正しい判断。
『その前に、この人の手当てをしたいんです。大怪我をしていて…どこか医者に診てもらえるところ知ってますか?』
バニーニの言葉を遮るように衛兵は言う。
『あの爆発は死者が何人か出たようだ。どうやら噂によると匿名の飲み会やらをやっていたらしくてな。』
『匿名と言うのも何か怪しい。今回の事件は計画的なものではないのかと、考えざるを得ない。』
『…っ。そんなことありません!!参加者に聞けば分かります!至って健全な、親交を深めるための会でした!!』
バニーニが必死に答える。
『そうかい。じゃあその話を王城で詳しく聞かせてもらおうか。アルメロくん、バニーニくん。あと、その寝ている女もだ。』
なぜおれたちの名を知っている…?
衛兵は国民に対して平等な対応を求められている。
だがおれたちへの対応は明らかにそうではなかった。
有無を言わさず、王城へ連れて行くと言う雰囲気が衛兵たちの表情から感じ取れた。
手に縄をかけられ、王城へと連れて行かれた。
左手が酷く痛む。木片が刺さっている部分からは、まだ血が滲み出ている。
身体中もあちこちが痛い。爆風を間近で食らったんだ。所々火傷になっているんだろう…。
誰が何のためにこんなことを起こしたんだ…?
あの爆発を仕掛けたやつは死んだのか…?
確か、おれの名前を口にした瞬間だったよな…。
王城へ着いた。
おれたちは地下へと連れていかれ、3人とも別々の部屋へ入れられた。
ゲームや漫画の世界でよく見るような、壁が石でできていて、鉄柵で仕切られてる牢屋だ。
周りの状況は分からない。
部屋の中には小汚いベッドと、用を足すための木桶、小さいテーブルだけ。
腕の傷がズキズキ痛む。
血は止まったが、木片が刺さったままなんだ。
いっそのこと抜いてみようかと思ったが、こんな不衛生な場所で傷口に触って化膿しても困る。
この世界の医学は、元居た世界よりもかなり拙い。
こういう傷の一つで死に至ってもおかしくはないだろう。
早いところここを抜け出して医者に診てもらわないと…。
鉄柵についている扉が開く。
2人の衛兵が牢屋に入ってくる。
1人は扉付近に立ちおれが逃げ出さないか見張り、1人はテーブルに座った。おれの尋問をするのだろう。
『さて、アルメロくん。今回の経緯を吐いてもらおう。』
『本当だ!!おれはやってない!!バニーニとヴィクトリアも同じことを言うはずだ!!』
『なるほど…。それは計画的な犯罪だな。重罪だ。』
(こいつ…おれの話を聞く気がない…!犯人だと決めつけてやがる!!)
『そのうえ死者が多数出ている。厳しい判決が出るだろう。それまでここで暮らすといい。』
それだけ告げると、衛兵は部屋から出ていこうとする。
『おい!!待て!!!!一体何なんだ!!!!おれが何をしたって言うんだ!!ちゃんと話を聞け!!バニーニ!!ヴィクトリア!!あいつらはどうなったんだ!!』
衛兵はおれの叫びに振り向くこともなく、扉を閉めようとした。
その時、上の階段からコツコツと足音が聞こえてきた。
誰かが降りてくるようだ。
『今の叫びはなんだ?何の騒ぎだ?』
衛兵たちは、その足音のほうを向くと、顔に緊張感が走った。
示し合わせたかのように、衛兵の二人はビシッと姿勢を正し、敬礼のポーズをとった。
『イェトイト王子!!なぜこのようなところに!!』
王子…?
地下は薄暗く、顔は良く見えないが、
その金髪に青い目、真っ赤な外套は暗闇の中でも燦然と存在感を放っていた。
『1階を歩いていたところ、微かに叫び声が聞こえたものでな、気になって来てみたんだ。』
『はっ!しかし、罪人が無駄な弁解をするものであり、問題はありません!』
…これは大チャンスなのかもしれない。
おれは力を振り絞って叫んだ。
『王子様!!聞いてください!!おれは冤罪をかけられている!!仲間たちもだ!!どうか話を聞いてくれ!!』
王子がこちらの方を見て、衛兵に問いかける。
『それは本当の事か?』
『はい、そう聞き及んでおります。』
『しかし、彼の発言からは鬼気迫るものを感じる。私がもう少し話を聞いてみよう。』
『王子様!貴方はこんなところにいてはいけません!こういったことは我々衛兵の…』
衛兵の制止を聞きもせず、王子はおれのいる石牢へと入ってきた。
『縄でつながれているし、武器になるようなものもない。大丈夫だ。私が直々に話を聞いて判断する。お前らは階段の下で待機していろ。』
『は…はい。くれぐれもお気をつけて…。』
薄暗い二人きりの部屋で
おれは、事の経緯を王子に話した。
『…なるほど。確かに証拠はない。君が犯人だと決めつけるのは早計だな…。』
『はい!きっと仲間たちも同じような尋問を受けているはずです。こんなの理不尽すぎます!他の参加者や店の店長にも話を聞いたらきっと分かる!おれたちは無実なんだ!!』
『私は王子だ。正しいと思った判断をしたい。…その左腕どうした?木片が刺さっているじゃないか…。』
王子は木片が刺さった腕にそっと手を添えた。
『私は、正しい判断をしたい。』
その瞬間、王子はその木片を力いっぱいおれの腕の奥へとグリグリ押し込んだ。
『がああぁああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!』
急な激痛に張り裂けるような叫びが出た。
傷口からは再度血が飛び出し、ぽたぽたと地面に落ちた。
『私は正しい判断をしたい!!私にとっての正しい判断をなあああああああああぁぁぁぁ!!!!!!』