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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
7章 再会

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154 無情の雨

 小屋の中で剣を振り回すなんて愚の骨頂だ。それを分かっているのだろう。リョウタの魔導銃は躊躇いなく、魔力のエネルギー弾を撃ち出した。その銃弾はアキラの障壁に直撃し、特大の爆発を引き起こした。


 衝撃でアキラは吹き飛ばされ、壁を突き破って小屋の外に投げ出された。


 咄嗟に障壁を張り直さなければ、アキラは死んでいたであろう。


 それくらいの威力であった。


 ヒビが入った障壁を、アキラはもう一度張り直す。


「クッソ!! 佐々木(ささき)が造った魔導銃か!!」


 リョウタが持つ魔導銃は、芸術的なデザインと精巧な細工が施され、まるで美術作品のように美しい。しかしながら、この銃は兵器であり、人を殺すために造られたものである。


「そうだけど?」


「てめえ、剣士だろうが!!」


「そんな下らないことに(こだわ)ってちゃ、ハマン大陸じゃ生き残れねえんだよ!」


 そう言ったリョウタは、魔導銃を立て続けに撃っていく。


 アキラはそれを避けまくる。


 (かわ)せそうにないものは、板状の障壁で弾いていく。


 執拗(しつよう)に撃ちまくるリョウタは、アキラを近づかせることなく、徐々に追い詰めていった。


 広い広い巨大ホールの中で。


 リョウタの魔導銃は、クラスメイトだった佐々木(ささき)優希(ゆうき)が造ったもの。彼はこの世界に来て、魔道具開発に秀でていることが分かった。元美術部だからなのか、造り出す魔道具は造形美に(あふ)れるものだった。


 それでいて、魔道具の性能は一級品。佐々木の魔道具は、高値で取り引きされるようになっていた。


 リョウタが持つ魔導銃もそうだ。美しくありながら、その性能は一級品。あり得ないほどの連射速度は、魔力のエネルギー弾が繋がっているように見える。まるで光り輝く鞭がしなるように。


 着弾したエネルギー弾は、立て続けに爆発を起こしていく。


 その音は大ホールに響き渡った。


 マラフ共和国へ向かう、ミリアーノ組の家族たち。


 同じくマラフ共和国へ向かう、デレノア王国軍。


 この二つの集団は、アキラとリョウタの戦いを見て、真逆の行動を取り始めた。


 ミリアーノ組の家族は歩みを早めて、逃げ出すようにマラフ共和国へ向かっていく。小さな子どもは抱きかかえながら。


 デレノア王国軍は、アキラとリョウタの戦の場へ向かい始めた。勇者であるリョウタを助けるために。


 ダンジョンコアを管理しているミリアーノ組の者が、慌ててデレノア軍に駆けていくも、交渉する間もなく首をはね飛ばされた。黒髪の日本人男性によって。


 色めき立つミリアーノ組の構成員たち。彼らは仲間を殺されたことで、魔導銃を撃ち始めた。


 ダンジョン最下層の巨大ホールは、アキラとリョウタの戦いを発端とし、戦場へ様変わりしてゆく。


 ジルベルト特製の魔導銃で、デレノア軍が次々と撃ち倒されていく。モンスターがポップしない通路なので、デレノア軍は大した防具を身につけていない。動きやすい格好で、腰に剣をぶら下げただけの軽装である。


 彼らは背嚢(はいのう)に入っている防具を着ける暇もなく、ミリアーノ組の者に向かって突き進んでいった。


 ――ドン


 デレノア軍とミリアーノ組の間に、ぶ厚く巨大なアクリルガラスのようなものが立ち塞がった。


 ミリアーノ組の者たちは困惑し、デレノア軍は武器を納めて整列していく。


「チッ、リョウタの野郎、まだアキラに拘ってやがるのか」


 歎息(たんそく)しながら呟く竹内(たけうち)剛志(つよし)。彼もまた、クラス召喚でこの世界へ来た者の一人で、いまはデレノア軍の将軍として立っている。


 ミリアーノ組の首を刈ったのは竹内(たけうち)。彼らが武器を持って突進してきたため、竹内は仕方なく手を下したのだ。それが原因で、デレノア軍とミリアーノ組は激しくぶつかり合うことになった。


