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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
6章 流刑島

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137 浅からぬ因縁

 冒険者ギルド前の通りで、今泉(いまいずみ)(あきら)田島(たじま)涼太(りょうた)の一騎打ちが繰り広げられている。


 夜更けとはいえ、流刑島の夜は長い。人通りが少なくなるのは、もっと遅い時間である。


「アキラ! 負けんなよっ!」

「なんだなんだ、ギルド前で刃物沙汰か?」

「ギルマスー! 死ぬんじゃねえぞー!!」


 戦いに集中していたアキラが気付く。いつの間にか街の人々が大勢集まって、通りを塞ぐように人垣が出来ていると。

 しかもその人垣は、徐々に前に出てきている。アキラの戦いを、少しでも前で見たい、そういった人々のせいで。


「お前ら、危ねえから下がれ!! リョウタ、テメエはこっちだ(→↑←↓→↑←↓)!!」


 街の人々に斬り掛かりそうになったリョウタ。それを見たアキラは、スキル〝(ヴォイス)〟を使った。このスキルは、指向性を持たせたアキラの声で、対象人物の三半規管を狂わせる。対象は平衡感覚が狂い、まともに立っていられなくなるのだ。


 剣だけでの戦いを挑んだリョウタは、スキルの不意打ちでよろめく。


「クッソッ!! ドワーフの子どもは預かってっからな!!」


 リョウタはその言葉を残し、転移魔法で姿を消した。


 その直後、見物人たちが沸いた。


「やっぱギルマス強ええ!」

「俺は二十年前から知ってるけど、全然衰えてないな!!」

「あんときは、マジでおっかなかったけどな!」

「さすが虎の牙!!」


 アキラと年齢がさほど変わらない見物人は大興奮。他の見物人たちも大いに盛り上がっていた。


「おーい! 見せ物は終わりだ。今夜は帰って、しっかり戸締まりして寝ろ!」


 しっしっと言わんばかりの態度で、見物人を追い払っていくアキラ。すると冒険者ギルドの入り口に立つ、絶世の美女が目に入った。あまりにもきれいなエルフで、アキラの動きが止まる。


「アキラちゃん?」

「うおっ!? な、なんだ、リーナか……」


 いつの間にか横に現れたリーナに気づき、アキラは慌てふためいた。冒険者ギルドへと向かうアキラの背中を、リーナがそっと押した。アキラが無事であることを知り、居酒屋にいた冒険者たちとギルド職員は安堵の息をついた。


 リーナはギルドの受付カウンター前で立ち止まった。


「アキラちゃん、無事で本当に良かったわ。あ、こちらがさっき話していたエルフのミッシーちゃん。Sランク冒険者なの。ミッシーちゃん、こちらが冒険者ギルドを取り仕切っているアキラちゃんよ」


 ミッシーの隣にちびっ子リーナがいると、同じエルフだと思えないくらいの身長差がある。小さな子どもを連れた母親のように見えてしまうが、実際はリーナの方がずっと年上である。


 ミッシーがアキラに近付いて挨拶をする。


「よろしく。アキラ」


 リーナがSランク冒険者と言ったところで、冒険者たちが少しざわめいた。しかし、アキラは全く動じず、不敵な笑みを浮かべながらミッシーと握手をした。


「ああ、よろしく。あんた()正規の冒険者か?」


「そうだ。少し話があるんだが、いいか?」


「それなら二階の執務室で――」


「それには及ばない。ここに居る冒険者たち、全員に聞いてもらいたい――」


 ミッシーたちは、流刑島の冒険者ギルド三カ所に分散して訪れている。

 ソータがひとつ、マイアとニーナが残りのひとつを担当していた。


 ミッシーが、現状を伝えていく。


「――――この島からブライトン大陸のサンルカル王国へ、ダンジョンコアを使った海底トンネルが造られている。私たちがそこを偶然(・・)潰した。この件は、流刑島の島民に周知されているか?」


 アキラ、リーナ、セス、三人を含めた、冒険者ギルドの全員は、初めて聞く話であった。


「どういう事だ? もしかして最近この街に出まわっている、ダンジョンコアと関係があるのか? そんな話、島民は誰も知らない――――っ!?」


 言葉の途中で、ハッとした顔になるアキラ。


「心当たりがあるみたいだな……。この島にはダンジョンがないのに、誰かがダンジョンコアを持ち込んでいる。それを使って海底トンネルを造り、流刑島から脱走しようとしている者がいる」


