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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

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104 リバースエンジニアリング

 六義園(りくぎえん)へ戻って時刻を確認すると、二十時を回っていた。ドラゴニュートと交渉がまとまるまで、だいたい五時間かかったことになる。


「動くなっ!」


 ゲートから出てきた俺にSFP9(ハンドガン)を向ける男。この銃は撃鉄(ハンマー)が無いストライカー式だ。俺の位置からコッキングインジケーターが見えないため、実際に撃てる状態なのか判別がつかない。


 というか誰? 紺色のスーツに革靴、髪の毛は七三で黒縁メガネ。サラリーマン風だが、銃を持ち歩ける職業で、自衛隊の秘密施設に入れる人物。

 つまり自衛隊の制服組。いわゆる官僚と呼ばれるエリートさんかな?


平良木(ひらき)さん、やめろっ!!」


 彼はゲートから突然出てきた俺を、不審人物だと思ったのだろう。騒ぎを聞きつけた門田が、平良木と呼ばれた男の銃を取り上げている。忍者の動きは素早いな……。


 突然ゲートから現れた俺も良くなかった。ここは兵器開発が行われている場所だが、見通しがいいので目立つ。だからイメージしやすく、探知魔法で座標を固定しやすいのだ。次から目立たない場所で、ゲートを使おう。


「来る度に騒ぎになるね、板垣くん……」

「てめえ、いい加減にしろよ……」


 いつの間にか俺の横に立っている岩崎と門田。集中していないと、ほんとに気配察知できないな俺……。


「すみません。次から気を付けます」


「それで? 少し時間を、と言っていたけど、何をしにどこへ行ってたのかな?」


 岩崎は特に気にしていないようだが、門田は俺をにらみつけている。


「詳しく話しますので、お時間いただけますか?」


 とりあえず場所を移すことにした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 岩崎の案内で、彼の執務室に通された。門田は部屋の外で待機。

 大きなカウチに座り、二人で膝を突き合わせる。部屋の外に門田と立哨(りっしょう)がいる。彼らには話を聞かれたくない。


「結論から申し上げますと、地球人の異世界への移住は可能です」


「ほう……。詳しく聞かせてもらえるのかな?」


「ええ、もちろんです――」


 ドラゴン大陸の件について、順を追って包み隠さず話していく。

 俺が勝手に交渉したことで叱られるかも、と思っていたが、予想外の答えが返ってきた。


「日本政府が何もしていないわけがないだろう? ライムトン王国で、日本人(・・・)受け入れの話が進んでいる。全員で移住は無理だろうけど、日本という国は存続できる」


「日本人だけ? しかも全員ではない……?」


 ライムトン王国ってのは知らないけど、最悪の場合を考えて交渉しているのだろう。いやまさか、権力者や金持ちだけ先に逃すとか、そんなふざけた理由じゃないだろうな。……そうではないことを祈ろう。


「日本国が日本人を優先するのは当然だ。それにこれは、あくまでプランBだ。本命は君の祖父、板垣兵太博士の巨大ゲート発見なんだけれど……」


 世界中の人を移住させるというのはやはり無理か。しかし、陰陽師の岩崎ですら、座標の特定が上手くいっていないのに、ライムトン王国へ移住することがプランB?


 誰がどうやってライムトン王国にゲートを……。あ、奥多摩にライムトン王国と繋がるゲートがあったんだった。

 岩崎にそのことを聞くと、現在は結社の連中が交代でゲートを開きに行っているという。俺のじいちゃんもそこから異世界へ行ったそうだ。


 日本は昔から異世界との交流があり、たまに野良のゲートでふらりと異世界に迷い込む。そんな時代が続いていたのに、セルンの磁性粒子加速器が異世界への扉を開いてしまった。

