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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
5章 ミッシー捜索

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132/341

132 ベルサダンジョン500階層

 長い長い沈黙が破られた。


「わ、私はエルフだ。長い年月を生きているエルフだ」


「ああ、知ってる」


 続く言葉が怖い。めちゃくちゃ怖い。


 ……ん? ミッシーの顔がふにゃふにゃになった……。


「そそそ、ソータ!! わ、私は――――」


「あー、大事な話し中に申し訳ない。ソータと言ったか? お主がモンスターでは無く、ヒト族だと分かった。それと、今はそれどころじゃ無いって理解しておるか?」


 あ……、いつものミッシーの顔に戻った。

 おいいいっ!! スリオン、話を遮るなっ!!


 でも確かにそうだ。

 この階層、崩れ落ちそうになってるんだよな。その情報はもちろん、影魔法からのものだ。


 そもそもの話なんだけど、謎生物のダンジョンコアが死ねば、ダンジョン内にモンスターがポップすることも無くなるし、ダンジョンの構造物としての効果も失われる。


 その証拠に、ダンジョン内にいるモンスターは、何かから解き放たれたように暴れ狂い、種族別に分かれて骨肉の争いが始まっている。倒されたモンスターは消えずに残り、他の場所でモンスターがポップすることも無くなっていた。


 モンスターがえぐった壁や、魔法で破壊された柱、これらはダンジョンコアが生きていれば、すぐに修復されるのに、そうでは無くなっている。破壊される一方なのだ。


 これらは全て俺が放った影魔法からの情報だ。


 よってこのダンジョンは、既に死んでいる。

 スリオンが斬ったダンジョンコアは、このダンジョンの(あるじ)で間違いないのだ。


 では何故、今もなおダンジョンコアの気配が消えてないのか。


 それは、この階層のもっともっと下に答えがあった。


 俺は千体の影魔法で、ダンジョン内部をくまなく捜索している。今居る三百五十階層が最下層だと思っていたら、下に何もない空間を見つけた。さっきようやく影魔法が最下層に到着したところだ。高さからザックリ計算すると、五百階層目にあたる、ものすごく深い場所だ。


 そこは巨大な空間があり、別の(・・)ダンジョンコア(・・・・・・・)が創った(・・・・)ダンジョン(・・・・・)だった。広場には、様々な大きさのダンジョンコアが、たくさん運び込まれている。ニンゲンの手によって。


 だがしかし、今はそうではない。金の台座に置かれたいくつものダンジョンコアを、ニンゲンたちが台車に乗せ替えて運び出しているのだ。

 向かう先は、搬入路と思われる巨大な通路。これもダンジョン製だ。


 その通路は流刑島に向かって、真っ直ぐ伸びている。影魔法をいくつか向かわせているが、先に何があるのかまだ分からない。


「どういうことなんだ?」


 声音もいつものミッシーに戻って、少しガッカリ。彼女が俺をどう思っているのか聞けると思ったのに、それを逃してしまった。


「二人とも、なんで三百五十階層まで来たのかな?」


「スリオンが斬ったダンジョンコアが偽物だったからだ」

「ミッシー、何度も言うが、我が斬ったものはダンジョンコアで間違いない。だが……」


 ダンジョンコアの気配を追い、この階層まで駆け下りてきたそうだ。

 スリオンは気付いてそうだな。このダンジョンが死んで、構造物としての耐久力が無くなっていることに。



 流刑島から伸びてきているダンジョン製の通路。それがサンルカル王国の漁村の下にある。これだけ分かれば、あとは簡単だ。


 流刑島の囚人たちは、脱走するつもりだ。


 ニンゲンに協力的なダンジョンコアを集め、ここまで来た。しかし、ダンジョンコアに縦穴を造らせていると、上には既にダンジョンがあった。

 しかもダンジョンコアが討たれたことで、縦穴は崩落寸前の状態になっている。

 それで撤退しているのだ。


「スリオンの言うとおり、このダンジョンは死んでいる。分かるよね、この微細な振動。崩れ落ちて生き埋めになる前に、脱出した方がいいと思うんだ」


 俺の言葉に、ミッシーとスリオンが頷く。


「先にゆくぞ、ソータ」


 ミッシーが転移魔法で姿を消す。攻撃手段としてでは無く、本来の転移魔法の使い方だ。


「ミッシーが押しかけてきて以来、延々とお主の話をされていたでな。初めて会った気がしない。ミッシーをよろしく頼むぞ」


 ミッシーがスリオンに、どんな話をしていたのか気になる。というか、ミッシーから俺の姿形は伝わってなかったのかな? さっき攻撃してきたよね? 気にしないけど、気にされないのは気になる。それを水に流す気なのか、スリオンは握手を求めてきた。