 アキラたちは黙りこくってしまった。この島は様々な犯罪者が送り込まれてくるが、空艇(くうてい)を造れるような犯罪者は誰もいない。もちろん脱走させないための措置である。


 漁業が出来るのは近海のみ。流刑島の周りには強い潮の流れがあり、船がそれに乗ってしまうと、小魔大陸へ流れ着くしかない。強力な魔物がいる島で生きていくことは出来ないので、船で脱走することは自殺を意味するのだ。


「リョウタ……」


 アキラは、ギリッと歯ぎしりをした。


「貴様がさっき戦っていた剣士か……。ダンジョンコアを持ち込んでいるのはそいつか?」


「分からん。けど、ハマン大陸のデレノア王国は、たくさんダンジョンがある。リョウタたちはそこに住んでるから、可能性は大いにあるな」


「仮にその場合、タジマという人物は、どうやってこの島に来て、どういう形でトンネルを造る? ダンジョンコアの力があったとしても、島民の協力がなければ出来ない話だ。しかし島民はその事を知らないのだろう?」


「――――!? ミリアーノ組か! クッソ! 真面目な奴らだと思ってたけど、あいつらなら島民にバレないように事を進めることが出来る」


 リョウタは魔導通信機で、ミリアーノ組から手を引けと言っていた。


 アキラは「ミリアーノ組からこれまで騙されていたのか」と呟きながら怒りの表情を浮かべる。

 そして彼は、なぜ冒険者が三十人しか戻っていないのかと、リーナに問いただした。


 リーナは、緊急依頼で出払った冒険者たちと、ほとんど連絡が付かなくなっていると報告。アキラはそれを聞いて、怒りの表情が一段階上がった。


「安否確認は?」


「全員は確認できてないけど、ほとんど殺されちゃってるみたい……」


 それを聞いたアキラの怒りが、また一段階上がる。アキラは怒りの表情のまま、ミッシーに問いかけた。


「ドワーフの子ども三人、あいつらは、あんたの仲間か?」


「ああ、そうだ」


「ふざけるな! あんたSランク冒険者なのに、あんな子どもを囮にしたのか!」


 アキラは冷静でなくなっていた。その怒号で冒険者ギルドの窓ガラスがビリビリと震える。


 対して、ミッシーはどこ吹く風。アキラから視線を移し、リーナに話しかけた。


「ミリアーノ組がどこにあるのか教えてくれないか? 拠点や隠れ家、全てだ。もちろん情報料は支払う」


「あー、えっと……」


 アキラの剣幕で、冒険者ギルドの雰囲気は悪い。そんな中、リーナはそそくさとカウンターの中に入り、資料を取りだした。


「これがミリアーノ組の本拠地と拠点、経営する店や宿屋の詳細よ。それとミッシーちゃんさあ、……あんた、あのミッシーちゃんよね?」


 ぼそぼそ話すリーナに釣られて、ミッシーも小声になった。


「どのミッシーちゃんか知らないが、私はただのミッシーちゃんだ」


「いやいや、冒険者証で本名が分かるんだけど……?」


「はぁ……。リーナ・セリリアン、あなたのことは母から聞いている。随分悪名高かったらしいが、この島に送られて更生したのか?」


「うぐっ!?」


 どうやら二人とも、周囲の人々に知られたくない話のようだ。ミッシーとリーナは少しのあいだ睨み合って、同時に視線を外した。


「この資料はもらっていくぞ」


 そう言ったミッシーは、カウンターに一枚の金貨を置き、冒険者ギルドから出ていった。


「アキラちゃん……」


 カウンターの前で突っ立ったままのアキラに、リーナが声を掛ける。怒り心頭のアキラは何を思ったのか、ニヤリと笑みを浮かべた。


「リーナ、いま渡した資料は、ミリアーノ組から届け出があったやつか?」


「え、そうよ」


「て事は、届け出されていない(・・・・・・)拠点は載っていない。そうかそうか……、んじゃ今から、俺が把握している拠点に行ってくるわ」


「えっ?」

「マジですか?」


 リーナとセスが驚くも、アキラは真剣な表情。一人で殴り込みに行く気のようだ。


「おいお前ら! 緊急依頼は中止だ、とっとと解散しろ! ハマン大陸のデレノア王国から、この島に侵入している奴らがいる。帰りに俺と似た黒眼黒髪のニンゲンを見かけても、絶対に近付くな!! 職員も冒険者も全員、いますぐ帰って家族を守れ!!」


