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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
7章 再会

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159 スラム街のボロ屋敷

 俺はファーギたちと合流して、屋敷に忍び込んでいるところだ。ルイーズの情報だと、ここが最後の手がかりとなる。


 もう夕方だし、暗くなる前にさっさと済ませよう。スラム街の奥にひっそりと佇む、荒れ果てた屋敷に忍び寄る。庭は雑草に覆われており、人の気配はまるでない。


「気を付けろ、そこら中に爆裂魔法陣が仕掛けられてる」


 先頭を歩くアキラが声をかけてくる。庭をよく見ると、地面に流れる魔力が不自然に集まっているのがわかる。本来なら平坦な魔力が、庭中に置かれた爆裂魔法陣に集まっているのだ。


「踏むと爆発するからな。たぶん石に魔法陣を彫って、地面に埋めているはずだ」


 ファーギが追加で注意してくる。


 まあ、言っても、俺以外の三人は精鋭だからな。

 アキラとファーギの言葉は、ダンジョンを崩壊させた俺に向けてのものだ。たぶん。

 だからおとなしく最後尾をついて行こう。


 ボロ屋敷の玄関に到着すると、リーナがドアにへばり付いた。大丈夫かな……? あのドアの向こうにも爆裂魔法陣が仕掛けられているのに。


「スキル〝魔法陣解放(サークルリリース)〟で、魔法陣を無効化したわ。入るわよっ!」


 あ、そゆことね。

 というか、スキルって明かさないものじゃなかったっけ?


『スキル〝魔法陣解放(サークルリリース)〟の解析と改善が終了しました。以降、ソータも使うことが出来ますよっ!』


 ほらー、クロノス(汎用人工知能)が解析しちゃったし。でも役に立ちそうだから、いただいておこう。ごめんなさい、リーナさん。


『ぶうっ!』

『いやいや、感謝してるよ?』

『ほんとに?』

『ほんとほんと!』


 クロノスとそんなやり取りをしながら、先に進む。

 屋敷の中に人の気配が無いことは分かっているので、俺たち四人は素早く中に入った。


 中は予想通り荒れ果てていた。床は抜け落ちそうなほど朽ちており、正面にある大きな階段は半分以上が崩れ去っている。とは言っても、まだ歩くことはできるだろう。


 俺たちは手分けして屋敷の中を探し始めた。


「こっちだ」


 ファーギの声だ。屋敷はそんなに広くないので、すぐに手がかりを見つけたみたいだ。ファーギのいるキッチンへ行くと、すでにアキラとリーナも来ていた。


「なんだこりゃ?」


 アキラの驚きも無理はなかった。目の前に広がるのは、日本のキッチンと瓜二つだったからだ。屋敷なので、巨大なアイランドキッチンである。

 しかも、他の部屋と比べるとすごくきれいに掃除されていた。いまからでも料理ができそうなくらいに。


「いまも使われてるっぽいね」


 リーナが顎をさすりながら言う。


「だな。ちょっと調べるから、出てくれ」


 アキラがそう言って、俺たちをキッチンから追い払った。何をする気だろう? キッチンの入口には、ドアなど無いので、中は丸見えだ。

 アキラが何をするのかよく見ていると、壁をペトペト叩き始めた。


「ここだ。強力な隠蔽魔法が使われている」


 ……マジで? 魔法が使われていると、だいたい分かるんだけど。


『アキラが発見した隠蔽魔法は、魔力の使用効率が百パーセントです。彼が強力と言ったのは、そのためだと思われます』


『そうなんだ。ありがとね』


『いえいえ。お力になれず申し訳ありません』


『気にする必要はない。クロノスは何でも出来るわけないからな』


『むきっ!!』


『……どうした?』


『いえ、なんでもありません』


 魔力の使用効率が百パーセントって、俺くらいしかできないと思っていたんだけど、傲慢な考え方だったな。

 しかしこれまで見たことがないのも事実。勇者が隠蔽魔法を使ったと考えるのが自然だろう。


 それよりアキラはどうやって隠蔽魔法を見つけたんだ……?


