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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

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107 てんてこ舞い

 翌日、六義園の宿舎で起きると、岩崎からの呼び出しがあり、急いで出頭する。

 部屋に行くと、北海道へ行く前に、いくつかやって欲しいと言われた。


 日本とソリッドリーパーが敵対したことで、奥多摩のゲートが使えなくなったらしい。まあ、そりゃそうだろうね。それで、六義園からでいいので、ライムトン王国にある日本大使館へのゲートを繋いで欲しいそうだ。


「了解です。んじゃちょっと行ってきます」


 俺はその場でゲートを開いた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ライムトン王国は、行ったことがない。一旦ベナマオ大森林にゲートを繋ぐ。ミゼルファート帝国の東側にライムトン王国があるので、姿を消して空を飛びながら探していく。


「あれかな……?」


 イタリアのフィレンツェのように、赤い屋根で統一された石造りの家屋がたくさん見えてきた。昼間の時間帯で人通りがそこそこあるので良かった。大使館がある場所を聞きやすい。路地裏にこっそり降りて、通行人に声をかけた。


「なんだい?」


「迷ってしまって困ってるんです。日本の大使館がどこにあるのか教えてもらえますか?」


「おや、日本人かい? この街で迷子になるのは珍しくないからねぇ、近くまで案内するよ」


「ありがとうございます!」


 金髪の壮年男性は、スーツ姿で革靴を履いている。地球の欧米人だと言っても違和感はない。周囲を歩く人々も似た感じで、スーツ姿が多い。フィレンツェにこんなビジネスマンがたくさんいたら違和感しかないだろう……。こうなったのはたぶん日本との交易のせいだ。


 道案内してくれている男性の後をついて行くと、石畳に誘導魔法陣が彫られていることに気付く。迷子が多いのはこのせいだろう……。こういうのがあると、戦争を意識してしまう。


 露店が建ち並ぶ通りを抜けてしばらく進むと、高級住宅街へと変わっていった。

 その中の一軒、高い塀のある和式の建物。瓦だけ赤いので違和感ありまくりだが、ここが日本の大使館なのだろう。


「ありがとうございました」

「ああ、気にしないで。また何か縁があれば」


 壮年の紳士は俺を無事送り届け、笑顔で去っていった。


 彼だけでは判断できないが、この国で日本人は好かれているように見える。黒髪は俺だけだったので、すごく目立っていたが、特に何も嫌なことをしてくる輩はいなかった。先達たちの努力の賜物だ。


 大使館入り口は、ライムトン王国の兵士が警備をしている。

 俺が日本人だと伝え、誰か呼んでくれと頼むと、すぐに木製の門が開いた。


 門を開けた本人は柏木(かしわぎ)平助(へいすけ)と名乗り、日本大使としてライムトン王国に駐在しているという。

 どうやら昨晩からゲートが使えなくなっていて、誰か来るのではないかと待ち構えていたらしい。


「初めまして。板垣颯太です。今回は日本とのゲートを繋ぎにやって参りました」


「おお、有り難い! さあ、奥へどうぞ」


 中庭に入ると赤い屋根以外は完全に日本庭園で、違和感しかない。だが平屋建ての屋内に入ると、昔懐かしい感じの日本の家だった。畳なんてどうやって持ち込んだのだろう? 三十畳ほどの広い和室に通され、少し待ってくれと言われる。


 茶の間ではないので、さすがに脚の短い座卓(ちゃぶだい)は置いていない。会議室然とした円卓に、十個の椅子が備え付けられていた。

 座って待つのも失礼かなと思い、立ったままうろうろしていると、お茶と茶菓子を持った和服女性が入ってきた。


 後ろから柏木が入ってきて、座って話をしようと勧められる。案の定「何が起こっているのか教えてほしい」と聞かれるが、俺が言ってもいいのかな? ちょっと判断できないので、お茶を飲みながら茶を濁しておく。


「それより、ゲートを繋げて直接聞かれた方がいいと思いますよ?」


「おお! そうだそうだ! そうしよう!!」


 柏木は急いでいるようで、そそくさと屋敷内を移動していく。

 俺の身分証の確認もせず、屋内へ入れたこと。俺が何者かまったく気にしない様子。そんなんで大丈夫? と言いたくなるが、そうではない。


 門田と似た魔力を感じるので、おそらく彼は忍者。しかも相当腕が立つ。

 その証拠に、俺の前を歩く柏木の背中に一分の隙もないのだ。


 さっきお茶を運んできた女性も忍者だ。……くノ一って言うんだっけ?


