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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
6.5章 アキラの章

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147 クラス転移【アキラ:起】

 三十年前、小国が乱立するハマン大陸は、群雄割拠の戦国時代だった。血を血で洗う戦いで国々は疲弊し、幸か不幸かそのおかげで絶妙な均衡が保たれた。


 しかし、思いがけない出来事が起きる。


 小国のひとつが、デーモンと呼ばれる異形の存在に支配されてしまったのだ。しかしそれは、ただの始まりにすぎなかった。デーモンは周囲の国々へ侵攻し、人間を捕食したりデーモン化させたりしていく。


 本来なら国々が一致団結して、デーモンの侵略を阻止しなければならない。しかしそうはならなかった。ここは盛衰興亡(せいすいこうぼう)を極めたハマン大陸。デーモンと戦おうものなら、背後から他国が攻め入ってくるのだ。


 デーモンはどこから現れたのか、そんな議論や調査も無く、ハマン大陸の国々はただただ守りを固めていった。


 そんな危機的状況に直面したデレノア王国の国王、カルヴァン・タウンゼント・デレノアは、デーモンに対抗できる力を持つとされる異世界人を呼び出すため、大召喚術を実行するよう命じた。




 その後、中学校のクラス三十四名と、大学の教育実習生が、この世界に召喚された。アキラとリョウタ、彼らもその中のひとりだ。


 召喚された場所は、王都ハイラムにあるアンジェルス教の大聖堂。クラスメイトたちは、興味、驚き、恐怖、さまざまな感情を顔に浮かべていた。そのとき、奥の玉座から立ち上がった国王が、重々しい口調で語りかける。


『この国はデーモンと他国からの脅威に晒されている。余は勇者であるあなた方にこの国の危機を救ってほしいのだ』


 その言葉で、クラスメイトの反応が三つに分かれた。


『勇者ってマジか!! 昔流行ってた(・・・・・・)転移もののラノベじゃね? (みなぎ)ってきたー!! よっしゃ、頑張るぞ!!』


『ざけんな! これは誘拐だろ!!』


『どうでもいいや……』


 協力的な者、非協力的な者、やる気のない者。


 騒ぎ始めたクラスメイトを黙らせたのは、当時のクラス委員長岡田(おかだ)(いさむ)。彼は近くにいた文官に話を聞き、大召喚術のおかげで、様々な特殊能力( スキル )や膨大な魔力を得たことを知った。彼はその事をクラスメイトに伝えたのだ。


 荒れまくっていた大聖堂が静まり返ると、国王が口を開く。


『済まないことをした』


 頭を下げて謝罪した国王を見て、大聖堂に集まった召喚術者や護衛の近衛兵がどよめく。


『国王陛下に頭を下げさせるとは……』

『無礼極まりない奴らだ』

『きっと何も出来やしないさ』


 言葉を発したのは、国王の背後に控える貴族たち。


『お止めなさい。陛下はこの国を救うため、身命を賭して大召喚術を命じられました。召喚された彼らに敬意を払いなさい』


 静かな声で注意する王妃殿下。彼女は王の隣に座り、その横には年端も行かぬ王子と王女が座っていた。王妃の言葉で再度静まる大聖堂。


 アキラとリョウタは、やる気がなさそうにしている。彼らにとって、今の状況は信じがたい茶番だと感じたからだ。クラスメイトから離れて、アキラとリョウタは静観する。


『しゃーない。デーモンを根絶やしにすれば、日本に帰れるってことだろ? やらせてもらうぜ!』


 クラス委員長の意気込みにつられて、クラスメイトたちは話を聞く気になった。しかし、文官が現れ、今日はもう休んでくださいと言って、宿泊施設へ案内していく。詳しい話は明日以降にするらしい。


 アキラとリョウタは少し遅れて付いていく。小声で話しながら。


『おい、アキラ』


『あー、わかってる。まったく知らない言語で喋ってるのに、会話出来てる(・・・・・・)んだよなあ。あいつら、おかしいと思わないのかな?』


『日本に帰れるって、誰が言ったんだよ。何のバイアスが掛かってんのか知らんけど、委員長ヤベえぞ?』


『リョウタ、俺はしばらく様子を見て、この国を出る。こういうのはだいたい、使い捨てにされるのがオチだ。リョウタはどうする?』


『は? そりゃ分かるけどさ、なんか宛てがあんの?』


『いんや、なーんにも』


『色んな意味で冒険だなあ……。面白そうだ、俺も付き合うぜ?』


『よし、剣道部最強コンビで蹴散らすぞ』




 半年後、アキラとリョウタは、クラスメイトの半数を仲間に引き入れて、城から脱走。王都を抜けて、隣国の国境付近まで到達していた。首尾は上々、事は万事上手く運んでいる。


