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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
6.5章 アキラの章

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150 父と母【アキラ:結】

『アキラ! こいつら、あたしを――』


 狙っている。と言い掛け、マリエルは口をつぐんだ。何故ならアキラが娘たちを抱きしめ、母が戦う怖い場面を見せまいとしていたからだ。


 マリエルの瞳は助けて欲しい、というものから、イサムとヨシミを引きつける、という意味へ変わった。



 それに戸惑うアキラ。



『ぐっ……。どうすれば』

『ママどうしたの?』

『パパー、ぎゅっが強くて痛いよー』


 ひと言洩らした言葉で、娘を不安にさせた。そのせいで、娘を抱きしめる腕に力が入ってしまった。さすがにもう誤魔化すことはできない。両腕の中の娘たちは、モゾモゾと動いてアキラの腕から逃れようとし始めた。


 マリエルは素手でありながら、上手いことスキルを使って、イサムとヨシミを翻弄している。彼女のスキルなら、いくら勇者といえども簡単に倒すことはできない。


『少しだけ時間がある。お前たち、このまえ森の中に隠れ家を作っただろ? そこで少しだけ遊んでていいぞ』


 アキラはそう言って、娘たちを移動させていく。


 どうやら彼は、娘たちを安全な場所に置いて、この場に戻ってくるつもりのようだ。奮戦する母を見せぬよう、アキラは後ずさりをしていく。



 ――ガサリ



 藪から聞こえた音で、娘を抱え直したアキラが跳ね退く。


『おい……』


 藪から顔を出したのはスザク。全身に火傷を負って、いまにも倒れそうである。小声で話しかけてきたのは、不審人物――イサムとヨシミに気付かれないためだろう。


『なんだその火傷は? あと、何が起こってる? ここには簡単に来られる場所じゃねぇのに、なんでイサムとヨシミが来てる』


 アキラはドルフ特製の治療薬を投げ渡す。彼は狩りに出ていたので、武具も装備しているし、万が一に備えて回復薬と治療薬を持っていたのだ。


『……助かる』


 スザクは暗い顔で治療薬を飲み干し、口速に状況を伝えた。


 ドルフが死んだと聞いたアキラはすぐに決断した。スザクには娘たちと共に、森の奥へと逃げ込んでもらうと。


 イサムやヨシミの攻撃を巧みにかわすマリエルの姿が見えなくなるまで。


 スザクは、治療薬で火傷が完治。怪我ひとつ無くなっている。ただ、スザクがアキラに伝えた物騒な話が聞こえていたようで、双子たちは不安げな表情になっていた。


『スザク。この()たちを連れて、かくれんぼ(・・・・・)に行ってくれ』


 それを察したアキラは、双子たちがいま起きていることに勘付かないように、スザクと一緒にかくれんぼ(ここから逃走)するように言った。


 アキラの柔らかい笑顔は決して不安を与えるものでは無く、双子たちはホッとしてスザクへ近付く。


『スザク、右目の泣きぼくろがケイシー、左目のな泣きぼくろがルーシー、間違えんなよ? 親として自覚を持って育ててくれ』


 優しさを湛えた顔で、娘たちの命を託すアキラ。その眼差しには、必ず生き残れという願いが込められていた。


『ふざけ――――』


 声を上げかけて、すぐに我に返るスザク。スザクとドルフはかつて、痛ましい事故で子どもを失った。そのため、ここで生まれた双子たちに、まるで彼らが実の親のように愛情を注いでいた。