「こちらこそよろしくお願いします。お……?」


 スリオンの手を握ると、突然地上に移動した。転移魔法を使ったみたいだ。



 漁村ベルサは、すっかり夜の帳が下りていた。けれども月明かりのおかげで、見通しは悪くない。


「戻ってきたな。ミッシーが見つかってよかったな。ほれ……」


 ファーギが視線で示したのは、マイアと抱き合って喜ぶミッシーの姿。あんまりやると、ニーナから命を狙われるぞ……。


「そうそう、ファーギ。全員バンダースナッチに乗せて、一旦空に昇ろう」


「ん? 何でだ? 晩飯の準備も済んでるのに」


「説明はあとだ。とにかく急いでここを離れるぞ!」


「お、おう」


 そこから撤収の動きは早かった。バーベキューの準備をしていたみたいだけど、あっという間に片付けられ、噴水近くの馬たちも全てバンダースナッチに乗せることができた。


「では、さらばだ」


 孤高の戦士、スリオン・カトミエルは、別の修業先を探すと言って去った。

 もう少し話を聞きたかったんだけど。……具体的にはミッシーのこととか。でも引き止めて聞くようなことでもないか。




「久し振りに見たな、スリオン」


 操縦席に座ったファーギが懐かしむ。


「ファーギは知ってるんだったな」


 スリオンは帝都ラビントンに買い物に来てたみたいだし。


「そうそう。とりあえず上昇するぞ」


「おう」


 ファーギはスイッチを入れ「これから離陸する」と艦内放送で案内している。操縦室には俺とファーギしか居ないので、ダンジョンの話をしておこう。今のタイミングで、全員に共有する話じゃ無い。


 アイヴィーと、エマは艦内で自由にしている。しかし、バーンズ公爵家に付いた修道騎士団の八名は、拘束して個別の部屋に閉じ込められていた。


 政情が不安定な国に、流刑島から脱走を企てている者がいるって、いきなり明かしてしまっても、良いことは無いだろう。アイヴィー、マイア、ニーナであってもだ。



 そんな話を聞き終えたファーギも同意見で、帝都ラビントンに戻る途中、サンルカル王国の王都パラメダに寄っていくことが決まった。

 まずはデッドに相談だ。


「ソータさんっ!! 大変です!!」


 操縦室に狼狽(うろた)えながら入ってきたマイアが、窓の外を指差している。彼女の後ろから、ミッシー、アイビー、ニーナが入ってきた。


「あー、崩れたっぽいね……」


 バンダースナッチは現在旋回中。窓から見える漁村ベルサが、丸ごと陥没(・・)していく。土煙が上がると、海岸から海水が勢いよく流れ込んでいった。

 そんな光景を見て、操縦室に居る者はミッシーを除いて目が点になっていた。


「ああなると分かって、撤収を急いでいたのか? ……ヤバかったな」


 ファーギは、かすれ声になっていた。


「そそ」


 あの漁村にニンゲンはいなかったので、人的な被害は無いはず。


 いったん目を閉じ、影魔法からの視覚情報を確認する。地下五百階層の台座からダンジョンコアを動かしたからなのか、巨大な空間や搬入用の通路も、次々に落盤している。しかし、脱走を企てていたと思しきニンゲンたちは、上手いこと逃げ(おお)せていた。


 あ……。影魔法からのフィードバックが切れた。

 距離が離れすぎなのか、物理的に塞がれてしまったからなのか分からない。


 流刑島までもうすぐ届くところだったのに。


 まいいや。影魔法がどれくらいの距離まで伸ばせるのか、今度実験しておこう。

 漁村ベルサはもう遙か彼方。あそこの住民が何故いなくなったのかは分からず仕舞いだ。だけど今回の依頼、ミッシーの捜索はやり遂げた。今は素直によろこぼう。



「ソータ、少し話がある」


 ちょっとツラ貸せ、みたいな言い方をするミッシー。

 アイヴィー、マイア、ニーナ、ファーギも、何事かと注目する。そんな視線を浴びながらミッシーは操縦室を出て行った。

 ついて来いって事だよな……?


