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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

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105 ゲート作成依頼

 夜の十時を回っているというのに、首相官邸は煌々と明かりが灯っていた。テレビでよく見るガラス張りのあれだ。ここに来たのは俺と岩崎。門田たちは六義園から迎えが来て戻っていった。


 物々しい警備を通り抜け、入り口前に停車した黒塗りの高級車から、俺と岩崎が降り立つ。SPが乗る車が七台と、自衛隊の装甲車まで来ていた。


「こちらへどうぞ」


 事務方の男性が俺たちを案内していく。だが、俺の周りを黒服のSPたちが囲んでいる。これは俺()守る意味ではなく、俺()変なことをしないようにガードしているのだ。だって岩崎には誰もついていないのだから。


 大きなエントランスホールからエレベーターへ直行し、四階に到着。俺たちは閣議室に通された。


「はじめまして。松本(まつもと)一郎(いちろう)です。夜遅くにすみません」


 初対面の総理大臣は腰が低く、俺に頭を下げながら握手を求めてきた。


「板垣颯太です。はじめまして」


 礼儀作法は例によってよく知らないので、とりあえず握手してお辞儀をする。

 室内には大きな円形テーブルに十八の椅子があり、少し離れた場所に別席が二カ所設けられている。ここで重要な会議を行っているのだ。


 松本は円形テーブルに向かって腰を下ろし、俺と岩崎にも座るよう勧める。


「SPの皆さんは、外で待機してください」

「えっ、しかしそれでは――」

「いいからいいから」


 俺を囲っているSPたちに出ていくよう伝える松本。どこの馬の骨か分からない奴が、一国の宰相と護衛無しで向かい合うことは無い。割と度胸がある人物なのかな? 俺の横には岩崎が座っている。その岩崎は視線で何もするなよと警告してきた。


 どんだけ警戒されてんの俺。

 呼んだのはあんたでしょうが、と言いたくなるのを堪え、無理矢理笑みを浮かべる。


 そうこうしていると、SPたちは渋々ながらも部屋を出ていった。


「さて、やっと話ができるね。板垣くん」


 分厚いファイルを卓上に置いて、松本は俺に視線を向ける。


「はい」


 たまにテレビで見ていた人だ。実際に会うと、人柄のいいおじさんぽいが、その気配は雲を掴むようでよく分からない。これが政治家か……。


「報告は六義園の統合情報部から常に受けていたからね。君が何者なのかはよく知っている。国から依頼された研究をやっていたこともさ」


 国からの依頼? 逆じゃなかったのか? 国が俺たちの研究に目を付けて、莫大な予算を与えたのではないのか?


『いえ、板垣兵太博士が、今回のリキッドナノマシン、クオンタムブレインの開発で、政府からの依頼を受けています』

『え、マジで?』


 汎用人工知能は月面基地で色々な情報を収集しているので、この件もその中の一つだろう。俺が知らなかったのは、単に気にしていなかったからだ。

 温暖化に耐えうる人類へ作り変えるという実験は嘘だったし、その実、人類が異世界で生きていけるようにするための実験だったのだ。

 政府からの依頼か。言われてみれば、腑に落ちる話だ。


「どうしたんだい?」

「いや、ちょっと緊張しちゃって」

「ははっ! 楽にしてって言っても無理かな? でも、国家存亡に関わる話だ。話を進めてもいいかな?」

「はい、お願いします」


 そう言うと、横にいる岩崎が説明を始めた。

 安全性の検証などの問題は残っているものの、六義園から異世界へ行き、その後巨大ゲートで国立競技場へ戻ってきたと報告している。


 総理はその話を聞きながら、俺に向けた視線を一ミリも動かさない。おっかない目で圧力をかけるの、やめて欲しい。


 岩崎の説明が終わると、松本が口を開いた。


「そのサークル状のゲートを二つ設置すれば、双方向で行き来できるんだね?」


 松本は俺を見つめて言う。


「はい。場所さえあればできます」


「おおっ! 素晴らしい!! だけどね、この報告書には、リキッドナノマシンとクオンタムブレインのデータが持ち去られていると書いてあるんだよね……。板垣くん、君は誰が持ち去ったのか心当たりはないかな?」


 わかっててそんなことを聞いているのか? データを持っているのはじいちゃんだ。


「心当たりはあります。おそらくは祖父の板垣兵太です」


「だよね! やんごとなき理由があったのだろう。そのデータはいずれ回収できるとして、君の研究室にいた行方不明の四人、彼らも異世界に行っているのかな?」


「はい。紆余曲折ありましたが、佐山たち四人は異世界で、板垣兵太を追っています」


 追ってないかもしれないけど……。いや、追ってないだろう。正直あいつらが何をやっているのか分からん。


「そうかそうか――」


 松本は目を細めながら、俺を含め佐山たち四人を罪に問うことは無いと言った。問題はじいちゃんからの連絡が無いことだという。


 俺が異世界でじいちゃんと接触し、情報交換をしたことを話すと、松本はガックリと肩を落とす。牛頭人(ミノタウロス)半馬人(ケンタウロス)が一緒にいることが分かったからだ。