 それを機に異世界へ行こうと、地球各国の人びとが殺到している。というか、もう行っているんだよな。


 ゴブリンの里を攻撃したのは、鉄の猟犬部隊(メタルハウンド)なのだから。

 あれは日米共同開発なので、自衛隊がやった可能性もあったが、月面基地で調べたところ、アメリカ軍の仕業だと判明した。


 どんな人々も、温暖化が原因で死にたくはないだろう。過去の人類の愚かな行動が原因だとしても。

 地球と共に干からびてしまうより、異世界へ逃げ込んで生き延びたいと願う。至極当然の考え方だ。


 だから俺は、地球の人々全員を救いたい。

 それなのに、岩崎の口からは日本人(・・・)としか出てこない。自衛隊だし、国民優先なのはしょうがないけれど……。


「岩崎さん、プランCがあります」


「聞かせてくれるかな? しかし、板垣くんのドラゴン大陸の件は、致命的な欠陥があると分かってるよね……?」


 日本人を移動させるゲートが無いということだ。


「その欠陥を埋めるための作戦、というか訓練です――」


 俺は岩崎を含め、六義園の陸自隊員、統合情報部の全員がゲートを開けるように訓練する。もともと忍者や陰陽師が集まった組織だ。探知魔法と時空間魔法を覚えてもらって、ドラゴン大陸にゲートを繋げられるようにすればいい。

 竜人(ドラゴニュート)の里と、まだ正式な調印は済んでいないが、ゲートの件は今からやっておかなければ間に合わなくなる。


 そう伝えると、岩崎は無理だと言い切った。

 理由は、個人個人の保有する魔力は非常に少ないから。元々地球のあった魔素は濃度が低く、そこに生まれた人類も保有できる魔力が少ないそうだ。

 魔力を効率よく使うため、地球で魔術が発達したのは必然だったのだ。


 岩崎自身は、百年に一人の逸材と言われる陰陽師で、魔力が多いらしい。それもあって、ゲートが開けるという。俺から見ても岩崎の魔力は豊富だ。道行く人々と比べると、おそらく百倍以上の魔力を持っている。


 それに加え、六義園の連中がゲートが開けるようになったとしても、秘密結社実在する死神(ソリッドリーパー)の過激派が出張ってきて、ゲートが使える術者を利用されるだけだと言われた。


 そんな厄介な存在が、明治の時代から日本政府の中枢に居座っている。邪魔でしかないのに何故排除しないのかと聞くと、やはりライムトン王国との国交を続けるために、どうしても必要な存在なのだという。ゲートを繋げるために。


 魔力がある人物を訓練してもダメか。


 じいちゃんが巨大ゲートを見つければ、日本人を差し置いて世界中の実在する死神(ソリッドリーパー)が優先的に使うだけ。


 んじゃ……俺が作ればいいんじゃね? 巨大ゲートを。


『ねね、どうこの案』

『可能です』


 よし、汎用人工知能が大丈夫だと言うなら、作ってみようじゃないか。

 この六義園は地下施設とはいえ、新兵器開発をやっているくらい広い空間がある。ちょっと使わせてもらおう。


「岩崎さん、この施設に結社の連中は入り込んでいますか?」


「まさか。結社は六義園の存在を知っているが、入らせないよ。強引に入ってくることもないし、そこまで横柄な態度を取る連中じゃない」


「それなら――」


 場所を借りて、ゲートを造れるか試してもいいかと聞いてみると、やれるもんならやってみろと返ってきた。

 現状ゲートを使って異世界へ行く方法は三つある。


 一つ、磁性粒子加速器。

 二つ、探知魔法と、時空間魔法でゲートを開く。

 三つ、稀にある野良のゲート。


 俺は四つ目の選択肢を作ろうと思う。

 据え置き式の、常時接続型のゲートだ。エルフの里の入口、あそこで見たゲートの知識が役立つだろう。


 部屋を出て兵器開発をやっている場所へ移動すると、俺が作業できる場所を確保するために、岩崎が門田に指示を出す。


 鎖で吊り下げられた、何かの砲身。

 巨大な3Dプリンタ。

 鉄の猟犬(メタルハウンド)

