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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
6章 流刑島

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135 流刑島

 窓から入り込む風が日に焼けたカーテンを揺らす。二階から見る窓の外は、なだらかな下りになっており、そこにはボロ家屋がひしめくように建っている。ほとんどが()ぶきで木造の和風(・・)建築。大通りはなく、土がむき出しの小道(こみち)ばかり。


 そんな景色も上を向けば、ガラリと変わる。

 青く晴れ渡った空に、凪いだ海と水平線。ずっと手前には、小型漁船が港に浮かんでいた。


 薬指の指輪を見ながら、窓際でボンヤリしている中年男性、今泉(いまいずみ)(あきら)は、ため息をつく。ドタドタと走ってくる足音が聞こえてきたからだ。


「アキラちゃん、大変よ!」


 ズバーンとドアを開けて入ってくる、リーナ・セリリアン。流刑島の住人である。

 ショートで清潔感のある緑髪から、とがった耳が見えている。それに緑眼で美形、いや、かわいい顔立ちの女性だ。


 背が低くてかわいらしいので、流刑島の(・・・・)冒険者ギルド(・・・・・・)では、マスコット扱いされている。


「ちゃん付けはやめろ」


 ちびっ子エルフに、アキラが注意する。


「えー、やだ。ギルマス(・・・・)あたしより年下じゃん? まだ子どもじゃん?」


「何度も言うけど、ヒト族の四十五歳は立派な大人だ。んで、なにが大変なんだ?」


「そだっ!! ドワーフの子ども三人が受付に来てるの! 早く来て!!」


「それのどこが大変なんだよ……、ぬおっ!」


 とりあえずアキラが文句を言う。しかしアキラはリーナに手を引かれ、一階のカウンターまで一気に連れて行かれた。


 冒険者ギルドの一階には、三人並べば一杯になるカウンターがひとつだけあり、併設された居酒屋の方が広く作られている。昼間だが、居酒屋は盛況で、飲んだくれが溢れていた。


「ここは冒険者ギルドじゃないだろ? おっさん」


 カウンター前にいるアイミーが、アキラに話しかけた。女子とは思えない口の悪さは健在である。


「おっさ――。ああそうだ、正規ではない。それでも流刑島では、冒険者ギルドとして活動しているぞ? 三人とも見ない顔だな。新規登録か? 依頼しに来たのか?」


「いや、あたしら三人はAランク冒険者。この依頼を受けたい」


 アイミーたちテイマーズは、ちびっ子エルフより小柄だ。そのため顔が半分ほどカウンターに隠れている。


「ねっ? 大変でしょ?」


 リーナがアキラを見ながら、ふくらみの無い胸を張る。


「……そうだな」


 アイミーがカウンターに出した依頼票は、最近流刑島に出まわるダンジョンコアの売人を捕まえるもので、これ自体に問題は無い。


 問題は、アイミーたちが見せている正規の(・・・)冒険者証(・・・・)である。


 ランクの高い冒険者であっても、罪を犯して流刑島送り、という事も多々ある。もちろん、冒険者の資格は剥奪され、冒険者証も没収される。

 不定期に現われる空艇(くうてい)は着陸もせず、そういった罪人たちを着の身着のまま港に落として帰ってしまう。

 流刑島では、正規の冒険者証を持っているニンゲンなんて一人も居ないのだ。


 カウンターに置かれた三枚の冒険者証。アキラは真贋を確かめるため、それを手に取りスキル〝鑑定〟を使った。


「本物か……。アイミー、ハスミン、ジェス、お前たち罪人じゃ無いな。この島にどうやって来た?」


空艇(くうてい)で来たんだよ。この依頼、Bランク以上の冒険者パーティーが受注条件だから、あたしら三人で平気だよな?」


 アイミーの勢いに押されながら、アキラは疑問を口にする。


「あ、ああ、大丈夫だ。しかし、空艇で来たって? 流刑島に民間の空艇は着陸禁止だぞ?」


 そこにたまらず口を出すハスミン。


「着陸の許可はもらってる。んじゃこの依頼受けておくぞ!」


 ハスミンが出したのは、ドワーフの娘の捜索依頼。その娘はここ一年ほど消息不明で、アキラ率いる冒険者ギルドが依頼人になっている。報酬が破格であったため、ハスミンは目がくらんだのだろう。


