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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
5章 ミッシー捜索

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128 空艇バンダースナッチ

 冒険者ギルドを出て市場で買い物をしていると、西空が茜色に染まってくる。今回の指名依頼は、初めての国外遠征。ブライトン大陸の西端まで行くことになるので、とにかく食糧を買い込んだ。


「ファーギ……」


「泊まりに来るんだろ? わかってるよ」


「おお、持つべきはやっぱり友だな! いつも助かるよ!」


「まあ、遠慮すんな。明日には出発するんだろ?」


「ああ、そのつもりだ」


「おお、気合入ってんねえ! やっぱミッシー捜索依頼だからか?」


 俺の脇腹を肘でグリグリしてくるファーギ。ニヤニヤしやがってこの野郎。


「そう言う訳じゃないけどさ……」


 お互いの買い物が済み、屋台の串焼きを頬張りながら歩く。そうすると、すれ違うドワーフのおじさんおばさんから、たまにお辞儀をされていることに気付く。

 何だろう。そう思ってファーギに尋ねると、俺が戦争で活躍した話が、帝都中に広まっているからだそうだ。


 そんなに活躍した覚えはないけどな。コソコソ動いていたという方が正しい。


 そうこうしているうちに、ファーギの工房(あばら屋)に到着する。今日も疲れた。俺は早めに就寝することにした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ファーギと二人で無人馬車に乗り、帝都ラビントンから離れていく。麦畑や野菜畑のあぜ道をのんびり進んでいくと、農地がなくなり広い草原に変わる。


 この巨大カルデラって、どうやって出来たんだろう。なんて考えながら、小一時間が過ぎた頃、ようやく軍の格納庫が見えてきた。


 金網のような仕切りはないが、周囲を囲む道に六本脚が多数配備されている。

 御者のいない馬車に、乗り手不在の六本脚。これらは全て、精霊ノームの頭脳を模写した脳神経模倣魔法陣で動いているのだ。


 皇帝から下賜(かし)された空艇も同じく、精霊ノームの脳神経模倣魔法陣を使っているみたいで、自動運転も可能だという。



 馬車に乗ったまま、格納庫の入口に近付いていく。そこはさすがに無人ではなく、ドワーフ兵が警備のために立っていた。


「ファーギさんと、ソータさんですね。話は伺っています」


「よっ、久し振り」


 ファーギは知り合いのようだ。俺たちは一応身分証(冒険者証)の確認をされた後、中に入っていいと許可が出る。


「デカい格納庫だなあ……」


 馬車を降りて歩いて行くと、近付くにつれどんどん大きくなる格納庫。かまぼこ形の屋根まで、高さ百メートルはありそうだ。

 巨大な入り口から中へ入ると、パールホワイトの塗装がされた空艇が目に入る。凄くきれいな空艇で、この格納庫の中で一番大きいものだ。


 その他にもたくさん軍用空艇が置いてあり、整備士のドワーフたちが大勢働いている。


「どれかな……? ファーギは何か聞いてない?」


「……いや。聞いてないな」


「何だよ、今の()は。何か知ってるなら今のうちに吐け」


「……」


「……」


 なんだファアーギの野郎、今度はニヤニヤし始めて何も喋らなくなった。


 とりあえず、バンダースナッチを探す。軍のおさがりなので、古い空艇を中心に探していく。というか聞けば分かるか。


「すいません、バンダースナッチを受け取りに来たんですけど、どこにあるのか知ってます?」


 とりあえず整備士のドワーフに聞いてみる。


「んお? バンダースナッチはそこだ。もう準備出来てるから、乗り込んでいいってさっき言っただろ?」


 微妙に話がかみ合っていない気がする。整備士は、経年劣化が激しい空艇を指差す。その空艇は灰色の機体で、全長三十メートル幅十五メートルくらい、鳥のような形をしていた。

 ファーギのスワローテイルより、一回り大きい。


「お前たちが最後だ、さっさと乗れ」


「最後?」


 さっきから何を言っているのだろう、この整備士は。せっつかれているので、とりあえずタラップを昇って、バンダースナッチ機内へ入る。


「おぉ……? 何だこりゃ?」


 鳥の形をしているので、首の部分はそんなに広くないはずだ。しかしそんな見た目とは大違いで、機内は随分と広い。空間魔法で機内を拡張しているようだ。

 通路は誰かとすれ違っても問題ない幅があり、客船のような個室のドアがたくさん見えている。


 バンダースナッチがどんな艦なのか、もう少し詳細を聞いておけばよかった。と後悔しながら、操縦室へ向かう。


 というか機内に知ってる気配がある……。隠れているつもりみたいだし、後ろのファーギはニマニマしているし、引っ掛ってやらないとダメなやつだ。


「ばあっ!!」


 ドアを開けると、変顔で姿を見せるハスミン。奥にはアイミーとジェスの姿。リアムとメリル、マイアとニーナの姿まであった。


 ファーギと俺を入れて、操縦室(コックピット)に九人もいる状態だ。ただ、操縦室も空間が拡張され、かなり広くなっている。なので、ぎゅうぎゅう詰めと言うわけでもなく、全員備え付けのシートに座っても余裕のある広さがあった。