 どこから鹵獲(ろかく)してきたのか、ドワーフ製の六本脚まである。

 六本脚はバラバラに分解されていて、内壁に刻まれた魔法陣の写真を撮ったり模写したりしていた。

 六義園は、忍者と陰陽師だけじゃなく、科学者や技術者もたくさんいる。バラされた六本脚は、リバースエンジニアリングの真っ最中なのだ。


 それらが全てどかされ、俺を中心に半径二十メートル、何もない空間ができあがる。


「最後に確認です」


「何だ」


「ここにいる統合情報部は、これから起こることを他言しないと約束できますか?」


「何を今さら。ずっと秘密を守ってきた陰陽師と忍者が機密を漏らすとでも? 六義園内で起こったことは、私が許可しない限り表に出ることはない」


「それを聞いて安心しました」


 バスケットボール大の神威結晶を造り出し、土魔法で作った鉄球の中に入れて密閉。こじ開けると中の神威結晶が自壊するように設定した。


「あそこの円柱状のやつはなんですか?」


「あれは国産(・・)宇宙ステーション用の、研究棟モジュールだ。完成しているが、輸送待ちで置いてある」


「その研究棟をちょっと使わせてください」


「……壊すなよ?」


 岩崎の指示で、研究棟モジュールが目の前に運ばれてくる。直径十メートル、長さ二十メートルの円柱状のもの。宇宙へ行くことを前提にしているので耐圧殻(たいあつこく)になっているはずだ。


 その中に入って、研究棟モジュールのドアを密閉。神威結晶が入った鉄球に魔法を使う。もちろん探知魔法と時空間魔法の二つだ。すると目の前にゲートが開いた。


 神威結晶の魔力を消費して、ゲートは開いたまま安定している。直径十メートルの研究棟モジュールを隔てるような形になってしまった。両端のハッチから入ってくれば、その先にドラゴン大陸が見え、ゲートをくぐれば実際にそこへ行くことができる。


 ここから見える景色は高台になった草原で、そこから下った先に大きな川が流れ、周囲に森が広がっていた。


「……これは一体」


「交渉しに行った、ドラゴン大陸にゲートを繋げました。動力源はここに置いた鉄球ですが、絶対に開けないでください。開けるとゲートが閉じますので。今回は異世界とこっちの気圧差を考え、この研究モジュールを使わせてもらいました。ドアがはじけ飛ぶ勢いで開いたり、まったく開けることができなくなったり、そんな影響がありますけど、それはそちらで何とかしてください」


 岩崎は驚きつつ、了解と言いながら、ドアを開けて外に吹っ飛ばされた。アホすぎて笑いそうになる。こっちは夜だが、ゲートの先はすごくいい天気で明るい。こっちより気圧が高かったのだろう。


 手に持つ鉄球をさらに金属の箱で囲い、重さを五百キロくらいにする。途端にずしりと重さを感じる。これで簡単に持ち逃げもできないはず。というかさすがに重いな。俺は念動力(サイコキネシス)を併用しながら、神威結晶入りの立方体をゆっくりと研究棟モジュールの床に置いた。


 でも、こんな小さなゲートじゃ、地球が水没するまで、移住が間に合わない。これより大きなゲートを作る必要があるんだけれど、どうすればいいのか……。


 そうだ! ――あの時、エルフの里が丸ごと冥界に変わった。ワニ顔の獣人たちに繋がった黒い線が原因だと思ったまま、深く考えていなかったが、たぶんあれは巨大ゲートをくぐって冥界に行ってたはず。


 黒い線か……。あれが何だったのかと考えると、冥導(めいどう)くらいしか思い浮かばない。ということは神威でもできるのか?


 ゲートを開くときに使う二つの魔法は、通常の魔力を使っている。それで事足りているので、神威で試したことはない。


「岩崎さーん! ゲートの先をちょっと見てきます」


「お、おう、気を付けてな」


 岩崎は研究棟のドアから十メートルは吹っ飛ばされ、ちょうど他の隊員に起こされているところだった。大きな怪我はなさそうで、ホッとする。

 彼に何かあれば、日本とのコネがなくなるに等しいからな。大丈夫だと思うが、岩崎に治療魔法を飛ばしておく。


 そして俺はゲートをくぐった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 草原から川を見下ろして、ぐっとにらみつける。

