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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
7章 再会

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153 苦渋の決断

 ソータからの情報を元に、最下層へと進んだアキラたち。ドアを開けると、そこには息を飲む広さの巨大空間が広がっていた。そして、その中央には、情報通りの小屋が見えていた。ジルベルト・ミリアーノがいる場所である。


 アキラたち三人は姿を現したまま歩いていく。彼らの場合、ソータたちが来た時とはだいぶ対応が違っていた。ソータたちは天井をぶち抜いて現れたので、構成員たちが問答無用で攻撃を始めた。


 しかしアキラは、ミリアーノ組の者とだいたい顔見知りである。


「あ、アキラさんじゃないですか! どど、どうしてここが?」


 見回り中のヒト族が、アキラとリーナの姿に驚いて声を上げた。アキラは彼を冷たく一瞥(いちべつ)した。その眼差しには氷のような決意が宿っていた。そのヒト族はアキラの圧倒してくるまなざしに耐えられず、顔から汗が吹き出し、床に雫を落としていく。


「どうしてもこうしてもねぇだろ。何で島の地下にダンジョンがある。……すぐにジルベルトんとこに案内しろ」


「へ、へいっ!」


 アキラはジルベルトに裏切られたと思っている。街の犯罪は、冒険者ギルドで。街の発展は、ミリアーノ組で。アキラとジルベルトにはそんな約束があったのに。


 見回りのヒト族は、広場の中央の小屋に向かって歩いていく。小屋の入り口には、警備の役割を果たすオーク族が二人ずつ立っていた。だが、アキラの姿を見つけると、見回りのヒト族と同じく、顔色が変わった。


 ミリアーノ組は、このダンジョン自体がアキラにバレないよう、細心の注意を払っていたのだから。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 アキラ、リーナ、ファーギ、三人はカウチに腰掛けて、ジルベルトと対面する。向かいに座るジルベルトは俯き加減で、正面を見ようとしない。


 護衛のオークが抹茶を()てている。ジルベルトが作成した、魔石を動力源とするブレンダーを使っているので、風情もへったくれもない。大きな器で攪拌(かくはん)されていく抹茶に、ミルクやシロップが加えられていく。


 こんな過程を見せているのは、毒を入れてませんよというアピールである。ただし、アキラはスキル〝鑑定〟を持っているので、意味のない行動とも言える。


 アキラの好物である抹茶オレがテーブルに並べられた。


「そこのドワーフは何だ?」


 ジルベルトが抹茶オレを口に運びながら、アキラに問いかける。その手が少しだけ震えていることに気付かずに。


「ワシか? ファーギ・ヘッシュだ。流刑島の騒動に、同族が加担しているとは驚きだな」


「ファ、ファーギ!? あの血も涙もない極悪非道の冒険者と噂の――――」


「そういう噂話を捏造するな。アキラはワシとあんたを会せに来たわけじゃないぞ?」


 その言葉で、ひげ面のドワーフ同士がぐっと睨み合う。


「小芝居はよせ、ジルベルト。ソータって冒険者から聞いてきた。確認のため俺にも同じ話をしろ。整合性を取って、お前の話と齟齬がないか確認する」


 そのとき、ジルベルトの顔が強張った。


「アキラ! このジジイ、ソータに嘘ついてんじゃん?」


 リーナはジルベルトの変化を目ざとく見つけた。立ち上がってジルベルトをビシッと指さす。そんな大仰な仕草をするリーナをちらりと見て、アキラはジルベルトに視線を移す。


「ソータに嘘はついてない……」


 ソータの背後に控える女子三人が恐ろしくて、一つでも嘘をつけば命がないと感じていたジルベルト。彼はソータに全て本当の話を明かしている。


「おう、それじゃ一言一句、一滴も漏らさず、同じ話をしてくれ」


 アキラの表情に変化はない。しかし、皮の一枚下には、ジルベルトに裏切られた、という感情がとぐろを巻いていた。


「一年前の話だ――――」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 話を聞き終えたアキラは、怒りに打ち震えた。足を組んでカウチに沈むような体勢から、浅く座り直して両手を強く握り締める。ジルベルトに向けた顔は、青筋が浮かび、眉間にしわが寄り、その瞳には少しだけの困惑と迷いがあった。


「ジルベルト、俺はあんたの弟、ドルフと長い間つるんできた。この島に送られて、あんたと出会った時、運命じみたものを感じたんだよ」


「……そんなこと言ってたな」


「それから二十年、互いに協力して、このクソみてえな流刑島をよくしてきたな」


「……そうだな」


「約束したよな、隠し事は無しだって」


「…………ああ」


「どうして、サーラが連れ去られたことを黙っていたんだ!! あの子はまだ六歳だぞ!!」


 怒号を発しながら立ち上がり、ローテーブルを踏みつけるアキラ。彼の視線は、リカーラックに立てられた、小さな額縁に釘付けになっている。そこには、ジルベルトとサーラが並んで、笑顔の瞬間を切り取ったような絵が飾られていた。


