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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
6章 流刑島

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140 魔石鉱山

 二十年前は魔石鉱山の下に、こんなダンジョンは存在しなかった。造ったとすればやはりミリアーノ組だろう。


 彼らにダンジョンコアを与えたのは、田島(たじま)涼太(りょうた)率いる旧友たちに違いない。


 そう確信を持って、アキラはダンジョンの白い通路を進む。


「アキラちゃーん!」


「来るなっ!!」


 背後から走ってくるリーナとセスに、アキラの怒号が響き渡った。

 普段とは異なる危機感を含んだ声に、リーナたちは急停止する。その後ろから追い付いてきたテイマーズも、同じように立ち止まった。


 アキラの周囲には、特に変わった場所は見当たらず、白い通路が延びているだけだ。しかしアキラは剣を抜いて、何も無い場所を斬りつける。


「違和感を斬ってみたが、手応え無し。……スキル〝破断(フラクチャー)〟を使うか」


 アキラがスキルを使って、もう一度何もない空間を斬る。すると、今まで何もなかった空間が裂け、その奥に別の空間が姿を現した。その裂け目は瞬時に広がり、割れた風船玉のような音を立てる。


 そこに現われたのは、黒狼の集団と血まみれで倒れたドワーフだった。


 アキラはそれを確認すると、突風のような速さで動き始める。


 一体、二体と黒狼を斬り捌き、先へ進んでいく。


 黒狼も負けじとアキラへ襲い掛かるが、すべて一刀両断となり、泡と化していった。


 そんな中、アキラは振り返りざまに剣を振るい、そこに誰も居ない事を確かめる。


 すぐに前を向いて何も無い場所を斬った。


「ぐあっ!?」


「フェイント丸分かりなんだよ」


 人狼を斬り伏せ、その頭を踏み潰すアキラ。


 メリルが苦戦した人狼はアキラが瞬殺し、残りの黒狼も瞬く間に倒してしまった。


「……」


 残心を終え、アキラが血まみれのメリルを見ると、そこには既にファーギが佇んでいた。彼はガラス瓶のコルクを抜き、ヒュギエイアの杯で作った水をぶっ掛けていく。するとズタズタに引き裂かれたメリルの身体が、たちまち癒されていった。

 それを目の当たりにしたアキラ、リーナ、セスの三人は、驚きを隠せずにいた。


「うっ……」

「メリル、少し先行しすぎたようだな。もう大丈夫だ」


 目を開けたメリルが飛び起きる。それを見ていたリーナは、たまらず声を掛けた。


「ちょっと、ファーギ。その水って、ドワーフの秘薬なんじゃ? 昔聞いた事があるけど、そんなに効き目があるの?」


「ああそうだ。たくさん作ってあるから、分けてやろうか?」


「えっ!? ほんとに?」


「本当だ。このダンジョンは厄介そうだ。ここから先に進むなら、この水が必要になるだろうからな」


「やった!」


 ファーギは魔導バッグからヒュギエイアの杯で作った水を大量に取り出し「転売したらぶちのめす」と、ひと言添えてリーナに手渡す。リーナは頷きながら、自分の魔導バッグにしまい込んでいく。


 ファーギとリーナのやり取りを見ているメリルが、何か言いたげにしている。ドワーフの秘薬とも言えるヒュギエイアの杯で作った水を、あっさりと渡しているからだ。


「ファーギ」


「なんだ?」


 アキラがファーギにぐっと顔を近づけて問いかける。


「この島には何人で来た?」


 ここにはテイマーズの三人と、ファーギとメリル。合わせて五人のドワーフがいる。血まみれで倒れていたメリルも、ファーギたちの仲間だと分かり、さすがに気になったのだろう。


