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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
5章 ミッシー捜索

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130/341

130 ベルサダンジョン300階層

 生まれながらにして、ハイエルフと呼ばれる種は存在しない。

 そうなるためには、エルフが得意とする風の魔法を極め、戦士としての強さを身につけ、妖精の神フロージに認められた者が、ハイエルフに到ることができる。


 今もなお修行を続けるハイエルフ(・・・・・)のスリオン・カトミエルは、年齢が二千五百六十歳と、たいへん高齢である。エルフ一族の中には、修行をやめない彼を、長生きしすぎてイカれてしまったと揶揄する者もいる。


 確かにそうかもしれない。しかし、彼自身は至ってまともだと考えていた。神へ登り詰めるための修行なのだから。


「スリオン!! なぜこんな無茶な修行をする!! ……修行? いや、これはもう修行じゃない!! あなたはここに自殺しに来たんじゃないのかっ!?」


 ミッシーの絶叫が響き渡る。彼女は漁村ベルサのダンジョン最下層にて、全力で奮戦中だ。エルフ伝説の戦士、スリオン・カトミエルも、すぐ隣で剣を振るっている。


 二人の前、三百メートルほど先に浮かぶ、直径一メートルほどのダンジョンコア。その黒い球体から、直径二メートルほどの鉄球が撃ち出されている。連射速度が速すぎて、撃ち出された鉄球は繋がっているように見え、まるで蛇のようにのたうちながら、ミッシーとスリオンに迫っている。


 鉄球は純鉄ではなく、炭素が混じった鋼鉄。ひとつの重さはざっと三十三トン。とてつもない質量兵器だ。

 それを全て、手に持つ両手剣で一刀両断するスリオン。何をどうすれば、二メートルの鉄球が剣で斬れるのか、さっぱり分からないミッシー。


 そのミッシーも神具である祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを使って、鉄球を打ち落としている。


「そんな事、決まっておる。我は神に到りたいのだ。カリストに先を越されてしまったでな。このまま、うかうかしていられないのだ」


 スリオンは「あと一歩」「あと一歩」と、取り憑かれたように、うわごとを呟き、少しずつ足を進めていく。

 対してミッシーは魔力切れ間近なのか、矢を射る合間を縫って、ドワーフ特製の魔力回復薬を喉に流し込む。


 最下層は大きな球体の内部で、壁面は全て鋼鉄製。出入り口は無い。


 鉄サビの浮いた閉鎖空間で、ざらついた質感の内面ではあるが、ミッシーは汗の一粒を踏んでしまい、体勢を崩してしまった。


「しまっ!?」

「何を油断しておる! そんな事では神に到ることなどできぬ!!」


 ミッシーが鉄球に押し潰される寸前、スリオンが割り込んでくる。そして、見事な剣さばきで、鉄球を真っ二つに斬った。


「あ、ありがとう」


 また、足を引っぱってしまった。


 神に到るどころか、慚愧の至りである。


 そもそも、神になるために修行しに来たわけでは無いのに……。


 というミッシーの呟きは、高速で動き回るスリオンには聞こえていない。


 状況は変わらず、一瞬でも気を抜けば肉塊になってしまう攻撃が続く。撃ち出された鉄球はどんどん増え、この閉鎖空間の内部に敷き詰められていく。二メートルの鉄球はすでに五層ほど重なり、丸い鉄球の上を移動するしか無くなっていた。


 ダンジョンコアは、その高さに合わせるように上昇している。


 敷き詰められたとはいえ、大きな鉄球の隙間は広い。そこに落ちれば、ダンジョンコアはそこに集中攻撃してくることは明らかだ。絶対に落ちることはできない。そう思いながらも、ミッシーは回避することで手一杯になっていた。


 すると、少しばかり変化があった。ダンジョンコアが放つ鉄球は、少しばらけ始めているのだ。それをチャンスだと捉えたミッシーは、前進しようとして違和感を覚える。


「スリオン!!」


 これまでは、ダンジョンコアが撃ち出すだけの動きだった。しかし、いまは鉄球が意思を持っているかのように自由に動き始めている。そして鉄球は、ミッシーとスリオンの全方位を取り囲んで動きを止めた。


 ミッシーとスリオンは、足場の悪い鉄球の床の上。それでいて、鉄球のドームの中に閉じ込められた状態。


「これは拙い、いっせいに押し潰すつもりだぞ!! ミッシーに半分は任せる!」


「半分もっ!?」


「半分だ! でなければ神に到ることはできぬ!!」


 無茶言うなクソジジイ、と喉元まで出た言葉を飲み込み、ミッシーは集中する。

 このままでは本当に死んでしまう。ソータに会う前に死んでしまう。こんな時、いつも助けてくれていたソータはいない。だから、何が何でも鉄球をたたき落とさなければ。


 心の声を押し込め、目を閉じ、やおら祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを構えるミッシー。矢をつがえる動作で、彼女の周囲に無数の光の矢が現われた。


 ミッシーたちを囲んでいる鉄球の一つが少し動く。


 それが合図だったように、全ての鉄球が動き始めた。


 全方位からミッシーとスリオンを狙って殺到する鉄球。


 一秒後にはミッシーとスリオンの肉塊ができるというタイミングで、祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグから光の矢が放たれた。


 その矢は直線で飛ばず、軌道変更しながら正確に鉄球に突き刺さり、はじき返していく。それはノックバックの効果だけではなく、自在に動き回る鉄球の能力も失わせていた。


 ミッシーは一瞬のうちに、全ての鉄球を打ち落とした。


「突然生えたこのスキル、〝斥力(ノックバック)〟も中々使えそうだ」


 はじき返された鉄球が内壁まで飛ばされてぶつかり、固い金属音がそこら中で鳴り響く。


「今のは一体……。な、何をしたのだ……?」


 半分の鉄球を斬り飛ばすつもりでいたスリオンは、驚きを隠せない様子。


 スリオンが振り返ってみると、ミッシーの緑眼に緑色の炎が映っていた。祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを使いこなした影響だ。