 ――つまりここは、忍者屋敷。


 柏木が立ち止まると、畳がめくれ上がって地下へ続く階段が見えた。二人でそこを降りると、床に大きな魔法陣が描かれ、ロウソクで明かりを採っている薄暗い部屋だった。


『転移魔法陣を確認しました。解析します……。解析と改良が完了しました。この魔法陣は魔力を消費することで、探知魔法が発動して設定された座標を固定、時空間魔法が発動し、目的の位置へ転移できます。それと、莫大な魔力が必要になりますが、時間の超越も可能です!』


『頑張ってもらって有り難いんだけど、瞬間移動(テレポート)や、転移魔法があるし、ゲート使って知ってるとこに行けるし……ん? 時間の超越?』


『はい! 試算したところ神威を使っても、数秒しか時間を操れませんが、更なる改良を――』


『待って待って』


『はい?』


『名前からして、そうかなと思ってんだけど、時空間魔法が時間を超越させるんだよね?』


『はい。ですが、過去の改ざんはやめておいた方がいいです』


『ああ、やんないよ、そんなこと』


 バタフライエフェクトで思いがけない影響が出る。修正するために何度も時間のループする。更なるバタフライエフェクトで、状況は悪化していき、挙げ句の果てに詰み。……ろくなことにならない。多世界解釈によると、バタフライエフェクトによる世界の分岐が起こる。過去に戻って何かするたびに、似たような違う世界が出来上がって、枝分かれしていく。時空間魔法を使うことでそんな結果が待ち受けているのなら、おっかなくてできない。……いや待てよ。


「ソータくん?」


「へっ? あっ! すみません。ゲートを開くのはこの部屋からでいいんですね?」


「はい。お願いします」


 俺は六義園の指定された位置にゲートを開く。


「えっ!? もう開いたんですか?」


「ええ、国からの指示で六義園の地下に繋がってますが」


 聞くと、ソリッドリーパーの連中が開いていたゲートは、床に描かれた魔法陣が重要らしく、その上呪文が長くてゲートが開くまでえらく時間がかかっていたそうだ。しかも通れる物は人二人分の幅と高さのみ。


 俺が開いたゲートは、この部屋の天井に届きそうなくらい高く、部屋一杯の幅がある。その先には、驚いてこちらを見ている統合情報部の隊員たちがいた。


「少し聞きたいんですけど、この屋敷はこれまで襲われたことはありますか?」


「とんでもない。ライムトン王国が、がっちり守ってくれてますよ」


「それなら平気かな」


「またこんな状況になって日本に帰れなくなったときの保険として、一度だけこちらからゲートを開けるようにしておきます」


 床の魔法陣を風魔法で上書きする。もちろん一度使ったら転移魔法陣が自壊するようにしておく。風魔法だから見えないし、書き写されることもない。


 ……あ。ヒュギエイアの杯もこれでやればいいんだ。


「緊急時にゲートを開く場合、日本語で『六義園』と言えばいいです」


「おお! 何から何までありがとうございます」


「いえいえ、礼には及びません。それじゃ一旦ここで失礼します」


 開いたゲートを自らくぐり抜けた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 六義園内部に足を踏み入れ、すかさず周囲を警戒する。また誰か銃を向けてくるのではないかと思ったのだ。だがそんな気配はない。岩崎の呼ぶ声で、部屋に移動する。