 スザクもドルフも甘やかすだけのじいじ(・・・)ポジションで、アキラとマリエルはしつけ担当。六歳の娘たちは、当たり前のようにスザクとドルフに懐いていた。



『親は子を命がけで守る。だろ?』



 笑顔でそう言い残し、アキラはマリエルを助けに駆けていった。



 呆然とするスザク。


『親はお前たちだろうが……』


 少しだけ怒気を含んだ声に、双子たちは敏感に反応した。


『スザクじー?』

『かくれんぼいかないのー?』


『……いくぞ』


『やったー!』

『ひゃっほー!』


 かわいい笑顔で喜ぶ双子たちを見て、スザクは涙を流す。だが幸いにもスザクの怖い顔が功を奏した。双子たちはスザクが泣き顔をしていることに気づかなかったのだ。


 百人いた虎の牙は、ほとんどが勇者の一味にやられている。その中心には必ずリョウタ・タジマがいた。他の勇者たちは、襲撃ごとにメンバーを変えていた。


 今回もそうだ。黒眼黒髪でデレノア王国軍の制服であれば、間違いなく勇者である。


 勇者二人に、アキラとマリエルでは勝ち目がない。


『だが……』


 足元からよじ登ってくる双子を見て、スザクは気持を切り替えた。


『よーしお前たち! めちゃくちゃ速く走るからな! 振り落とされるなよ?』

『へっへーん、ばかにすんなー』

『あぶなくなったら髪の毛引っこ抜くからねー』


『その意気だ!』


 スザクの両肩にしがみ付き、双子の準備が整った。それを確認したスザクは、電光石火の如く森の中を走り抜けていった。




 その逆方向へ走るアキラ。マリエルは、イサムの短槍とヨシミの魔法を軽々と躱している。アキラたちに注意が向かないよう、畑の土を顔に向かって投げ付けたり、引っこ抜いた白菜を投げ付けたり、地味だけど苛つくような嫌がらせをやっていた。



 ――ズドン


 アキラは〝身体強化〟〝加速〟〝超加速〟三つのスキルを同時に使って移動。瞬時に音速を超えた。


 ヨシミは障壁を張る事もできず、アキラの突き蹴りが鳩尾(みぞおち)に入った。ヨシミの身体はくの字に折れ曲がり、胃液をぶちまけながら吹っ飛んだ。


 ――ズドン


 そんなヨシミに気を取られたイサムの右側頭部に、アキラの左ハイキックが直撃。その瞬間、イサムの意識は闇へ沈み、身体は畑の土に沈んだ。


『マリー、大丈夫か?』


『ええ、もちろん。でも、あの子たちは?』


『スザクに任せた』


『……そう。仕方がない……けど、ちゃんとお別れ言いたかったかな~』


『……すまん』


『いいのいいの! あたしのせいだし!』


 マリエルの大きな(まなこ)から涙が溢れ出す。笑顔を作ろうとしても、無理だった。顔がくしゃくしゃになって、嗚咽が漏れ出した。森の風がその声をさらっていく、虚しくも悲しくも娘たちに届かないまま。


 そんなマリエルを見て、アキラの怒りは頂点に達した。


『おいっ、寝てんじゃねえ!!』


 アキラは畑の白菜を押し潰して気を失っているイサムの横腹を蹴る。


『ごはっ!?』


 イサムはアキラに蹴り上げられた痛みで意識を取り戻す。


 宙を舞うイサムが落下する地点にアキラが先回りする。


 そこでアキラはもう一度、イサムを蹴り飛ばす。


 イサムは再度意識を飛ばしたものの、激痛ですぐに目を覚ます。三度の蹴りで頭骨、上腕骨、肋骨、様々な骨が折れている。デレノア王国軍の制服に、防御魔法陣が縫い込まれているのにもかかわらず。


 だが、腐っても勇者。イサムは宙を舞いながらも、腰に付けた魔導バッグから治療薬を取りだし、一気に飲み干す。


『あー、殺せたのに、打撃かよ……。アキラ、テメエぬるくなったな』


 イサムの骨折や打撲が一瞬で治る。デレノア王国軍で配付される特製の治療薬を使ったおかげだ。不敵な笑みを浮かべて着地したイサムは、短槍を構え直す。


 その前に突如現われるマリエル。


 不意を突かれたイサムは、マリエルの姿が本物なのか幻なのか、一瞬の迷いが生じた。これまで散々攻撃(メンタル)的心理操作(・マニピュレーション)で惑わされていたからだ。


