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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
6章 流刑島

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142 絶体絶命

 障壁の中で血のシャワーが降る。セスの首が床に落ちる寸前、滑り込んできたリーナが慈愛に満ちた腕で抱きかかえる。


 テイマーズの三人は、何が起こったのか理解できぬまま、恐怖で立ちすくんでいる。


「しっかりしろ!! この障壁はワシがも――」


 ファーギの叱咤が途中で止まる。

 アキラの周囲に、八体のフェッチ(ドッペルゲンガー)再度(・・)ポップしたからだ。


 合わせて二十一体のフェッチ(ドッペルゲンガー)が、この場に居ることとなった。



 劣勢を悟ったファーギはゲートを開き、そこにテイマーズの三人を投げ込む。その上で魔導剣を取りだし、近くにいるアキラ(フェッチ)を斬り付ける。


 この魔導剣はソータに黙って作ったもので、魔石の代わりに神威結晶を使っている。その(やいば)は魔力ではなく、神威で出来たもの。


 その刃は、剣ごとアキラ(フェッチ)を両断し、次いでセス(フェッチ)リーナ(フェッチ)を斬り伏せる。


「お前たちも早く逃げろ! このダンジョンは完全にワシらを殺しにきてる!!」


 ファーギは怒りで震える声をあげ、メリルの尻を蹴飛ばしてゲートをくぐらせた。


 リーナはセスの頭を抱きかかえ、涙を流しながら座り込んでいる。


 それを見たファーギは、リーナの襟を掴んでゲートに放り込む。


 ――ドン


 ファーギ(フェッチ)が魔導銃を撃つ。ファーギを狙って。


 しかしファーギは落ち着いて対処する。


 魔導剣で魔導銃のエネルギー弾をはじき飛ばした。


 ファーギは戦意喪失した仲間を避難させ、板状障壁とゲートを維持したまま、残り七体のフェッチ(ドッペルゲンガー)と向き合う。

 幾度となく修羅場をくぐって来たファーギは、一対多でもまったく動じていない。


 ファーギがふらりと揺れ動くと、身体がブレる。次の瞬間ファーギ(フェッチ)の首をはね飛ばし、メリル(フェッチ)テイマーズ( フェッチ )の三人を細切れにしていく。


 ファーギの魔導剣は、このダンジョンで初めて使ったもの。フェッチ(ドッペルゲンガー)の八体はファーギに対処できず、あっという間に全滅した。


 しかしこの調子だと、またフェッチ(ドッペルゲンガー)がポップする可能性が高い。ファーギはそう思ったのだろう。大声でアキラに声を掛ける。


「アキラ! お前もさっさと行け!!」


 だが、アキラはアキラで、八体のフェッチ(ドッペルゲンガー)を相手に戦っている。


 声は届いているようだが、一瞬でも隙を見せればフェッチ(ドッペルゲンガー)の攻撃をまともに食らってしまう。


 アキラはそんな状態で、逃げることもままならない。


 それを察したファーギは、ゲートを閉じ、障壁を解除する。


 その先にいる五体のフェッチ(ドッペルゲンガー)を、またたく間に斬り伏せた。


 残りはアキラと戦う、八体のフェッチ(ドッペルゲンガー)


