表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/341

106 異世界移住計画

 日本のソリッドリーパーは、赤坂の議員宿舎の最上階を全て借り切って、そこを日本支部としている。

 秘密結社だからといって山奥や雑居ビルの地下ではなく、政治家の宿舎に堂々と居座っていた。

 その一室で、支部長のリック・ハーランがしわくちゃの顔を、更にしわくちゃにし、カッと目を見開く。


「松本が裏切った。我らを過激派と称し、殲滅する気だ」


 リックは座禅を組み、魔術(・・)を使って首相官邸の話を聞いていた。


 周囲にいるソリッドリーパーの構成員たちはガッカリするどころか、歯をむき出しにして笑い、そして喜び、踊り始める。


「タイミングが良すぎて、罠だと疑ってしまいそうになるが……。平良木(ひらき)の報告だと、統合情報部の地下にゲートが開きっぱなしで、我らの故郷に繋がっているらしい。それに……。国立競技場のフィールドに、ミスリルのサークルで巨大ゲートが開いたそうだ!」


 近くにいる構成員がリックに問いかける。


「どうしますか?」


「ランディ、どうしますかじゃないだろう? 地球で大規模ゲートが確認できたのは日本が初めてだ。ワシらで丸ごと頂くのだよ」


 リックは歯をむき出して獰猛な笑みを浮かべていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 大型バス五台くらい余裕で運べるエレベーターだ。その縦穴は広く深い。

 そんなところを、俺と門田は落下している。


「おい、ソータ? お前そのままで平気なのか?」

「大丈夫。そっちは?」

「誰に聞いてんだよ……」


 お互いこの高さから落下しても大丈夫なのか、と聞き合うくらいは余裕がある。

 底には一応スプリング付きの衝撃緩和装置があるみたいだ。だが、生身でそこに叩きつけられて生き残ることはできないだろう。


 最下層のドアがある位置で浮遊魔法を使い、空中に停止する。門田がヤバそうなら、ついでに浮かそうと思ったら、両手を組んで浮いていた。


『飛翔の術を使っているようです。解析します……。完了しました。使用――』

『しなくていいからね? というか忍者、空も飛べるのか……』


 門田も同じように驚いている。俺が宙に浮いているからだろう。

 中から聞こえる銃声はまだ続いている。互いに頷き、エレベーターのドアをこじ開ける。


 む……門田の野郎、張り切ってんな。姿が消える勢いで奥へ走っていった。

 遅ればせながら俺も瞬間移動(テレポーテーション)を使う。竜神オルズの転移魔法はまだちょっと怖い。爆散するかもしれないし。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 六義園はソリッドリーパー過激派によって襲撃されていた。彼らはゲートの先――異世界に設置したミスリルの棒を奪い取りに来ているのだ。あれさえあれば、ソリッドリーパーは自前の魔術で、一斉に大軍を送り込むことができる。


 これまでゲートで送れる人数は、せいぜい二名。それもこれも、地球の魔力が薄いためだ。それに、カヴンが長命種とはいえ千年の永きを生きる者は少ない。故に、他の魔女は地球人との交配を重ね、魔術師としての能力が弱まっていた。

 だが、魔術を補助する道具の開発も進んでいる。それは地球の科学技術と魔術の混合による成果である。


 魔石電子励起(れいき)爆薬もその一つだ。


リック(支部長)さん、奴らぬるくないっすか?」


 六義園を守る統合情報部の隊員たちは、潜入してきたソリッドリーパーの構成員に歯が立たなかった。忍者や陰陽師で構成された部隊であっても、指揮を取る者がいなければ烏合の衆となる。ソリッドリーパーの襲撃で、六義園の死者は既に二桁に達していた。


「そりゃあ、ここの主力二人とあの魔術師を、オロバスに任せてきたからな。ランディもどうなるか知っているだろう?」


「ああ……可哀想に。死んでも時間が繰り返していると気づけないんでしたっけ?」


「そうだ。だが、油断するな。平良木(ひらき)の情報だと、あの人工衛星用の研究棟モジュール内にゲートがあるんだが、開きっぱなしになっていると言っただろう? でもな、そこに誰もいないらしい。どうやって魔力を供給しているんだ?」


「なんか異世界の魔道具でも使ってるんじゃないっす――かはっ!?」


 リックと話していたランディ突如、首から血を噴き出して倒れる。その斬り口は滑らかで、頸骨まですっぱり斬られていた。

 誰が何をすればこうなるのか、リックには心当たりがある。


「門田かっ!? オロバスの術が破られたと?」


 リックは、すすと後退しつつ、手に持つ木製の杖を突き出す。


 ――ぎぃん!


