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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
7章 再会

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152 流刑島ダンジョン再突入

 流刑島ダンジョンの最下層。巨大ホールとはまた別の場所に、長い長い通路が作られていた。流刑島からデレノア王国へ脱出(・・)できる通路である。


 何者かによって島が攻撃され、森が燃えた。その矛先が、街に向くのは時間の問題だ。ミリアーノ組はこんな事態に備え、デレノア王国へ脱走できる通路を作っていた。


 そんな筋書き(・・・)で煽動された島民たちが、通路に集まってひしめき合っている。流刑島から脱走するために。


 ただし、行く手をふさぐようにミリアーノ組の者たちが立ちはだかっていた。通路のドアに入ってチェックを受け、合格したものだけが先に進めるのだ。


 その中でも、ひときわ目立つ人物がいた。水玉模様のスーツ姿に団子っ鼻、小太りの奴隷商人、ロイス・クレイトンである。彼はソータとの邂逅を経て、デレノア王国へと舞台を移していた。


 ロイスは手もみをしながら、ヨシミとリョウタに敬意を表し、深々と頭を下げる。


「リョウタさん、初めてお目にかかります。ヨシミさんから、詳しいお話は伺っておりました」


 奴隷化する人数が膨大であるため、高い技術を持つ奴隷商人、ロイスに白羽の矢が立った。それはスキル〝奴隷紋〟によるものだが、未だ表沙汰にはなっていない。


「初対面だな。噂によれば、名うての奴隷商だとか」


 リョウタは冷ややかな声で言った。奴隷制度に対して、彼自身も何か思うところがあるのだろう。


 ロイスのスキル〝奴隷紋〟は、ヨシミたちも知らない。彼は絶対に隷属(れいぞく)化する場面を見せないのだ。


 ただしその効果は絶大で、ロイスが奴隷にした者たちは、主人(あるじ)の言葉に絶対服従し、何でも言うことを聞くようになる。命令されれば、命をも捨てる。それほどの忠誠心を持つのだ。


「それじゃわしはこの辺で……」


 へこへこ頭を下げながら、ヨシミたちから離れていくロイス。隷属化の作業が止まり、並んでいる島民たちが騒ぎ始めたからだろう。


 通路に接する小部屋。ロイスはその中で、島民を隷属化させている。出てきた者たちに、特に変わった様子は見られない。だが、主人として指定される、勇者たち(リョウタやヨシミ)の指示には完全服従となる。


「ケンタロウ、何人くらい通した?」


 リョウタが声を掛けたのは、宮崎(みやざき)健太郎(けんたろう)。彼もまた、クラス転移でこの世界へ呼び出された者だ。


 ケンタロウは、小部屋から出てくる隷属化済みの島民に指示を出している。彼らは「流刑島を離れ、これから自由の地へと向かう」と言い含められている。その瞳は希望の光に満ち、歓喜の感情を爆発させながら先へと進んでいた。


 大げさすぎる反応は、隷属化による効果だ。


「千まで数えたがもうやめた! お前ら少し静かにしろ!!」


 大声で返事するケンタロウ。オーク族並みの巨体から発せられる声が、通路に響き渡る。前半はリョウタ、後半は島民たちに向けて。順番待ちしている島民が、早く通せと騒いでいるのだ。


 街の至る所に隠されていたダンジョンへの入口が、ミリアーノ組によって開かれている。そのため、この通路には住民たちが殺到し、混雑が激しくなっていた。


「わかったよ!」


 リョウタは耳をふさいで返事をし、ヨシミと一緒にそそくさとその場を離れていく。


 街の方から押し寄せる住民たちの騒動は収まるどころか、声が大きくなって激しくなってゆく。リョウタは違和感を覚え、ふと足を止める。住民たちの声に、何か別の者に対する罵声が混じっていることに気付いたのだ。


