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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
3章 ゲート設置

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100 自爆しよう

 コロンビアでは約五十年も続いた内戦の歴史がある。内戦が終結した現在でも、政治的な思想、汚職や麻薬犯罪、海外からの秘密裏の介入、様々な要因で揺れ動いている国だ。


 魔石電子励起(れいき)爆薬の実験で出来たクレーターは、今も封鎖されている。真夜中だというのに、報道各社が飛ばすドローンは、コロンビア軍によって打ち落とされていた。


「はいっ! もう大丈夫ですよ~!」


 ニッコリ笑顔で回復魔法を終え、マイアはエレノアとファーギに笑みを浮かべる。

 元々あったクレーターで、もう一度魔石電子励起(れいき)爆薬が爆発したので、周辺への影響は少なかったが、その中にいたマイアたち三人は当然負傷していた。


「ソータの野郎、もう少し早く警告しろってんだ!」

「警告があっただけでも御の字だ。障壁を張れたのだから」


 草むらで横になっているファーギの愚痴に、エレノアがそうではないと言う。実際あの時ソータの念話が無ければ、三人とも即死していただろう。


「ほら! 二人とも、もう動けるはずです。さっさとあの怪しい施設を調べますよ」


 三人とも血を流しているが、傷は塞がっている。というか完治している。マイアの回復、治療、解毒、三つの魔法で、すでに元気になっているのだ。


「よし、指揮は私に任せろ」


 ベナマオ大森林で、デーモン相手に指揮を取った、エレノア・デシルバ・エリオット。


「ふざけんな! こういうのは冒険者の領域だ。私に任せろ!」


 ドワーフのSランク冒険者、ファーギ・ヘッシュ。


「……確かにそうだ」


 軍配はファーギに上がった。


 種族、組織、年齢、色々違っているが、今はこの三人で行動するしかない。結局、一番慣れているファーギがリーダーになって行動することになった。


 怪しい建物はクレーターからさほど離れていない場所にある。辺りの木々は爆風でなぎ倒されているというのに、傷一つついていない。窓ガラス一枚すら割れていないのだ。


「厄介だな……。あの建物全体に障壁が張られている。中にいるのは人間だけで、デーモンの気配はない。ソータが言っていたハッグという魔女か?」


 草むらでうつ伏せになったファーギ。いつものゴーグルを付けて建物を観察している。エレノアとマイアも草むらに隠れてはいるが、集まってくる蚊に苦戦して話を聞いていない。


「あの中に何かあるのは確かだ。いくつか障壁魔法陣を使っているみたいだ。どれくらいの魔石を持っているのか……」


 障壁魔法陣は、巨大空艇にも使われているが、魔石の使用量が多くて、あまり長い時間使えない。それなのに、この建物は、障壁を張り続けているのだ。魔石電子励起(れいき)爆薬の爆発にも耐えるくらい強固な障壁でもある。


「障壁なんざ、破って入ればいいじゃないか」

「エレノア、身も蓋もないことを言いなさんな……。中に何があるのか分からないんだぞ? 魔石電子励起(れいき)爆薬があって、爆発したら終わりだ」


 ソータの念話でいち早く逃げ出して距離を取っていたので、今回の爆発では生き延びた。しかし、この場で魔石電子励起(れいき)爆薬が爆発したら、障壁を張ったとしても、近すぎてひとたまりも無いだろう。


「でも調べるなら、中に入らなきゃ。……でしょ?」


 そういうマイアの手に、以前見た長杖(ながつえ)が握られている。魔導バッグから引っ張り出したようだ。

 この長杖もファーギ特製の物。使用者の魔力を一時的に十倍にする効果があるのだ。もちろんリスク無しではなく、使用後はしばらく立っていられなくなるほど、激しい倦怠感に襲われる。


「私がこれで、障壁に穴を開けます。その後は二人にお任せしてもいいでしょうか?」


「ああ、上等だマイア。私たちに任せろ」


 エレノアの言葉で、マイアの作戦が決行された。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 この建物は元々、麻薬カルテルの屋敷だった。しかし、今は魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)によって買い取られ、魔石電子励起(れいき)爆薬の観測施設として使用されていた。


