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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
4章 魔大陸

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113 冥界アンガネス

 アメリカ軍の本当の狙いは分からない。獣人の件を解明したいとは思うけど。


 ダーラとデボンを帰して、二時間ほど経った。この時期のこの地域は薄暮(はくぼ)が続く。その間俺はずっと伏せたまま、丘の上からアンガネスを観察している。


 建物や道路が、驚くほど獣人自治区と似ており、行ったことがなければ再現できないレベルだ。前に見た動画に映った獣人自治区は、やはり本物だと思う。

 この街では馬に似せた四足歩行のロボットが馬車を曳き、ヒトに似せた二足歩行のアンドロイドが街の掃除をしている。そういった部分は今風だが。


 それにしても、人影が少ない。

 この街の獣人たちは、外を出歩かないように指導されているのか。集中して気配を探り、その範囲も広げてみたが、獣人の気配は少なかった。そのせいなのか、デーモンの気配もしない。百五十万人がここに住んでいるはずなのに。


 空を見上げて、明るさを見る。これ以上暗くならなくなってきたので、行動を起こそう。俺はいつものように姿を消し、第二の獣人自治区アンガネスへ潜入した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 街灯が照らす石畳をひたすら歩く。

 街の中心部に近付くにつれ、マンションが目立ってきた。ショッピングモールや、大きな公園もあり、こういった所は、地球的な感じがする。


 ただ、ここまでですれ違った獣人は数える程しかしない。この街の宣伝文句(キャッチコピー)には「三百万人が悠々自適に暮らせる」とあったので、もしかすると過疎っている地域へ入ったのかもしれない。


 片道四車線の太い道路を進んでいると、とうとう街の中心部に到着。周囲は高層マンションだらけとなった。

 一時間歩いて姿を見た獣人は四人、誰もデーモン憑きではなかった。さすがにこれはおかしい。獣人が少なすぎる。


 公園のベンチに座り、耳を澄ます。気配がダメなら、音で探ってみよう。


 馬車の走る音を取り除き、アンドロイドの掃除する音を取り除き、噴水の音を取り除き、風の音を取り除き、砂が舞う音を取り除き、ニンゲンが喋る声に集中する。


 すると、無音のマンションがあることに気付けた。

 そこからは一切、ニンゲンの気配を感じない。


 目の前のマンションだ。


 防犯カメラ付きのオートロックが見えている。正面から入るのは止そう。

 どれくらいの高さかな。超高層マンションだと分かるけど。とりあえず屋上へ行こう。俺は浮遊魔法を使い、一気に屋上へ移動した。


 街の景観を楽しみたいところだけど、今はこのマンション内部を調べる方を優先しよう。案の定、屋上のドアには鍵がかかっている。

 中には誰の気配も感じない。ドアノブを引き千切って、中にはいる。一歩進んだところで、俺は足を止めた。


 ――足元に真っ暗な空間が口を開けていた。あと一歩進んでいたら、落ちていただろう。


 外側から見れば高層マンション。しかしその中に居住スペースはない。


 怪しいことこの上ない。


 調べよう。この下に何があるのか。


 浮遊魔法を使って闇の空間に踏み出し、そして、落下した。

 魔法が通じない空間なのか、落ちていく最中、浮遊魔法を何度試しても浮かび上がることは無い。魔法陣の効果も切れ、俺の姿も見えるようになっている。


 ああ、なるほど。暗い闇の中、落下する感覚……ね。


 しばらくすると、フワリと地に足がついた。懐かしくも感じる、邪悪な気配で満たされた世界。


 ――――おそらくここは地球の冥界だ。


 俺はマンションのエントランスホールに立っている。外に出てみると、相も変わらず、元いた世界と同じ建物が同じ位置に建っていた。違うのは、その姿。マンションは怪獣に壊されたようにボロボロ。街灯は消え、建物にはツタが絡みついていた。