『ぐわっ!?』


 しかし今回は、本物のマリエルが立っていたようだ。虚を突かれたイサムは、マリエルが投げ付けた畑の土を避けることができなかった。


 泥が目に入ると、治療薬ではどうにもならない。イサムは目を開けられないまま下がっていく。


 イサムは手のひらに水を生み出して、眼球の洗浄を始めた。水魔法を使ったのだ。


 だが、そんな隙をアキラが見逃すはずはない。


 イサムの頭を手のひらで引っ叩いた。


『――ぐぉっ!?』


 単純だが、効果的な攻撃だった。


 脳を保護している(のう)脊髄(せきずい)(えき)が、平手打ちの衝撃を吸収しきれず、脳自体が頭蓋骨内で激しく揺れ動く。そのため、脳神経細胞が一時的に機能を停止。その結果、イサムは夢幻の世界に取り込まれ、意識を失って白目を剥いて倒れ込んだ。


 下手をすれば、脳に障害が残るほどの打撃だったため、イサムはしばらく起き上がれないだろう。あるいはこのまま遷延性(せんえんせい)意識障害(いしきしょうがい)となり、永遠に目が覚めないかもしれない。


 アキラの平手打ちはそれほどのものだった。


 マリエルに視線を送って、アキラは頷く。


 もうひとりの勇者、ヨシミ・イソエを倒さなければならないと。


 アキラとマリエルは寄り添うように立ち、四つん這いで吐いているヨシミへ向かう。



 殺伐とした雰囲気とはうらはらに、爽やかな風が白菜の葉を揺らし、清涼な香りが漂う。


 だが、その穏やかな風景は、激しい剣戟の音が切り裂いた。




 ――ギィィィィィィン



 アキラがリョウタの剣を受け止めて火花が散る。


 太陽がさんさんと降り注ぐ中、二人の剣士は、胸に秘めた憎しみを刃に乗せて激突した。


 穏やかな白菜畑は、彼らの戦いの舞台となった。


 アキラはリョウタの鋭い斬撃を辛うじて避け、反撃に転じる。


 だが、リョウタもまた、その一撃を見事に捌く。


 彼らの剣は、憎しみに満ちあふれ、互いの死を追い求めて交錯する。



 リョウタの額には汗が滲み、歪んだ表情に少しだけ疑問が浮かんでいた。


 十年間追い続けているのは、マリエルではないのか。


 アキラがそう思ってしまうほど、リョウタの剣は憎悪にまみれていた。



 しかしアキラもまた、復讐の炎を胸に秘め、剣を振るう。


 これまで倒されてきた虎の牙の面子。彼は全員の死に顔を見てきた。


 そして今日、娘たちを可愛がっていたドルフじーさんが死んだ。


 だから退けない。こいつとは今日、この場で決着を付ける。


 アキラの思いは、リョウタの剣を凌駕していく。



 しかし、スキルを使った全力での戦いは、長くは続かない。


 疲労によって、彼らの戦いは終わりに近づいていた。


 リョウタは、最後の力を振り絞ってアキラに斬りかかる。


 だが、その一閃をアキラが見切り、リョウタの胸に剣を突き刺す。


 かに見えた。



 突如現われた火球がマリエルに直撃し、大爆発を起こした。


 ヨシミがマリエルにファイアボールを放ったのだ。


 彼女は隙を見て戦いの場から離れ、マリエルに遠距離攻撃を仕掛けた。


 冷静さを失ったリョウタと違い、ヨシミは保身のために殺害すべき相手をしっかり狙ったのだ。



『マリー!!』


 リョウタの胸に剣が刺さるその寸前、アキラはふたたびスキルを使って移動した。


 その隙にリョウタは治療薬を取りだし、イサムの口に突っ込んだ。



 身体中に火傷を負って倒れるマリエルを、アキラが抱き起こす。


『マリー、大丈夫か?』


 アキラもまた、ドルフ特製の治療薬を取りだしてマリエルに飲ませる。


 身体中に負った火傷が、みるみるうちに治っていく。


『え、ええ、平気。ごめんなさい、油断したわ。……ありがとう』


 泥まみれで畑に転がっていたマリエルは、元気に立ちあがる。


