121 大魔大陸からアラスカへ
大魔大陸の名はお飾ではなく、本気でヤバい場所だった。一体一体の魔物がとにかくデカい。竜やワイバーンはいないみたいだけど、大型旅客機なみにデカいナマコが飛んできたり、地面から大型客船なみにデカいダンゴムシが出てきたりで、百体のスチールゴーレムも苦戦し始めていた。
なので、追加で一万体のスチールゴーレムを創り、対抗させているところだ。
結果は上々。破竹の勢いで魔物の殲滅が始まっている。
美味しい副産物も山盛り得られた。
ミニバンくらいの大きさがある魔石が、そこら中に転がっている。もちろん魔物が持っていたものだ。目に入る魔石だけでも、ひと財産どころか富豪になれる量がある。
これは、ここに来るかもしれない獣人のために残しておこう。ゴーレムたちに、魔石の貯蔵庫を造るように念話で指示を出す。
了解の返事と共に、別の念話が飛んできた。
『このままじゃ、魔物が絶滅するかもしれねえ。どうすんだ?』
『ここの魔物にとって、俺たちは侵略者だ。絶滅させる必要はない。この地に百五十万人が住めるよう、窮屈じゃない程度まで安全地帯を広げてくれ。あとは人間が住める街づくりと、防衛に勉めるように』
『了解だ』
魔物とスチールゴーレムの戦いで、目の前の草原は穴だらけ、そこら中に肉片が落ちている。奥に見えていた森も木々がなぎ倒され、ずいぶん遠くまで開けてしまった。
人間が生きていくって大変なんだな……。
こけし三名に声をかける。
「ドリー、ブレナ、二人に憑いていたレブラン十二柱の話なんだけどさ、俺が滅ぼしちゃったでしょ。アンガネスに戻ったら怪しまれるよね。なにか怪しまれない策はある? 俺は獣人には協力するけど、デーモンは認めない。絶対にだ。……あ、地球の悪魔じゃないからね?」
バイモンから、じとっとした視線を感じたので、フォローしとく。
「それなら筋書きを考えましょう。私、ドリー、ブレナ、三名でソータくんを罠にはめようとして失敗。極悪非道なソータ・イタガキの策で、逆にレブラン十二柱を失ってしまったと。アンガネスでそう発表した後、ドリー区長の名で、極悪非道なソータ・イタガキを指名手配すればいいんです」
おおう……。一言フォローしただけじゃダメだったのかな? とんでもない悪役に仕立て上げられてしまいそうになっている。極悪非道って二回も言われてるし。
否定はしないけど。
「それでうまくいきそうなら、そうしてくれ。それとバイモン、ちょっと確認」
「はい」
「カナダのドーソンシティ近くで、巨大ゲートを開いたのはお前か?」
「……いいえ」
「誰?」
「マリア・フリーマン……。とてつもない魔力を持つ、この世界の魔女で、巨大なゲートの一つや二つ、簡単に作れます」
あのフェス会場にあった魔法陣は、開くまで二十四時間かかるやつだったな。そんなに時間がかかるものを、簡単にとは言わない。マリア・フリーマンってやつが、実力を隠してこそこそ動いているって線か?
「…………ちっちゃいゲートしか開けないって聞いてたんだけどなあ」
「下っ端の構成員なら、それくらいしかできませんね。ソリッドリーパーは人数が多いので、能力にばらつきがあるんです」
「そっか……。もうひとつ確認。円形ドームで、獣人に憑いていたデーモンは、お前の配下か?」
「……ええ、そうです」
「さっきさ、全部引っ剥がしてこっちに召喚しちゃったんだけど、気配が消えてったんだよね。あれって冥界に帰ったって事?」
「その通りです。面倒なことしてくれましたね……」
「お前が黙ってるからだよ」
「その、お前って言うの、やめてくれませんか? 気分悪いです」
「……はい、すみません」
悪魔だし雑に扱おうと思ってたのに、正論パンチ食らってしまった。
「これからなんて呼べばいいんだ?」
「ね、ネイトでお願いします」
きしょい……。ミッシーの時とは訳が違う。化粧してきれいな顔してるけど、灰色の悪魔だ。それに、宿主のネイトは間違いなく男。なのに、顔を赤くするとは……。ドリーの鼻息荒くなってるし……。
「んじゃさ、これまでにネイト配下の悪魔が憑いた獣人は、どこに行ったんだ?」
「え、ハマン大陸に決まってるじゃないですか」