 アキラの怒号がまた響く。近所の人々は、さっきの刃物沙汰からずっと冒険者ギルドを覗き込んでいるので、アキラの話が丸聞こえである。

 拙い状況だと理解した人々は、蜘蛛の子を散らすように去って行き、アキラの話はまたたく間に噂になっていった。


「リーナ!」


「はい!」


「今の件を、二カ所の冒険者ギルドに通達。冒険者も職員もすぐに帰せ!!」


「わ、分かったわ」


 アキラの指示で、魔導通信機を取るリーナ。


「……アキラちゃん、二カ所とも応答がないわ」


「……クソがっ!! リョウタの野郎、仲間を使って同時に襲撃しやがったな!!」


 本日何度目だろうか、再びアキラの怒号が響き渡った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ひっでえ有り様だな……」


 俺が担当する冒険者ギルドに到着すると、流刑島の住人が人だかりを作っていた。中に入ると、濃密な血臭と、真っ赤に染まる床と壁。ギルド内で、数十名が斬り殺されていた。逃げ出した冒険者は致命傷を受けていたのだろう。幾人か通りで息を引き取っている。


 ここまで悽惨な現場を見て、何も感じないとか、俺はもうイカれてるんだろうね。


 不幸中の幸いと言っていいのだろうか、街の住人は殺されていないみたいだ。

 犯人は冒険者に怨みを持つ者か? 冒険者ギルドに怨みを持つ者か? 分からんな。


 冒険者ギルドから出ると、流刑島の住人がさっきよりも増えていた。

 遺体に手を合わせている者。冒険者ギルドを覗き込んでいる者。様々だが、慌てている者は居ない。彼らも血を見馴れているようだ。


「おーい! あんた見ない顔だな? アキラの連れの冒険者か?」


 住人のひとりが話しかけてきた。茶髪ロン毛で、黒いコートを着ている。


「アキラ?」


 思いっきり日本人っぽい名前だな。この世界にたまに迷い込む日本人なのか、あるいはゲートを使ってきた日本人なのか。どっちでもいいけど、流刑島にいるって事は、何かやらかしてるって事だ。


「ギルマス知らねえのか? いやまあ、その顔立ちで、黒眼黒髪のニンゲンは珍しいからな。んじゃ、あんたもニホンってとこから来て、犯罪者になった。んで最近この島に来たのか? 何やったんだ? 盗みか? 薬か? お? おおーん?」


 めちゃくちゃ人なつっこいおじさんだけど、酒の臭いがする。酔っ払いに絡まれるのは久し振りだ。


「そうだ。俺も日本人だ。けど、悪さしてこの島に来たんじゃない。そういえばさ、この島に冒険者ギルドが三カ所あるって聞いたんだけど、ギルマスはここにいないの?」


「ああ、ここは支所だからな。しっかし酷えな。冒険者がこうも簡単にやられちまうとは……」


「こんだけ殺した(・・・)のに、目撃者はいないのか?」


「誰がやったんだろうな? みんな知らねえつってるぜ?」


「ふうん……。けどさあ、おっちゃんさあ、顔にべったり血が付いてるって気付いてないの?」


 こいつは顔だけでなく、手も真っ赤だ。


 すでに街の住人は彼の姿を見て、遠巻きに離れている。もう俺と酔っ払いの周りには誰もいない。とりあえず彼らが離れる時間は稼げたかな。


「けひょっ!」


 次の瞬間、血まみれの男がコートに隠していた短剣を抜いた。


 即座に俺の腹を狙ってきたので、一歩下がって避ける。


 狙いが正確だ。


 酔っぱらって凶行に走ったわけでは無さそうだ。


 一撃必殺ではない、重症狙いの短剣が次々と繰り出される。


 全て、俺の腹を狙っているのだ。


 ギルド内の冒険者たちは、全員腹部への一撃を食らっていた。


 この男が冒険者ギルドを壊滅させた犯人だろう。


 周りに島民がいるし、あまり時間をかけない方がいいな。


 俺は魔力を纏わせた左手で、短剣をはじき飛ばす。


 そのまま腰をひねりながら、魔力を纏わせた右の拳を突き出した。


「うぼぁ……」


 酔っ払いの鳩尾(みぞおち)に拳がめり込むと、ゲロを吐き出した。


 横隔膜の動きが止まったのか、気道にゲロが入ったのか分からない。


 酔っ払いは呼吸困難に陥り、膝をつく。


「……おい、知っていることを全て話せ」


 酔っ払いに向けてそう言うと、遠巻きに眺めていた島の住人達から歓声が上がった。

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