 アキラとマリエルは並び立ち、リョウタ、イサム、ヨシミ、三人と対峙する。


『俺が囮になる。マリーはスザクとの待ち合わせ場所へ向かってくれ』


『いやよ』


 二人は顔を寄せて小声で喋る。


 三人はいつ攻撃してきてもおかしくない。


『ダメだ。ケイシーとルーシーには、母親が必要だ。俺の(スキル)は知ってるだろ? 耳を塞いで走れ!!』


 マリエルを突き飛ばしたアキラは、腰を落として腹に力を入れる。両足でしっかり大地を踏みしめて、スキル〝呼号(こごう)〟を使った。アキラの声は轟音となり、対峙する三人を衝撃波で吹き飛ばした。


 ――ズドン


 アキラは再度、〝身体強化〟〝加速〟〝超加速〟三つのスキルを同時に使って移動し、魔法で攻撃してくるヨシミを狙う。


 しかしヨシミは、真っ先に狙われることを予期していた。


 四枚の障壁が粉々になるも、彼女は微動だにしなかった。最後の一枚が残っていたからだ。


 そしてスザクの時と同じように、ヨシミは転移魔法で姿を消した。


 スザクの時と違うのは、ヨシミの転移先がアキラの視界内だったこと。


 アキラは再度スキルを使って、ヨシミに迫る。


 転移魔法を使う前に斬る。


 アキラは決意を胸に剣を振りかざした。


『ふふ、あたしひとりに気を取られて大丈夫かしら?』


 ヨシミの意味ありげな言葉と、狡猾な顔。アキラはハッとして振り返る。


 視線の先に、リョウタとイサムに追い詰められたマリエルの姿があった。


 それだけではない。デレノア王国軍の制服を着た者たちが、森の中から多数現われた。


『ヨシミせんせー! イサムもリョウタも、急ぎすぎー!』

『あれ? もう終わりそう?』

『あいつじゃね? マリエル・ハートネット・バルガーってやつ』

『アキラもいんじゃん! だいぶおっさんになってんな!! ぎゃははははははは!!』

『そう言うあんたもでしょ!?』

『どうでもいい。こいつらを追い詰めるまで、八年もかかったんだぞ?』

『よし! これで俺たち安泰だな!』


 大召喚術で呼び出された三十六名が、この場に集った。


 アキラたち虎の牙を殺害するために。


 マリエル・ハートネット・バルガーの名も、虎の牙の一員として記録されていた。


 その情報源はリョウタ。


 リョウタはバルガー子爵を殺害している。娘のマリエルの目の前で。彼にとってマリエルは、自身の罪を暴きかねない目の上のコブだった。


 リョウタの保身のためのウソで、クラスメイト全員が騙されていたのだ。



 当時はその話で紛糾した。アキラに自首を勧めたいと言う者。アキラを恐れて泣きだす者。なぜその場でアキラを殺さなかったのかと、リョウタを殴り飛ばした者もいた。


 しかし、デレノア王国の貴族を殺したのであれば、罰せられるのはアキラだけではなく、クラス全員が罪を問われる可能性がある。


 リョウタはそう言って、クラスのみなを黙らせた。


 虎の牙がバルガー子爵家を襲撃して皆殺しにしたという話は、その当時広く知れ渡っていた。その中に、勇者として召喚されたアキラがいることも知られていた。


 故に、デレノア王国は、召喚した彼らに疑いの目を向けていたのだ。


 リョウタは、自分の行動を隠蔽する以外に方法がないと考えていた。





『クソッ! 全員で来てんのか!!』


 アキラはマリエルを助けに行くため、ヨシミに背を向けた。


 それがアキラのあだとなる。


『あんた、ほんとにぬるいわねぇ』


 彼の背中にヨシミが放った爆裂火球(エクスプロージョン)が直撃。アキラは大爆発に巻き込まれ空高く舞い上がった。


 意識が薄れゆく中、アキラの視界には、リョウタの剣がマリエルの首をはね飛ばす光景が映っていた。

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