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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
4章 魔大陸

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111 尋問と、じーちゃんの件

 沖縄アリーナから出ると、ゲートの確認をしに来た警察と自衛隊が、アメリカ軍の女性将校らしき人物ともめていた。さっき機関銃を向けられていたので、女性将校は俺に用事があるはずだ。


 アメリカ軍が俺に銃口を向けたのには、心当たりがある。

 アラスカの空軍基地の件だ。


 これからの行動に支障が出ないよう、出来るだけ穏便にかつ素早く話を済ませたいのだが……。


「門田、俺が話そうか?」

「つってもよお、このダーソンって将校、話にならないんだよ」

「いいから、ちょっと耳を貸せ」


 俺が日本中にゲートを設置している間、統合情報部の連中がずっと警護に就いていた。その隊長が門田だ。警察は都道府県の方たちが応援に来るので、毎回知らないヒトばかり。おかげで門田たちとは随分距離が近くなった。


 近付いてきた門田に、全てのゲートを設置完了した事と、異世界側にパチンコ玉の固まりみたいなゴーレムで警備させていることを話す。メタルゴーレムって名前で、デーモン憑きは無条件で攻撃するから、移住する家族の中に、デーモン憑きがいた場合のサポートをお願いした。


 門田は、そんな危ねえもん置いてきたのかと言いつつ、あとは上の判断になると了承してくれた。


 そうやって話していると、さっきの女性将校が乱入してきた。


「あんたがソータね! ちょっと基地内に来なさい!」


 怒ってるなぁ……。アラスカの空軍基地を滅茶苦茶にしたのに、ニュースにならなかったんだよな。その辺を探るためにも、ちゃんと出頭したいんだけど……。


「おーん! てめえ、日本語で喋れ!」


 門田は俺を警護する任についている。そのため一ミリも譲らない。最初に「俺が話そうか」って言ったのに、聞いてないし。


「門田、ほんとに大丈夫だって。だよね? ダーソンさん」


「ええ、逮捕というわけではなく、事情聴取です」


「おいこら! 今の録音したからな?」


 そう言った門田はボイスレコーダーを見せる。いまのやり取りはもちろん英語だ。


 こうして俺はアメリカ空軍嘉手納(かでな)基地へ連行された。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 アメリカ軍の基地ってどこも同じに見える。建物の色が統一されているし、建物自体も似た造りになっているからね。


 今は殺風景な部屋の中で聴取を受けている。


 俺を連行した女性将校は、ダーラ・ダーソンと名乗り、アラスカ第二十八特殊戦術飛行隊から来たそうだ。階級は少尉で基地司令の参謀をやっているらしい。どうでもいいけど、俺と同い年で親近感があるとか言い始めている。


 そんなぺらぺら喋っていいの? とも思ったけれど、俺の信頼を得ようと必死に頑張ってるみたいだ。


「ソータ・イタガキ、二十六歳、大学院生で、極めて優秀。日本国から依頼された極秘の研究をしていた。あなたネイティブ並みの発音してるけど、ブルックリンに住んでいたどころか、アメリカに渡航した事すらないじゃない。これであってる?」


「優秀では無いけど、おおむねあってます」


 アラスカ空軍基地で取り調べを受けたときの出任せを、早速突っ込まれているところだ。

 ここは絵に描いたような取調室だ。そんな部屋で二人きり、ダーラと机を挟んで向かい合っている。マジックミラーの先で二人、こちらの話を聞いていた。


「それでね、アラスカの件だけどさ、どんな魔術を使えばあんなことが出来るの?」


 ダーラもそうだけど、マジックミラーの先に居る二人のうちの一人、こいつら随分多く魔力を持っている。ほとんどのヒトが魔力を持っているのだけど、この二人は、常人の十倍以上の魔力を保有しているのだ。だがそれだけではなさそう。魔力を隠している節もあるし、何者だこいつらは。


「俺が使ったのは魔法。魔術なんて難しくて出来ないです」


 だから彼女たちはある程度知った上で聞いているのだ。魔術が使えるはずだから。


「そうなの? あはっ! 魔法使いか~。でもねー、君はもう魔術師として、アメリカからマークされてるんだよ? アラスカの基地で君が壊した飛行機や車両、穴の開いた滑走路、損害を全て合わせると六百五十万ドル超えてるんだよね~」


 どうしてくれんの? みたいな顔で見られてもな……。やっちまったものは仕方がない。というか、何が言いたいんだろ? 損害賠償しろって事か?