 竹内はこれ以上の死者を出さないようにと、土魔法グランウォールを展開したのだ。


「ミリアーノ組!! 俺はデレノア王国の勇者、ツヨシ・タケウチだ! そっちはそっちでやってくれ! どうしても()り合いたいのなら、全軍を以てお前たちを叩き潰す!!」


 ツヨシは圧倒的な戦力差を見せつけ、驚異的な魔法を披露した。その結果、ミリアーノ組の戦士たちは戦意を喪失した。


 巨大ホールのデレノア軍は、見えるだけでも千を下らない。そこには圧倒的な力の差が存在し、それを目の当たりにしたミリアーノ組の者たちは恐怖におののいた。


 彼らは軍隊のような訓練を積んでおらず、数は百もいない。


 デレノア軍と正面衝突すれば、結果は火を見るよりも明らかだった。


 怯えて震えるミリアーノ組を確認し、ツヨシは背を向けた。彼らには構わず、進軍を開始したのだ。


「あれが勇者……タケウチ」


 足並みを揃えて進軍していくデレノア軍を見て、リーナが呟いた。


 ファーギとリーナは、小屋の影からデレノア軍を覗き見ていた。デレノア軍とミリアーノ組が戦闘になり、アキラとリョウタの戦いに加勢するタイミングを逸した格好だ。


「あいつ、生きていたのか……」


 ファーギはあご髭を触りながら、竹内の背中を見ている。


「ファーギ知ってんの?」


「ああ、デレノア王国の大召喚術で呼び出された勇者の一人だ。ヒト族だからだいぶ年を取っているが、三十年前に見た時より魔法の威力が上がっている」


「それはアキラもよ?」


 アキラとリョウタが激突する中、ミリアーノ組の者たちは、ただその様子を見つめていた。あちらを立てればこちらが立たず、という苦悩に苛まれながらも、誰一人として手を出せない。その緊張感が、その場を支配していた。


 と、リョウタの魔導銃が、小屋を真っ二つに切り裂いた(・・・・・)


 ――ズドン


 これまでにない大きな爆発が起こり、小屋が木っ端微塵となる。中に何か爆発物があったのだろう。遮る物がない巨大空間では、爆発の衝撃波を躱すことができない。ファーギとリーナは障壁を張ったまま、吹き飛ばされていく。


 噴き上がっていく黒いキノコ雲には、炎と雷が見えていた。


「小屋の中に何があったんだ……?」


「ジルベルトもバカじゃん? 何を置いてたのか知らんけど!!」


 彼らは衝撃波で飛ばされたついでに、巨大ホールの天井近くに浮かんでいた。リーナは浮遊魔法、ファーギは魔道具を使って。周囲は噴き上がってきた黒煙で見通しがきかない。


「んま、でもこれは好機。リョウタを狙撃するチャンスだ。リーナ、ちょっと乗るぞ」


「へ? ちょ、何やってんの!?」


 ファーギは障壁を解除し、魔道具の効果を切る。そして、リーナの障壁の上にあぐらをかいて座った。彼はそこで、魔導ライフルを取り出す。


「狙撃すると言っただろ? フラフラ動くな」


「いやいや、空中にピタッと停止出来るわけないじゃん? 浮遊魔法使ってんだよ?」


「やかましい。じっとしてろ。集中しろ。アキラが押されてるんだぞ?」


 リーナはハッとする。アキラのことを忘れていたわけではない。しかし、一連の出来事で、アキラたちの戦いから心が逸れていたのも事実。


 飛び道具を持たないアキラは、防戦一方だ。それを見て気持ちが切り替わったのだろう。彼女は宙にピタリと停止した。


「いい子だ」


「どういたしまして! 子どもじゃ無いけどねっ!!」


 障壁の中で、ちびっ子リーナがプリプリ怒る。それを横目にファーギが魔導ライフルの引き金を引こうとする瞬間、リョウタの魔導銃は激しい爆発音と共にバラバラに砕け散った。