 しかし、ひとりの女子生徒の何気ない爆弾発言で、アキラたちに緊張が走る。


「あたし、この国を出たら告白したい人がいるんだ!」


 ニッコリ笑顔でフラグを立てる三浦(みうら)麗奈(れな)。アキラとリョウタが、クラスメイトの半分を連れてこられたのは、彼女のおかげでもある。


 バレー部の三浦麗奈は、その美しさで周囲を魅了する存在だった。透き通るような肌に、黒髪が艶やかに波打ち、その瞳は、深く神秘的に輝いていた。彼女はチームメイトをいつも気遣い、献身的な姿勢でチームを引っ張っているキャプテンでもあるのだ。



 そして、彼らが国境を越えようとしたその時、クラス委員長の岡田(おかだ)(いさむ)と、教育実習生の磯江(いそえ)良美(よしみ)が、デレノア王国軍と一緒に姿を現した。


 二人はデレノア王国軍の制服を着ており、冷たい目で彼らを見下ろしている。


 彼らはアキラたちを逃さないように、待ち伏せていたのだ。



 脱走計画が漏れていた。


 アキラとリョウタは剣を抜き、デレノア王国軍と戦うも、同行していたクラスメイトたちを人質に取られて諦めざるを得なかった。その場で全員拘束され、王都ハイラムへ戻ることになったのだ。


 連行される帰りの道中、アキラは申し訳ない気持ちでいっぱいになり、クラスメイトたちの顔を見ることが出来なかった。


 王城に到着すると、アキラだけが地下牢へ閉じ込められた。他のクラスメイトたちがどこに行ったのか、彼には分からず仕舞い。


『どういうことだ……?』


 アキラが鉄格子の中で呟くと、足音が聞こえてきた。階段を降りてきたのはリョウタ。彼は見張りの衛兵に会釈をして、アキラの方へ近づいてくる。鉄格子を挟んでアキラとリョウタが対峙した。


『小学校からずっと一緒だったな。でも、今日でおしまいだ。アキラ、正直言ってお前のことは大嫌いなんだよ。最強コンビだなんて冗談じゃねえ! いつもいつも俺の邪魔ばかりしてきやがって!!』


 尻上がりに強い口調へ変わっていくリョウタ。積年の恨みをぶちまけるように、鉄格子越しにアキラに罵声を浴びせる。


 リョウタはアキラと比較され続けてきた。親や友達、学校の先生から。勉強も交友関係も剣道部の成績も、何でもかんでもアキラと比べられた。そしてリョウタは、全てにおいて一歩だけアキラに及ばなかった。


『だからお前の脱走計画は俺が潰した。俺はクラスメイトと一緒に、デーモン退治するんだよ!!』


 リョウタはそう言って地下牢から出て行った。アキラは呆然としたままだった。なぜこんなことになったのか。リョウタはいつからそう思っていたのか。自分は何故気付かなかったのか。様々な思いが駆け巡り、後悔するアキラ。リョウタの胸中を初めて聞き、アキラ目から一筋、二筋と涙が零れ落ちていた。




 数日後、アキラはまだ地下牢に閉じ込められていた。食事も水も与えられず、トイレにも行かせてもらえなかった。そんなとき、ひとりの虎獣人がアキラの前に現れた。彼はアキラに近寄ってくる。


『脱獄させてやる。その代わり、俺に協力しろ』


『脱獄?』


 男はスザクと名乗った。昔は盗賊団のボスだったが、いまはデレノア王国の密偵だという。


 身長三メートルを超える大きな虎獣人で筋骨隆々。凄く目立ちそうなのに密偵? そんな顔で見るアキラを、スザクは牙を剥いて獰猛な笑みを返す。


 アキラがふと見ると、牢を警備する衛兵はすでに殺害されていた。


『デレノア王国の密偵なのに、なんで味方の衛兵を殺す。あと、スザクってなんだスザクって。虎獣人だろあんた』


『スザクって名前の意味は知らん。俺の育ての親が付けたんだ。衛兵を殺したのは、俺が脱走の手引きをしたとバレないようにするためだ。あんたは脱走したいんだろ? 俺は密偵を抜けるため、あんたと協力する。どうだ?』


 その話が本当なのかアキラは吟味する。つい先日、長年連れ添ってきた友人に裏切られたばかりだ。会ったばかりで得体の知れない虎獣人の話を信じる訳がない。アキラの結論は出ていた。


『はっ! そんな目で見るな。おめえが裏切られたって話も聞いてる。そんなやつがぽっと出の俺を信じるわけがねえ。だがな、俺は密偵をやって、この国の闇を見た。俺も悪党だが、この国はそれ以上だ。後生だから、俺の世直しに手を貸してくれ』