『おそらくスキルです』


『ほーん……』


 スキルねぇ。


 色々と考えていると、ファーギが魔導剣を取りだし、壁を切り裂いた。そこにはゲートが隠されていて、向こう側には石造りの密室が見えた。ドアも窓もなく、ほの暗い光を放つ魔石ランプが一つだけ。


 そこにドワーフの少女の姿があった。ベッドも枕もなく、石の床に直で寝ていた。


「サーラ!!」

「サーラちゃん!」


 ファーギを押しのけ、アキラが部屋に飛び込む。そしてサーラを抱き起こした。リーナもあとに続き、サーラに回復魔法を使う。


 サーラは見た感じ健康そうだけど、アキラとリーナにとって、大切な仲間なのだろう。それが伝わってくるほど、彼らは必死になっていた。


「アキラおじちゃん!! わっ! リーナねーちゃんも!!」


「おじ……。いや、無事だったか?」

「元気そうでよかった……」


 バチッと目を開けたサーラが元気よくアキラに抱きつく。


 ハーフドワーフかな? ヒト族とドワーフの特徴が調和し、とても可憐な姿をしている。幼い顔立ちで、まだ小学校低学年くらいの年齢だろう。


 こんな子を誘拐して監禁するなんて。勇者と名乗る奴らは、勇者という言葉の本当の意味を理解しているのだろうか。


「どこも痛くないか?」

「お腹すいてない?」


 アキラとリーナは我が子のように心配している。ジルベルトの娘なので、赤ん坊の頃から知っていたのだろう。


「だいじょぶ! あたし元気よっ!」


 サーラは快活に笑って見せた。その笑顔のおかげで、薄暗い部屋が明るくなったように感じた。


「なにか変なことされなかったか?」

「ちょっと、……アキラちゃん?」


「何もされてないよ~! 助けに来てくれるって信じてたから、ずっと我慢してた!」


 アキラとリーナのやり取りを見て、サーラの目から涙がこぼれ落ちる。そして、感情が爆発したように泣きだしてしまった。

 にこやかな笑顔は、彼女なりに強がっていたのだろう。


「さて、デレノア王国からどうやって脱出するのか。アキラ、リーナ、ダンジョンの通路は、こいつのせいでもう使えない。船で流刑島に戻るのは不可能。何か手立てはあるのか?」


 ファーギが空気を読まずに声を掛けた。感動の再会が台無しである。ファーギはたしか魔導バッグに空艇(くうてい)を仕舞っていたはずだ。だがそれを出すためには、それなりに広い場所が必要となる。