「……先生、見て下さいよあれ」

「あらー! なんなのかしら?」


 リョウタの声でヨシミが振り向く。視線の先に、ソータ、ミッシー、マイア、ニーナ、の四人が、憤怒の形相で迫っていた。


「おらぁ、テメエらちゃんと列に並んでろや!!」


 ミリアーノ組の者が、騒ぎの原因ソータたちに気付いて、ドスの効いた声で注意する。ソータたちは、島民を押し退けながら来ているので、島民人からも非難ごうごうである。


「おいリョウタ、あの先頭のやつ日本人じゃないのか?」

「さあな? アジア系の顔立ちは珍しいと思うけど……。先生どう思います?」

「何とも言えないわね。流刑島の住民にしては、ずいぶんといい装備してるとは思うけれど」


 ソータは何も持たずにいたが、ファーギ特製の上質な黒コートを着用していた。地味な見た目ながら、鑑定眼を持つ者ならその高級さを見抜けるだろう。


 ミッシーは祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグ、マイアとニーナはファーギ特製の武器を持っている。


 この四人を見て、リョウタとヨシミは少しずつ後ろに下がり始めた。それに対し、ケンタロウは前に出る。


「テメエら、何もんだ!!」


 ケンタロウがソータたちに大声で呼びかける。ミリアーノ組の者を押しのけ、彼が先頭に立つ。


「ここで島の人を奴隷にしてるって聞いたんだけど、どういう事だクソ野郎どもが! ――あっ!」


 ソータが喋っていると、宮崎(みやざき)健太郎(けんたろう)の首が裂けて、血が噴き出した。彼は何が起こったのか分からないまま、止血のため首に手を当てる。しかし出血の勢いで手が膨らみ、指の隙間から鮮血が溢れ出す。


 やったのはニーナ。


 振り抜いた短剣から、一筋の血が流れ落ちた。


 ソータはそれを見て頭を抱えている。


「ケンタロウさん!!」

「誰か治療薬を持ってこい!!」

「攻撃したのはあいつだ!! テメエら、()っちまえ!!」


 ニーナの暴挙で、ミリアーノ組は騒然とする。


 列に並んでいた島民たちも驚いている。ニーナの凶行ではなく、島の人を奴隷にしているという、ソータの言葉が耳に入ったからだ。


 刃物沙汰や流血沙汰なんて、島民にとっては日常の光景。慌てて逃す者などおらず、ソータの言葉が本当なのかと、余計に騒ぎ始めてしまった。


「あーあ」


 ソータは無念の色を浮かべる。


 ミリアーノ組に襲いかかる島民たち。狭い通路の後ろから押し寄せる彼らは、ミリアーノ組の者たちを引き裂くようになぎ倒していく。怪我を負ったケンタロウはかろうじて無事のようだ。組の者が持ってきた治療薬を飲んで、首の傷を癒やしている。


 そんなケンタロウに、押し寄せる住民たちを何とかできるはずもなかった。手下の組員を引き連れて逃走に転じ、全力で走り始めた。


 ソータたち四人は、通路の壁に張り付いて、その流れに巻き込まれないように耐えている。というのも、島民たちが進んでいく通路は、流刑島の街へ通じているのだ。これはソータがアビソルス(ダンジョンコア)に命じて、通路を作り替えたおかげである。


『なあアビソルス』


『はーい』


 先ほどは返事ができないくらい落ち込んでいたダンジョンコアだったが、どうやら話せるくらいには回復したようだ。


『この通路、咄嗟に作り変えてもらったけど、大丈夫かな? 誰かの家の中に繋がったりしない?』


『ん、大丈夫だよー。みんな海岸に出るようにしたからー』


『そっか、助かるよ』


『どういたしまして!』


 島民たちによってトコロテンみたいに押し流されていったのは、ケンタロウとミリアーノ組の者のみ。リョウタとヨシミは、いち早く難を逃れていた。


「おや? 騒々しいと思って様子を見に来たら……」


 小部屋からひょいと顔を出したロイス。列を成す島民たちが消え、そこには白い壁ができていた。通路の奥へ視線を移すと、遠ざかっていくリョウタとヨシミ、それに続く奴隷たちの背中が見えていた。