「……十人パーティーだ。ワシらとは別行動の――」

「それって、ミッシーじゃん? アキラちゃん、さっき冒険者ギルドに来てたエルフだよ」


 ファーギの言葉にかぶせて話すリーナ。アキラは頭をかきながらため息をひとつ。


「はぁ~。ただ事では無いな。ファーギとミッシー、Sランク冒険者が二名、同じ依頼で動いているってことか? しかし、流刑島で何かが起きている事は確かだ――」


 アキラはここまでの出来事を整理していく。


 まず、Aランク冒険者三名が現われ、空艇でやって来たと吹聴した。


 依頼を受けて、ダンジョンコアの密売人捜しを始める。


 この島に空艇で来た冒険者がいると噂が広まった事で、Aランク冒険者は有象無象に襲撃される結果となった。


 だがそれは、大物を誘い出すように仕向けていただけだった。


 その作戦は見事的中し、ミリアーノ組のレンツが接触。Aランク冒険者三名は、レンツに拉致されてしまう。


 Aランク冒険者とはいえ、三名のドワーフはまだ子ども。彼らには大人のドワーフ二名が張り付いて、身の安全を確保していた。


 そして彼らはまんまと、流刑島の地下ダンジョンに潜入したのだ。


「――ファーギ、あんたたちは、流刑島の地下にダンジョンがあると知っていたのか?」


「知らなかったよ。依頼自体がフワッとしているからな」


「そうか……。そこのドワーフ、君はミゼルファート帝国の密蜂(みつばち)だろ?」


 アキラはメリルに向かって問いを投げかける。


「いや、違う――」

「その装備を見れば、分かるんだよ。この島でも、何度か見た事あるしな」

「……」


 アキラに断定され、黙り込むメリル。


「そこの諜報部が、動き出しているという事は……。流刑島を管理している、ミゼルファート帝国、サンルカル王国、マラフ共和国、オーステル公国、この四カ国に都合の悪い事が起きている。だろ?」


 アキラはメリルとファーギを交互に見て、その表情から真意を探る。しかし得に変化は無い。メリルはソータの動向を連絡するようにと、皇帝エグバート・バン・スミスの(めい)を受けているだけだ。せっかくの機会を得て、色々調べているようだが。


 何か知っている風では無いと判断したのか、アキラは話題を変える。


「この地下ダンジョンは、ハマン大陸のデレノア王国から来た奴らが造ったものだ。おそらく、ミリアーノ組は流刑島からの脱走を(くわだ)てているはず。俺はそれを阻止したいんだ。……そこでだ、ここから先、共闘して進まないか?」


 ついさっきまで帰れの一点張りだったアキラが、がらりと方針を変えてきた。


「急にどうした? ワシらに帰れと言っていたはずだが?」


 ファーギの問いにアキラが答える。


「さっき、人狼がいただろ? あれはAからSランクダンジョンに現われるモンスターだ。つまりこの先、強力なモンスターが現われることになる。言ってもどうせ帰らないんだから、ちゃんと共闘するようにしといた方がいいだろ?」


「……確かにそうだ。だが、ワシはこいつら三人の護衛に徹するからな?」


「それでいい。リーナ、セス、死なないようにしろよ?」


「当たり前じゃん?」

「了解でさあ!」


 こうして、ここにいる八人は、共闘しながらダンジョンを進んでいくことになった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ダンジョンコアが造った魔石ランプで、ドーム状の広大な空間が煌々と照らし出されている。壁にある大きな通路が三方向に伸びていく。ここは流刑島ダンジョン最下層だ。そこでは既に、ミリアーノ組の構成員たちや、その家族がマラフ共和国への通路を歩んでいた。


 リョウタ・タジマの部下たちが、混雑しないよう誘導している。

 それに加え、ハマン大陸のデレノア王国から来た軍勢も、マラフ共和国への通路に向かっていた。


 この空間は、三方向へ行く巨大なハブとしての役割を果たしている。そんな広場のまん中に、簡単な小屋が作られている。窓は閉め切られていて中は見えない。


 小屋の中には台座に置かれた、ダンジョンコアが並べられている。大きいものから小さいものまで、合わせて百を超える数だ。全てニンゲンに友好的なダンジョンコアで、ハマン大陸から運び込まれたものである。