「早かったね?」


「ええ、時間がないんで急ぎました」


 ここを発ってから小一時間で戻ってきている。今開いているゲートは俺の魔力を使っているので、また神威(かむい)結晶に切り替えたいのだが……。


 うーん。


 土魔法でバスケットボール大の鉄球を作り、中に神威結晶を入れてすかさず閉じる。ここまではいいのだが。この鉄球を開けたら、神威結晶が自壊するように設定しているからいいんだけど、これが盗まれないようにするためには……。

 ……そっか、見えなければいいんだ。神威を使った風魔法で、鉄球が光学的に見えなくなるようにする。これで、どこに置いてあるのか分からなくなる。


 俺が作った神威結晶を、他人に使わせないための策は他に……あるな。

 手に持つ神威結晶へ向けて隠蔽魔法陣を使う。魔法陣の効果を維持させるため神威結晶自身の神威を使うようにしておく。


 神威結晶はこれくらいか。誰かがつまづいて、何かがあるとバレることはあるだろう。そんな場所には置かないようにしなければ。


 それともう一つ問題が。

 鉄で囲っているけれど、バスケットボール大の神威結晶から溢れ出る神聖な気配は隠しようがない。この神威も何とかしたいのだが。魔力隠蔽の魔法陣はあったけど、神威は無かったし……。


『作りましょうか?』


『またまたー、最近ほんとに人間ぽくなっちゃって、冗談まで言うようになったのかな?』


『いえいえ、これまで何度も解析と改善をしてきたデータの蓄積があるので可能です。要は隠蔽する魔力を神威に変更するだけなので』


『え、マジ?』


『マジです』


『んじゃやってみるか』


 風魔法で魔力の隠蔽魔法陣を作る。これでいいのかな? 神威が消えるイメージで飛ばすと、スッと神聖な雰囲気が消えた。


『おお、成功した! さんきゅ!!』

『どういたしまして~』


 しかも神威結晶の神威を使っているので、俺が解除しない限りずっと消えっぱなし。無くしたら、マジでどこにあるのか分からなくなるから、気を付けなければ。

 これは前回の盗難を経て考えた対策だ。ただしやり過ぎ感は否めない。


「いつまで手品をやっているつもりなのかな?」

「うおっ!?」


 岩崎の部屋だと忘れて熱中してしまっていた。


「ゲートが繋がったままにできるよう、試行錯誤していました。これ、岩崎さんに預けますね。ゲートが開きっぱなしになるのはこれのおかげですから、無くさないようにしてください」


 透明になっている神威結晶を岩崎に渡すと、その重さに驚いたようだ。


「これがゲートに魔力を送っているわけだね?」


「そうなります」


 魔力ではなくて神威だけど。


「日本各地に作るゲートも、これを設置していきます。簡単に言うと、これが電池だと思ってください。見ての通り見えないので、紛失すると探し出すのが困難になります。管理は任せますよ? あ、それと大事なことが一つ。これは使い方一つで爆発物になるので気を付けてください」


「わ、分かった。それと、忙しく動いてもらっているのに、恐縮なんだが――」


 ドラゴニュートと会談をするための橋渡しをやって欲しいと言われる。まだ俺との口約束だけだったし、日本として正式に調印したいのだそうだ。

 俺に異論はない。快諾して誰を連れて行けばよいのか聞いてみると、外務省のお偉いさんだという。どんな人物なのか聞くと、ライムトン王国に滞在している、柏木という人物だそうだ。


 なんだ、さっき会った人じゃないか。


「ドラゴニュートの里に行って、ちょっと話をつけてきますね。今開いているゲートはライムトン王国に繋がってます。そこを通って、岩崎さんから柏木さんに話を通しておいてください。ドラゴニュートをここに連れてきますんで」


「は? 早すぎじゃないか? 板垣くん今帰ってきたばかりだろう? 疲れていないのかな?」


「お気遣いありがとうございます。だけど大丈夫です。割と頑丈なんで」


 その場でドラゴニュートの里にゲートを開いてくぐる。

 出た場所は、オルズを迎え入れた建物の前。この前見た神官二人がいるので、モーガン神官長がいるか聞いてみると、モーガン、オルズ、アイダ、三人とも神殿の中にいるらしい。