 隣に座っているリーナは、これまで一度も見せたことがない悲しい表情を浮かべていた。


「アキラちゃん……、ジルベルトだけを責めないで」


「……なんだ」


 リーナの声で、ふと冷静になるアキラ。含みのある言葉に、リーナも何か知っていると感じたのだろう。


 ジルベルトをじっと見つめるリーナ。その瞳を見て、ジルベルトは頷いた。


「アキラちゃん、ここしばらく学校に顔出してないよね――?」


 二十年前、アキラはこの島にやってきて、大改革を進めた。そのひとつが学校の建設だった。街の荒れた環境から子どもたちを守るために、アキラはジルベルトを説得した。子どもを守りたいと必死にお願いするアキラに、ジルベルトの心は動かされた。その結果、ミリアーノ組の資金で、この島に寄宿制の学校が造られることになったのだ。


 この島に送られてくる悪人は、ギリギリ死罪にならない者ばかり。彼らは男女関係なく、どうしようもないクズか、詐欺師や知能犯。そう言ったタイプに分かれる。


 アキラは、知能犯たちを教師として起用し、学校の警備をミリアーノ組に任せていた。


 そして、一年と少し前。その学校にリョウタが訪れた。彼はアキラにバレることを恐れたのか、職員の求人で面接に来た、という(てい)を装っていた。そして、誰にも知られることなく、ジルベルトの娘、サーラ・ミリアーノを連れ去ったのだった。


 この件は、アキラがミリアーノ組を襲撃する前の出来事である。


 リョウタが血まみれの姿でジルベルトの前に座った時、すでに娘のサーラは誘拐された後だったのだ。娘が誘拐されたことを知ったジルベルトは、リョウタの言いなりになるしかなかった。


 この件をいち早く知ったリーナ。


 アキラが知れば、サーラを救い出そうとするに決まっている。だが、それがリョウタの耳に入れば、サーラの命が危なくなるかもしれない。ジルベルトは、リョウタの要求に従うしかない。リーナはそう判断し、絶対にアキラに知らせてはならないと、ジルベルトを説得した。


 ジルベルトは、唇をかみ締め、涙を流しながら頷いた。サーラの命を守るために。


「くそっ!」


 リーナの独白を耳にし、アキラの胸には遣り場のない怒りが渦巻いていた。立ち上がっては座る、考え込んでは立ち上がる。そんな行動を繰り返していた。


 黙って聞いていたファーギが口を開いた。


「厄介な話だな。だが、そこのドワーフとエルフを一方的に責めることはできない……だろ? それと、解決策が全く無いわけでもないぞ?」


 その言葉に、隠しきれない苛立ちを感じながら、アキラの動きが止まる。


「ああ? どうやってサーラを救い出すんだ? 俺が動けば、勇者たちに必ず見つかる。そうなれば、リョウタはサーラを躊躇なく殺す! 軽々しく解決策があるなんて言うんじゃねえ!!」


「アキラは動かなくていい。お前、声でかいし、隠密行動には向かない」


「じゃあ、どうしろってんだよっ!!」


「あー、いや。ギルマス(・・・)、この島にSランク冒険者が三人も来てるって忘れてないか? それと、ソータがここのダンマスになってるって事も忘れちゃいねえか?」


「……回りくどい言い方はやめろ。サーラを救い出すにはどうすればいいんだ? デレノア王国軍の侵略も阻止しなきゃならないんだぞ」


「依頼を出せばいい。ワシらは冒険者だぞ、ギルマス(・・・)


 ハッとするアキラ。彼は流刑島で長く暮らしており、外界との繋がりを失っていた。そのせいで、島にやってきた冒険者に頼るという発想が抜け落ちていた。


「……その手があったか」


「ボケたこと言ってんじゃねえ。ワシらは勇者たちが想定していなかった駒だ。格安料金で依頼を受けるぞ」


「分かった。ファーギ、ソータ、ミッシー、この三名に指名依頼を出そう。依頼内容はサーラ・ミリアーノの救出。必ずぴんぴん元気な姿で連れ帰ってくれ」


「……怪我くらいはするかもしれん。しかしその依頼、受けさせてもらおう」


「あー、話の途中で申し訳ないが、安請け合いしているように見えてしまってな……。大丈夫なのか? そのドワーフで」


 黙って話を聞いていたジルベルトが、心配して声を掛けた。彼にとっては、自分の娘の救出依頼だ。依頼を受けると言ったファーギが、自信なさげな態度を見せて不安になったのだろう。