「ダンジョンの構造が変わった? ダンマスはたしか、あの小僧だったはずだが……?」


 リョウタの背中をじっと見つめるロイス。たぷたぷになっている(あご)の肉をたぷたぷしながら、彼は考え込む。


「デレノア王国は軍備の増強で、喉から手が出るほど奴隷を欲していた。それをほっぽり出して逃げるのはあり得ない。つまり、不測の事態が起きた? あの凶悪な勇者たちでも対処できないほどの? は? マジか。 ……わしも一旦引いた方がいいな」


 ロイスは部屋に戻り、デレノア王国へ通じるゲートを開く。彼は隷属化させた奴隷と共に、そこをくぐっていった。


 ゲートが閉ざされるや否や、通路にドアが現れた。そこから姿を現したのは、ソータたち四人。彼らは島民に気付かれぬよう、密かにこの通路へと潜り込んできたのだ。


「小部屋……?」


 ドアを眺めつつ、ソータが問いかけると、ミッシーが答える。


「ここで隷属化させて先へ進ませていたんだろうな」


「奴隷商人は、隷属化する場を見せないものですから……」


 マイアが付け加えた。


 ニーナはドアを開け、小部屋の中を覗いてみる。


「誰もいないわ。もう逃げた後みたいね」


 この通路は少しカーブしているので、既にリョウタたちの姿は見えていない。


「遠ざかっていく気配がある。マスタールームにいた奴だ。アキラさんが言っていたリョウタという人物かな?」


 ソータの疑問に、ミッシーが頷いた。彼女は冒険者ギルドで、アキラとリョウタの戦いを目撃していたため、その気配も覚えている。


「そっか。んじゃ、コッソリ後をつけて、どこに行くのか確かめよう」


 ソータの言葉でリョウタたちの追跡が始まった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 その一方、リョウタとヨシミは、隷属化した島民を引き連れて逃走中であった。


「クッソ、あのガキがダンマスになった奴か!!」


 リョウタもこの世界に来て三十年。見た目はいいおじさんである。二十六歳のソータを見て、ガキだと言い放っているのだ。その表情には、彼を見下すものと焦りが入り混じっている。


 ヨシミはそんなリョウタを見て、憐れむような視線を向けていた。


「おってきている彼は、ダンマスになっても、上手く使いこなせてないみたいね。リョウタなら、モンスターをポップさせて襲わせるくらいするでしょ?」


「くっ!!」


 ダンマスの権限を奪われたことがよっぽど悔しいのか、走りながら壁を殴り付けるリョウタ。もちろん壁には傷一つ付かない。


 しばらくすると、二叉の分かれ道が見えてきた。そこに立つひとりの女性が、不安げな顔で呼びかけた。


「先生!! 何があったんですか?」


「何者かの襲撃よ。リョウタがダンマスの権限を奪われたの。だから、新しいダンマスから何かされる可能性が高いわ! ナツコ、奴隷たちを連れて急いで脱出するわよ!」


 山田(やまだ)奈津子(なつこ)は、ケンタロウに指示された奴隷たちが、誤って巨大ホールへ行かないように通路の整理をやっていた。


 右が巨大ホール、左がデレノア王国へ通じている。


 奴隷が巨大ホールへ向かってしまうと、何も知らないミリアーノ組の家族(・・)に動揺を与えてしまう。それを防ぐため、彼女が奴隷たちを左の通路へ誘導しているのだ。


「わ、分かりました! ケンタロウは来ないんですか?」


「新しいダンマスが通路を作り変えて、流刑島の住人と一緒に押し流されていったわ!」


「えっ! 大丈夫かな、ケンタロウ……」


「彼の能力は知ってるでしょ? 大丈夫よ! それより、繋ぎのダンマスたちは待機させているのよね?」


「ええ、しっかり待機して見張ってます」


 Sランクの流刑島ダンジョンは、とてつもない規模がある。しかし、流刑島から三方向に伸びるトンネルを造れるほどの拡張能力はない。海底トンネルは、他のダンジョンが接続された形で延伸されているのだ。