 面会を申し出ると、すぐに許可された。どうやらオルズが口添えしていたらしい。


「こんにちはー! 戻りましたー!」


 三人ともテーブルで向かい合って、だらだらしているように見える。空間は拡張されたままだが、神殿内に仄かなアルコールの臭いを感じる。


「おう、待ってたぞソータ!」


 ん? 人化しているオルズの顔が赤い。その手に前回モーガンが持ってきた、世界樹の実が一粒乗っている。アルコール臭とオルズの顔が赤いのは、世界樹の実を食べたからみたいだ。


「こいつはなあ……ひっく……世界樹の実と言ってなあ……うぷっ!? ――おろろろろろろろろ」


 オルズが吐いた。テーブルの上がゲロまみれになり、アイダとモーガンがさっと後ろに下がる。オルズは吐きながら気を失い、テーブルに突っ伏す。あーあ、ゲロまみれだ。


 何でこうなっているのか知らないが、オルズに回復、治療、解毒、三つの魔法を使って元に戻す。


「世界樹の実にどんな効果があるのか知らないけれど、酒を飲んだような状態になるんですね」


 モーガンを見ながら話しかけると、ばつの悪そうな顔をする。こうなると分かってて、わざわざ勧めたのだろう。


「世界樹の実には神聖な神威が含まれているので、竜の皆様は好んで召し上がるのです……」


 世界樹の実に、神威が含まれてるのか。神様の食べ物って感じがしちゃうな……。果実酒にしたらどうなるんだろう……?

 いやいや、今はそれどころじゃない。


「モーガンさん、先日の話なんですが、日本という国の者と会っていただきたいんですが」


「おお、早いですね。もう連れてきたのかね?」


「あ、いえ、ゲートを日本のとある場所に繋げるので、そこでお話をしていただきたいんですが――」


「お前、さっきから聞いてりゃ、竜神オルズ様と神官長モーガン様に失礼じゃないか?」


 目にも留まる鈍さで、短剣を持ったアイダが近寄ってくる。少し呂律(ろれつ)も回っていないので、オルズと同じく世界樹の実を食べたのだろう。酔っ払いに刃物。危険極まりないので、アイダの短剣を取り上げて、治療魔法と解毒魔法を使う。


 モーガンはさすがに酔っぱらっていないな。


「おう、待ってたぞソータ!」


 オルズが正気に戻って、さっきと同じ言葉を発する。記憶無くすほど食べていたのか……。アイダも正気を取り戻し、俺の姿を見て固まっている。その表情は、いつの間に来たの? というものだ。


「すみませんね、ソータ殿……世界樹の実は摘むとすぐ発酵して、果実の形のまま食べるお酒になってしまうのです。ただ、その効力は酒だけにあらず。神聖な神威をその身に宿すことができるのです」


 酔っぱらっちゃいないが、モーガンのうんちくが長くなりそうなので、とりあえず六義園にゲートを開く。

 縦横十メートルの正方形で、いつもより大きめなゲートを作ったので、髪の毛が動く程度の空気が地球へ吸い出されていく。


「おっ、あっちが地球か?」

「そうです」


 興味津々でゲートに近寄るオルズ。君は神様なのだから、ちゃんとこちらの世界にいるように、と言おうとすると、オルズは既にゲートをくぐっていた。


「オルズ、お前こっちに残っとけ」


「断る!」


 少し前まで泥酔してたくせに、オルズはキリッとした顔で、俺の言葉を拒否してきた。ゲロまみれだが。

 ゲートの先にいる統合情報部の連中は銃を構え、急に現れた不審人物を警戒している。


「私たちも行きましょうか。地球へ」

「お供します」


 モーガンはオルズの着替えを持ちながら、アイダと一緒にゲートをくぐった。

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