 その中でひとり、怒鳴り声を上げている者がいる。レンツだ。

 彼は連絡が付かなくなった部隊を探しに行くよう、部下たちを集めて指示を出しているところだ。


「おーい、あんたレンツだっけ? エレベーターの見回りに行った奴らは、まだ戻ってないのか?」


 そこに声を掛けてきたのはリョウタ。レンツの見回り部隊に、リョウタの友人、藤原(ふじわら)紗江(さえ)が同行しているからだ。


「リョウタさん……。戻ってないどころか、連絡が途絶えています。さすがにおかしいですよね?」


 レンツはリョウタに魔導通信機を見せながら、焦燥の表情を見せる。


 それを見たリョウタはあごをしゃくり、レンツについてこいと合図する。巨大ホールの端に着くと、白い壁にドアの形が浮き上がる。リョウタがそこを押すと、ドアが開いた。


 中には白い通路があり、奥にもう一つドアが見えていた。二人とも通路に入るとドアが閉まり、継ぎ目のない白い壁に変化した。


「連絡が付かないって、どういう事だ? 俺の仲間が同行しているんだぞ?」


 リョウタはレンツを睨みながら尋ねる。その表情には、怒りと戸惑いの感情が混在している。それもそのはず、リョウタが仲間と言ったのは、三十年前から苦楽を共にした学友(・・)だからだ。


「ええ、分かっております。それで今、捜索隊を向かわせようとしていたところです」


「いや待て……。見回りに行ったエレベーターは、魔石鉱山から降りてくるやつだったよな?」


「はい、そうです。魔石鉱山のエレベーター入り口は、もう何十年も前に塞いでいるので、誰にも分からないはずです。ただ、さっき組長に聞いた話なんですが、もしかすると、アキラもその入り口を知っているかもしれない、と言ってましたので……それで見回りに……」


「は……? アキラが知ってる? このダンジョンへ来るエレベーターの場所を? クッソ! なんでそんな大事なこと知らせなかったんだ! レンツ、テメエが行って確認してこい! こっちは、ダンジョンのモンスターを動かして援護する!」


 アキラは鬼のような形相で一気にまくし立て、奥のドアへ駆け込んでいった。


「はぁ……。二十年前のエレベーターなんて、私が知るわけないじゃないですか……」


 レンツは通路の壁に手を当て、ドアを開いて出ていく。彼は急ぎ足で、部下の元へ戻って口を開いた。


「私も一緒に行きます。さて、出発しますよ」


 ミリアーノ組は軍隊ではなく、民間の組織。武器や防具が支給されるわけでも無く、自身で買い揃えなければならない。レンツの部下たちは、てんでバラバラの格好をしている。レンツに至っては、革靴にスーツ姿。


  しかし、彼らの意欲は満ち溢れている。仲間は家族同然に扱われ、もしも仲間が傷つけられたなら、彼らは必ず報復する。彼らは「やられたらやり返す」という信条に基づいて行動しているのだ。


 レンツは五十人ほどの構成員を引き連れ、エレベーターシャフトへ続く通路を歩み始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ミリアーノ組の組長宅で見つけた地下への入口。入ってみると真っ白い通路だった。

 入り組んだ別れ道があるわけでも無し、曲がり角はあるけれど一本道だ。適度に魔石ランプがあって見通しがいいので、四人でさっさと進んでいる。


「なあミッシー、ここってダンジョンだよな?」


「ああそうだ」


「ベルサダンジョンじゃ次の階層まですんごい長い階段があったけど、ここは違うのな」


 階層の床が薄いのだ。学校の階段くらい降りると、一階層下に到着する。楽でいいけど、どれくらいの深さがあるのか分からない。


「ダンジョンごとに性格が違うからな」


 ここはベルサダンジョンと似ているが、床の厚さともうひとつ大きく違う点がある。モンスターがポップしないのだ。


「ダンジョンだと思って気合入れてたけど、モンスター出なくて拍子抜けだな」


「ソータさん、このダンジョンにモンスターがポップしないのは、ニンゲンのダンジョンマスターがいるからだと思います」


「ダンジョンマスター?」


 俺の疑問に、マイアとミッシーから補足の説明が入った。


 ダンジョンマスターになるためには、侵入者がダンジョンコアと戦わなければいけないらしい。ただし、ダンジョンコアを傷つけない事、ダンジョンコアが負けを認める事、この二つの条件が揃って、ようやくダンジョンマスターになれるのだという。


 そんな思考が出来るのなら、ダンジョンコアは生き物なのか?