 こっちも夜だけど、地面を照らす月明かりがある。そして、膨大な数の気配を感じた。それはおそらく獣人たちのもの。


 魔法は、……使えるな。確認したあと、いつものように姿を消して空を飛ぶ。気配が集まる位置を確認。街の全体と周囲の風景を見比べる。

 アラスカだ……。遠くに見える山の位置や、近くにあるサークル村の位置も変わりない。


 地球の冥界で違いないだろう。


 チラリと目に入ってきた光は、何かが月の明かりを跳ね返したものだ。ぐっと眼に力を入れると、ズームアップされる。あれは、あの形はドラゴンだ。地球の冥界にはドラゴンが生息しているのか……。


 街の外を、カラスに似た黒い鳥の大群が移動している。


 地球に冥界があってもおかしくはない。そんな伝承、いくらでもあるのだから。


 気を取り直し、獣人の気配がする方へ移動すると、気配だけで無くざわめきが大きくなる。


 獣人たちは、冥界アンガネスの閉鎖型ドームに集まっていた。このドーム型スタジアムは壊れていない。周囲の建物はボロボロに破壊されているのに。


 確かここのキャパは五万人。中が満員で入れないのだろうか。この位置から見渡すと、周囲に溢れんばかりの獣人たちが絨毯のように広がっていた。


 屋根に降りて、整備用のドアから中に入る。

 中は天井付近にある、整備用の通路だった。そこは簡易的なもので、基本、命綱をつけて移動するのだろう。手すりは細い金属製のもの一本だけで、足場板は軽量化のためメッシュ地になっている。

 足がすくむ高さだ……。しかし都合がいい。ここからなら、全体が見渡せる。


 高照度LEDに似た何かが、グラウンドを煌々と照らしている。異世界であれ地球であれ、冥界がどうしてこうまで現実の世界と似通っているのか不明だが、いまは状況を理解することに勉めよう。


 観客席は満員。グラウンドに列を成した獣人たちが降りてきている。

 グラウンドのまん中には、空港に設置されているゲート型金属探知機のようなものが大量に並べられ、獣人たちがそこをくぐっていく。


 くぐり抜けた獣人たちは、デーモンと完全に一体化。獣人の身体能力に加え、デーモンの力を手にし、みな大喜びしていた。

 しかも、これまでと違い、老若男女すべての獣人が謎のゲートをくぐって、デーモンを憑依させている。


 どういう事だこれは……?

 召喚術者がデーモンを呼び出し、契約内容を話し合う。

 デーモンは話し合いの内容に沿って、契約者に憑依する。

 こんな流れのはずだが、今見ているのはまるで違うやりかただ。

 そもそも、召喚術者とデーモンが居ないし。


 エリス・バークワース……。こんな事をやれるのは悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )である君しか考えられない。


 ただ、彼女の姿も気配は、この場に無い。あるのはデーモンを憑依させる謎のゲートと、誘導している係員くらいだ。ということは、あの装置はエリスを必要としない、ある意味魔道具のようなものか。


 デーモン憑きを量産して、何をするつもりだ……、エリス。


 どうでもいいや。


 俺は念動力(サイコキネシス)で、謎のゲート装置を故障させていく。叩き潰したり握り潰したりすれば、誰かの襲撃だとバレてしまうからだ。


 謎のゲート装置を壊したので、そこをくぐった獣人にデーモンは憑いていない。その獣人は何故だと言って、係の獣人に食って掛かった。後列の獣人たちは、俺たちにはデーモンを召喚してくれないのかと、少しばかり騒ぎ始めている。


 騒ぎが大きくなっていくと、突然照明が落ちた。しかしすぐに非常灯が点灯し、ある程度の視界が確保できた。照明を切ったのはもちろん俺だ。近くの配電盤を開けてショートさせたのだ。


 そのせいで下の獣人たちの騒ぎは大きくなり、観客席で順番待ちをしていた獣人たちが、グラウンドに雪崩れ込む騒乱状態となった。係員たちが殴られ、突き飛ばされていく。

 謎のゲート装置に何度も出たり入ったりを繰り返す獣人が、デーモンが憑依しない、と声を上げると、獣人たちの怒りは頂点に達し、ついにデーモン憑きの獣人たちに襲い掛かった。