 アキラの目には、事切れて血の海に沈む衛兵が写っている。味方であるはずの衛兵を殺害してまで、芝居を打つだろうか。


「世直しって何をするつもりだ?」


「俺もお前と同じで、お前のことがまだ信用できねえ。言うわけないだろ?」


 凶悪な笑みを浮かべるスザク。


「……」


「俺を手伝って死ぬ、ここで餓死する、好きな方をえらべ」



 しばらく考えてアキラはスザクの話に乗ることにした。スザクはニヤリと笑みを浮かべ、牢屋の鍵を使う。アキラとスザクは、城内の兵に見つからないよう地下通路を通り、ようやく地上へ出た。


 城から出ると、月が庭の芝生を照らしていた。衛兵の目をかいくぐり、城の外に出る。通りに人影はなく、王都は寝静まっていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 それから一年後、貴族の城や邸宅が襲撃される事件が多発するようになる。死人を出さずに金目のものを奪う、そんな手口で王都の民衆は沸いた。何故なら、悪に手を染めた貴族たちばかりが狙われたからだ。


 アキラはデレノア王国を襲撃してくるデーモンには無関心。スザクを頭領とする、盗賊団の一員として活躍していた。スザクはかつての仲間を呼び集め、盗賊団に虎の牙と名付けていた。


 宿の窓から差し込む朝日が眩しくて、顔をしかめたアキラが目を覚ます。


『クソダリい』


 彼はここ数日、まるで身体が泥の中に沈んだような感覚に苛まれていた。身体が重い、そう呟きながら、それでもなんとか起き上がり、身支度を整える。彼は朝食を摂る気力もなく、だるそうな顔のまま宿を出て行った。


 今日はバルガー子爵家の邸宅を襲撃する日だ。()の子爵は、自分の領地に隣接する村々を襲撃し、村の民を奴隷にしている。彼らは奴隷紋を刻まれ、デレノア王国内で売買されているのだ。



『おせーぞアキラぁ』

『昨日は遅くまで働いてたからじゃね?』

『違えねえ』


『くあぁああ、おはよう』


 欠伸(あくび)混じりのアキラに、虎の牙の仲間が声を掛ける。ここは王都の片隅にあるスラム街で、かつて蒸留酒の製造所だった建物だ。石造建築で中が広く、ここで寝泊まりしている者もいる。


 ここ最近、虎の牙は悪徳貴族を狙う義賊として名を馳せ、新たな仲間がどんどん増えていた。それもこれも、スザクの人柄あってこそ。


 彼は盗賊であり悪党である。スザクの顔は悪人そのもので、だいたいの犬は彼に吠える。暗闇で出会えば、魔物と見間違うほどだ。


 だが、その彼は人好きする性格で面倒見もよく、弱者を救い強者をくじくことを信条とする者だった。


 それがスザクという男の人柄である。


『集まってるかー』


 アキラと同じく、欠伸をひとつしながらアジトに来たのはスザク。そこには、バルガー子爵邸を襲撃する、百人近くの悪漢がすでに集まっていた。ヒト族や獣人、オークやゴブリン、エルフやドワーフ、種族の違いを超えて、同じ目的に燃えている。


 スザクは彼らの顔をひとつずつ見回し、欠員がないことを確かめた。そして、声を張り上げて作戦の内容を伝え始める。


 早朝から貴族の屋敷に押し入るという無謀な計画に、新参者から反対の声が上がったが、スザクは耳を貸さなかった。


 虎の牙は昼間に仕事をする。これはスザクが決めた掟だ。夜は酒を飲んで歌って踊る時間。だから日が沈む前に仕事を済ませる、というのが彼らの信条である。


『正面突破は二番隊の任務だ。アキラ、期待しているぞ』


『了解だ、一番隊長』


 スザクの指示に、アキラは無気力な声で返事をした。この異世界に大召喚術で呼ばれてから、一年半が過ぎた。その間に、彼は数々の特殊能力( スキル )を身につけている。


 虎の牙という盗賊団は、スザクの手腕で勢力を拡大していたが、その中核を支えていたのはアキラの力である。彼の魔法やスキルがあれば、貴族の屋敷を襲っても失敗することはない。金品を奪うことは容易いことだった。


『おいおい、こいつを忘れておる』


『おっ、いつもすまねぇな、ドルフ』


 アジトの奥から荷車を引いてくるドワーフ。彼は虎の牙の魔道具担当として、腕を振るっている。今回用意されたのは、姿が見えなくなるマントだ。それを受け取った虎の牙の一味は、次々にお礼を言う。


『今回大仕事じゃ。ここらのスラムだと、武装してなきゃおかしいが、貴族街にそんな格好で行けば、衛兵がすっ飛んでくるぞ? 身ぎれいにして行け。マントは貴族の屋敷に入ってから使うんだぞ?』


 ドルフも悪党だが、スザクと同じく気のいいやつである。少しだけケチ臭いけれど、虎の牙の最年長で知恵袋的な立場である。


『生きて帰ることが最優先だ。無駄な殺生はしない。さあ、今日もごっそりいただくぞ!!』


 スザクの声に呼応して、虎の牙の一味は気勢を上げた。

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