 じいちゃんの話し方からすると、牛頭人(ミノタウロス)半馬人(ケンタウロス)を含む七名のソリッドリーパーは、日本政府に連絡を取るような感じでは無かった。


 そこから岩崎が話し始める。


 国防大臣が出した巨大ゲートの発見という指令は、情報が漏れていた。そのせいで板垣博士は、ソリッドリーパーの過激派に付きまとわれていると。板垣博士が巨大ゲートを見つけても、日本人が使うことはできない。そして、そろそろ日本政府とソリッドリーパーとの関係を清算すべきだと具申した。


「そうなると、板垣くん、君がキーマンになるけれど大丈夫かな?」


「場所さえあれば全力でゲートを設置して回りますよ」


 日本政府としては、日本人を移住させるために巨大ゲートを探しているので、それを作ることができる俺がいれば問題ないのだ。野良の巨大ゲートがあったとしても、それ以上のものを俺が作って回ればいい。


 じいちゃんの救出はそのあとか……。


 俺の答えに満足気に頷く松本。ようやく俺から視線を外し、岩崎に向かって言った。


「ソリッドリーパーの過激派は、このリストにある名前で間違いありませんか?」


「はい。間違いありません。公安の情報とも一致しています」


「分かりました。過激派だけでなく、国内のソリッドリーパーは全て処分してください。自衛隊、警察、日本にある全ての力を以て叩き潰しましょう。こちらから指示を出しておきます」


「了解しましたっ!」


 岩崎は席を立って敬礼した。処分するって……そういうことだよな。

 俺も席を立ち、岩崎の後をついて行くと、松本から声がかかる。


「板垣くん」


「はい」


「日本国内のことは政府が対応する。君には各都道府県にゲートの設置と、板垣教授の確保をお願いしたんだけど、いいかな?」


「はい。元より、そのつもりです」


「そうか、ありがとうね板垣くん。あとは岩崎一佐から指示があるのでよろしく」


 はははと笑う松本の目は笑っていなかった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 首相官邸から六義園へ向かう道中、護衛の車両が無いことに気づく。国立競技場から首相官邸へ向かうときは、自衛隊の装甲車まで車列に加わっていたのに。

 この車の運転手は六義園から迎えに来た門田で、後部座席に俺と岩崎の二人。


 キョロキョロしている俺に岩崎が声をかけてくる。


「総理からゴーサインが出たんだ。統合情報部も動くからね。板垣くん、君は車で待機だ」


 動くって何を? と考えていると、ゆっくりと車が停車する。門田と岩崎が車を降りる。もう日をまたいでいるので、北上中の本郷通りは車が少ないし、人通りもほとんど無い。

 右手は高い樹木が立ち並ぶ、東大本郷キャンパス。


 一人車に残され、何が起きるのかと思っていると、門田が軍刀で何か固いものを弾く音が聞こえた。おそらく銃弾だ。発射音が聞こえなかったので、サプレッサー付き。

 軍刀で銃弾を弾くとかマジかよ。

 門田の視線は東大本郷キャンパス内を向いている。


 岩崎はスーツの内ポケットから札を取り出し、呪文を唱えながら投げた。するとその札が三つ叉の猫に変化し、東大本郷キャンパスの中に飛び込んでいった。


 左側の歩道からふと視線を感じ、そちらへ顔を向けると、鬼が二体立っていた。

 赤い肌と青い肌で、身長三メートルはありそうだ。見た目は、昔話に出てくるような鬼で、両方とも額に札が貼ってある。


 赤鬼が鉄棒を振り上げ、俺が乗る車を叩き潰そうとする。

 すぐに門田が割って入って、軍刀で赤鬼の膝を斬りつけた。

 赤鬼は叫び声を上げて仰け反る。痛みを感じるのか? これ生き物じゃないはずなのに。

 その証拠に、赤鬼の傷口から血は出ず、黒い煙が立ち上っている。


 車内で呑気に構えていると、青鬼が鉄の棍棒を振り上げ、門田に攻撃を仕掛けた。

 それを器用に避ける門田。


 岩崎が目をつぶって、何かの呪文を唱えていると、東大本郷キャンパスの方から三つ叉の猫が飛び出してきた。その口には人が咥えられている。背後からがっつり首根っこを噛んでるが、大丈夫だろうか? その人、死ぬんじゃない?


