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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

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109 ゲート設置

 竜人(ドラゴニュート)の里に到着。オルズとモーガンにひよこ饅頭を土産に持って行くと、「美味しい」と言ってあっという間に平らげられてしまった。

 おかわりを所望されたので、東京へ買いに戻って、また所望され、買いに戻ってを繰り返す。


 十往復した辺りから「なんか美味しいものがある」と里で騒ぎになり、住民が神殿内に押し寄せてくる事態となった。

 そうなった切っ掛けは、アイダだ。彼女が「これ、おいしいよ」と言って、神殿前で遊んでいた子供にあげたのだ。


 二十往復すると、里の周りをたくさんの竜が舞っていた。何事かと思っていると、竜たちが人化して里に降りてきた。目的はひよこ饅頭を食べることだ。

 アイダが「これ、おいしいよ」と言って、人化して歩いていた竜にひよこ饅頭をあげたのが切っ掛けだった。


 三十往復すると、お店の方も品切れとなり終了。「もう手に入らないのか」と思っていると、店員さんが別の店舗を教えてくれた。有り難いけど、俺のお金が底を尽き、もう買いに行けない。

 困った事態になった、と思っていると、店員さんがひよこ饅頭は、福岡生まれだと教えてくれたので、今度買いに行こうと気合を入れ直した。


 ここまで六時間程度かかった。時間のロスだ。早めにゲートを設置しなければ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 あの日から三十日が経過した。全ての都道府県に、ドラゴン大陸へのゲートを繋げ終えたが、一か月もの時を要するとは予想だにしなかった。それは国の対応の拙さに起因するものでもあった。主たる原因は、県庁所在地にある野球場やサッカー場などを、国が強引に貸し切りにしたためだ。


 札幌ドームを皮切りに、SNSは炎上の嵐に見舞われ、内閣支持率は急落の一途を辿った。

 各地で抗議デモが勃発し、公共施設の独占をやめよと声高に訴える中、報道各社が一斉に騒ぎ立てた。


 ゲートの設置場所を警察が立入り禁止にして取材ができない状態となると、報道各社はドローンを飛ばして対抗。空からの空撮に踏み切る。対する警察は強硬だった。スナイパーを配備し、近付くドローンを全て打ち落としたのだ。


 これには国民も激怒。

 デモ隊は、暴動へと発展していく。


 政府は非常事態宣言を発令。今回の件を国家存亡の危機とし、それを錦の御旗とする。しかし、詳細が伏せられたため、各地のデモや暴動が激化する結果を招いた。


 結果、自衛隊が治安維持のために出動。警察と協力し、ゲート秘匿任務に就くようになった。


 大変だなー、官僚や政治家も。一番大変なのは、警察と自衛隊のみなさんだけど……。

 デモを煽っているのは、日本中に潜伏している実在する死神(ソリッドリーパー)たちだ。


 ソリッドリーパーは、一般人が結社に入ることで、魔術の使い方を教えるという策をとり、爆発的な勢いで「にわか魔術師」という名の構成員を増やしている。


 おかげさまで、巨大ゲートを隠している警察と自衛隊はてんてこ舞い。元から人手不足だったし、過労で倒れるものまで出てきているそうだ。


 ドラゴン大陸での作業も大変だった。


 あっちにも同じく、ミスリルの棒で二つの円を作っている。土魔法を駆使して円の中に石畳を造り出す。俺は石畳の色を変え、「行き」「帰り」と見えるようにしていく。これで間違えることはない。たぶん。


 日本が狭い国だとはいえ、一人で全ての魔法陣を管理するのは無理。ドラゴン大陸にあるゲートの位置は、日本地図を重ねて都道府県が同じ場所、同じ距離になるよう設置しているからだ。


 異世界側を管理する人材はいない。急な話すぎるし、安全面も確保できていない。


 そのため俺はゴーレムを作成することにした。


 六義園でリバースエンジニアリングしてた六本脚。あれに刻まれていた魔法陣が役に立った。


 四十七都道府県に対応する地域を飛び回って、ゲートを守らせるためのゴーレムを作成し、全てドラゴン大陸側に配置する。


 土魔法でパチンコ玉くらいのステンレス鋼を十トン程ばら撒いていく。すぐに錆びないよう、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、五つを配合して創り出した。