 テイマーズの三人は、二件の依頼を受注するつもりだ。


「二件受けても問題ないっしょ?」


 アイミーはカウンターの上の依頼書をアキラに見えるように押し出す。


 流刑島に潜むダンジョンコアの密売人を捕らえるものだ。


 ダンジョンコアはダンジョンの中枢であり、自らの意思でダンジョンを造る。出まわっているものの大きさはビー玉程度で、大規模なダンジョンは造れない。しかし、ダンジョンマスターとなった購入者が、防犯のために自宅をダンジョン化できる。これはこれで、正しい遣い方として認知されていた。


 しかしそれを悪用する者が後を絶たないのだ。

 ダンジョンマスターになった者が、他人の家にダンジョンコアを設置して乗っ取るという犯罪が起きているのだ。


「別に構わないっしょ?」


 そう言ったジェスが依頼票をわしづかみにし、アイミーとハスミンを連れて出ていった。


 しんと静まり返る冒険者ギルド。居酒屋で騒いでいた飲んだくれたちも、いつの間にか聞き耳を立てていたようだ。


 それを見たアキラはため息をつく。ちびっ子ドワーフ三人組が、空艇で流刑島にやって来た。そんな事をここで公言すれば、空艇を奪って島から脱走しようとする輩がわんさか出てくるだろう。


「テメエら!! 分かってんだろうな? これから緊急依頼を出す!!」


 アキラの怒号が響く。もちろん飲んだくれ共に向けてだ。

 すぐ隣に居るリーナや、冒険者ギルドの職員はいい迷惑。いつものこととはいえ、アキラがチンピラ冒険者をまとめ上げるときは、身の毛もよだつほどの凄まじい気迫が発せられるのだ。


「うっす!!」


 酒臭い酔っぱらいたちは、声を揃えて返事する。同時に、勿体ねぇなぁ、と呟きながら、魔法使いから解毒魔法をかけてもらい、酔いを覚ましていた。


 アキラは居酒屋の方へ移動し、緊急依頼の内容を伝えていく。それが終わると、カウンターの内側にある魔導通信機を取りだし、流刑島にある、あと二カ所の冒険者ギルドに連絡を取り始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 テイマーズの三人は、流刑島にある冒険者ギルド三カ所を回り、同じ話をして同じ依頼を受注。その他に、食事処や屋台前、漁港に鍛冶工房と、様々な場所で、空艇でやって来たと吹聴していた。


 スラム街のような町なみは、テイマーズにとって馴染み深い場所でもある。


「この街住みやすそうだな」

「たしかに」

「おっさんに言って、住めるようにしてもらう?」


 小道を歩きながら喋っているアイミー、ハスミン、ジェス。三人は、この街が気に入ったようだ。

 その歩みは、全く初めての地とは思えないほど確かで軽やかなものであった。


 しかしながら彼らの道のりは、知ってか知らずかどんどん細い道へ入り込んでいく。既に日は傾き、黄昏(たそがれ)(どき)。街が薄暗くなってきた頃、テイマーズの三人は、小道の前と後ろを人影に塞がれてしまった。


「よぅ、嬢ちゃんたち。ちーっとばかし頼みがあるんだけどよ、お前たちが乗ってきた空艇まで連れてってくんねぇか?」

「あー、勘違いすんなよ? どんな空艇なのか見たいだけさ」

「この街は、危ねえからさ。俺たちが護衛するって事で」


 アイミーたちを挟み撃ちにした輩は、前後あわせて十二名。言っていることは、まともに聞こえるが、全員武装している。前列の二名が大盾を持ち、後ろに剣や槍を構えた男たちがいる。最後尾には、魔法使いらしき人物も控えていた。