 デーモン憑きの獣人たちは、反撃もせずに獣人の攻撃を落ち着いて()なしている。それでも執拗に攻撃を加える獣人たちを見て、デーモン憑きの獣人たちは、グラウンドから出口へ向かって走り始めた。


 誰かが言っていたな。同族で殺し合いをするのはヒト族だけだと。


 デーモン憑きの獣人を、獣人たちに始末させようとした俺が甘かった。


 回りくどいやり方は止めにして、俺も動こう。


 デーモン憑きの獣人たちは皆殺しだ。


 そう思って光魔法を使おうと考えていると、一拍おいて、銃弾特有の風切り音が聞こえた。

 またか、と思いつつ板状の障壁ではじく。

 風魔法で光学的に姿を消し、気配遮断、視覚遮断、音波遮断、魔力隠蔽、四つの魔法陣を使っているのに、どうして毎回居場所がバレるのか。


 作業用通路を移動しつつ、スナイパーの気配を探るが、毎度ながら何も感じない。

 だけど、今回はしくじったみたいだ。これだけの暗さだと、減音器(サプレッサー)からの発火炎(マズルフラッシュ)が丸見えだ。


 もう一発飛んできた弾丸をはじき飛ばそうとすると、障壁に穴が開いた。


 くそっ! しくじったのは俺だ。沖縄アリーナで狙撃されたときから、奴らは貫通力の高い徹甲弾を使用していると分かっていたはずなのに。


 うつ伏せで俺を狙っているスナイパーの前に、瞬間移動(テレポーテーション)で移動。銃を構えた腕を踏んで、骨をへし折った。こいつ……、痛いはずなのに、呻き声ひとつ上げない。


 黒いバトルスーツ姿の男は横に転がり、足払いを仕掛けてきた。しかしそこまでだ。俺は念動力(サイコキネシス)で拘束したスナイパーを持ち上げる。


 こいつは、何度も俺を狙ってきたスナイパーの一人だ。コロンビアや沖縄アリーナの件を考えると、ソリッドリーパー過激派の手の者だと考えるのが妥当。それでも一応身元確認をしなければ。


 お? ……死んだ? 何かを噛んだあと、一瞬苦しい表情を見せ、スナイパーは息を引き取った。


 これから話を聞こうと思っていたのに。


 これはあれか? スパイ映画とかで、歯に仕込んだ毒薬を飲んで、拷問されて情報を漏らさないよう自害するってやつ? まさかそんなベタなことする?


 でもしかたがない。それならと、身分証か何かを探そうとしてみたが、何も無し。現金すら持っていなかった。


 あとは残された装備だ。座って徹底的に持ち物を漁っていく。

 ライフル、ハンドガン、ナイフ、ゴーグル、通信機、予備のマガジン、なんかパッとしないな。必要最低限度の装備だ。……というか、地球のニンゲンが、たった一人で冥界に来れるのか?

 装備は全て地球産だ。おそらく近くに支援部隊がいるはず。


 スナイパーの持ち物を漁るついでにゴーグルを覗き込んで気付いた。これ、サーマルビジョン付きじゃん。俺は体温で位置がバレバレだったってことか。


 対策をしなければ……んー。冷却魔法陣と加熱魔法陣、この二つを使って、俺の表面温度が周囲と同じにすればいい。


『できる?』

『もちろんです』


 調整は汎用人工知能に任せよう。


 さて、選択肢は二つ。

 一つ目は眼下で大混乱の獣人たちに、何をやっていたのか聞き出す。

 もう一つは、俺を狙っていたスナイパーの支援部隊を捜し出し、何者なのか聞き出す。

 どっちにしよう……。獣人は、しばらく荒れているだろうから後にするか。


 ドーム型スタジアムから出る前に、ゴーグルをつけて自分の手足を見る。凄いハッキリ見えるな……、って感心している場合じゃない。

 加熱魔法陣と冷却魔法陣を自身に使うと、サーマルビジョンから俺の手足が消えた。


 これでよし。


 俺はドーム型スタジアムの天井から外に出た。

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