 過酷な戦いで酷使され、その銃身は耐え切れなかったのだ。リョウタの右手は血しぶきとなって舞い上がり、彼の叫びが虚空に響く。


 リョウタはすぐに治療薬を取り出し、無くなってしまった右手に振りかける。


「あんな使い方しちゃ、そりゃ壊れるわ」


 冷たく微笑みながら冷ややかに呟き、ファーギは狙いを定めて魔導ライフルを放つ。発射されたエネルギー弾は、かつてのように太くて目立つものではなく、針のような細さで空気を切り裂く。デレノア軍に気付かれないよう、配慮したのだろう。


 魔導ライフルのエネルギー弾がリョウタの頭を穿(うが)つ瞬間、闇夜のごとく黒い何かがそれをはじき飛ばした。リョウタのスキル〝幻影ノ剣(ファントムブレイド)〟で生み出された、黒い霧を纏う禍々しい剣である。


「……なによあれ?」


 ファーギの下方から、リーナの驚きに満ちた声が聞こえてきた。


「何かの魔剣のようだが……、いや、あれはスキルか?」


 構えていた魔導ライフルをしっかと握り直し、ファーギはやむを得ずアキラとリョウタの戦いを見守ることになった。なぜなら、アキラもまた、魔剣ラース《憤怒》を抜き、リョウタと剣を交える激しい戦いに身を投じたからだ。


 アキラとリョウタの激しい剣戟(けんげき)が続く中、周囲の空気は刻一刻と緊迫した空気へ変わっていく。


 彼らの剣は鋭く交わり、闇と闇が交錯する。


 牙を剥き出し、闘争心を隠すことなく、お互いに剣を振るう。美しい獣たちが戦う絵画の如く。


 リーナは戦慄し、息を潜める。その瞳には、アキラへの期待と心配が同居していた。


 一方、ファーギは冷静に戦況を見極めるとともに、隙が生じたらアキラを援護する準備をしていた。彼の心臓は緊張によって激しく鼓動していたが、その表情には余裕を感じさせるものがあった。


 アキラはリョウタの攻撃を風のように受け流す。


 彼の魔剣ラース(憤怒)は、黒い炎を吹き出し、舞うような反撃を繰り出す。


 それに対しリョウタは、黒い霧をまとう幻影ノ剣(ファントムブレイド)で迎え撃つ。


「腕が落ちたな?」


 つばぜり合いになり、アキラはリョウタを挑発した。


 彼の顔は、狼のように歯をむき出しにして、凶悪な笑みを浮かべている。


 リョウタはアキラの言葉に苦笑しながら、決意を込めた静かな声で返答した。


「そうだな。だが、お前はここで死ぬ運命だ」


 その瞬間、アキラとリョウタは、猛禽が空へ舞い上がるかの如く跳び退く。


 激しい剣戟の舞台に幕が落ち、周囲は息を呑むような静けさとなった。


 ミリアーノ組の者はその空気に飲まれ、脂汗を流しながら動けないでいる。


 デレノア軍は、我関せずを貫き、ファーギとリーナは、次の一手を探していた。


「お前さ、マジでしつこすぎねえ? 三十年も粘着するとか、イカれてるとしか思えないんだけど?」


「全部お前のせいだ……」


「あー、檻の中で聞いたわ、それ」


「ちげぇ!! テメエは三浦(みうら)麗奈(れな)の気持ちを踏みにじった!! 俺はそれが許せねえんだよ!!」


「三浦?」


 その名前を聞いたアキラは、誰それという表情になる。


 そんなアキラを見たリョウタは激高し、幻影ノ剣(ファントムブレイド)の出力を上げていく。


 リョウタの顔から滝のような汗がしたたり落ち、その量に比例するように幻影ノ剣(ファントムブレイド)が太く長く伸びてゆく。


 それを見たアキラはさすがに拙いと感じたのか、スキル〝身体強化〟〝加速〟〝超加速〟の三つを使ってリョウタへ肉迫する。


 ――ズドン


 音速を超えたアキラは、振り下ろされる幻影ノ剣(ファントムブレイド)を軽々と避け、魔剣ラース(憤怒)を振るう。


 その刃がリョウタの首に届く直前、――固い何かに遮られ、剣がはじかれた。


「その辺でやめとけ……」


 いつの間に戻ってきたのか、すぐそばに竹内(たけうち)剛志(つよし)が立っていた。彼はリョウタを助けるため、土魔法グランウォールで、アキラの剣をはじいたのだ。


 それどころか、アキラとリョウタの間に、グランウォール(透明なアクリル板)が生えてくる。そして彼ら二人はあっという間に、グランウォールの立方体の中に閉じ込められてしまった。