 これは時間を掛ければ掛けるほど、不利になっていく戦いだ。


 これ以上フェッチ(ドッペルゲンガー)がポップする前に、この場を脱出しなければならない。


 ファーギがアキラを援護するために走り出すと、背後に二体のフェッチ(ドッペルゲンガー)がポップする。


 姿はファーギとアキラのもの。


 そしてファーギ(フェッチ)が、魔導剣を取りだした。


 ファーギは魔導剣を仕舞い、魔導バッグからライフルのような魔導銃を取りだす。


「魔導ライフルは見せたくなかったんだが、なっ!」


 神威結晶をエネルギー源とした魔導ライフルは、真っ白な光線を吐き出し、二体のフェッチ(ドッペルゲンガー)を蒸発させる。


 その威力は凄まじく、ダンジョンの壁に穴を開け、次から次へと壁を貫いていく。


 同時に、離れた場所で何か崩れる音が聞こえてきた。


 魔導ライフルのせいで、フロアの一部が崩れたようだ。


 ファーギは残りのフェッチ(ドッペルゲンガー)に狙いを付ける。


「アキラ!!」


 ファーギのその声と同時に、アキラはスキル〝加速〟を使い、瞬時に移動した。彼は次の瞬間、ファーギの隣に立つ。


 八体のフェッチ(ドッペルゲンガー)は一瞬何が起こったのか戸惑いを見せる。


 しかしそれが、彼らの最期となる。


 ファーギの魔導ライフルが極太の光を放ち、八体のフェッチ(ドッペルゲンガー)は、泡となる前に蒸発して消え去った。


 ファーギはすぐさまゲートを開く。


「そんな顔をするな……」


 アキラは首が無くなったセスを見つめている。


 死んだものを放置すれば、ダンジョンが吸収してしまう。


 横たわったセスの遺体は、既に半分ほど床に沈み込んでいるのだ。


「くそっ!!」


 アキラは歯を食いしばり、憤怒の形相でゲートをくぐっていった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチを整備する(かたわ)ら、お留守番をしていたリアム。連絡不精のソータはさて置き、ファーギやメリルからも連絡がなく少々不安になっていた。

 居ても立っても居られなくなった彼はバンダースナッチから出て、たき火の最中である。


 用心のため、いちおう魔物よけの(こう)()いている。強い魔物が出る森ではないけれど。


「んー?」


 パチンと弾ける薪を見ていると、背後に気配を感じて振り向く。そこには恐怖で顔を引きつらせたテイマーズの三人が、下着姿のまま力無く座り込んでいた。


「お、おい! 大丈夫っすか?」


 三人ともゲートから出てきたことを確認し、リアムは慌てて駆け寄る。次いで短剣を構えたままのメリルが、ゲートから出てきた。


 その次はリアムが知らない、背の低いエルフ。その胸にオークの首が抱きしめられていた。エルフの声にならない慟哭(どうこく)は、果てしない悲しみの表れだった。


 ただ事ではないと感じたリアムは、荷物搬入用の後部ハッチを開けて、バンダースナッチへ駆け込んでいく。彼が医療用品を抱えて戻ってくる頃には、ファーギたちが全員戻っていた。


「ファーギ、大丈夫っすか?」


「ああ、ワシは平気だ。しかし……」


 アキラは剣を地面に突き刺し、あぐらを組んで座り込んでいる。リーナはセスの首を抱きかかえたまま、涙を流している。

 テイマーズの三人は、リーナになんと声を掛ければいいのか分からず、周りをちょろちょろしている。


 しっかりしているのは、ファーギとメリルだけである。


「とりあえず、ヒュギエイアの杯で作った水を飲んで下さい。みんなヘトヘトじゃないっすか」


 バンダースナッチから持ってきた魔導バッグ。リアムはそれから瓶を取りだし、みなに配っていく。ダンジョン帰還組は、水を飲み干したところで、やっと一息つく。


「何があったっすか?」


 その声でファーギが答えていく。ついでにアキラとリーナの紹介を済ませ、一旦バンダースナッチの中で休むこととなった。


「うわっ!?」

「何これ!?」

「これダンジョンの入り口だ!!」


 テイマーズの三人が騒ぎ出した。


 リアムが焚き火をしていたすぐ側の地面に、ダンジョンと同じ白い素材で大きな階段が出来ていた。

 そこを覗き込むファーギ。大量のフェッチ(ドッペルゲンガー)が、階段を駆け上がってきている。


 ファーギは魔導ライフルを取りだし、地下へ続く階段に向けて引き金を引く。


 極太の白光は、ダンジョンの階段を融解させながら突き進んでいく。もちろんフェッチ(ドッペルゲンガー)も全滅だろう。


「ちっ! こいつを見せたのは拙かったか!」


 階段を駆け上がるフェッチ(ドッペルゲンガー)は、全てファーギの姿で、全て魔導ライフルを持っていた。


 ファーギは撃たれる前に撃った。しかし、あれが地上に出てきたら大惨事になる事は明らか。


「おい、ファーギ! こっちにも入り口が出来たぞ!」


 アキラの声でファーギが振り向くと、地面に新たな出入り口が出現していた。ファーギがそこを確認する間もなく、リアムが別の出入り口を発見する。バンダースナッチの周囲に、地下へ続く階段が次々に現われていく。