 そこで観測を続ける魔女フォドラが、警報ボタンを押した。

 障壁を破って屋敷に侵入する三人の男女が、監視カメラに写ったからだ。


 深夜だが、警報が鳴ったことで、寝室から飛び起きてくるハッグたち。全員黒い戦闘服を着た、女性の魔女十五人である。


「三人だけ? 銃を持っているのが一人、あとはレイピアと杖かしら? それだけの装備で、ハッグの根城に侵入するってバカじゃないの?」


 モニターを見た若い魔女が嘲笑う。


「本気でそう考えているのですか? 彼らは障壁を破って侵入しています。それなりに知識と実力のある侵入者だと考えてください」


 リーダーのフォドラが、若いハッグをたしなめる。しかし、そのフォドラにも余裕が見て取れる。その自信の源は、麻薬カルテルでも簡単に制圧できる魔術のおかげ。彼女たちは、少々過信しているように見える。


「排除しなさい」


 フォドラの声で、モニター室から飛び出して行くハッグたち。


 腕のウェアラブル端末で三人の位置を確認しながら、通路の角で待ち構えるハッグたち。銃などは持たず、全員小さな杖を構えている。

 警報は消え、屋敷内には明かりが灯っていた。


 通路の先から三人が出てくると、ハッグたちは一斉に呪文を唱えて攻撃を始めた。透明な刃、氷の矢、石の槍、そして床から津波のように流れていく水。

 ハッグたちは様々な魔術で攻撃を仕掛けてきたが、当の本人たちは障壁を張って涼しい顔をしている。


「何だこのぬるい施設は? こんな場所にあの爆弾を保管しているのか?」


 乱れ飛ぶ魔術の中、それくらいで何が出来る、と言わんばかりのエレノア。重要な施設を守るには、あまりにも戦力が少ないと言いたいのだろう。

 屋敷の障壁を破ったマイアは、まだ回復できておらず、エレノアの後ろで障壁を張っている。


 そんな中、水に押し流されないよう、ゆっくりと歩き出すファーギ。両手には魔導銃が握られている。


「お前たち、投降して魔石電子励起(れいき)爆薬を渡せ」


 言語魔法を使い、スペイン語で話すファーギ。返事がないので、英語に切り替えて同じ内容を話す。


「おかしいな? 言語魔法は上手くいっているはずだが……?」


 ハッグたちはスペイン語も英語も理解していた。返事が出来ないのは、これだけの魔術を使っても倒せない三人に驚いているからだ。ハッグの魔術が脆弱というわけではない。ここにいる三人が、強すぎるのだ。


 腰の引けたハッグの一人が、少しずつ後ろに下がっていく。

 これまで敵無しだった実在する死神(ソリッドリーパー)は、初めての強敵と出会い、簡単に自信を無くしてしまった。

 二人目、三人目が後ずさりを始めると、決壊したダムのように魔女たちは逃げ出した。


「ハッグに警戒していた私がバカみたいじゃない……。地球に追放され、種として弱ってしまったのかねえ……」


 ハッグたちがいなくなり、水浸しになった床の上でエレノアがぼやく。


「とりあえず爆薬を探しましょう」


 だいぶ回復したマイアが声をかけた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 フォドラはモニター室で机をひっくり返し、椅子を投げ飛ばしていた。鬼のような形相でぶつぶつと呟いている。


「あれだけ訓練したのに、魔術が効かないってどういう事なの!?」


 彼女はまだ気づいていない。長年ハッグが相手にしてきたのは、魔術が使えない人間ばかり。今彼女たちが相手にしたのは、異世界から来た精鋭だ。そう簡単にやられるはずが無い。


 フォドラは落ち着きを取り戻し、今度は考え込んでしまった。


 ここ最近、魔素が濃くなったおかげで、そこら中で簡単な魔法が使われるようになった。

 ハッグたちは魔法ではなく、学問として確立した魔術を学ばせ、異世界での戦力になる人間の選別に掛かっていた。


 今回逃げ出したのは、新たに参入した者たちで、ハッグという種ではない。地球に住むヒト種である。異世界に復讐するため、彼女たちをしっかり教育したのは、純血のハッグたち。共に戦おうと誓った同志であったはずなのに。