「それなぁ……」

「ほんと、何やってんだか……」


 アキラとリーナはそう言いながら、不機嫌そうな顔で俺を見る。サーラは俺とファーギのことを知らないので、キョトンとしている。


空艇(くうてい)を出す場所があればいいんだが……」


 ファーギがそう漏らすと、アキラとリーナが驚きの表情に変わった。


空艇(くうてい)? どこにそんなもんが」

「アキラちゃん、こいつファーギだよ?」

「……ああ、なるほど」


 ファーギがどういう印象を持たれているのか気になるが、いまは脱出を優先した方が良さそうだ。空艇(くうてい)なんて使わず、全員まとめて空を飛ぶか……。


 屋敷に入ってくる、複数の気配も感じるし。


 ……いや、ヴィスコンティ伯爵家の亡命の件がある。少しでもこの国の事情を知っておいた方がいいかな。


「リーナ、サーラを頼む。ファーギ、ソータ、手伝ってくれ」


 アキラがそう言って立ち上がる。ここに向かう気配は、四人とも気付いていた。


 石組みの小部屋から出て、アキラは俺とファーギを連れて出口へ向かおうとした。


「何するんです?」


「俺の元友人たちだ。全員殺す」


 俺の言葉にアキラは冷たく切り返した。彼の声には一切の感情がなく、まるで機械のようだった。


 ……アキラの気持ちは分からなくもない。彼はかつて勇者だったが、仲間たちに裏切られた。勇者たちは虎の牙を壊滅させ、彼の妻を殺した。

 アキラはそのせいで、二人の愛しい娘と離ればなれになっている。


 それ以来アキラは復讐に燃えているからな。これがチャンスだと思っても無理はない。


 だが、その短絡思考には賛成できない。


 やられたらやり返すという行動は、本人的にはスッキリするかもしれない。しかし、その相手もまたやり返してくるだろう。


 果てしない負の連鎖が始まるだけだ。


 ん……。復讐のためにこの世界へ来た俺が、何言ってんだと気づく。ちょっと恥ずかしいな。このダブスタは。


「こっちだっ!!」


 うだうだ考えているうちに、見つかってしまった。


 黒眼黒髪の中年男性が、俺たちのいるキッチンを覗き込んで声を上げた。


金子(かねこ)おおっ!!」


 アキラの反応は早かった。剣を抜き、金子なる人物に斬り掛かる動作は、人間離れしていた。


「ちょ待てよ、アキラ!!」


 金子はどうやら戦う気は無さそうだ。


 ――ガキン


 俺が張った板状の障壁で、アキラの剣がはじかれる。障壁は無残にも砕け散った。


 それが俺の仕業だと気付いたアキラ。


 アキラは俺の目を一瞬見たが、すぐに金子に斬り込んだ。


 俺が邪魔しても、金子を殺す気だ。


 アキラの目には、金子への憎悪しかない。


「アキラ!」


 俺がもう一度障壁を張り直すと、女性の声が聞こえてきた。


 金子の後ろには、同じ黒髪の人物たちが四人立っていた。


三浦(みうら)……?」


 声の主、三浦の姿を見たアキラは、振りかぶった剣を止めた。


 たしか彼女はアキラと共に、デレノア王国を脱出しようとしていた人物だ。名前は、んー、三浦(みうら)麗奈(れいな)だったか?


「そこのサーラちゃん、私たちが保護してたのよ? 事情くらい聞きなさいよ!!」


「保護だぁ? 一年間も監禁しておいて、ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」


 アキラの怒号が響き渡る。でも、彼女の言う事情を聞く気になったようだ。


 三浦たち五人の勇者は、アキラと共にデレノア王国から逃れようとした者だった。


 彼女らは以前から、元クラス委員長の岡田(おかだ)(いさむ)率いる勇者たちと、反目しているそうだ。


 三浦たちは、酷い扱いを受けていたサーラを見かねて、この場所に移して守っていたという。


「嘘ではない……か。信じよう、その話。それじゃあ、サーラは連れて帰るからな?」


 アキラが何を以て、三浦の言葉を信じたのか分からない。けれども、話が丸く収まりそうでなによりだ。


 そこに三浦が声をかける。


「どうやって脱出するのか知らないけど、たぶん無理よ……」


「何でだ。――っ!?」


「気付いたみたいね……。ここに向かっているのは、私たちだけじゃないの。イサム()たちもここへ来るわ」


 頭を抱えるアキラ。


「それならどうして、お前たちはここに来た。イサムのスキル〝魅了(カリスマ)〟の怖さは知っているだろう?」


 そこまで言ったアキラが何かに気付いた。下げた剣を構え直し、ふたたび三浦たちと対峙したのだ。


「え、ちょっと待って。私たち五人は、イサムのスキルに抵抗するスキルが発現してるの。だから操られてないからね?」


 その言葉を聞いて、力を抜くアキラ。さっきから何だ? アキラって、三浦の言葉を丸々信じている気がする。


『推測ですが』

『うん? 何の?』

『おそらくアキラは、鑑定系のスキルを持っている可能性が高いです』

『ほぉん……。真贋や価値を見極める感じかな?』

『おそらくは』


 そう考えると、筋が通る。


「話の腰を折ってすみません。さっさと逃げないと、そのイサムってやつが来ますよ?」


 俺の言葉で一同ハッとなる。


「しかし、どうするつもりだ? 勇者たちはやる気満々で、ここを包囲している。座して死を待つわけにもいかないだろう?」


 アキラの言葉通り、もう歩いてここを出ることは不可能。


 たった今、屋敷の敷地に大勢の気配が入ってきた。


 すぐに屋敷の玄関が爆発し、勇者たちが雪崩れ込んできた。


「ほら、全員ここから逃げますよ」


 潮時だ。俺はヴィスコンティ家に通じるゲートを開いた。

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