 姿の見えぬ門田の軍刀が、リックの杖を斬り付けた。木製に見えた杖は、中に金属の棒を仕込んでいたようで、火花を放ち派手な音を立てる。


「ちっ! てめえ、議員宿舎に巣くってる奴らの一人だろう!」


 姿を見せた門田は、二ノ太刀、三ノ太刀を繰り出すも、リックのすり足で躱されていく。


「そうだ……が、貴様らは盟約を破った」


「はっ! 今までいい思いしてきたくせに、何言ってやがる!! ゲートはもうお前らだけのもんじゃねえ、クソジジイが!!」


 門田の言葉が何故かリックのツボにはまり、しわくちゃの笑顔に変わる。それと同時に、素早く呪文を唱える。


 それから一拍おくと、リックと門田の間の空間が歪み、黒いスーツ姿の金髪紳士――悪魔オロバス――が現れた。シルクハットに杖を持つ、一昔前のイギリス紳士のような出で立ちだ。その紳士が発する邪悪な気配を感じ、本能で飛び退く門田。


 すると今いた場所の空間が裂け、そこに一瞬だけ真っ暗な闇が見えた。

 悪魔オロバスが杖を振ることで、その空間が裂けたのだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 門田は周囲の気配を探り、仲間の隊員たちが非常に不利な状態だと確認する。

 その上で、召喚師のリック・ハーランと、召喚された悪魔オロバスを相手にできるのかと考える。


 そして、どう考えても不利だとの結論に到る。全滅必至の状況だ。


 一緒に来たはずの板垣はどこに居る。門田が考えると、目の前の悪魔オロバスがシュッと音を立てて姿を消した。


「えっ?」


 門田は驚きの声を上げつつ気配を探ると、背後に悪魔オロバスの気配を感じ取った。門田は肩越しに見る。そこに立っているのは板垣颯太。オロバスはソータに膝をついて頭を下げていた。


 門田はその状況が理解出来なかった。とりあえず、ソータとオロバスから距離を取っていく。


 一方で、リックは大きく口を開けて驚いていた。あの青年、板垣颯太の召喚魔術(・・)で、オロバスを取られた。使役魔術(・・)まで使われている。彼は「まさかまさか」とブツブツ口走っていた。


 ソータの声が響いた。


「門田! こっちは任せろ! お前はお前の仲間を助けろ!」

「お、おうっ!」


 門田は姿を消した。


「さて、名前は?」

「オロバスと申します主人(あるじ)様」

「オロバス。お前は善と悪、どっちだ?」

「はっ! 私は悪でございます!」

「ならば滅びろ」

「はい!」


 素直に従うオロバス。彼は完全にソータの使役魔法で支配されていた。

 ソータはオロバスを神威障壁に閉じ込め、神威の獄舎の炎(プリズンフレイム)を使う。悪魔だったからなのか、神威を使った炎はよく効き、オロバスは灰も残さず瞬時に燃え尽きた。


 ソータは向き直ってリックを見据える。その瞳は怒りに打ち震えていた。


「さて、あんたには話を聞かなくちゃならない」

「き、き、貴様!! 報告にあった魔術師だな?」

「報告? なにそれ」


 リックはソータと会話して、少しでも時間を稼ぐつもりだった。もちろん隙を見て逃げるために。

 ところがリックは、不思議な体験をする。

 特に何もしていないのに、なぜかガクッと視界が下がったのだ。

 遅れてやって来る激痛。

 リックは四肢の関節が全て逆に折れ曲がっていることに気づいた。


「うっ、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 リックはその激痛で悲鳴をあげる。立つことができなくなり、手足が変な角度に折れ曲がったまま崩れ落ちた。


「さて……ここからはプロに任せるかな。岩崎さんお願いします」


 ソータの背後に現れた岩崎。状況を確認したのか、リックをすぐに拘束し始める。六義園内の隊員たちは、門田が加わり押し返しているようだ。

 しかし、倒された隊員が多すぎる。ソータは「門田一人じゃきついかな?」と呟き加勢しようとすると、視界の外にある研究棟のドアが閉じられた。


「入ったの誰?」


 ソータの声に誰も反応しない。そもそも、まだ銃弾が飛び交っている状態なのだ。

 門田は怪我をした隊員を引きずり、安全地帯に運び込もうとしている。岩崎はリックを引きずり、救護室へ向かう。その他の隊員は、まだ戦闘中。


 単純に人数の差だ。六義園の戦闘員は、既に五十人を切っているが、攻め入っているソリッドリーパーは、まだ百人近く残っている。

 六義園の部隊では、研究棟への侵入を阻止できなかった。あるいは、誰かの手引きがあったのか。


「まじいな……」


 ソータが研究棟のドアをこじ開けたときには、神威結晶を入れた立方体ごとゲートが消えていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 くっそ、やられた!! 