「何だおっさん、反応うっすいなー! 少しくらい驚けよ!」


 しまった……。マイアとニーナが何でここに居るのか気になって、ハスミンのサプライズに驚くのを忘れていた。今から驚いても、わざとらしいだけなので止めておこう。


「どういう事だ、ファーギ」


「パーティーを組もうって言ってただろ?」


 そういえば、そんな話あったな。リアムが整備士兼、冒険者の下積み。テッドとゴヤに言われた、連絡要員としてのマイアとニーナ。


 昨日メリルから聞いた話だと、マイアとニーナはサンルカル王国に帰っているはず。そこを聞いてみると、メリルがテッドに連絡を取り、ゲートを使ってマイアとニーナを連れてきたという。


 リアム、マイア、ニーナ、この三人が何故ここに居るのか分かった。しかし、メリルは何だと聞くと、俺の動向を皇帝に知らせるために同行するそうだ。


 ……なんだろう、あの皇帝の高笑いが聞こえてきた気がする。


 一番分からないのが、テイマーズの三人だ。ファーギを睨みながら聞いてみると、あっさり白状する。


 アイミー、ハスミン、ジェス、この三人は、既にAランク冒険者になっており、ミッシー捜索の役に立つという。そんな話をそこらのやつが言ったとしても、俺は信じないだろう。だけど、ファーギの話なので、信用していいと思う。


「はぁ……」


「ため息つくなよ、おっさん!!」



 ハスミンを皮切りに、質問攻めが始まった。特に激しく聞いてきたのはマイア。地球で何やっていたのか、移民はいつ来るのか、ハマン大陸に獣人が増えてるのは何故、などなど山盛り聞かれる。なので、情報を取捨選択して伝えた。


 シビルにゲート作成のお願いをしていることや、ネイト、ドリー、ブレナ、この三人と協力関係にあることは、黙っておいた。説明しても、話が拗れそうだと思ったからだ。


 話が一段落すると、ファーギ以外は自室に戻っていった。機内の空間が拡張されているので、何がどこにあるのか分からん。あとで確認しなきゃ。



「ところでソータ、空艇の操縦できるのか?」



『どう?』

『操縦可能です。以前からファーギの操縦を見ていますので』



「ああ、たぶん大丈夫」


「……たぶん? ダメだ、ワシが操縦する」


「お、んじゃ頼んでいい?」


「任せろ」


 そう言って操縦席に座ったファーギ。俺は隣のシートに座る。飛行機の操縦席に座ったことはないけど、たぶんこんな見え方になるんだろうな、という光景が目の前にある。細かい計器はあまりない。しかし操縦かんは映画なんかで見たものと似ている。


 フロントガラスは、ガラスではない何かで作られている、俺とファーギの席は上下左右が透明なパネルになっていて、視界が広く確保されていた。


 ゆっくりと動き始めたバンダースナッチ。離陸準備は済んでいるみたいで、ドワーフの整備士が誘導していく。格納庫から出たところで、一旦停止。ファーギが機器を確認し終わると、俺を向いて声をかけた。


「サンルカル王国の西端、ベルサ村だったな? 座標の入力は終わってるから、あとは到着するまで楽にしてていいぞ」


「操縦しないの?」


「操縦かんを持つのは、何かあったときくらいだな」


 ファーギと喋っていると、魔導通信機から声が聞こえてきた。


『いつでも飛べるぞ』

「了解、んじゃ行ってくる」


 ファーギが応答すると、フワッと浮かび上がる感覚がした。離陸したみたいだ。バンダースナッチは垂直に急上昇していく。空の雲を突き抜けた辺りから、ゆっくりと東へ向かって進み始めた。


 この間、ファーギは操縦かんを握っていない。完全に自動航行をしているのだ。どんな魔法陣が使ってあるのか興味があるので、今度調べてみよう。


 しばらくはやることが無いので、艦内を見て回ろう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチは鳥のような形をしているが、中はその形通りではない。空間拡張されているので、広いとは思っていたけれど、ここまでとは……。