 冥界でアリスと戦っているときも思ったが、これは実質、物質創造と変わりない。


 山となったステンレス鋼の玉に、俺の脳を使った脳神経模倣魔法陣を使う。加えて回転魔法陣、伸縮魔法陣、魔力圧縮魔法陣、圧縮魔力放出魔法陣、連動魔法陣、強化五感魔法陣、魔力探知魔法陣、冷却魔法陣、加熱魔法陣、識別魔法陣を使うと、パチンコ玉が集まりだして、人の形に変っていく。その数は十体で、一体あたり一トンもの重さがあるゴーレムとなる。


 野球ボール大の神威結晶を創り、いつものように俺以外が触ると自壊するように設定。それをゴーレムの胸に埋め込んでいくと、雑音のような念話が聞こえてきた。


 予想通りで、満足だ。俺の脳を使えば、俺と似た能力をゴーレムに持たせることができると踏んでいたからね。


 俺の前に整列したスチールゴーレム。「とりあえず、この二つのゲートを死守してくれ」と念話を飛ばすと、雑音の念話が返ってくる。喉がないからなのか、慣れてないからなのか分からない。けれども、俺の知識を持つゴーレムたち。意味は伝わったはずだ。頑張れ。


 こくりと頷くスチールゴーレム。パチンコ玉の集合体なので、人型をしているけれど、実際はバラバラに動けるよね。たぶん。


 このまま放置して、自己学習させてもいいが、基本的なことができるのか試すことにする。

 雑音の念話は自前でチューニングしたのか、すぐに俺と同じ声で念話ができるようになる。十体のスチールゴーレムが、俺と同じ声の念話で話しかけてくる。


 さすがに気持ち悪いので、別の声にするよう指示すると、色々な声音を出して「選んでください」と言ってきた。


 俺以外の声なら何でもいいと伝えると、すぐに全然違う声に変わっていく。

 驚いていると、スチールゴーレムから質問が飛んでくる。「このゲートを守るのはいいが、ソリッドリーパーはどうするの?」と。


 ソリッドリーパーは一番後に通ることになっているが、見た目で判別できないし、新たなソリッドリーパーが増え続けている。素知らぬ顔で、ゲートを通り抜けてくる可能性があるのだ。


 この質問には驚いた。脳神経模倣魔法陣が凄いな。

 でも、いい質問だ。心の片隅にあった懸念を、ここでハッキリさせることにしよう。


 千年も前のことで「ハッグは穏健派、カヴンは過激派」なんて言われてるが、実在する死神(ソリッドリーパー)として同じ組織に属している。本当に仲が悪いのなら、袂を分かつはずなのに。


 そうならないのは、双方共に、同じ目的があるからだ。

 異世界への帰還。これが穏健派と過激派を繋ぎ止めている楔なのだろう。


 だが、これは、俺たち地球人を欺くための嘘だ。


 シビルをはじめ、魔女ハッグはゲートを開いて、獣人自治区に魔石電子励起(れいき)爆薬を投げ込んだ前科がある。ハッグは自前の魔術で異世界へ戻れるはずなのに、何故そうしない。