「メリル!! これを持って街に行け!!」


「了解!!」


 ファーギに手渡されたものを見て、メリルがゲートを開く。バンダースナッチで逃げても、フェッチ(ドッペルゲンガー)の魔導ライフルで撃ち落とされるのがオチ。ファーギはそう考えたのだろう。


 メリルは、テイマーズの三人をゲートに押し込み、リアムに手招きをする。


「早くこっちへ!」


 いまいち状況が分かっていないリアム。メリルから尻を引っ叩かれ、ハッとする。


「いやいや、バンダースナッチを置去りに出来ないっす。せっかく改造したのに、壊されてたまるもんか!」


 うおおおっ! と叫びながら、リアムはバンダースナッチに駆け込んでいった。


 それを見たメリルは、ため息ひとつ。


「アキラ! リーナ!!」


 突っ立ったまま動かない二人に、メリルが声を掛ける。


「俺はここに残る。このダンジョンは、おそらく俺を狙い撃ちにしているからな」


 アキラはそう言いながら、魔導バッグから禍々しい気配を放つ剣を取り出した。


「あたしも残るわ。セスのかたき討ちしなきゃ」


 リーナは弓を仕舞い、魔導バッグから(げん)の無いクロスボウを取りだした。


 メリルはそんな二人を見て、自分もゲートをくぐるかどうか、迷いが出ていた。残って闘うべきかと。


「メリル、お前は生き残って、皇帝陛下に事の詳細を伝えろ! 行け!!」


 ファーギは魔導ライフルを構えながら、そう言い放つ。彼もここに残るようだ。


「……くっ!」


 ここに残ると言った三人は、ダンジョン内で別格の動きをしていた。メリルは自身の実力不足を思い知ったばかり。ここに残れないことを恥じ入りながら、彼女はゲートをくぐっていった。


「アキラ、リーナ、一応伝えておく。こいつは、魔石ではなく神威結晶を使ってるから、魔導砲以上の威力がある。これから戦うフェッチ(ドッペルゲンガー)も、これと同じものを使って来るはずだ。……死ぬなよ」


 ファーギが忠告する。ダンジョンの入り口のひとつを、魔導ライフルで撃ち抜きながら。


 アキラとリーナは、顔色ひとつ変えずに、その言葉を受け止めた。


「上等だ……、ここはダンジョンの外。魔剣ラース(憤怒)を使っても、模倣できないからな」

「あたしの魔弓銃(まきゅうじゅう)エンヴィー( 嫉妬 )も真似できないからね!」


 奥の手を隠していた二人に舌を巻きつつ、ファーギはダンジョンの出入り口を撃ち抜く。


 残った三人の背後で、音も無くバンダースナッチが浮かび上がり、ものすごい早さで飛び去っていった。


「さーて、気合入れていくか!」


 ファーギは魔導ライフルを仕舞い、魔導バッグからショットガンの形をした魔導銃を取りだす。


 それを見たアキラが口を開く。


「さっきから思ってたんだが、ファーギは地球の銃器を参考にしているのか?」


「ああそうだ。こいつは、アラスカって場所で見たやつを参考にして作った」


 その魔導銃は、ケル・テックKSGとそっくりだ。散弾という考え方にヒントを得て作ったものだ。もちろん魔石ではなく、神威結晶をエネルギー源としている。


「どうやって地球に行ったのか、あとで教えてもらっていいか?」

「教えるのは、流刑島での勤めが終わってからだなっ!」


 呑気に話していると、とうとうフェッチ(ドッペルゲンガー)が地上に溢れ出してきた。

 そこから聞き覚えのある声がする。


「あっちゃー、やっぱアキラさんいたんですね。それと……、リーナさんも」


 魔導ライフルを構えたファーギ(フェッチ)が、階段から上がってくる中、五十名ほどのニンゲンが現われた。


 彼らを率いているのはレンツ。その手には、ダンジョン産の魔導ライフルが握られていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 流刑島ダンジョンの最深部。巨大ホールの天井から、何かの音が聞こえ始めた。


