広がる不穏
ティティアが…死んだ…?
突然の報告に頭が真っ白になった。
母は泣いていて話ができる状況じゃない感じだった。
父に別室に連れられ、話を聞いた。
『今日は会合で街へ出ていたんだ…この地域のことで話し合うつもりだったんだが…』
『話し合いの前に、ティティアの死を町長から聞かされたよ。他殺らしい。』
唖然として言葉も出てこない…あの…ティティアが…
『一昨日の晩、仕事終わりに外で片づけをしていると思ってたが、あまりに帰りが遅いから気になってドリィが見に行ったらな』
ドリィ…あぁ…ティティアの親父さんか
『壁を背に倒れこんでるティティアが見つかったそうだ。胸には銃痕が3発…』
『おそらく、通り魔的なものだと言われてる。あの子は恨みを買うような子ではない。』
『気弱だったが、真面目でいい子だった…アルメロ…お前何か知らないか?』
聞きたいのはおれのほうだ。
だが考えたって何も進まない。
『父さん…おれ、ちょっと行ってくるよ。』
無心で出かける準備をした。
『街へか…?何も今この状況で行かなくても…』
父さんはそう言いかけたが、おれの真剣な目を見て途中で止めた。
『アルメロ…お前は、いなくならないでくれよな。』
父さんの言葉に、おれは無言で頷き、街へと向かった。
街へ着いた。
ティティアの親父さんの店『ドルスタ』は明かりが消えていた。
当然だ、こんな状況で仕事なんてできるわけがない。
飲み会を開いた酒屋『ヴィンランド』に向かい、店の前で待った。
どれくらい待っただろう、おそらく2時間ほどだ。
『あれ…?兄貴…?じゃなかった。アルメロ?どうしたんだこんなところで。』
長身でショートカットの女性、バニーニが声をかけてきた。
飲み会の時と格好が違う、仕事帰りなのだろう。
この世界にはケータイなどない。
王城にある時計台が1時間ごとに時報を鳴らし、それで住民は時間を知るのだ。
おれはヴィクトリアもバニーニも何の仕事をしているか知らない。
次に集まるのは2回目の同窓会だったが、待っていられるはずもなかった。
運よく、バニーニがこの店のチラシをチェックしようと来たのだろう。
おれは詳細を話した。
『……そうか。』
『ティティア…網中君とはそんなに面識なかったけど、いざこうなると悲しいものだね…』
『バニーニ、何か知らないか?』
当然バニーニは首を横に振る。
『そりゃそうか…実際、通り魔に殺されたって話だし…おれたちにどうすることもできないよな…』
おれがそう言うと、バニーニは黙り込んで何かを考え始めた。
『ティティアの死因は、3発の銃弾ってことだったよね?』
『あぁ、そうらしい。胸に3発。………………あ!?』
よく考えたらそうだ。やっとおれも気づいた。
『この国で銃の所持が許されているのは、名字を持てる人たちのみだよね、アルメロ…』
『そうだよな…そんな人が城下町のこんな薄暗い裏道までわざわざ何の用事で…』
嫌な予感がしたが、おれは言葉に出せなかった。
その代わりにバニーニが口に出してくれた。
『殺すためだよ。アルメロ。』
おれとバニーニが出した結論はこうだ。
ティティアのような一般市民がわざわざ殺される理由はない。
名字を持てる上流階級の人たちの中にも、この世界に転生したクラスメイトがいてもおかしくない。
殺されたのは、飲み会の数日後だった。
おれは街はずれの田舎に住んでいて、上流階級の人が来る理由がなさすぎる。
バニーニは街の中央の服屋で働いているらしい、目立ちすぎる。
ヴィクトリアは…知らんけど、なんかすげえ騒ぎそうだし…
そう言った理由で、場所的にも性格的にも
ティティアが標的になったのだろう。
『あの日の飲み会…クラスメイトはおれたち4人だけだと思ったが…』
『そう。ボクたちの他にもいたのかもしれない…』
確信は持てないが…おそらく…
おれたちが豊緑高校出身者だと分かって、何者かが殺しに来たんだ。
おれたちは作戦を考えた。
ヴィンランドの中に入り、店主に承諾を得て
第2回の飲み会に追記を書き加えた。
「※後日の連絡やトラブル回避の為、参加者の個人情報は主催者のみで把握いたします。」
『でもいいのかい?アルメロ。こんなことしたら参加者減る可能性が高いよ?匿名が売りの飲み会なんだから…』
『いや、これでいいんだ。作戦の本質は、そこにある。』
そしてあっという間に1か月が経ち、第2回目の飲み会の日が訪れた。
おれとバニーニは早めに店に着いて、準備をしていた。
2人とも口には出さなかったが、緊張していた。
今回も参加者の中に、自分たちを殺そうと目論んでる者がいるかもしれないんだ。
頼む、おれたちの出した結論が、杞憂であってくれ…
そう願いながらも、第2回の匿名飲み会の開始時間は迫っていた。