浮かべてそう言った。武具の山を見せ付けるように用意しておきながら、どこか不自然な態度だ。彼女は俺たちの早い帰還を予測していたのだろうが、予想以上に早かったということだろうか。


 ルイーズは今後の詳細を詰めたいというので、俺たちは全員席に着いた。


「アキラさん……? お二人で行動されるご予定ですか?」


 ルイーズがアキラに疑問を投げかけると、リーナが話し始める。


「アキラちゃん、あたしたち二人だけでやり遂げられるかしら? 人数が多いと足手まといになると思うけれど……、勇者がひしめき合う王都ハイラムで、もしも見つかったら、あたしたち二人じゃ逃げ切れないわよ……」


 リーナはアキラをじっと見つめて言った。そして顔を動かして、視線を俺に定める。


「ソータちゃん手伝って? あなたたちがヴィスコンティ家の手伝いをしなきゃいけないのは分かっているけど……、それでも手伝ってほしいの」


 切実に訴えかけるリーナ。その瞳はまっすぐ俺の瞳を捉えている。亡命まで三十日近くの時間的な猶予はある。その間に彼らを手伝うことは可能だ。


 だけど、俺はヴィスコンティ家の手伝いと、ルイーズ自身から依頼を受けている。


 リーナの言葉だけで、しかも依頼者の目の前で、別の依頼を受けることはできない。


「それは素晴らしいわっ!! どちらにしても、バンパイアウイルスの発生源を突き止めるためには、王侯のバンパイア化を順に遡っていくしかないわ!! ソータさん、依頼内容を変更します!!」


 それは、俺、アキラ、リーナ、三人が協力して、カルヴァン・タウンゼント・デレノアを討つというもの。

 そのあと俺がバンパイアウイルスの元凶、リリス・アップルビーの討伐をすればいいということになった。


 この野郎(メギツネ)、したり顔しやがって……。はなから俺をアキラたちと組ませる算段だったらしい。


 それはミッシーの様子からも伝わってくる。彼女は俺と別行動になり、憤りの色を顔に浮かべている。ルイーズを睨みつけ、今にも飛びかかりそうな勢いだ。


 俺やミッシーたちがパーティーとして行動することをルイーズは見越していた。それでルイーズは、俺だけが別行動できるように仕組んでいたのだ。


「はぁ~。わかりましたよ」


 メギツネ(ルイーズ)の策略に辟易としながらも、やることは特に変わりない、と俺は一人で納得するしかなかった。

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