 体育館くらいの面積があり、それが二層もあったのだ。今歩いているのは、上層で、宿泊や生活空間。三本の通路があり、個室、シャワールーム、トイレ、作戦会議室(ブリーフィングルーム)、調理場、食堂と、ここに住んでもいいくらいの設備が整っていた。


 階段を使って下層に降りると、武器庫や貨物室だ。階層の後方に機関室があり、そこに入ると、リアムがマニュアルを読みながら座っていた。


「よっ」


「んあ、ソータさん」


 丁度いい。これを機会に聞いておこう。


「リアムはさ、何のために冒険者になったの?」


「そりゃ、デーモンを討つためっす」


獣人(・・)ではなく、デーモンか」


「おやじの仇が誰なのかって考えると、そうなるっすよ。あ、でもデーモンが憑いたやつらも同じく討つっす。そいつらは、ニンゲンとしての一線を越えているわけだから」


「そっか……。あんまり無理するなよ」


「自分のこと過信しないって、おやじに叩き込まれてるんで大丈夫っす。気にかけてもらって、ありがとうございます」


 機関室を後にして、ホッとする。リアムは、父シチューメイカーの仇を討つために冒険者になった。その矛先が獣人とデーモンを一緒くたにしていたら、どうしようかと考えなきゃいけなかった。



 艦内は一通り見終わった。操縦室へ戻っていると、角を曲がったところでマイアとばったりと会う。後ろにはニーナもいる。

 これも丁度いいな。ちゃんと聞いておこう。


「マイア、ニーナ、ちょっと話がある。時間あったらでいいけど、ブリーフィングルームにいかない?」


「うん、あたしもソータさんと話したいと思ってたの」


 ブリーフィングルームへ移動して、三人で腰掛ける。ドワーフ軍であれば、演壇に上がった上官が演台で連絡事項を伝える場だ。広さは学校の教室くらいで、木製の椅子が金属の床に固定されている。


「んでさ、聞きたいのは、ニーナの件なんだけど」


「あ、あたしもその件だったんです……」


 ここには俺とマイア、それにニーナもいる。いつもマイアにピッタリくっついて離れないから、ついてくるとは思っていたけど案の定だ。


「あ、あの……。すいませんでした!」


 立ち上がって深く頭を下げるマイア。横にいるニーナは、知らん顔して座ったままだ。それに気付いたマイアは、ニーナの耳を引っぱりながら立ち上がらせ、首根っこを掴んで俺に頭を下げさせる。


「先日ニーナから、これまで何度もソータさんの命を狙ったって聞きました。私の連れがそんな凶行に走っているとはつゆ知らず、本当に申し訳ありません!」


「ああ、うん。マイアの謝罪は(・・・・・・・)受け取る」


 当の本人であるニーナは、マイアから強引に頭を下げさせられているだけで、侘びようとする気は無さそうだ。それに、俺を狙って夜な夜な襲撃してきていた理由も分からない。


 そこを聞いてみると、ニーナは、俺がマイアを取り上げると思って、嫉妬していたらしい。


 何だそれ、とも思ったけど、たしかマイアとニーナは、スラム育ちだったはず。二人は絆が深いのだろう。


 ようやく顔を上げた二人。マイアは涙ぐんで申し訳なさそうにしているが、ニーナはどこ吹く風。ぷいと横を向いてしまう。


 ふーむ。……ニーナの横顔をよく見ると、歯軋りでもしそうなくらい悔しがっている。マイアに対して、特別な感情を持っていそうだ。


 俺は恋敵なのか……? 絶対に暗殺を止めてくれそうにない気がする。



「まいっか。それと別件なんだけど、グレイスはどうなった?」


「えっと――」


 帝都ラビントンに滞在中、グレイスは偽の情報を流布していたそうだ。具体的には、俺が悪で有るかのように情報操作を行なっていたらしい。その印象を植え付け、俺を殺しても罪に問われないように仕組んでいたのだ。


 いやいや、首をはね飛ばされたけどね。


 サンルカル王国が、地球の軍に攻め込まれているという話もあったらしい。しかしそれも誤情報。地球の国連から使者が訪れ、サンルカル王国で会談を行なっただけの話だったそうだ。移住の話が出ると、国王のエイドル・サンルカルは、前向きに検討すると応じたらしい。


 政治は政治で色々動いてんだな。


 佐山の動向を聞くと、獣人自治区制圧後から連絡が取れていないらしい。協力関係が無くなったのではないので、テッドとアイヴィーが、佐山たちを探しているそうだ。

 あいつらマジで、何やってんだ……?



『おーい、目的地が見えてきたんだけど、様子が変だ。あれが漁村なのか……? 確認したいから、全員操縦室に集まってくれ』


 艦内放送でファーギの声が聞こえてきた。

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