 いやー、駆引きだなこれは。俺に負い目を持たせて、一気に何かの要求をするはず。


「そこでだ! ソータに朗報があるのだ! 聞きたい? ん~、その顔は聞きたいみたいだね~?」


 この手のやり取りはしんどいな。

 さっさと終わらせよう。


「朗報とは?」


「なな、なんと! 君がアメリカに帰化してかつ、あたしの部隊に入隊すれば、損害賠償はしないことになったの!」


 俺がアラスカで暴れた件は、犯罪に他ならない。しかし、その事実には触れられていない。やはり、あの空軍基地は秘密施設なのだろう。表面化ができず、事件として扱われないのだ。


「お断りだ。人類に残された時間は、あと三年しか無いのに、どうしてみんな知らないんですか? 俺に今さら六百五十万ドルの借金が出来ても、返せないって分かってますよね?」


 だいたい三十年先に南極の氷が溶けてしまうので、今からでも温暖化対策をしましょう、みたいな広告や看板をよく見かける。それは日本だけではなく、世界規模のものだ。報道もそれに乗っかっている。


 情報を操作しているのは、シビルたちソリッドリーパーだ。それが良いことなのか、悪いことなのか、俺には分からないが、今のところ人類は、正気を失っていない。それは「温暖化でヤバくなるのは三十年も未来の話」という時間の余裕があるからだ。


 きっと誰かが何とかしてくれると、みんなそう思っている。その心の持ちようが温暖化の原因だというのに。


 ダーラは俺の「あと三年しかない」という言葉で黙りこくった。


 すると、マジックミラーの奥の気配が動き出し、取調室に入ってきた。


「やあ、私は第二十八特殊戦術飛行隊、基地司令、ウォルター・ビショップだ。今回は時間を貰って済まない」


 アフリカ系アメリカ人で、年の頃は四十半ば。階級章は准将だが、基地司令というのはウソかもしれない。アラスカの基地をほっぽり出して、司令官が沖縄まで来る訳がない。

 もし本当なら、何か差し迫った事態があるという可能性もある。


「俺はデボン・ウィラー。よろしくな」


 ぶっきらぼうに言ってきたデボン。魔力持ちはこいつだ。金髪の坊主頭でスカイブルーの瞳。身長百九十センチ、体重九十キロ、そんなとこだろう。何か格闘をやってそうな体形をしている。胸の米軍階級章を見て、大佐だと分かった。


「よろしくお願いします。空軍基地の件はすみませんでした。友人の手伝いで、やむを得なく。ところで、もう腹を割って話しませんか? 何があったんですか?」


 三人ともアメリカ空軍の制服姿。きっちりした印象だけど、何か含みのある表情だ。


「……よろしい。私から話そう」


 三人は目配せをして、一番上の階級であるウォルターが話し始めた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ひと月半前に、アラスカで事件が起こったそうだ。異世界から百万人以上の獣人たちが現われ、町や村を襲撃したという。いまはアラスカの新興住宅地を占拠して、そこに定住しているそうだ。


 その獣人が南下しないよう、カナダとの国境にアメリカとカナダの軍が配備され、厳重に封鎖しているらしい。


 何でそんなことになっているのか、と考えると、獣人自治区から消えた住人が、ゲートを使って移動してきたから、という結論しか出せない。


「その件で俺が何か知っていると?」


「そのとおりだ、ソータ・イタガキ。君がアメリカ軍の空軍基地に攻撃したのは、奴ら獣人を招き入れるための下準備だ。知っていることはすべて話してもらおう。ここはアメリカ軍の基地で、日本の法律は通用しない」


 ウォルターの言っていることも分かるけど、これも駆引き。しかし、獣人自治区の独立運動や、デーモンやら、正直にそんな話をして信じてもらえるかな?


「緊急事態だと分かりますが、お互いどれだけ知っていて、どこまで話せるのか不明ですよね? 俺に拷問して、一方的に聞き出しますか? もちろん抵抗しますけど。平和的に行きたいのなら、そんな脅しは止めてもらっていいですか?」


 態度悪かったかな? 怒りの表情をしたデボンが俺の胸ぐらを掴んで、なんと持ち上げてしまった。

 普段着なので、ミシミシ音を立てて、シャツの繊維がちぎれていく。

 そんな俺の姿を見て、何も咎めないウォルターとダーラ。


 しばらくの間プランプランしていると、俺が何も話さないと分かったのか、慌ててダーラが慌てて止めに入った。


 席に座ったところで、俺は口を開いた。


「アメリカの尋問術に()めようとしても無駄ですよ。俺は秘密にしようとしているわけでは無く、信じてもらえるのかどうか心配しているだけなんで。……俺が知っている情報をある程度開示します。そのあとでいいので、アラスカの状況を教えて下さい」


 といっても、何もかも話すわけじゃない。異世界で獣人がデーモンを呼び出し、建国しようとしたので、エルフとドワーフでその目論見を潰した。アラスカに出てきた獣人はその獣人自治区から逃げ出してきた可能性がある、そう話した。その上で、この件に俺が関与してないと付け加えておく。


 すごく関与してるけど。


 アラスカの基地の件を聞かれたので、迷い込んだドワーフの子どもを助けに来ただけで、他意はない、ごめんなさい、とサラッと流す。


 全然信じてもらえないかと思ったけど、受け入れたな……。というかこの三人は知っている情報だったっぽい。


「そろそろいいですか? アラスカの状況を教えて下さい」


 そう言うと、ウォルターが話し始めた。


 カナダにあるドーソンシティー近くにある野外フェス会場に、百万人を大きく超える獣人が現われたそうだ。その獣人たちは、アメリカのビッグフットという会社が作った、アンガネスという住宅地へ移動して占領。現在そこで暮らしているみたいだ。簡単に占拠できたのは、まだできたばかりで、誰も住んでいなかったからだそうだ。