 マラフ共和国へ脱走中のミリアーノ組、同じくマラフ共和国へ進軍するデレノア王国軍、彼らは天井を見上げて、何が起こっているのかと騒ぎ始める。


「静まれい!!」


 それを一喝する老ドワーフ。彼の名はジルベルト・ミリアーノ。ミリアーノ組の組長である。


 彼の声がホール内に響き渡り、ざわめきが収まっていく。


 ジルベルトはそれを見て、満足そうに破顔する。端から彼を見ると、白髪で髭を生やした、ただの好々爺(こうこうや)に見える。その出で立ちは、ペイズリー柄のネクタイに、グレーのスーツ姿。裏地には、防御力を高めるための魔法陣が縫い込まれている。


 彼は護衛の構成員を引き連れ、ダンジョンコアが集められている小屋へ進んでいく。


「あ、オヤジ!」


 ダンジョンコアの集積所から、幹部の一人が近付いてきた。


 彼はジルベルトに顔を寄せて耳打ちをする。


 それを聞いたジルベルトは舌打ちをした。


「とうとうアキラにバレちまったか……」


 そう言いながらジルベルトは進み、小屋の中に入って行く。


 そこは簡易的ではあるが、ジルベルト( 組長 )が快適に過ごせるように、カウチやデスクなどが置かれ、木製ラックには瓶入りのモルト(大麦麦芽)ウイスキーが並べられている。


 護衛の一人がグラスを出し、ウイスキーを注いでいく。それを毒味するため、幹部の一人が一口飲んで確かめる。


「どうぞ」


 毒が無いと確信した幹部は、流れるような所作でグラスをテーブルに乗せた。


 カウチにどっかりと座ったジルベルトは、ウイスキーを舐めるように飲み始めた。先ほどの好々爺とは違い、気がかりなことがあって落ち着かない風である。



 ジルベルト・ミリアーノは大罪を犯して流刑島に送られてきた。もう二百年ほど前の話だ。当時の彼は、この島の荒れ具合に絶望して過ごしてきた。組同士で、血で血を洗う抗争が多発していたからだ。


 しかし三十年前、アキラがこの島に来て以来、治安が回復して住みやすくなった。あくどい組は、アキラが全て壊滅させ、新たな組が作られていく。


 アキラは新たな組にも目を光らせ、治安を乱すようなことがあれば力尽くで解決していく。そんな暴力での裁定は、流刑島の住民に合っていた。


「あの日あの時、ワシらは約束をした。流刑島をまともな島にしようと」


 ジルベルトとアキラの約束があって、この島が発展したと言っても過言ではない。しかし、ジルベルトはこの島に長くいすぎた。ドワーフは長命種であるが故に、ジルベルトは狭い島暮らしに飽きてしまったのだ。


 なによりジルベルトは自分の娘、サーラ・ミリアーノに外の世界を見せたい。その思いが日に日に増していった。


 そんなとき、突如現われたリョウタ・タジマ。


 構成員を大勢殺されても、流刑島の住民を奴隷として差し出せと言われても、彼は首を縦に振らなかった。


 流刑島から脱出できる、という対価を提示されても。


 だがしかし、彼は首を縦に振らざるを得なくなってしまったのだ。



「しかし何だ、この音は?」


 ジルベルトに聞かれた幹部は首を傾げる。他の幹部は、何が起きているのか調べに出て行った。


 天井から聞こえる音は、少しずつ大きくなっている。つい今しがた、その音でホール内が騒ぎにならないよう、ジルベルトは大声で一喝した。


 だが、それで音が消えたわけではない。


 ドン、ドン、という音は、既にホール内に響き渡るほどの大きさになっている。


 そしてとうとう天井の一部が崩落した。


 瓦礫が床に叩きつけられて砕け散る。



 大慌てで戻ってきた幹部が、口から泡を飛ばしながら言う。


「オヤジ! 天井が崩れやした!!」


 ダンジョンでそんな事が起こるはずがない。


 さすがにおかしいと感じたジルベルトは立ち上がり、小屋の外に出ていく。


 ジルベルトが天井を見上げると、ちょうどそこが大きく崩れるところだった。


 爆発したように天井が崩れ、大量の土砂と瓦礫で煙が舞う。そこから飛び出すように、大きな鉄球が落ちてきた。

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