「リョウタ、三浦(みうら)麗奈(れな)がどうなったのか、アキラは知らねえだろ? お前の気持ちは分からんでもない。けどよ、ちゃんと説明くらいしたらどうだ?」


「くっ……! こんな奴に説明してどうすんだよ!」


 ツヨシのグランウォールは、ダンジョンの壁と同等の強度を誇り、色も形も変幻自在だ。鎧に変えたり剣にしたり、敵軍を阻むための大壁にすることも可能である。


 そのようなグランウォールに閉じ込められ、リョウタとアキラは身動きが取れない状況に陥った。


「竹内! 三浦って、バレーボール部のやつか! あいつがどうしたってんだよ!」


 アキラは、三浦(みうら)麗奈(れな)のことを思い出して叫んだ。


「リョウタに聞け。俺は急ぐから、あとは勝手にやってくれ」


 ツヨシはそう言って、リョウタのグランウォールだけを解除し、デレノア軍の列に戻っていった。


 アキラが呼び止めても無視。彼の背中から、これ以上関わりたくないという気配が滲み出ていた。


 二十年前、アキラがデレノア王国から逃亡する時、竹内(たけうち)剛志(つよし)三浦(みうら)麗奈(れな)も一緒だった。竹内は何か知っているはずなのに。アキラは内心そう思いながら、歯を食いしばるしかなかった。


 一方で、苛立ちを隠そうともしないリョウタ。グランウォールのせいで、アキラに手を出せなくなっているからだ。


「お前ら、この固まりを海に運ぶぞっ!!」


「へっ、へいっ!!」


「あと、レンツはどこだ!!」


「いや、まだ戻ってませんぜ……」


「クソ役立たずが!! お前らさっさと運べ!!」


 リョウタたちを遠巻きに眺めているだけのミリアーノ組。彼らはこれまで、リョウタに使われてきた。流刑島からトンネルを造るために。しかし、ミリアーノ組はアキラにも世話になっている。


 板挟みの彼らは、リョウタの指示が飛んでも、なかなか動き出さない。


「グズグズすんな!! さっさと台車もってこい!!」


 声を荒らげるリョウタ。ミリアーノ組の者たちは、ビクビクしながら行動し始めた。


 しかし、その矢先、アキラを閉じ込めているグランウォールが真っ二つに分かれた(・・・)。白い光の残像から、リョウタは第三者の仕業であることを確信する。


 リョウタが辺りを見回すと、空中に浮かぶファーギとリーナの姿が目に入った。


「チッ、あいつがこの島に来てるドワーフか! お前ら!! あの二人を撃て!!」


 リョウタの指示は、無言の返答となり、そして彼らの我慢の限界を超えた。


「リーナを撃てだと!?」「てめえ、のうみそに蛆でもわいてんのか!」「挽き肉にしてフォレストワームの餌にすんぞ、ゴルァ!!」


 リョウタに対し、罵詈雑言が飛ぶ。


 そんなお下品な言葉に、カッとなるリョウタ。


 彼はスキル〝幻影ノ剣(ファントムブレイド)〟を使い、構成員たちに斬りかかった。


 ――ゴトリ


 首が落ちた。


 血の噴水を吹き上げ、倒木のように倒れるリョウタ。


 そして、そのそばには血振るいをするアキラが立っていた。


「二十年間、こうなることを渇望していたのに、何も感じねえ……」


 妻の仇をとったからなのか、友人を討ったからなのか、その言葉とは裏腹に、アキラの顔には、深い悲しみが浮かんでいた。目には涙が溢れ、口元は苦痛に歪んでいる。その表情は、失ったものの大きさを物語っていた。

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