 進退両難に陥ったテイマーズ。


「どうする? 前に六、後ろに六」

「雑魚っぽくね?」

「これじゃ無い感、満載だね」


 アイミー、ハスミン、ジェスの三人は、こんな状況でも特段驚いていない。


「おいおい……。雑魚ってなんだ、雑魚って! おぶっ!?」


 突如テイマーズの周囲に現われた、大量のスライム。その内の一体が、大盾持ちに体当たりした。その動きは早く重く、大盾持ちの一人が簡単に吹っ飛ばされてしまった。


 その瞬間、戦いの火蓋(ひぶた)が切られた。


 小道を埋め尽くすスライムに、十二名の輩は色めき立ちながらも、テイマーズ目がけて足を踏み出す。


 バスケットボールほどの大きさがあるスライムたちを大盾でどかしながら、勢いに乗って突っ込み始めた。


「命まで取りゃしねえ。空艇がある場所まで連れてってくれればいいだけの話だ。おぶっ!?」


 追加で現われたスライムの一体が、さっきと同じ大盾持ちに体当たり。


 また吹っ飛ばされてしまった。


 テイマーズが二度目に召喚したスライムは、小道だけでは無く、両脇にある家屋の屋根にも現われている。


 そのスライムたちは、最後尾の魔法使いたちに襲い掛り、ぼこぼこになるまで体当たりを繰り返した。


 それに気付いた、剣と槍持ちは振り返る間もなく、スライムの体当たりで気を失う。


 スライムたちはついでとばかりに、立っている大盾持ち三人に群がった。


 吹っ飛ばされた大盾持ちが、よろりと立ち上がる。


 大盾で強打した額に手を充てながら周りを見ると、仲間の十一人全てが気を失っていた。


「く、クソが!! おまえら魔物使い(モンスターテイマー)か!? いくらなんでも、こんなにたくさんスライムを召喚できるはずがねえ!! 数がおかしいだろ数が!! テメエら何もんだ、どこの組のもんだ!?」


「いや、組とか知らんし。というか、おっさん、……あんたたち流刑島から逃げたいの?」


 ジェスが大盾持ちに冷たい顔を向け、冷え冷えとする声で問いかけた。


「あ、当たり前だろうがっ!!」


「何で?」


「こんなクソみてえな街、一瞬たりとも居たくねえんだよっ!!」


「ふーん……、居心地良さそうなのに。この街が合わないって事はさ、みんなどこかの国の貴族? いや、そのどら息子? あれ? 息子も貴族になるんだっけ……?」


「知らないわよジェス! さっさと終わらせるよ!」


 話の途中で、ハスミンを向いて貴族のことを聞き始めたジェス。それを一蹴して、ハスミンは大盾持ちにスライムをけしかけた。



 流刑島には様々なニンゲンが送り込まれている。汚職がバレた貴族。親の威を借るどら息子。罪を犯せば、上流階級のニンゲンでも容赦がないのだ。


 ただし、中には冤罪もある。政敵に陥れられたもの。仲間に裏切られたもの。そんなもの全部ひっくるめての流刑島である。


 テイマーズの三人は、スライムたちを帰し「こいつらじゃない」そう言いながら、夜の街へ消えていった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 テイマーズの姿が見えなくなると、物陰から姿を現すアキラとリーナ。

 二人とも、ちびっ子エルフがボッコボコにした貴族崩れたちに駆け寄り、治療魔法をかけ始めた。


「あのガキ共、魔物使い(モンスターテイマー)だったのか……? いや、あんな数のスライムを呼び出せるやつなんて見たことが無い」


 テイマーズが召喚したスライムの数に、アキラは驚きを隠せないでいる。そもそもの話、魔物使い(モンスターテイマー)が呼べる魔物は一体だけ。熟練の者でも三体が限度だと言われているのだ。


 それなのに、てんこ盛りのスライムが呼び出せるのは、テイマーズがスライムたちからもらった指輪のおかげだ。彼らは帝都ラビントンの下水道にいる、無数のスライムが呼び出せるのだ。


 しかも、そのスライムたちは、ヒュギエイアの杯で作った水に浸かっている。そのおかげで、自己再生能力や浄化能力があり、水魔法も使える。テイマーズたちが怪我をすると、そこにくっ付いて治療まで出来てしまうのだ。