「いててっ!」


「はよ行かんかい朴念仁」


 ファーギに腕を掴まれ、操縦室から追い出されてしまった。


 ミッシーと一緒にブリーフィングルームへ移動する。お互いに無言で少し気まずい。部屋に入ってからも無言の時間が続く。

 こういう時は何を喋ればいいんだっけ?


「と、とりあえず座ろうか」

「あ、ああ……」


 ぎこちない俺の言葉に、ぎこちなく答えるミッシー。

 床に打ち付けられた無骨な椅子は、ひどく座り心地が悪い。ミッシーは少し離れた椅子に座った。


「……ソータ、黙って君の元を離れて済まなかった」

「うん……」


 真っ直ぐ俺を見つめるミッシーの緑眼。俺のようにヒトの心を無くした者からすると、思わず目を逸らしたくなるほどの清廉さだ。


「私はずっとソータに助けられっぱなしで、足手まといになっていた。だから強くなるため、修行をしていた。短期間ではあったが、前よりマシになったと思う」

「そっか」


「だから、……私をまたソータの隣に居させてくれないか?」

「ああ、もちろんいいとも!」


「お、怒ってないのか?」

「へっ? 微塵も怒ってないよ」


 ミッシーが緊張していたのは、俺が怒っていると思っていたからなのか。全然見当違いの想像をしてた俺が恥ずかしい……。


「そっか。それならよかった」

「よし、また一緒に冒険できるな! ……あと、そこの覗き魔たち、さっさと出てこい」


 ブリーフィングルームの外に、たくさんの気配があるし、ドアが少しだけ開いている。ミッシーは緊張していたせいなのか、それに気付いていなかった。


「……」


 マイア、ニーナ、アイヴィー、修道騎士団の三人。

 アイミー、ハスミン、ジェス、テイマーズの三人。

 ファーギ、メリル、リアム、ドワーフの三人。

 それと、ルー・ガルーのエマ。


 ファーギはバンダースナッチを自動操縦に切り替えてまで、覗きに来ていた。


 ブリーフィングルームにゾロゾロ入ってくる覗き魔たち。一様にガッカリしているのは、俺と同じく告白タイムだとでも思っていたからだろう。

 というか、どこの世界でも、こういった話はみんな好きなんだね。


「ちょうどいい。聞いておきたいことがあったんだ、アイヴィー、話せる部分だけでいいから、状況の説明をお願いできるかな?」


 影魔法である程度は知っているけど、俺は修道騎士団に裏切り者が出たという話を聞いておかないといけない。なんでその話を知っているんだって事になるからだ。


 アイヴィーは俺とミッシー以外には、既に打ち明けていたようだ。裏切りの話を初めて聞いたミッシーは憤慨している。俺も一応、驚く振りをしておいた。


 アイヴィーの話が済んで、拘束している八人はどうするのか聞くと、このまま修道騎士団の練兵場に連れて行って欲しいとお願いされた。丁度いいので、テッドに会わせて欲しいと言うと、アイヴィーは是非ともお願いしますと言ってきた。


 あんまり首を突っ込みたくないけど、流刑島から脱走してきそうになっている囚人がいるので、テッドにこれだけは伝えておきたい。


 話が長くなって、テイマーズの三人が欠伸をしている。なので、この場は一旦解散となった。

 魔石節約のため、バンダースナッチは巡航速度で飛んでいるらしい。王都パラメダに到着するのは、明日の早朝になるみたいだ。


 就寝するためにみんなゾロゾロと出ていくが、ミッシーが席を移ってきて俺から離れない。何か話がある風でもないので、とりあえずエマを呼び止めた。


「ななな、何ですか?」

「何もしないって。話を聞きたいだけだ」


 人狼のエマ・ランペールが何故、修道騎士団にいるのか聞いてみることにした。

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