 リーダーっぽいじいさんを捕まえた。

 使役してる悪魔も滅ぼした。

 それでソリッドリーパーは瓦解すると思ったのに……。やつらの執念深さを甘く見た結果だ。

 ドラゴン大陸の同じ場所にゲートを繋げてくぐってみたが、神威結晶の鉄球とミスリルの棒は消え、誰も居なくなっていた。


「こっちの方が魔素が濃い。魔術でゲートを開いて逃げたんだろうな……」


 松本総理の「各都道府県に大規模ゲートを設置する」って話、あれは警戒を厳重にしなければ、今回の二の舞となる。


 この件で松本総理がゲート設置の話を反故にせず、ドラゴニュートとの交渉が順調に進み、日本人が正式にドラゴン大陸へ移住できるようになればいいのだが……。


 大失敗だ。巨大ゲートの材料が一個分奪われた。そのせいで、ソリッドリーパーが異世界へ渡り、それでまた異世界が荒れたら申し訳ない……。


 ここにあったミスリルの棒を持ち去った奴らを探すことは不可能だ。元々歴史の表舞台から姿を消していた組織。隠れて移動するなんてお手のものだろう。そして、ゲートはいずれどこかで使われる。そのためには、ソリッドリーパーの構成員がどこかで集まらなければならない。


 …………なんだ、行き先は限られているじゃないか。


 ドラゴン大陸から六義園へ戻ると、戦闘がまだ続いていた。数多くいるソリッドリーパーを、念動力(サイコキネシス)で全員拘束する。ぴくりとも動けないようにして、俺がやったとバレないように、しれっと物陰に潜む。


 しばらくすると自衛隊の援軍が降りてきた。それを機にソリッドリーパーたちはあっという間に拘束されていく。


 岩崎の部屋へ行き、ゲートを維持するための鉄球と、巨大ゲートを開くために必要なミスリルの棒が奪われたと説明する。その上で、松本が言った都道府県へのゲート設置は、ソリッドリーパー襲撃の危険性があると警告する。


 岩崎は、自衛隊による日本国内のソリッドリーパー関連施設への襲撃計画が、既に進んでいるという。対応が早いな。それだけ差し迫った状態だというのもあるか。

 松本総理の決定で、日本の実在する死神(ソリッドリーパー)は、排除(・・)することになったのだ。


 今までライムトン王国とゲートを繋いでくれていたのに、簡単に切るのな。とはいえ、六義園を襲撃して多数の死傷者を出すくらいには、凶悪な連中だ。どちらにしても、国の判断に俺が口を挟むべきではない。


「ミスリルの棒と鉄球が奪われましたので、取り返してきます。ソリッドリーパー関連施設の住所目録を見せてもらえますか?」


「……板垣くん。君は自分が民間人だと忘れているみたいだね? こういうのは国の仕事だよ。総理もさっき、国内のことは政府が対応するって言ってたよね?」


「……っ!?」


 俺が居なきゃここは全滅してたんだぞ、と言いそうになる。久しぶりに感情があることを認識できて嬉しい反面、民間人だから何もできないという無力感がじわりと心に広がっていく。


 怒りでプルプル震えていると、岩崎の携帯もプルプル震える。もちろん耳をそばだてる。その内容は、警察の特殊部隊が、議員宿舎のソリッドリーパー日本支部を制圧したというもの。そこにある資料から、国内にある他の拠点と、警察が把握している拠点の住所が一致しているか確認中だという。


 んー、俺が一人で何もかもやるってのは、やっぱり無理があるかな。国内の拠点が数百もあるっていってるし、あとは警察に任せよう。


 岩崎は電話が終わったあと、改めて俺に言う。


「板垣くん、君は総理から何と言われたのか覚えてるかな?」


 日本国内のことは政府が対応する。君には各都道府県にゲートの設置と、板垣教授の確保をお願いしたんだけど、いいかな? だったかな。


 奪われた五百キロの立方体は、開けたら神威結晶が自壊するようにしている。だけどミスリルが問題だ。だって地球上にない物質だし。

 でも、対応はやはり日本政府に任せた方がいいかな……。


 あとは、ゲートの設置だけど、これは時間がかかりそうだ。都道府県だけでも四十七カ所。それだけじゃ足りないと思うから、倍、いや三倍くらいを見込んだ方がいい。


「覚えてますよ……優先すべきはゲートの設置。ただし、今回のような襲撃事件が起こらないように、警備を徹底してくださいね?」


「それは既に対処中だ。明日から板垣くんには北海道へ向かってもらい、ゲートを設置しながら南へ下ってほしい。アメリカとの話もついている。よって、海外からの茶々は入らない」


「了解です」


「それと、申し訳ないんだけれど、日本が済んだらアメリカのゲート設置をお願いしてもいいかな?」


「そりゃいいんですけど、どこに繋げるんです?」


「アメリカはアルトン帝国のレオナルド・ヴァレンティヌス・アルトン皇帝と交渉中で、既に移民受け入れの条約締結間近だと聞いている。詳しい内容までは知らないが、帝国領土はかなり広いみたいだ。ほとんどが森林らしいが、アメリカ人を全て受け入れ可能だと聞いている。問題は残された時間内に、どれだけの人びとを異世界へ移動させることができるのか……」


 地球に人が住めなくなるまで、あと三年って言ってたな……。

 アルトン帝国ってオリハルコンの剣と鎧がある国だ。それくらいしか知らないけど、ブライトン大陸にある国はめちゃくちゃ広いからなぁ。だけど、アメリカの人口、四億も受け入れ可能なのだろうか。


 とりあえずゲートだな。うん。頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