 そんなこと知らないアキラとリーナは顔を見合わせ、テイマーズの行方を追い始めた。



「いた! アキラちゃんあそこ!」

「……あれか」


 見失ったかと思いきや、ドワーフのちびっ子三人組が路地裏から出てくるところだった。彼らに見つからないようにアキラたちは尾行していく。


「うっわ、またやってんじゃん」

「すまん、頼んでいいか?」

「いいよ、先いってて」


 テイマーズが出てきた路地裏には、さっきと同じく貴族崩れの輩たちが気を失っていた。それを見たリーナは、彼らに治療魔法をかけに行った。


 それからというもの、テイマーズに襲い掛かる輩たちが、ことごとく返り討ちにされるという事件がどんどん増えていく。


 流刑島から脱走したい者がたくさん居ることは、アキラも知っている。それは外部から来たニンゲンであっても、容易に想像できることだ。


 リーナが戻ってきて、アキラがぼやく。


「あの三人組は、空艇でやって来た話を吹聴している。この島でそんな話をすれば、空艇を奪いに来る輩は山盛りいんぞ?」


「あのドワーフの子どもたちが強いと分かったけど、目的がさっぱりわかんないわね。……まさかとは思うけど、力試(ちからだめ)し?」


 アキラのぼやきにリーナが答える。

 まだ日が暮れたばかりで、街の人通りは多い。


 ドワーフの子ども三人が、空艇でこの島に来ているという噂はあっという間に広がっていた。

 そのおかげでアキラたちが身を隠しながら移動しているときにも、テイマーズを探し回る輩が大勢走り回っている。


「力試し? まあでも、この街じゃ日常茶飯事だ。しかし、これが続くようなら()の奴らが動き出すだろうな」


「あ、言ってる先から出てきてんじゃん」


「いや、あれはミリアーノ組のレンツだ。あいつはジルベルトの息子だって知ってるだろ?」


「あー、ほんとだ。あいつチャラいから嫌い!」


「意外と真面目だぞ? ジルベルトは組を譲るって言ってるし」


 テイマーズの三人が、少し広くなった四つ角にさしかかったところで、身なりのいいヒト族の男たち五人が現われたのだ。


 テイマーズは彼らを見て警戒する。

 その男たちの中から、ひとり前に進み出て口を開いた。アキラが言ったレンツである。


「噂を聞いて駆け付けたんですが、そろそろ暴れ回るのはご勘弁願いたい……」


 白いシャツに茶色のスーツ。茶色い髪の毛に茶色い瞳。レンツは柔らかい笑みを湛えながら、テイマーズに話しかけた。

 これまでの輩たちとは違う言葉遣いで、キョトンとするテイマーズ。


「あ?」

「ちょっと! ちゃんとしたヒトみたいだからやめなよ!」


 ハスミンが食って掛かりそうになると、慌ててジェスが止める。


「えーっと……、私たちは、あなたたちに危害を加えるつもりは無いです。ただ……、このままだと、流刑島の住人が本当に怒っちゃいますよ?」


「ああ? んだこら、おっさ――」


 それでも突っかかろうとするハスミンの口を塞ぐジェス。背後から両手でハスミンの口を押さえ、ジェスはアイミーに視線を送った。


「すみません。あたしたち調子に乗ってましたね……。ちょっと力試しのつもりが」


「あっはっはっはっ! わざわざ流刑島に乗り込んできて、力試しですか! そんな冒険者、見たことが無いですね!? こーれは傑作だ! おもしろいっ!」


 腹を抱えて笑い出すレンツ。連れの四人は苦笑いだ。


 そのとき、テイマーズ三人のお腹が盛大に鳴った。


 顔を赤くする三人。


「お腹すいてるのかな? それじゃあ、うちの組が経営するお店でご馳走しよう! もちろん私のおごりだよ!」


 その言葉を聞いて、パッと笑顔になるテイマーズ。今までの刺々しい表情は完全に消え去っていた。


「それじゃ、行こうか。……お前たち四人は帰っていいよ。大人が五人もいちゃ怖いからね」


 レンツの言葉で四人の男たちは、その場を離れていった。


 テイマーズの三人はそれを見て安心したのか、意気揚揚とレンツに付いていく。




 それを遠くから眺めていたアキラが口を開いた。


「日本だと、誘拐だと思われかねないな……」


「えー、また三十年前の話ー?」


「いや、レンツなら大丈夫だって話だ」


「そうだね。んじゃ撤収する?」


「……もう少し様子を見ようか」


「どしたの?」


「いや、あのドワーフの子どもたちが、流刑島に何しに来たのか気になるだろ? 力試しなんて、この島じゃ無くても出来るし、依頼も受けてるし」


「それもそうね。……んじゃ緊急依頼はそのまま?」


「そのままだ」


 アキラとリーナは顔を合わせて頷き、レンツとテイマーズの三人を追い始めた。

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