 影魔法で見たダンジョンコアは、すべてダンジョンマスターがいるのだろうか?


 ダンジョンマスターになると、モンスターの出現を止めたり、思いのままに通路を作り替えたり、ダンジョン内で色々なことが出来るようになるらしい。


「どうやって意思の疎通するの?」


 詳しそうなマイアに聞いてみる。


「ダンジョンマスターになると、念話が使えるようになるみたいです」


「ということは、俺たちがこのダンジョンに侵入しているって、ダンジョンマスターにバレてるのかな?」


「どうでしょう……? ダンジョンとダンジョンマスターで、念話が届く届かないの問題や、ダンジョンコアに任せて連絡しないようにするマスターもいます。だから、一概に何とも言えません。もしバレているのなら、ダンジョンのモンスターがあたしたちを排除しに来るはずです」


「ほーん。この世界には、まだまだ知らないことが沢山あるんだな~。でもさ、今回みたいに、悪用されちゃうのも困ったもんだな。もちろん違法だと思うけれどさ」


「違法どころか、今回の件は、戦争になりかねない大問題です」


 流刑島からサンルカル王国に届く海底トンネルが発見されたことで、管理している四カ国間で大騒ぎになるのは必至だという。


 サンルカル王国とミゼルファート帝国は、修道騎士団クインテットとドワーフの友好関係により同盟を結んでいる。しかし、マラフ共和国やオーステル公国とは、緊張や対立が絶えないらしい。



「ミッシー」


「なんだ」


「冒険者ギルドの責任者って日本人、そいつはどんな感じだった?」


「……うーん。犯罪者という雰囲気ではなかったな。街の連中にも好かれている様子だったし、芯の通った人物に見えた」


「同じ日本人と戦ってたんだよな?」


「そうだ。二人とも相当な使い手だ。戦いを見ていたが、私が剣で勝てる気はしない……」


「うお、マジか……」


 ミッシーはSランク冒険者だぞ。


「ああ。弓では負けないがな」


「ですよねー」


 色々喋りながら歩いていると階段が見えてきた。四人で階段を降りながら、床の厚さを確認する。


「ここも床が薄いな……」


「何をする気だ?」


「階段探すの面倒くさいしね。三人とも少し離れて」


 三階層目に到着したところで、土魔法を使って直径五メートルの鉄球を創り出した。それにヒッグス粒子を纏わせていく。


 ――ドン!


 そんな音を立て、鉄球が床にめり込んでクレーターを作る。


 ヒッグス粒子の量を増やしていくと、鉄球の質量がさらに増えていく。


 しばらくすると、床を突き破って、鉄球が落ちた。すぐに下から大きな音が聞こえてくる。


 床に大きな穴が開いたので、四人揃ってそこからのぞき見る。


 鉄球は下の階層にある床をぶち抜いて、ちょうど落ちていくところだった。


 何度も何度も床を破る音が聞こえ、しばらくすると音が途絶えた。


 マイアの咎めるような視線が俺に突き刺さる。


「マイア、私は大丈夫。ソータさんの謎の力は、嫌というほど味わったから……」


「え、そうなの?」


 マイアは、俺の力がニーナにバレないよう気を使っている。だけど、ニーナは俺の寝込みを襲い、何度も返り討ちに遭っている。俺ではなく、クロノス(汎用人工知能)が、念動力(サイコキネシス)で追い払ってくれているんだけど。


 ニーナはその事もマイアに話していなかったみたいで、叱られ始めた。

 しかしニーナも、俺の力を知っている一人だ。なので、フォローを入れておく。


「マイア、ニーナはもう知ってるみたいだから気にしないで」


「そ、そうですか……」


「ああ。だろ? ニーナ」


「は、はいっ!」


「ここに居る三人は、俺の力を知っているって事で! よし、さっさと最下層まで行こう!」


 ぼやぼやしていると、ダンジョンコアが床を閉じてしまうかもしれない。


 俺たち四人は、鉄球が作った縦穴に飛び込んだ。

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