 よって、その区間には、ダンジョンとダンジョンマスターが複数いることになる。


「先生! 俺は大ホールにいるデレノア王国軍と、ミリアーノ組の様子を見てきます!」


「分かったわ。ダンジョンコアの回収もお願いね」


「了解しました!」


 三叉路での会話は速やかに完了した。ヨシミとナツコは奴隷を引き連れ、デレノア王国への通路を進んでいった。それを見て、リョウタは大ホールへ続く通路を走り始めた。


 やがてソータたちは現場に到着した。


「奴隷を連れた奴はこっちに逃げてるみたいだけど、元ダンマスは別の方向に行ったな」


「どっちを追う?」


 ミッシーの問いかけにソータは即座に答えた。


「奴隷だ。肉の壁なんて言語道断だ」


 ソータはミッシーとマイアとニーナの目を見て、キッパリ言い切った。彼女たちも同じ気持ちのようだ。


 ソータたち四人は、奴隷を引き連れて逃げるヨシミとナツコの気配を追って走り始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 アキラ、リーナ、ファーギたち三名は、魔道具で姿を消してダンジョンを進んでいた。彼らが通ってきたのは、ミリアーノ組の親族が使っている通路である。周りにはたくさんの島民たちが同じ方向へ進んでいた。希望に満ちた表情で。


 ミリアーノ組以外は奴隷化されて、デレノア王国へ送られる。そんな話が他の島民に漏れてしまえば、大混乱になる。よって、ミリアーノ組以外の島民たちには聞かされていなかった。


 ミリアーノ組の親族たちは暗い顔でうつむいて、他の島民といっさい口を利いていなかった。そんな様子を見た他の島民たちは、何かあるのではないかと勘ぐっていた。


「ファーギ」


「なんだ? もうすぐ最下層に到着するぞ」


 ゾロゾロと進んでいくミリアーノ組の親族から離れ、アキラが声をかけた。ちょうど別の通路を進み始めるところだった。


「そうじゃねえ。やっぱ俺、あんたを見たことがある。デレノア王国の王都ハイラムで」


「……」


「あの当時、ハイラムの冒険者ギルドに依頼が出てた。内容は、俺たち虎の牙の捕獲、または殺害ってやつだ」


「そうだな、覚えてるよ」


「あんたも受けてたのか、その依頼」


「……ああ」


「何人殺した……?」


「ヒューバート、エルヴィン、ウィルソン、三人を捕まえて、冒険者ギルドに引き渡した。そのあと依頼人(デレノア王国)が処刑してるから、結果的にワシが三人殺していることになる」


「くっ!! 俺たち(虎の牙)は悪人じゃねえのに!」


 アキラが壁を殴ったからなのか、鈍く響く音と共に透明化が解けた。


「この件で謝るつもりはない」


「ああ、分かってるよ! 依頼だもんな!」


 周囲に誰もいないので、リーナも透明化を解いた。彼女の顔には、言い表せない深い悲しみが浮かんでいた。重苦しい空気の中、アキラがドアを開けた。


 彼らの目の前に広がるのは、見たこともない巨大ホールだった。床も壁も、とてつもなく高い天井も、全て白。ダンジョンが造ったホールで間違いなかった。はるか遠くの方では、デレノア王国軍が整然と進軍している。彼らの目指す先は、マラフ共和国へと続く通路だ。


 ホールの中央には、ひときわ目立つ小屋が建っている。そこはソータが訪れた、ジルベルトがいる小屋である。


「情報通りだな」


 本来ならこの光景に驚嘆すべきだろう。しかしアキラは周りに目もくれず、小屋を目指して歩き始めた。


 その顔は憎悪で歪み、怒りに震える足取りだった。


「待てよ、アキラ。見つかるぞ」


 ファーギの忠告に、アキラは耳を貸さない。リーナもアキラについていく。


「ふぅ……。ソータのように思慮深く行動できないものか……。同じ地球人でも、色々いるんだな。ま、当たり前か……」


 ファーギはため息をつきながら、透明化を解除した。


 やがて、彼らはミリアーノ組の見張りに発見された。

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