 それに、時間がかかる魔術だとはいえ、二人分のゲートが開けるのなら、この千年もの時間で少しずつでも帰還できたはず。

 神々への復讐を悲願と称するなら、それくらいのことはやるだろう。


 何故そうしない。


 答えは、地球での居心地の良さだろう。


 要は(かね)だ。

 ソリッドリーパーの財力は、民間事業で造られた月面基地を見れば分かる。地球の裏社会を牛耳っているという説も頷けるものだった。

 奴らは異世界から追放された身でありながら、流刑先の地球で魔術を駆使し、千年にもわたって栄華を極めていたのだ。


 しかし、その栄華も、あと三年で終焉を迎える。


 地球温暖化だ。


 滅びゆく惑星(ほし)から逃れたいのだ。あいつらは。


 神に復讐したい? 聖なる魔女? はあ? この千年間で堕落しただけだろ。


 巨大ゲートを探している理由は、地球から異世界に様々な物資を運び込みたいからだろう。地球の科学を。

 今度は異世界へ進出して、この世界の裏社会を牛耳るつもりだ。


 だが、人とハッグ、人とカヴン、見分けることができない。


 これが最大の難関だ……、どうすればいいのか。


 ……あ、識別魔法陣。


 識別魔法陣は、魔法陣の神クロウリーが直々に敵味方の判定をするチート気味の魔法陣だ。これを十体のスチールゴーレムに飛ばして実験開始だ。


 敵はなんにするかな。


 やっぱデーモンだろう。


 冥界をイメージ、前に見たデーモンを思い浮かべて、空間魔法を使う。


 だいぶ使い方が違うが、ものは試しだ。


 ぐぬぬぬ。雲をつかむような感触。


 んー。


 よし、成功。


 名も知らぬデーモンが現れた。すると一瞬でデーモンの姿が消える。スチールゴーレムの一体が、光魔法で攻撃したのだ。


 次も同じく空間魔法でデーモンを召喚。ただし、召喚した瞬間、使役魔法を使う。

 俺の支配下に置かれたデーモンを、どう判断するか、と思っているとゴーレムの一体が、妙な気配を漂わせる。


 攻撃するのかと思って、しばらく観察しても何もしない。どうやら使役魔法で支配下に置いたデーモンは味方判定になったようだ。

 使役魔法を解除すると、デーモンは即座に光魔法で消し去られてしまった。


 周囲の気配を探ってワイルドボアを発見。召喚してみる。


 召喚されたワイルドボアとしては、急に視界が切り替わったように感じたのだろう。ミニバンくらいの大きさで、鼻息荒く興奮している。

 それを見ても、スチールゴーレムは何もしない。


 おかしいな……。ワイルドボアは結構凶暴で、人も食う雑食の魔物なのに。


 それどころか、少し怯えた空気を感じる。

 何でなのか原因を探ると、スチールゴーレムたちからの視線――目はないが見えている――が刺々しくワイルドボアに突き刺さっていた。


 松本総理みたいに視線で圧をかけて、魔物をびびらせるなんて……。

 魔法陣の神クロウリーは、「無駄な殺生はせぬ!」とでも言いたいのだろうか。


 人間の俺がワイルドボアの前に出て行けば、何らかの攻撃をしてくる。そう思ってたが、更に怯え始めた。へたり込んでお漏らしまでしている。

 何でよ! 俺が怖いの? マジで? 怖い気配なんて一切放っていないのに。


 どうにもならなさそうなので、ワイルドボアの尻を叩いて逃がす。


 そうすると、さっき妙な気配を漂わせたスチールゴーレムが、俺の前に立った。


 んー? 何だお前? 言いたいことでもあるの? と念話を飛ばすと、急に景色が変わった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 実体のまま神界に来ているようだ。頬を撫でるアイテールの風でそれが分かる。というか、今まで来たことがない場所だ。

 アスクレピウスの神殿、カリストのあやふやな空間、オルズの浮遊城、どれでもない。


 ただただ広がる大草原に俺は立っていた。


 くるりと周りを見渡しても、誰もいない。緑の絨毯とアイテールの風、丸くなっていない地平線。ん……? 神界って惑星じゃないのか……。


「ひょっひょっひょっ」


 空から落ちてきた神が、取って付けたような笑い方をする。

 宙に浮いたままあぐらを掻き、座布団にでも座っているような姿勢だ。その姿は上下茶色の羽織袴(はおりはかま)という和装である。


 宙に浮いたご老体は、白髪を後ろでざっくり結び、あごから伸びた白髭を撫でながら、俺を見つめていた。


「試すような真似はよせ。そなたが思うほどワシは耄碌(もうろく)しとらん。識別魔法陣の判定はワシに任せよ」


 あははー、識別魔法陣の敵味方判定がどれくらいの精度なのか調べていたので、怒らせちゃったかな。このご老体は多分、ファーギが言っていた魔法陣の神クロウリー。

 この感じだと、識別魔法陣を疑わない方がよさそうだ。神の判定に疑問を持って実験していたら、本人が来てしまうくらいだから、やり過ぎるとガチで怒られちゃいそう……。


「その通り。分かっておるじゃないか。ひょっひょっひょ。そなたとは一度会ってみたかったから、丁度よかったんじゃがな。あ、そうそう、ワシがクロウリーじゃ。よろしくな」