 フェス会場にいた三万人の観客は、アメリカ軍の調べだと実在する死神(ソリッドリーパー)の構成員だった。そして彼らが魔術を使ってゲートを開き、獣人をアラスカに招き入れた。


 それを聞いて、俺は全然違うことを考えていた。


 ソリッドリーパーさん、あんたたち、大規模ゲートを造れるじゃないの、と。


 そうなると、シビル率いるソリッドリーパーは、大軍を引き連れていつでも帰還できる。そうしないのは予想通り、地球の富にしがみ付いていたという事になる。


 誰がゲート開いたんだろ? シビルくらいしか思い付かないんだけど、これは早急に調べた方がいいな、ソリッドリーパーにどんな術者がいるのか。


 しかしこれで、じいちゃんの件、なんか話がおかしくなってきたな。じーちゃんは国防大臣の命令(・・)で、日本人を異世界へ逃すため、野良ゲートを探しに行っている。

 過激派が七人も同行しているのは、野良の巨大ゲートをソリッドリーパーが独占して使うから、だと思っていたけど、違うのかな? 自前で巨大ゲートを開けて、獣人を地球に呼び込んでるし。


 ウォルターの話は続く。


 ビッグフット側は、獣人に不法占拠されていると訴え出た上で、穏便に済ますよう話し合いをしているとアメリカ当局に知らせてきた。


 アメリカは、獣人を国籍不明の不法滞在者とし、アラスカからの立ち退きを要求。ビッグフットの宅地建設には、不備があったと対抗。


 ビッグフットは、ばく大な費用がかかっていると主張。四百平方キロメートルの森を開墾し、そこに街を造ったので、壊されたら困る。もしそうなれば、アメリカに請求する損害賠償の金額はとてつもないものになると対抗。


 これらの話し合いは極秘で行なわれている。それもあって、なかなか決着が付かないという。


 ビッグフットが抱える弁護団の対応は強行で、現在アメリカ政府を訴える準備をしているらしい。そうなると、アラスカに獣人が百万人もいると表沙汰になる。そのせいでアメリカは現在、及び腰になっているそうだ。


 本来なら、そんな話されても関係ない、と一蹴するところだ。しかしビッグフットという会社は、月面基地で色々調べていたときに何度も引っかかったワードだ。

 超優良企業には間違いないのだけど、今話題のウェブスリー(web3)の覇権を握り、メタバース(仮想空間)を無償で提供。メタバース内では、現実と変らない世界で生活したり、まるでファンタジーの世界へ転移したような世界で生活したりできるらしい。


 月面基地で調べ物をしている最中、メタバースのリアル過ぎる広告動画を観た。


 そのとき一瞬だけ、獣人自治区とそこの獣人たちが映ったのだ。いやいやまさかねと、偶然の一致や記憶違いの可能性だと考えていた。


 けれど、今の話を聞いてしまったからには、ビッグフットが異世界で取材してきていると考えざるを得ない。ゲートを使って獣人自治区へ行ったスタッフがいるはず。


 ソリッドリーパーに続き、ゲートを開ける術者がビッグフットにもいる可能性が浮上してきたのだ。

 月面基地で調べた情報では足りなかったな……。もっかい行こう。そうしよう。


「話変りますけど、ソリッドリーパーが、月面基地で事業展開しているの知ってますよね? レゴリス(月の砂)で、コンクリート作るとか色々と」


 俺はダーラとデボンを交互に見ながら言った。キョトンとするウォルター。

 話変えすぎかと思ったけど、ダーラとデボンの心拍数が跳ね上がった。虚を衝くとここまで動揺するのか……。

 この二人はおそらくソリッドリーパーの一員。魔力の総量からして、そうじゃないかと踏んでいたのだが。


「月面基地の件はニュースになっているので、だいたいのことは知っている。しかし、ソリッドリーパーが関与しているとは聞いてないな」


 答えたのはウォルターだ。この司令官は、おそらくソリッドリーパーと無関係。


「すみません。話が脱線しましたね。アラスカの件なんですが、俺に話を聞きに来た本当の理由(・・・・・)を言ってもらえませんか?」


 俺がここで話した内容は薄っぺらい上辺だけの話。尋問するなら、もっと聞いてくるはずなのに、俺が得た情報の方が圧倒的に多い。


「いやあ、……さすがマツモト首相の内閣官房参与だ。彼はソータが了承するなら、アラスカで巨大ゲートを作らせてもいい、と言っていたのでね……」


 ……そういえば内閣官房参与だったな俺。ついでにアメリカでゲート作成してくれって話もしてた。シビルに頼んじゃったけど、そんなこと松本総理に報告してないし。というか、突っぱねるくらい、やって欲しいな。やっとこさ、ゲートの設置が終わったばかりなのに。


 でも、それも本当の理由(・・・・・)ではない。


「分かりました、行き先はアラスカですか?」


「おおっ! 助かる!!」


 満面の笑みを浮かべるウォルター。

 はてさて、アラスカでは何が待ち受けているのだろうか。

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