表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/341

103 ドラゴニュートとの交渉

 念動力(サイコキネシス)で触れた感触から、竜人(ドラゴニュート)の障壁にひびが入っていることがわかった。高高度からの落下による気圧の変化で鼓膜を痛める恐れがあるため、念のため障壁を張り直すことにした。


 この障壁は耐圧殻(たいあつこく)としても優秀なので、これで一安心だ。

 上空二十万メートルまで一気に引き上げた。


 彼女は気を失ったままなので、近づいて診察する。額の裂傷から出血し、鼻の骨折で鼻血が大量に流れている。脳震盪(のうしんとう)も起こしているようだ。とりあえず回復魔法と治療魔法を使うと、竜人(ドラゴニュート)の女は意識を取り戻した。


「てめえ! 何しやがった!!」


 大太刀を振りかぶり、再び斬りかかってくる。


 本来なら(・・・・)斬るとき、その瞬間だけ障壁を解除(・・)しなければならないので、この女が非常に器用なことをやっていると分かる。


 ――ギィィィン


 大太刀は、俺が張り直した障壁を斬りつける。


 彼女は自分で張った障壁ではないと気付き、驚愕する。目を見開いて口をパクパクさせ始めた。


「俺はソータ・イタガキ、君は?」

「あ、アイダ・ヴェドだ……。これは一体どんな障壁なんだ? 私が張ったものじゃないみたいだけど……?」

「俺が張ったんだ」

「そんなことできるわけがないだろう! ウソをつくのも大概にしろ!! ――ぐうっっ!?」


 また斬りかかってきたので、障壁を解いて念動力(サイコキネシス)で捕らえた。

 怪我をしないようにあまり圧迫はしていないが、障壁がなくなったことで気圧が急低下。鼓膜が破裂したようだ。無音状態と耳の痛みで、アイダは焦ってもがき始めた。空気も薄いからけっこうきつそうだ。


 障壁を張り直しながら空気を注入して、一気圧に近づける。そのついでに、治療魔法でアイダの鼓膜を治療する。


「面倒だから突っかかってこないでくれ。俺が障壁を張っていると分かっただろう?」

「……」


 アイダにそう言っても、納得せずに俺をにらみ付ける。

 ……ああ、そういうことか。


「オルズも関係ない」

「様を付けろ、ヒト族」


 ようやく会話ができるまで落ち着いた。竜人(ドラゴニュート)といっても、人と変わりはない。背中のコウモリっぽい翼を無視すれば。


 俺のイメージだと、ドラゴニュートはトカゲっぽい姿なのだが、毎度ながらの齟齬が発生したということか。物語と現実の違いは、なかなか動揺を覚えるものだ。


 アイダが俺に攻撃してきたのは、俺が竜神オルズに求婚しに来た男色のヒト族だと勘違いしたからだそうだ。オルズが人化しているときはイケメンだと思うが、恋心など一ミリも抱いていない。そもそも俺は男色ではない。


 その辺りをこんこんと説明すると、アイダはようやく納得した。


「それならこの大陸に来た理由は何だ」

「いや、ニンゲンが入植できる土地を探してるんだ。この大陸はどうかなと思ってね」


 高高度にいるため、大陸の形全体が見渡せる。横幅が広くなった南米大陸みたいな形をしている。


「ドラゴン大陸にニンゲンは住めないぞ?」


 ドラゴン大陸という名前らしい。……ドラゴンがいっぱい生息してそうだ。竜神オルズより大きなドラゴンもいたし。


「ドラゴニュートもニンゲンだろ? だから住めるんじゃない?」


「私たちは、山の上に住んで、噴火を鎮めているの。地震はだいたい噴火のせいで起きているからね。他のニンゲンに、そんなことできないでしょ?」


「できないだろうね。それじゃあ、ドラゴン大陸には、ドラゴニュート以外にニンゲンの国家は存在しないの?」


「ないよ。作ろうとしたニンゲンもいたけど、噴火と地震で滅んじゃった。私たちドラゴニュートは、百人もいない。だから、国と言うより集落って感じで、山の上に集まって生活してるの」


 少ないな。生殖能力が低く、自然淘汰の真っ只中なのだろうか……? いずれにせよ気が短そうなドラゴニュートに話を通さなければ、地球人の入植はうまくいかないだろう。


 最後にもう一度、ドラゴニュート以外に、ニンゲンの国家が存在するのか確認すると、絶対にないと断言された。


「大事な話がある。ドラゴニュートの代表者に会わせてくれないか?」

「会わせるわけがないだろ? とっとと帰れ」


 でしょうね。さっさと話を進めたいのだが……。


『オルズ、暇になったか?』

『まだ全然ダメだ! 女どもに群がられててだな――』


 何をしているのか知らないが、長引きそうだ。

 むーん。オルズを召喚して説得してもらおうかな?

