表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
4章 魔大陸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/341

115 冥界の五階層

 昼なのか夜なのか、よく分からない明るさの冥界。太陽がない茶色い空。

 泥沼からようやく陸地に辿り着いたソータは、その場に倒れ込み、大きく深呼吸を繰り返す。枯渇した魔力の代わりになる神威が使えず、自力で歩いてきたのだ。


『リキッドナノマシンが動かないと、こうまで体力が奪われるのか』

『そりゃそうです。だから実験の意味も込めて――』

『シッ!』


 汎用人工知能との会話を遮り、周囲を探るソータ。何かを感知したのだろう、疲れた身体に鞭を打つように駆け出し、枯れた森の中へ飛び込んだ。

 茶色くなった藪は、僅かな水分も残さず乾燥し尽くしている。ソータが飛び込んだおかげで、藪の枝葉が砕けて粉となり、煙のように舞い上がる。


 藪から顔を出したソータは、泥沼の上空に浮かぶ、ネイト、ドリー、ブレナの三人の姿を確認した。


『ネイトって女なの?』

『あれが本来の姿では?』

『てか見つかってるなあ……』


 三人ともスーツ姿で、変わりはない。女装しているドリーは置いといて、ソータは、ネイトまで化粧をしていることに驚きを隠せなかった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ソータを見咎める三人。先ほどまでの自信は何処へやら、困惑の表情を浮かべていた。


「バイモン殿……? ソータ殿はそれほど自信を失ってそうには見えませんが」


 ドリーとブレナは、身体の主導権をレブラン十二柱のルミリオとキーノに渡しているため、声は変わったままだ。


「……たしかにそう見えますね。しかしここは冥界の第五層。あの情けない姿を見れば、神威が使えない状態だと明らかです」


「ここで仕留めちゃっていいのかな……。エリス怒らない?」


 その声はブレナ。心配でキーノと入れ替わったのだろう。なにせ、エリス・バークワースは、ソータを殺害するための強力なデーモンを探しに行っているのだから。


「その前にソータくんの首を取ってしまえば、諦めも付くでしょう。それに、獣人を率いているのはドリー・ディクソン、あなたですよね?」


 急に振られて、ドリーと入れ替わるルミリオ。


「そうですけど……ね」


 ドリーは、ビーストキングダムを復権し、エリスを女王にしようと画策している。

 バイモンは地球の科学と共に、異世界へ移住しようと企んでいる。

 ブレナはあくまで、エリスとの友情を考えている。


 三者三様の思惑はあるものの、ソータを何とかしなければいけないという点では、この三人の行動は一致していた。


「とにかく、今の状態なら、ソータくんを倒すのは容易いはず。次の段階に進むためにも、早めに事を済ませましょう」


 バイモンの言う次の段階とは、異世界におけるビーストキングダムの復権だ。

 ただし、彼の本音は別にある。


「あたいは右から回り込む」

「私は左からねっ!」


 バイモンから離れていく二人。挟撃してソータを始末するつもりだ。


 それを見て、笑みを浮かべるバイモン。彼は今何を考えているのだろうか。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ブレナ、それはあなたの記憶?」

『……そうよ』


 浮遊魔法で飛んでいるブレナは、身体の主導権をキーノに渡している。ブレナと完全に一体化しているキーノは、ブレナの思考まで共有していた。


「ソータと仲間になれたかもしれないって、いつの記憶なの?」

『大昔のことよ……』


 ブレナとソータの接点はわずかしかない。ジョン・バークワース商会に潜入したときから、アリスが死ぬまでだ。彼女はその間、エリスのために一生懸命頑張るソータを見て、心を動かされていた。


 しかし、帝都ラビントンで獣人がテロを行なったとき、ソータがトライアンフのリーダー、フィリップ・ベアーを殺害した。このことで彼女の心は一変し、それ以降、ソータを目の敵にしてきた。


「それなら、何故迷う」

『……』


 ブレナは此処ぞという時になって、泡沫の恋慕の情を思い出していた。


「バカなの? そんなこと考えて、どうにかなる時期は過ぎているわ!」

『……わかってる』


 ブレナの身体を動かすキーノは、茶色い空で急加速し、枯れた森の中を必死で走るソータに近付いていく。


 ソータを挟んで向かいの空を飛ぶドリーも急加速し、同じくソータへ接近する。


 それを眺めるバイモン。何かを確かめるような真剣な眼差しで、ドリーとブレナを観察していた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 森の中を転びつつ逃げるソータは、あまりにも無力だ。何一つ魔法が使えない状態では逃げるしかない。


「ソータ殿、いえ聖人殿。お久しぶりですね」


 ソータの前に降り立つドリー。ソータは汗だくで泥まみれの状態だ。


「雨の戦場で会ってからぶりね、ソータ」


 ソータの背後にはブレナが立った。


「よっ、久し振り。……二人とも前と声が違うな。喋ってんのはデーモンか?」


 魔力切れでも、神威が使えなくても、ドリーとブレナがデーモンに変わっていると分かる。

 声も雰囲気も変わっているから一目瞭然だ。

 戦場のブレナは、ニンゲンの形をした水に変化していた。デーモンが憑いていると推測するのは容易い。


 ソータが時間を稼ぐために喋っていると気づいたルミリオ(ドリー)は、左右に身体を揺らしながら突進する。右か左、どちらの(こぶし)で殴り殺そうか、そういう風に見えた。