「スリオンが無茶振りしてくるから、こっちも必死になってやっただけだ。それより……」


 いつもの透き通る緑眼に戻ったミッシーは、未だ健在のダンジョンコアへ視線を移した。


「ああ、今が好機だ――」


 スリオンは床に敷き詰められた鉄球をトントンと飛び越えながら、ダンジョンコアへ近付いていく。あと百メートルまで来た所で、スリオンは立ち止まり剣を立て続けに振る。


 スリオンの剣から、透明な斬撃が十も放たれ、それが実体化してダンジョンコアへ迫っていく。実体化した剣は、踊るようにダンジョンコアへ斬りかかった。


 鋭い剣筋を見せる十の剣は、まるで剣の達人が振るっているように見える。


 しかし、ダンジョンコアはそんな攻撃を受けても、微動だにせず宙に留まったまま。


 乱舞する十の剣は、ダンジョンコアの本体ギリギリではじかれていた。


 生きていると言われるダンジョンコア。それからは、余裕を感じることさえできた。


 そう思いながらミッシーも追撃を掛けるため、動こうとしたそのとき、剣を上段に構えたスリオンの姿が、ダンジョンコアの背後に現われた。


「いつの間に……。いや、あれはスキル〝瞬間移動(テレポーテーション)〟もしくは……転移魔法か」


 ミッシーの呟きを余所に、裂帛の気合と共にスリオンの剣が振り下ろされた。



 静まり返る、ダンジョンコアルーム。


「ふっ!」


 次の瞬間、剣の握りを持ち替え、斬り上げるスリオン。その次は横に薙いだ。

 すると、ダンジョンコアに縦二本、横一本の線が入り、少しだけ球の形が歪んだ。


 ――ガツン。


 吊った糸が切られたように落ちたダンジョンコアは、自ら生み出した鉄球にぶつかり、細かく割れて隙間に落ちていった。


 スリオンはそれでも警戒を解かず、残心が深化する。


 ミッシーも同じく、ダンジョンコアが倒されたと思っていないようで、周囲の気配を探っている。


「ミッシー、ダンジョンコアの気配が消えないのは、何故だと思う?」


「あなたがさっき斬ったものが、ダンジョンコアでは無かった」


「そうなるな……。では、我々は何と闘っていたのだ……?」


 スリオンはダンジョンコアを倒した。それなのに、この閉鎖空間に変化が無い。本来であれば、何処かに出口が現われるはずなのだ。この球状の閉鎖空間内で、すでに半分の高さまで鉄球が敷き詰められている。


 視認できない底の方に出口が開いたとしても、スリオンやミッシーであれば空気の流れで気付く。


「つまり、ダンジョンコアを倒せてない。そういう事では?」


 スリオンは、ミッシーの言葉にハッとし、さらにもう一度ハッとした。


「ミッシー、後ろっ!?」


 ミッシーの背後に、直径二メートルの鉄球が迫っていた。間に合わない、スリオンはそう思い、スキル〝瞬間移動(テレポーテーション)〟で移動。鉄球とミッシーの間に入り、剣を構えた。


「ふっ!」


 スリオンは鉄球の中心に刺突(しとつ)を放って吹き飛ばした。

 間一髪で間に合ったことに安堵しつつ、スリオンが振り返ると、そこに居るはずのミッシーの姿が無かった。


「……」


 スリオンが辺りを見回すと、ミッシーはすぐに見つかった。だいぶ離れた場所に移動しているが、傷を負った様子では無い。


「新しいスキルか?」


「スリオンと同じスキル〝瞬間移動(テレポーテーション)〟を取得した」


「筋はいいと思っていたが、ここまでポンポン真似されてしまうとな……。丁度いい、昨晩覚えた魔法を使って見せよう」


「というと?」


「ここはおそらく、ダンジョンコアの中。ダンジョンコアルームでは無い」


「つまり、滅茶苦茶に暴れていいという事だな」


 ニヤリとする二人。


 ミッシーはすかさず魔法を使った。


 近くにあった鉄球が姿を消し、内壁の近くに現われた。


 その瞬間、鋼鉄の鉄球がバラバラに割れて、ものすごい早さで外壁に衝突した。


 大きな穴が開いてしまった。


 ミッシーの転移魔法を見て、スリオンはあんぐりと口を開けた。


「我は一度も見たことが無い、転移魔法をそんな使い方するやつは。ミッシー、お主の魔法はどうなっているのだ?」


 昨晩取得した転移魔法の使い方で、スリオンから変な目で見られているミッシー。彼女はこれまで、ソータが使う出鱈目な魔法を見てきた。その影響もあるのだろう。本来の転移魔法は、自分自身と身体に接触しているものしか転移出来ないのだ。


 それなのにミッシーの転移魔法は、触れていない物体を転移させ、かつその物体に運動エネルギーを付加しているのだ。おかげで、転移先の鉄球が、指向性を持つ爆弾のような挙動をしてしまう。

 ミッシーは、ダンジョン内の石ころで練習していたので、大きな鉄球で成功して満足げだ。


 だが、ダンジョンコアの気配はまだ消えていない。ここがダンジョンコアの内部だとするなら、今のうちに破壊しよう。


 ミッシーはそう結論を出し、鉄球を転移させ、ダンジョンコアの内部にどんどん穴を開けていく。スリオンも負けじと、壁を斬り割き始めた。


 そんな中、たくさんある鉄球の中に、ソータの影魔法が引っ付いているとは、さすがの二人も気付いていなかった。

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