 召喚魔法は、魔物に対して使うものだが、あいつはドラゴンだから似たようなものだ。

 そこで召喚魔法を使ってみると、一瞬目の前が暗くなった。

 なるほど、気を失った上に、魔力がすっからかんになっている。

 空中に留まるため、すぐに神威に切り替えた。

 オルズは一応神様だからな。俺の魔力で召喚できなかったのは、そのためだろう。


「――だから、もう少し時間が掛かる、さむっ!」


 神威で召喚魔法を使ったらうまくいった。上空二十万メートルに突如現れた、金髪碧眼のイケメン。彼はすぐさま自前の魔法で浮遊して障壁を張った。


「……おまっ、俺を召喚したのか、ソータ」


 竜神だから召喚できない、というわけではないようだ。


「そうそう。いやさ、ちょっと説得に付き合って欲しくてさ。ドラゴニュートの代表者と話がしたい。できるか?」

「ああ、いいぜ」


 驚いているオルズに説明をすると、簡単に了承した。その姿は短パンにガウン姿。部屋の中にいたっぽいな。すまんが割と急ぎなんだ、付き合ってくれ。


「お、お、お、オルズ様!?」


 障壁の中で大太刀を投げ捨て、膝をつくアイダ。面識はあるみたいだ。


 心を読んだのか、オルズは俺に、何でそんなに急いでいるのかと尋ねてきた。

 そこで、地球人移住計画を軽く説明すると、地球の神々は何をしているのだという話になる。ちょっと殴りに行こうか? なんて物騒なことを言い出したので、スルーしておく。マジでやめてくれ、そんなこと。


 でも地球の神か……シビルは会ったことがあると言っていたが、どうなんだろうね。温暖化を無視して自滅しようとしている現状を見れば、仮に神が存在したとしても、人類を助ける気にはなれないだろう。


 俺たち人類は、神様からすでに見切りをつけられているのかもな。


「ヒゲを剃ったのか? そっちの方が似合ってるな」

「そうか? もしかして、……俺に惚れたか?」


 アイダからとてつもない怒気を感じて鳥肌が立つ。からかうのはやめておこう。


 オルズは俺たち二人の心を読んで現状を理解しているので、悪ノリしてきたのだ。


「オルズ、惚れてるのは、こっちだ」


 正面のオルズから、俺の背後にいるアイダに視線を移す。俺の言葉のせいだろう。アイダは顔を真っ赤にして障壁の中でへたり込んでしまった。


「おう、久しぶりだなアイダ。ソータと何やってたんだ?」

「はっ、はい! これからソータを竜人(ドラゴニュート)の里へ案内するところです。よ、よろしければ、オルズ様もご一緒いたしませんか?」


 アイダは平伏しながらも、さりげなくオルズを誘う。抜け目がないな。あと、ドラゴニュートの代表者に会わせろという話は断られたはずなのに。……オルズを呼んで正解だった。


「いいぜ。最近は里に行ってなかったし」


 俺の中で、オルズは迷惑念話の主から、便利な奴に格上げされた。これからすぐに里に向かうことになった。


「うおっと……」


 突如視界が切り替わり、足が地に着いた。

 周囲は写真で見たことのある、マチュピチュの遺跡っぽい風景が広がっている。いや、遺跡ではないな。ドラゴニュートたちの往来があるので、オルズが俺たちを転移させたのだろう。


『転移魔法を確認しました。解析します……。解析と改良が完了しました。竜神オルズのような転移ができる一方、物理効果を付与することで、転移させた物に運動エネルギーを生じさせることができます』


『危ないなあ……。転移した距離が等速直線運動になるんだろう? 小石を十メートル転移させただけで、爆散するんじゃないか? 転移だから、速度は無限大になるわけだし……』


『万が一の時に使えるよう、備えておくことも必要かと』


『そりゃそうだろうけど』


 なんて喋っていると、アイダが真っ赤な顔で案内を始めた。


「オルズ様、こちらへどうぞ」


 ドラゴニュートの集落は、標高の高い山の上にあり、平地がほとんどない。すぐ近くに噴煙を上げる火山がある。

 住居も畑も段差を作って、平らな場所を設けているようだ。建物が石造なのは、この辺りに木が生えていないからだろう。


 住居の数を見ると、人口はおそらく百人くらい。アイダが言ったとおりだ。感じる気配は、半分の五十人くらいだが、昼間だから仕事などで離れているのだろう。

 整備された石畳を進むと、両脇の店から呼び込みの声が掛かる。竜神オルズに対してだ。


 神様と物理的に距離(・・)が近いんだな、こっちの世界は。

 もちろん呼び込みの声に、畏怖と敬愛が色濃く混じっていることも伝わってくる。

 地球の神様って、マジで何をしているのだろうね。


「ここです。オルズ様が到着されたので、既に準備は整っていると思いますが、確認してきます」


 アイダがそう言って、周りの建物より一回り大きな神殿のような場所に入って行った。


「ソータ……。お前、ちょっとヤバくね?」

「何の話?」

「神威を使えるのは知ってたが、冥導(めいどう)まで使えるようになってるな……。それに、もう一つの人格と、アイテールと、お前、三つが混ざり合っている。そのせいで、随分と神格が上がってるぞ?」