 重い物が倒れる音が聞こえ、そちらへ視線を移すと、ちょうど赤鬼が倒れたところだった。赤鬼の額あたりにある札に、門田が軍刀を突き刺していた。


 残すは青鬼だけか。と思っていると、そこに何も無かったようにスッと青鬼の姿が消え、札だけが残った。門田が赤鬼の額に刺さった短剣を抜くと、これまた札を残して消えていく。


 三つ叉の猫が咥えている人物は、トランクルームに押し込まれた。その後岩崎が指を鳴らすと、三つ叉の猫は札を残して消えた。


『式神です。鬼も猫も』

『だろうね……』


 門田も岩崎も知らん顔で車に乗り込んでくる。


「目撃者には一応警察からの説明があるからね。今の件は表には出ない」


 説明くらいじゃ表に出るだろう……。暗示とか薬物を使って、記憶を消したりするのだろう。

 日本の闇を垣間見た気がする。モヤモヤしていると、車がするりと動き始めた。


「今のはソリッドリーパーの過激派が事を起こしたってとこかな」


 誰に言うとも無く岩崎が呟く。


「先に手を出したのはあっち。過激派潰しの口実になりますね!」


 息を弾ませ、運転しながら門田が言う。


 なるほど。護衛を付けなかったのは、この流れを作るためか……。

 総理が言った「これからすぐに処分してください」を、すでに実行に移しているわけだ。というか、護衛がいなくなった瞬間狙われるって、統合情報部の連中はどんだけ嫌われてんだよ……。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 さっきの場所から六義園まで、車で五分もかからないはずだが、いつまで経っても到着しない。本駒込歩道橋をくぐるのはこれで十回目……。この後東大本郷キャンパス正門前あたりに戻され、何も無かったように走行中の風景に変わる。

 妙な魔力の動きも感じる。おそらく空間系統の魔法か魔術で、この車は閉鎖空間に閉じ込められているのだろう。


 一番の問題は、運転している門田と岩崎が、この事態に気付いていないということだ。


 何度説明しても時間が足りず、東大正門前に戻る。すると今まで説明したことを、門田も岩崎もすっぱり忘れているのだ。


「なるほど……?」


 車や歩行者はほとんどいないが、毎回同じだ。となると時間がループしているということか……。時間系の魔法は莫大な魔力を使うので、そこまで長続きはできないはず。


 ただ、何がしたいのか分からない。

 何か攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、ただループしているだけ。行動を起こしてくれた方がこちらもやりやすいというのに。

 三分間のループを百回繰り返したところで、飽きてきた。誰だよ、長続きしないなんて言ったやつ。


『解除できる?』

『無理です。解析は行っていますが』

『そっか……』


 んじゃ仕掛けるか……。


「おっ、おいっ!! あぶな――」


 隣の岩崎が止めるのを振り切って、車から転がり落ちる。何度も見ているので対向車も後続車も来ていないタイミングだ。

 車が戻される位置に移動して、魔導バッグから魔導剣を取り出す。魔導剣は属性を付けることができるので、試しに時空魔法の属性を付けて、そこら辺を斬りまくった。


 学生っぽい女子が「やべーやつ見つけた」みたいな顔でそそくさと逃げていった。……今までとは違う動きだ。今の子は何度も見たし、ただ歩いていただけ。でも今回は違った。


 むっ……。


 車の中に戻った。俺はいつの間にか車の後部座席に座っていた。


 現在地点は、東大の正門前。また時間がループする。それに、今ので時間が分岐した。


 すぐに車から転げ落ちて後方へ走ると、見えない壁にぶつかった。


「……これが境界線かな?」


 透明な膜みたいで、先は見えている。この空間だけ時間がループしているのだ。

 理屈は分からないが、この透明な壁を壊せばいい……と思う。


「――ふっ」


 魔導剣で壁を切り裂くと、大きな風船が割れるような音と共に、透明な壁が無くなった。これでおそらく、時間のループから解放されたはずだ。それに、現実の時間も進んでいない。

 少し先の方で、門田が車を急停止させている。突然俺が消えたと感じたのだろう。


「時間のループ?」

「同じ説明を何回したと思ってるんですか……」


 車に戻ると、岩崎の言葉が同じで辟易とする。門田も同じことを聞いてくるし……。

 しかし、敵の狙いが分からない。俺は身体があれだからそうでもないが、時空間魔法を使うって割と大変だ。それなりの術者が来ていたはずだが、周囲にそれらしい気配は無い。


 そうこうしていると、六義園に到着した。

 裏手の雑居ビルの立体駐車場入り口から、車ごと地下へ降りていく。


「うおっ?」


 エレベーターが停止した。故障かな?


「どうなっているのかな?」


 岩崎が通信機を取り出して地下へ連絡をする。その通信機からは銃声が聞こえてきた。落ち着いて話す岩崎だが、通信機を持っていない左手が強く握り締められていた。

 何者かによって、自衛隊の秘密施設が襲撃されているのだ。しかも自分の指揮下にある部隊。相当怒ってるぞこれ、岩崎の歯軋りまで聞こえてきた。


 時間のループは、このための時間稼ぎだったのだろうね。


「板垣……」

「おう……」


 岩崎が青筋を立てながら指示を出していると、門田が目配せをしてきた。顔と視線で、車から降りて、エレベーターシャフトを飛び降りようと伝えてきている。

 是非も無い。あそこには神威結晶を置いているから、持ち去られる前に確保だ。重さ五百キロだけどね。


 ドアロックが開くと同時に、俺と門田は車外に飛び出し、柵から飛び降りた。

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