……ああ、そっか。地球の悪魔は、実在する死神って枠で協力してるんだよな。てことは、獣人、デーモン憑きの獣人、地球産デーモン憑きの獣人、実在する死神が、ハマン大陸に流れ込んでいることになるのか。
「ここにビーストキングダムを造るって、先走っちゃったなあ……」
「いいえ、聖人様、この地が安全であるなら、獣人の皆さんは賛同してくれるでしょう」
ドリーの目が金貨になっている。そこら中に転がっている、巨大な魔石に目がくらんだみたいだ。まあでも、国家を運営するならお金は必要だしね。
「あの肉、食べられるのかな……?」
ブレナは食欲優先のようだ。
『あとは任せるぞー』
『任せとけー!』
ここでやることは、ゴーレムに緩い指示を飛ばしたところでおしまい。
「さて、三人ともアンガネスの近くまで送ろうか? 質問があるなら今のうちにしといてくれ」
アンガネスのど真ん中にゲートを開いて俺が見つかれば、せっかくの計画がおじゃんだ。
「ソータくん、魔導通信機を持ってますか?」
「え、うん、持ってるよ?」
「番号を教えてください」
何それ? 番号? 電話なのかこれは。
魔導バッグから出して、魔導通信機を触ってみる。
ふむ……。通話ボタンしか分からん。
「……まさかとは思いますが、使い方をよく知らないんです?」
「い、いやあ、そんな事あるわけないっしょ?」
「いいから貸してください」
俺からもぎ取った魔導通信機を、ネイト、ドリー、ブレナで見られている。
簡単な通信機なので、ファーギと喋った履歴などは残ってないはずだ。
「短縮ダイヤルに登録しました。ここを押すと私、これがドリー、こっちがブレナです。これでお互いに連絡できますので、魔導バッグではなく、身につけておいてくださいね?」
「おおう……ありがとな」
「はい。それでは失礼します」
三人とも、ネイトの転移魔法で消えた……? ゲート無しで異世界間の移動ができるのか。
そういえば、……バイモンは取り憑いているネイトに、どうやって戻るのかな?
まいっか。
俺はアラスカにある、アメリカ空軍の秘密基地にゲートを繋げた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とっても爽やかな目覚め。魔力、神威、冥導、共に全回復。体調は良好! だけど、二十六歳にもなると三徹は効く。壁に掛かった時計は十二時を指していた。
というかここどこ? 俺は個室で一人、ベッドに寝かされている状態だ。
んーむ? この建物の内装には見覚えがあるぞ。
デナリ国立公園北部にある、第二十八特殊戦術飛行隊の空軍基地だ。
この状況から察するに、俺はゲートをくぐった瞬間、気を失った、というか寝た。それでここに運び込まれたんだろうね。
お世話になります。という意味を込め、天井の隅にある監視カメラに手を振る。
しばらくすると、ダーラ・ダーソン少尉が、金色の髪の毛を振り乱しながら駆け込んできた。
「何なんですか、ソータの身体は!! 持ち物検査ができないし、血液検査の針も刺さらないって聞きましたよ?」
あー、俺を助けるついでに、これ幸いと色々調べるつもりだったのか。デニムとシャツは脱がされ、手術着に着替えさせられている。腰のベルトに通した魔導バッグだけ、元の状態だ。
『ありがとな』
『どういたしまして』
「ちったあ俺の身体の方を気遣って欲しいんだけどな?」
「あっ!! ごめんなさい!! それはそうと、アンガネスから獣人が消えてしまって、大騒ぎになってます。ソータ、何をしたんですか?」
ダーラは広くない部屋をバタバタ走り回り、壁に立て掛けてあったパイプ椅子を持ってきてベッドの脇に座る。そして、ぐっと顔を近づけてきた。
「俺は何もしてない。それより、アメリカ軍のダーラ・ダーソン少尉に聞きたいことがある――」
そこで一旦言葉を止め、監視カメラを見る。
「ウォルター・ビショップ准将、デボン・ウィラー大佐、二人とも来てくれないかな?」
「な、何よ、改まった声で、どうしたの?」
「三人そろってから話す。ちょっと着替えるから、あっち向いてて」
「えっ、ちょっ!」
突然脱ぎ始めたので、ダーラはびっくりして背を向ける。俺は手術着姿なので、近くのカゴに入っている服に着替え始めた。
ちゃんと洗濯してあるけど、風呂に入ってないからなあ……。後で基地の風呂を借りよう。あ、シャワーしかないのかな……?