「はい。よろしくお願いします」


 すべて心を読まれてた。

 風景が変わったせいで失念してたな……。好々爺に見えるが、怒らせたらまずい。なにせ魔法陣の効力を認可(・・)する神なのだから。敵対者の魔法陣の認可を取り消し(・・・・)、みたいなことも出来るかもしれないし。


「そんなもん、すぐに出来るから、ワシに敵対する神はおらんなあ。ところでどうじゃこの恰好。そなたの世界の服装じゃが、なかなか決まっておるじゃろ?」


 決まってるが、異世界の神様が和装だと思うと違和感しかない。


「そっ、そうか? 着替えなければじゃ。それじゃ、また!!」


 次の瞬間、元の場所に戻された。目の前のスチールゴーレムは、さっきの妙な雰囲気がなくなっているので、クロウリーが遠隔操作してたのだろう。


 まいっか。そんなことより、また四十七都道府県の県庁所在地を回らなきゃだ。スチールゴーレムに、識別魔法陣を貼り付けに行かねばならないのだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「よしっ! ゲート設置、スチールゴーレムの設置、全て完了! お昼前だけど、門田たちと昼飯食いに行くか!」


 沖縄アリーナのイベントフロアで汗を拭う。ここにも、ミスリルの棒を突き刺した円が二つある。ドラゴン大陸へ行く円と、帰ってくる円だ。ここの床には事前に担当者が、「行き」「帰り」という大きな文字を描いているので分かりやすい。


 色々と動き回っているが、俺自身は、気配遮断、視覚遮断、音波遮断、魔力隠蔽、四つの魔法陣と風魔法で、常に姿を消したまま。だから誰にも見つかっていないはず。


 ニュースで顔バレしているので、用心のためだ。


 そろそろ六義園に戻り、岩崎に報告しようと考えていると、銃声が聞こえた。


 この三十日間で何度も聞いたので、特に何とも思わない。だいたいソリッドリーパーの襲撃だから。


 しかし、すぐ近くにアメリカ空軍嘉手納(かでな)基地があるのに、よくやるよ、ほんとに……。


 警察も自衛隊も、魔術を使うソリッドリーパーに苦労していたようだが、最近は簡単に撃退するようになっている。何でなのか気になるが、教えてくれる人はいない。また月面基地からハッキングして、情報収集でもするかな。


「ぬおっ!?」


 弾丸特有の風切り音が聞こえたので、咄嗟に障壁を張って弾き飛ばす。発射音が聞こえなかったので、サプレッサー付きの狙撃ライフルか。

 というか狙われた? 姿を消しているのに?


 考えている間にも、色んな方向から弾丸が飛んでくる。すべて障壁で弾いているが、狙いが正確すぎる。全弾腹部を狙っているのだ。一発必中ではなく、腹に一発ズドン、倒れて動けなくなったところで、とどめを刺す。そんな嫌らしい思考が透けている。


 その度はじくのも面倒なので、ちゃんと障壁を張って、複数人いる狙撃者がどこにいるのか探ってみるが……、気配を感じない。

 沖縄アリーナのイベントフロア、ど真ん中に立っているので、俺を狙撃するなら隠れる場所は山ほどある。だから視覚で探すのは難しい。


 あー、あいつらかな? コロンビアの魔石電子励起(れいき)爆薬の爆心地で狙撃してきた奴ら。シビル・ゴードンを含め、まったく気配を感じなかったし。

 なんて余裕こいていると、……狙撃が止まった。


「スナイパーは、わたくしが始末しましたわ。ソータ・イタガキ、貴方と取引がしたい」


 俺に気取(けど)らせず、背後を取るシビル・ゴードン。振り返ってみると、以前の美しい顔と違い、ミイラを彷彿とさせる乾燥したしわくちゃの顔だった。

 何でそんな顔に? と突っ込みたいが、そんなこと女性に聞くことはできない。


「俺と取引? 気が合うなぁおい。俺も同じこと考えてたんだよ……」


 予想外の反応だったのか、シビルの白く濁った瞳は驚いているように見えた。

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