 怒りの収まらないフォドラは、【解放(ᚱᛖᛚᛖᚨᛋᛖ)】のルーンが書かれた赤色の非常ボタンを押した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 通路から人影は消え、水浸しの床だけが残った。エレノアが風魔法を使い、温風を凄い勢いで通路へ飛ばす。床の水はどんどん奥へはじき飛んでいき、通路はあっという間に乾いてしまった。


「……ふう。どうするファーギ」


 一息漏らしたエレノアは、ゆっくり視線を動かしていく。その先には、ファーギとマイアがいる。


「不自然すぎるくらい突然変わったな」


 そう言ったファーギに、マイアは不安な表情を向ける。


「いったい何が……」


 遠ざかってゆく魔女たちの気配が、突如デーモンに変わったのだ。本来であれば、元の人間の気配が残るところだが、一切残っていない。ファーギたちは、異様な変化に戸惑うしかなかった。


 三人は意を決し、急反転してこちらへ戻ってくるデーモンたちに備える。


「そろそろだ」


 ファーギの声と同時に、曲がり角からデーモンが姿を現した。ただ、その姿は巨大な狼に似た、四足歩行の獣。頭数は十五で、さっき居た魔女の人数と変わりない。


 まだ少し濡れている床で足を滑らせながら、赤い瞳でファーギたちを見据え、猛然と突っ込んでいく。


 落ち着きを取り戻した三人は、各々で攻撃を仕掛けてた。


 ファーギは魔導銃二丁で、獣の額を撃ち抜いていく。

 エレノアは風魔法で、獣を斬り刻む。

 マイアは収束魔導剣の黒い刃で獣を斬る。


 狼型デーモンは、口から炎を吐き出そうとしたり、飛びかかって鋭い牙で噛み付こうとしたり、とても頑張っているが……あっという間に数を減らしていく。


「こいつら何がしたいんだ?」

「自殺行為?」

「デーモンなのに?」


 一応戦闘中なので、エレノア、マイア、ファーギは、口速(くちばや)に話す。

 そんな話をしているうちに、十五体のデーモンは肉の塊に変ってしまった。


 血まみれになった通路を、今度はマイアが水魔法で何もかも押し流していく。壁も天井も、飛び散った血を全て洗い流すように。それが終わると、エレノアが風魔法でまた乾かし始めた。


「結局何の施設なんだここ?」


 呆れ顔のファーギが、疑問を呈す。


「生き残りが一人いるから、そいつに聞こう」


 エレノアの声で三人は屋敷の奥へ足を進め始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない!!」


 モニター室で半狂乱になっているフォドラ。

 部屋の中は荒れ放題である。


「くくっ……。あははあっ!! あーっはっはっはっはっはっ!!」


 ピタリと動きを止め、床を見つめたフォドラから笑い声が漏れると、少しずつ大きくなっていった。その目はすでに正気ではない。


悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )も大したことないわね。シビル様が何故あんなに持ち上げるのか、意味が分からないわ。でも……私は純血のハッグ。ちゃんとケリを付けてやる……」


 荒れた部屋に一つだけ動いてない物がある。壁にはめ込むタイプの金庫だ。

 フォドラは金庫を開け、中からビー玉大の魔石電子励起(れいき)爆薬を、手のひら一杯取り出した。


 全て時間遅延魔法陣と爆裂魔法陣が刻まれているので、すぐに爆発はしない。

 だが、時間遅延魔法陣を上書きして、爆裂魔法陣が起爆するタイミングを操作できる。


 フォドラに生き残ろうという意思はなく、侵入者三名もろとも自爆するつもりでいた。


 ――ドン!!


 内開きのドアが、ファーギによって蹴破られた。すかさず背後のエレノアとマイアがモニター室に入ってくる。

 ファーギたち三人が見たのは、一人だけ残っていた気配の主、フォドラの手のひら。そこにある山盛りの魔石電子励起(れいき)爆薬で視線が固定された。


『ソータ!!』

『ヤバい!!』

『もう終わりなのおおお!!』


「四百年も生きたのよ、ここで死んでも悔いは無いわ。ハッグに栄光あれ!!」


 フォドラが時間遅延魔法陣の効果を消すと、手のひら一杯の魔石電子励起(れいき)爆薬が爆発した。

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