 ふっと景色が変わり、目の前に川が現れた。


「よし、瞬間移動(テレポーテーション)成功」


 ちゃんと使えるのか何度も試して、草原に戻る。


 よく見ると、草原から四角いレンガが、所々見えている。もっとよく見てみると、草に隠された石畳や、錆びて朽ち果てた鐘があった。

 つまりこの草原は、滅んだ街の成れの果て。灰色の火山灰がまだ残っているので、原因は噴火によるものだろう。


 遠くに見える火山は、噴煙を上げている。むき出しの山肌は、草木が生えていないので、定期的に噴火をしているのだ。


 とりあえず、巨大ゲートができるか試してみるか。


 なんとなーく、でこれまで魔法を使ってきているので、同じ感じでイメージしてみる。…………んー、時空間魔法は上手くいっている気がするが、探知魔法がうまくいかない。

 阿蘇山の草千里、北海道石狩のはまなすの丘公園、箱根の仙石原すすき草原、行ったことがある広い場所を思い出しながらイメージする。しかしゲートは開かない。


『ワニ顔の獣人たちに黒い線が繋がってましたよね』

『あ、そうだった。さんきゅ』


 汎用人工知能にあまり話しかけないよう言っているが、今回のは助かった。土魔法でミスリルの棒を空に飛ばし、俺を中心に直径五十メートルの円状に突き刺していく。


 探知魔法で座標の固定が上手くいっていないのは、おそらく範囲が広すぎるからだ。今度はミスリルに神威を纏わせ、ゲートを開くイメージをする。


「おっ?」


 落下する感覚がすると、地に足がついた。

 成功だ。オリンピックで有名な国立競技場に移動している。

 つまり、あのサークル内に入れば、誰でもここに来られる。


「一方通行か」


 回りにはゲートの気配すらない。さっきの草原も見えないし、ただ国立競技場のまん中に立っているだけ。まあ、こっちからあっちに繋がるゲートを作れば済む話だ。


「……ほう?」

「なんだこりゃ?」


 突如大勢の気配が現れて振り向くと、岩崎と門田の部隊十名が立っていた。

 六義園からドラゴン大陸へ。ドラゴン大陸から日本の国立競技場へ。

 彼らはこの順番でここに来た。行動力あるなあ……。


 というか、草原のサークルは、ミスリルを使ったからなのか? もしかしてミスリルが電池みたいに、神威をため込んでいたのかも。それでゲート魔法の効果が続いていたのだろう。


 人が居ない夜の国立競技場。斜めに月明かりが入ってきて幻想的な風景だ。

 ここで行われる催し物も、温暖化の影響でかなり減っている。風を送り込むだけのファンだけでは、もう耐えられない暑さになるからだ。


 門田が通信機で、無事だから心配しないでいいと報告を入れている。トップの岩崎を含む十六人も国立競技場に来ているのだから、六義園ではちょっとした騒ぎになっているみたいだ。もちろん通信機からの音声を、俺の耳で聞いているから分かるのだ。


「実験成功ってところかな? 板垣くん」


「そうですね。この規模のゲートを日本各地に配置していけば、あっという間に移動は済むでしょう。食糧や住居などをどうするのか、問題は山積みですが」


「それはもう日本政府(・・・・)の仕事だからね。これで板垣兵太博士も、結社の連中から解放されるんじゃないかな?」


 今回の件でじいちゃんが解放されるということは、実在する死神(ソリッドリーパー)が、このゲートを使って異世界へ雪崩れ込む可能性を含む。


 シビル・ゴードンの話が本当なら、神々への復讐は正当なものだと思う。だけど、聖なる魔女を騙したカヴンはどうなる? 奴らは何をするつもりだ?


 魔女カヴンは、デーモンを使って争いを起こした張本人たち。そのせいで神々の怒りに触れ、地球に追放された。でもなあ、皇帝エグバート・バン・スミスの話だと、千年も前の戦争だ。神様たち、そろそろ許してあげてもいいんじゃない?


「板垣くん、総理が君に会いたいそうだ」

「は?」


 通信機を持った岩崎が、真剣な表情で俺に伝えてきた。

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