『身体は清潔にしてますよ?』
『ああ、リキッドナノマシンが汚れを落としてくれるのは知ってるけど、気分の問題だ。湯船に浸かりたいの』
『贅沢ですねぇ』
もうだいぶ湯船に浸かってないんだよ。
なかなか来ないな、あの二人。ちょっと来てと言っても、あの二人がずっと俺を監視しているわけじゃないから、当たり前だけど。
その間、ダーラと差し障りの無い世間話をしておく。具体的にはイェール神学校で何をやっていたのかなど。すると悪魔を倒す方法など、興味深い話が出てきた。深掘りして聞こうとすると、残念ながらノックが聞こえてきた。
入ってきたのは、ご指名の二人。監視カメラがそのままなのか確認のため、そっちに視線を移す。
「カメラは切ってきた」
ウォルターは俺の視線で、そう答えてきた。デボンが壁に掛けてあるパイプ椅子を二つ持ってきて、ベッドに腰掛けた俺の前に座る。まずは聞かせてもらおう。
「アンガネスを中心に、小さな飛行場が何カ所かありますよね。サークル・シティー、バーチ・クリーク、セントラル、他にもたくさん」
冥界アンガネスで空を飛んで周囲を確認したとき、いくつか飛行場が見えていたのだ。
誰と無しに喋ると、ウォルターが答えた。前回と同じく、一番の上官が責任を持って話すのだろう。
「ああ、アラスカは飛行機がないと、交通の便が悪くてな……」
「そこはアメリカ軍、アラスカ州警察、FBIその他もろもろで溢れかえってると思うんですが、こちら側の魔術師がどれくらいいるか把握できてますか?」
「――っ!」
ウォルターは実在する死神とは無関係かもしれないが、秘密基地の司令官だ。それくらい知ってるだろ、と思ってカマを掛けたんだけど、対人交渉下手くそか。そんな顔したらダメでしょ。
ダーラとデボンは、あーあ、みたいな顔になっている。
「把握出来ているという前提で話しますね――」
アンガネスの獣人が消えたのは、地球の冥界に行っているせいで、そろそろ戻ってくる。
そのとき、溢れかえる獣人たちを見て、法執行機関がアンガネスに突入することは、絶対にやめて欲しい。
特に、こちら側の魔術師たちが勝手な行動をしないよう、目を光らせるようにと伝えた。
「どういう事かな、ソータ」
ウォルターは地球の冥界を抵抗なく受け入れ、魔術師が勝手な行動をしないように、という点を聞いてきた。だいぶ知ってそうだな、この人。
「悪い実在する死神が行動を起こし、アンガネスを襲撃する可能性があります。政府機関にも実在する死神が入り込んでいるので、一気にそいつらをあぶり出せますよ」
チラと視線を動かし、ダーラとデボンを見る。心拍数上がってますよー。
この二人はアメリカの実在する死神だ。イェール神学校で、悪魔の滅ぼし方を学んだ者と、右目に聖痕を持ち、悪魔を見つけることが出来る者、その二人がアメリカ軍にいる。
特に、デボンの聖痕だ。
この目のおかげで、アメリカの実在する死神は、ネイト・バイモン・フラッシュが悪魔だと知っていた。
ダーラとデボンの言動から見て、アメリカの実在する死神は、悪魔を是としないだろう。つまり、ビッグフットとアメリカの実在する死神は、敵対している事になる。
ダーラとデボンはアメリカ軍なので、民間施設に直接の攻撃をする事が出来ない。しかし、アラスカ州警察、FBIアラスカ支局、これらの法執行機関であれば、なんやかんや理由をつけてアンガネスに突入可能だ。
そこにアメリカの実在する死神が紛れ込んでいる可能性がある。
悪魔は神に赦されました、信じてください、なんて言おうものなら、アメリカの実在する死神から、俺が追われるかもしれないし、彼らを説得する時間があるとも思えない。
悪いな、ダーラ、デボン。今はネイトたちに任せたい。やつは地球と異世界、両方の神に赦された悪魔なんだ。
「分かった。至急手配しよう! 今回のフェス会場の件で、我々も実在する死神には手を焼いているからな」
ウォルターはすくっと立ち上がり、部屋を出ていこうとする。判断が速いな……。
「あ、ウォルターさん待って。悪い実在する死神が出てこない可能性もありますよ?」
俺がここで言ったことは、ダーラかデボンによって、アメリカの実在する死神に連絡が行くはず。それで尻込みして、出てこないかもしれない。
「構わんよ。州警察とFBIには絶対に渡さん! 軍で取っ捕まえて、アメリカ国家安全保障局行きだ!! ボロ雑巾になるまで情報を絞り出してやる!!」
ウォルターは尻上がりに声が大きくなり、ズバーンとドアを閉めて出ていった。
俺は残った二人から、じっとりじめじめ梅雨のような視線を感じていた。
お読みいただいてありがとうございます!
これにて第4章完結です。明日より5章開始ですよろしくお願いします。
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