表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/106

第六章 皇宮の大掃除 3

 呪具や憑代の探索を終えた教皇たちが戻ってきたのは、すっかり夜の帳が降りた頃のことである。今夜は本宮に全員が泊まることになった。

 遅い夕食を摂りながら話し合い、聖樹の様子は明朝になってから見に行くことが決められた。


 レオンの出生の経緯を当の本人に話すことについては、医師から直接懺悔を受けた教皇に委ねることにした。


 そうしてロザリアは一人、宛がわれた部屋で今日一日を振り返る──


 教皇の見舞いに同行し、皇帝を癒すために内宮を訪れただけのはずだった。それが、予想だにせず長い、とてつもなく長い一日となってしまった。


 教皇が聖女の守護のためと結界を張っていたせいで、本宮に到着して馬車を降りるまで誰も気付かなかった。

 その異変に気付いたのは、内宮に初めて足を踏み入れた午後のまだ早い時間だった。


 寝込んでいた皇帝を癒し、シャルローズ妃に取り憑いた女とやり合って退けた後に、本宮を浄化。それからすぐ、知らせを受けて皇妃の宮殿に移動し、皇妃に取り憑いた女と再び対峙。

 女の呪法でレオンが死にかけ、救うために無我夢中で時を止め、神に直接の誓いを捧げることになった。


 そして、皇宮全体を浄化し、予想外に力を使い過ぎていたために倒れ、目覚めた時には夜となっていた。


「なんて一日……わたくしの人生で、こんな濃い一日が今までにあったかしら」


 聖女とはいえ、まだ貴族令嬢としての生活しか経験したことのない身では、そんな非日常がそうそうあるはずもない。現に、昼食を終えて自邸を後にした時には、全く予想だにもしていなかった。それが──


 おそらくは、自邸を出た時の自分と今の自分では、存在そのものが全く違う。それほどの強烈な体験だった。身も心も変わってしまうほどの。

 レオンの死に直面して、肚を決めざるを得なかった。自分がいかに甘えていたか、甘やかされていたかを思い知った。


「猊下は、聖女であるわたくしのために、英雄と聖獣が神の采配で付けられたように仰っていたけれど……違う。聖女の守護のために英雄が存在するんじゃない……逆……聖女は英雄を護るための存在なのだわ……」


 思えば、あの幼い日に、公爵領の聖樹の前でレオンに護ると誓われたせいで、思い込んでしまっていたのかもしれない。自分はレオンに護られるべき存在なのだと。


 何故、この時代に英雄が生まれ、更に聖女が生まれたのか。各地で闇の力が強まり、魔物が増え始めていると言われてはいたが、帝都で貴族令嬢として暮らしている身では、実感などあるはずもなかった。


 それが今日、たった半日で強く強く実感させられた。闇の恐ろしさ、呪力の悍ましさ。レオンが神敵と言っていた、闇の民の存在。

 今まで漠然としていたが、聖女が戦うべき相手──それが明確になった。


 ロザリアにとっての敵、それは間違いなく、シャルローズ妃や皇妃に取り憑いていた女──先帝の愛妾だった異国の王の異母妹と思われる女呪術師である。

 

「叔父様に斬られて大半の力を喪ったとか……。どのくらいで復活するのかは分からないけれど、でも必ずまた現れる……」


 それだけの執念を感じた。何十年もの間、先帝を篭絡して愛妾になるなどの目立つ行動の一方で、裏で暗躍しいろいろと企み、様々な仕掛けをしてきている。今回、発覚したことだけのはずはないと思えた。


 あの強烈な存在に対抗するために、自分がどうあらねばならないのか。そのためには何をすれば良いのか。ロザリアはまんじりともせずに、それを考え続けた。

 英雄を護ることのできる聖女となるために──




 夜も更けた頃、遠慮がちに扉がノックされ、なんとなく予想していたロザリアは、特に警戒もせずに入室を許した。

 予想通り、入ってきたのはレオンである。


 その顔に憂いはない。ロザリアは安堵の笑みを浮かべてソファへ誘い、その隣に腰かけた。


「あれは……夢ではなかった」

「はい」

「私は……本来、望まれて生まれるはずだった」

「……はい」

「そう思えただけで、救われた気がした……」


 まっすぐ前を見据え、淡々と話していたレオンの頬に一筋涙が伝い落ちる。綺麗な涙だと思った。


「はい……」


 そう答えるだけで精一杯だった。目が潤み、嗚咽がこみ上げそうになるのを必死で堪えた。それ以上、何も言えずにロザリアは、ただ黙ってレオンの背を撫でる。


 やがて、レオンは小さく笑って肩を竦めた。


「……大の男が情けないな」

「いいえ、そんなことはありませんわ」

 

 ロザリアは、ハンカチでレオンの頬をそっと拭う。情けないと気恥ずかしげに言うような姿を、自分だけに見せてくれたことがとても嬉しかった。


 それ以上何を言うでもなく、二人して微笑み合っていると、ふいにノックの音がした。


「どなたでしょう……?」


 レオンの来訪については予想がついたが、他に来る者に思い当たる者がいない。二人で目を見合わせ、怪訝に思いながら返事をすると、入ってきたのは侍従長だった。


「このような遅い時間に申し訳ございません」

「構いませんけれど、何かございましたか?」


 侍従長は、ロザリアの問いに畏まった様子で答える。


「陛下が聖女様に、是非ともお願いしたいことがあると仰せられまして」

「わたくしに……?」

「はい。もちろん聖騎士団長様もご一緒で構いませんので、今から陛下の御部屋……というよりは、シャルローズ妃殿下の御部屋にいらして頂きたいのです」


 思わず目を見合わせると、レオンが頷く。それを認めて、ロザリアは深夜の訪問を了承した。

間に合わなかった……一日一話、早々に挫折(涙)

慌ててたせいで、一部抜けてたのをこそっと追記……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