 対してソータは、背後のブレナを気にしつつ、生身の状態でドリーへ向かって駆け出した。


 ルミリオ(ドリー)は必ず逃げると踏んでいた。


 しかし予想外の動きをしたソータに、何か策があるのでは、と感じて飛び退く。


「どうした? 魔法は使わないのか?」


「ソータ殿……? あなたは魔力が切れて、神威も使えない。絶体絶命なのに、その自信はなんです? 虚勢だと思えないのですが……」


「お、庁舎で聞いたときの声だ。デーモンと入れ替われるんだな」


「そういう事じゃないです。ソータ殿のその自信はどこから――」


 何をくっちゃべっている、とでも言いたげな表情でドリーに急接近するソータ。


 ドリーから見て、それは常人の動きと速度だ。避けるのも反撃するのも簡単だろう。


 しかし、ソータの自信に気圧され、またしても後方へ飛んでしまった。


 それを見たソータは振り返り、ブレナの確認をする。


「ブレナ、お前さ、ベナマオ大森林の戦場で逃げたよな? 雨を降らせてどうにか出来るとでも思ってたの?」


「ソータ、そんなに煽って何がしたいの? あたいは――」


「やっぱ入れ替われるんだな」


 ブレナの言葉を遮り、二人ともデーモンと自在に入れ替わることが出来ると確認したソータは、次の行動に出た。


 それは全力での逃走だ。それを見て呆気(あっけ)に取られる二人。


『しばらくこっちで身体を動かさせてくれ』

『ホント、アンタたち何ビビってんの?』


 ドリーに憑いているルミリオから呆れたような声が聞こえる。

 ブレナに憑いているキーノは少し苛ついているようだ。


 ドリーとブレナは、ソータの人外ぶりを見たことがある。それで警戒しているのだ。その記憶を見てもなお、ルミリオとキーノはソータを追いかけようとしている。レブラン十二柱の看板は伊達ではないのだ。


 今回ここでソータを仕留める。その計画を思い出したドリーとブレナは、身体の主導権を渡すしかなかった。


 一方、バイモンは依然として宙に浮いたままで、何もしていない。少しだけ眉間にしわを寄せているのは、ドリーとブレナの腑甲斐ない動きのせいだろうか。


 ソータはひたすら森を走る。その背中を見て、ルミリオとキーノは顔を見合わせて頷いた。


 レブラン十二柱、序列六位のルミリオは、そのオカマキャラを忘れ、野太い声でソータを罵倒し始める。

 同じく序列七位であるキーノは、ルミリオに気を取られているソータの右側面へ回り込んでいく。


「魔法が使えないヒト族なぞ、(こぶし)一発で肉塊に出来る」


 そう言いつつ、ルミリオ(ドリー)は、スキル、超加速(アクセラレーション)剛力(ストレングス)加熱(ボルケニゼーション)を使い、疾風迅雷の動きでソータに肉迫し、加熱して赤くなった拳をソータの顔面に目がけて振り抜いた。


「えっ?」


 素っ頓狂な声を上げたのはルミリオ(ドリー)だ。

 超加速(アクセラレーション)で動いているのに、それ以上の速さでソータが動いている。ルミリオ(ドリー)が繰り出す拳はことごとく避けられ、それどころか反撃されたのだ。


 身長三メートルのドリーと同じ目線になるよう、ソータはジャンプする。


 もちろんその動きはルミリオ(ドリー)にも見えている。


 しかし、身体の動きがソータに追い付かない。


 スキル、超加速(アクセラレーション)を使っているのにもかかわらず。


 拙い。避けなければ。


 ルミリオ(ドリー)がそう思ったときには遅かった。


 ソータの人差し指と中指が、ルミリオ(ドリー)の両眼を抉り出してた。


 ルミリオ(ドリー)が絶叫をあげ、すべてのスキルの効果が消える。


 レブラン十二柱に到るまで、こんなダメージを食らったことはなかったのに。


 そんな思いがよぎるルミリオ。


 デーモンの時は感じなかった初めての痛み。生身の身体に憑依すれば、当然五感も伴う。


 あまりの痛みで、ルミリオは咄嗟にドリーへ身体の主導権を渡してしまった。


 ただし、五感を共有しているので意味がない。ルミリオの感じる痛みが消えることはなかった。


「どういうこと!? ルミリオ、何やってるの? 聖人様ああっ!!」


 何も見えなくなったドリーは、膝をついて叫ぶ。


 ソータは此処ぞとばかりに両手を広げ、ドリーの両耳を叩く。


 鼓膜を破った次に、ドリーの喉仏に回し蹴りを放つ。


 喉仏が砕け、ゴシャリと嫌な音が響いた。


 それで終わりではなかった。


 ソータは何度も何度もドリーの喉を蹴り続ける。


 すでにドリーは窒息状態に陥っている。


 それを確認したソータは、その場から走って逃げ出した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 キーノ(ブレナ)は、ソータの右側面に回り込んでいる途中、口から流れ出るよだれを拭っていた。

 ルミリオ(ドリー)が、ソータに先制攻撃を始めたからだ。


 超加速(アクセラレーション)は、キーノ(ブレナ)の目で追えない速さで動く。せっかくの挟撃は不発に終わったが、肉塊になったソータを思い浮かべ、どの部位を食べようかと考えるキーノは、様子がおかしいことに気付く。


 ソータの動き(・・・・)追えていないことに。


 そして、次に目にしたのは、目を潰され、耳から血を流し、喉をグズグズに潰され、膝をついて前のめりに倒れていくドリー(・・・・)の姿だった。


「ちょっ!?」


 キーノ(ブレナ)が声を上げたとき、そこにソータの姿は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