「あんま自覚はないけど、ヤバいの? 体調が悪くなったりする?」


 真剣な顔をズイと寄せてくるオルズの表情には、危機感が混じっていた。


「そういうことじゃない。神々は割と面倒くさいやつが多いからな。急に力を付けていると、ちょっかいをかけてくる神が出てくるかもしれない。何かあったら連絡しろ」


 そう言ったオルズは、金貨を投げ寄越した。……この世界の金貨ではないな、これは。というか、金貨じゃなくてオリハルコンだし。


「それで俺と連絡が取れる。念話が届かないような場所でも」

「オルズの迷惑念話って、世界中に届くと思ってたけどな」

「届くさ。迷惑じゃないけどな!! でもな、世界が異なれば無理だ。冥界や地球に念話を飛ばすことはできない。お前には助けてもらった恩があるからな、絶対にそれ持っとけよ?」

「あ、ああ? ……ありがとう」


 オルズのマジ顔がもっと近くなって来おされる。

 すると咳払いが聞こえてきた。


「準備が整いました」


 建物から出てきたアイダの声だ。準備って何だ? 両脇に神官っぽい服装のドラゴニュートが二人立ち、俺たちを招いた。


 中に入ると高い天井と、サッカー場みたいに広い空間が広がった。壁は一面のステンドグラスで、採光されてとても明るい。この場は空間魔法で拡張され、広くなっているのだ。


 これは、オルズの浮遊島で見た光景に似ている。アイダはこの環境ができているのかを確認しに行ったのだろう。


 すたすた歩いて行くオルズが中心地点に到着すると、以前見た黒光りする巨大なドラゴンに変化(へんげ)した。


 奥から一人のドラゴニュートが歩いてくる。少し腰の曲がった老齢の男性だ。アイダの両脇にいる神官より豪勢な格好をしているので、地位が高いのだろう。

 その手にはカゴがあり、中にはたくさんの木の実が入っていた。


「竜神オルズ様、ご来訪ありがとうございます。少ないですが、世界樹(・・・)()です」

「有り難いけど、いらないって何度も言ってるだろ?」


 床に寝そべる竜神オルズは、だるそうな声で拒否した。


「モーガン。それより、そこのニンゲンの話を聞いてくれないか?」


 モーガンと呼ばれた老齢の男は、オルズの視線を追って俺とみとがめた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ドラゴンを信仰するドラゴニュート。その神官は、モーガン・ヴェダと名乗り、俺との会談に応じた。オルズのせいで、めちゃくちゃ広くなっている室内に、テーブルと椅子が並べられ、モーガンと向かい合って座る。


 モーガンの後ろに、神官二名とアイダが立ち、俺が危害を加えないように警備している。


 何もしないって、なんて考えながら地球の現状を話し、この大陸に難民の受け入れができないかと持ち掛けた。

 オルズがいるからなのか、対価も要求されず、話はすんなりと進み、難民受け入れの方向でまとまった。


 条件を一つ付けられたが、相互不干渉というもので、それ以外は何もない。


「いいのかそれで?」


 心配そうなオルズ。アイダも、そんな簡単に話を進めていいの? みたいな顔をしている。もちろんこれは口約束。正式に調印したわけではない。


「俺は交渉をしに来ただけで、決定権を持っているわけではありません。一旦国に持ち帰って、正式に話を進めたいと思っています。後日改めて参上いたしますので、そのとき日本の担当者を連れてきます」


 色々すっ飛ばして勝手に交渉しちゃっているが、人類が滅びるまで三年と聞いたからには黙っていられない。


 それに、ドラゴニュートが百名足らずの集落だからと言って、疎かにすることはできない。国ではなくても、国として扱うくらいでなければ、異世界でうまくやっていける気がしないのだ。


 話し合いは大事。交渉は大事。


「ではソータどの、一旦地球へ戻られるのですね?」

「はいモーガンさん。いつまでに戻れるかお約束できませんが、地球の現状がありますので、できるだけ早く担当者を連れて参ります。今回は急な面談に応じていただいてありがとうございました」


 二人とも立ち上がって握手を交わす。


『大陸のドラゴンは俺が説得しておくから安心しろ』


 ゲートをくぐる前に、オルズから念話が届いた。

 やらかした……、ドラゴニュートの説得だけじゃダメだったのか。すまんオルズ。


『気にするな』

『心を読むなって』


 面倒くさいからさ。


 これも読まれているんだろうなと考えながら、俺はゲートをくぐった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