「そういえばさ、ソータちゃん、どこにいるの?」


 リーナが口にしたのは、ここにいないソータたちの件だ。Sランクダンジョンでは、魔導通信機や念話が使えない。つまり彼らと連絡が取れていない。


『話は聞かせてもらった! あたしがソータ君に伝えてあげる!』


 突如聞こえてきた念話。それが聞こえたのは、アキラとリーナ、ファーギとジルベルトの四人だけだ。室内にいる護衛のオークには、何も聞こえていない。


『ソータ君に伝える? お前、ソータが言ってたダンジョンコア( アビソルス )か?』


 いち早く気付いたファーギが念話で問いかける。


『そうだよー! あたしの中で好き勝手やってる奴ら、ハッキリ言って許せないんだ! けどさー、あたしが食べちゃったら、かわいそうじゃん? だからニンゲン同士でけりを付けてねっ!』


 ニンゲンに友好的なダンジョンでありながら、ダンジョンマスターからフワッとした指示しかもらってないアビソルス。割と自由に動いていた。


 ここでの会話が全て聞かれていたと気付いたファーギは、此処ぞとばかりに条件を付け加えた。


『依頼の件は、しっかりソータたちに伝えてくれ。それとアビソルス、ダンジョン内部にいる、デレノア王国の勇者たちをすべて拘束してくれ!!』


『えー、髭もじゃファーギは、あたしのマスターじゃないでしょ? 言うこと聞くわけないじゃん? バーカ、バーカ』


『くっ! まあいい。依頼の件頼んだぞ!!』


『これは、あたしの好意だからね? 変なこと言うと食べちゃうぞ? 食べないけど!』


 ソータの肩に乗っていた時とは大違い。自己嫌悪に陥っていたアビソルスは、昔の陽気さを取り戻していた。


『あ、返事あったよ! 依頼、受けるってさ! それと、髭もじゃファーギは、作戦通りアキラとリーナと行動して欲しいだって! よし! あたしの役目は終わりっ!!』


 伝言役を務めたアビソルスは、念話を切って沈黙した。これ以上は、手助けをする気は無さそうである。


「……まあ、連絡が取れただけでもよしとしよう」


「あ? 俺の娘の命がかかってんだぞ? 適当なこと言ってると、簀巻き(すまき)にしてクラーケンの餌にすんぞこら!」


 そう言ってファーギに頭突きを食らわすジルベルト。額どうしがぶつかって、鈍く重い音が部屋に響く。


「ちったあ元気になったみたいだな」


 塞ぎ込んでいたジルベルトは、ファーギの言葉で気付く。少し前より、心が軽くなっていることに。

 盟友であるアキラを裏切って、彼はここ一年ほど気に病んでいた。娘の命を救うためだとしても。


 しかし、彼は全て話してしまった。


「アキラ……、済まなかった」


 ジルベルトはアキラに向かって土下座した。額を床にこすり付け、じっと動かなくなった。気持ちがこもっていた。


「いいさ、俺に謝るより、ファーギに礼を言った方がいいぞ。サーラを探しに行ったのは、俺と同じ異世界人(日本人)だ。期待して待って――」


 アキラはハッとして喋るのをやめ、部屋の壁を見つめる。ファーギとリーナも、気配を感じて立ち上がった。


「ジルベルト、お前は隠れてろ。リョウタが来た」


「くっ!」


 娘を誘拐した犯人が近づいている。ジルベルトは小屋の外へ出ようとして、護衛のオーク二人に捕まえられた。


「おい髭もじゃ」


 髭もじゃのファーギが、髭もじゃのジルベルトに声を掛ける。


「なんだ! リョウタは、ここに居る皆で殺してしまえばいいだろうが!!」


「違うんだよ、ジルベルト。あんたがここにいたら、サーラのことを話したとリョウタに知られてしまう。ジルベルトはここにいなかった。そうしないと、万が一にでも、リョウタを討ち漏らせば、サーラの命が危なくなる」


 オークの護衛たちも状況を理解していたのだろう。彼らは迷わずジルベルトを抱え上げ、調理場に入っていった。その際、ドアを開け閉めする音が聞こえてきた。


 そこには小屋から出るドアはない。リョウタがダンジョンマスターだった時に造った、地下の食糧貯蔵室への入り口だった。


「リーナ、ファーギ、二人とも裏口から出ろ。俺がリョウタと戦う。お前たちは隙を見て攻撃するんだ!」


 アキラはリーナとファーギが飛び道具を使うことを考慮してそう判断したのだろう。二人とも無言で同意し、すぐに裏口から出ていった。


 リーナとファーギが立ち去るのを見送り、アキラは正面のドアに手をかけた。だがその瞬間、木製のドアは内側へ吹き飛ばされた。


 アキラは避ける間もなく、ドアと共に吹き飛ばされ、壁にぶつかった。


「くそっ!!」


 アキラは障壁を張り、無傷に見えた。しかし、障壁の内部であちこちをぶつけ、身体中に打撲傷を負っていた。


 もうもうと煙が舞う中、足音が近付いてくる。


「ダンジョンコアの回収に来たんだけど、なんでお前がここにいる? 先生には相手にするなって言われたけどよ、せっかくだし決着を付けるか」


 ドアが無くなった入り口から、リョウタが姿を現した。彼の手には、芸術品のように美しい魔導銃が握られていた。

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