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第五章 平穏の綻び 4

 「まずは呪具を無力化した上で、寝所を浄化、陛下をお戻しして治癒。この段取りで宜しいですか」


 レオンが教皇に確認しているのを聞きながら、ロザリアは考え込んでいた。学院で最後に見た皇帝はあからさまに意気消沈していたが、決して病んではいなかった。


 この内宮の状態がもっと以前から続いていたのであれば、あの日に気づかなかったはずはない。あの場にはレオンもいたし、何より教皇はずっと皇帝のすぐ隣に座していたのだから。

 つまりは、皇帝が皇宮に戻り倒れた後に異変が起きたのではないか。だとすれば──


「猊下、叔父様……まずは陛下の治癒を先に致しませんか?」

「ロゼ?」

「何かございましたかな?」

「呪具……ですが、いつ誰が設置したのかと思いまして。先ほど寝台を解体する様子を見ておりましたが、最近のことではないように見受けられました。呪具自体は、ずっと以前からあったのではないでしょうか。けれど、実際に発動したのは陛下が倒れられた後……つまりは、ごく最近、誰かがここに入り込んで発動させたのだと思うのです」

「ふむ……」


 考え込む二人から侍従長に目を移し、その表情を窺いながら問う。


「ここへ入れる者は、どのくらいおりますの?」

「陛下が即位されてから、と言うことでございますれば……本宮から出られるまでの皇妃様、皇子殿下。侍従長である私、典医、他に序列三番目までの侍従が三人でございます」

「侍女は入れないのですか?」

「さようでございます」

「他には誰も?」

「はい」


 そう言い切りながらも、侍従長の目は僅かに動いている。その目が一瞬、奥の壁にある扉に向けられたのをロザリアは見逃さなかった。


「呪具はそのままに、寝台を元に戻して下さいませ」


 侍従長と聖騎士たちがてきぱきと動き始めた。それを横目にレオンと教皇の様子を窺うと、二人とも件の扉をちらりと見やって目を向けてくる。

 そっと頷き返してから、話を戻した。


「まずは陛下に意識を取り戻して頂いて、詳しくお伺いした方が良いように思うのです。陛下も神聖力を授けられたお方ですし、何かお気づきのこともあるかと存じます」


 そう意見を述べてから、二人にしか聞こえないように声を潜める。


「……呪具を封じてしまうと、発動させた者が気づいてしまうかも知れませんし……陛下をこちらへお戻ししたら、猊下がサロンで張られていた結界を、この部屋“だけ”に張って頂けますか?」


 教皇が小さく頷く。やがて寝台は元通りに戻され、指示を受けて皇帝が運ばれてきた。


『ブラン、まだかかりそう?』

『ううん、もう大丈夫かな……』

『じゃあ、すぐ来て。猊下が結界を張ったら入れなくなるでしょう?』

『わかった』

 

 そう返事が返るのと、ロザリアの傍らにブランが転移してくるのは、ほぼ同時だった。それを見やって、教皇は何も言わずに結界を張る。


『ブラン、あそこに黒い板を集めてあるでしょう? あれを小さな結界で隔離してほしいの』

『……なんか、嫌なモノだね』

『ええ、とても嫌なモノよ』


 隔離された寝所の中で、更に呪具が隔離されるのを待って、ロザリアはまず室内を浄化した。塵のような穢れ一つ残さず一掃する。

 そうしてから寝台に寝かされた皇帝の傍に寄った。


 左手を翳して目を閉じるや、ロザリアの柔らかい髪がふわりと浮き上がり、身体が金色の光に包まれていく。翳した手から注がれる光が皇帝の全身を覆い、みるみるうちに窶れた顔に血色が戻り生気が満ちていった。


 ロザリアを包む光が収束していき、その背に金色の翼を幻視させて消え失せるのを、教皇は跪き手を合わせて魅入っていた。


「……何度拝見しても、眼福でござりまするな」


 そんな呟きと共に皇帝がゆっくりと目を開け、訝しげに身を起こす。


「私は一体……?」


 しばし頭を抑えていた皇帝は、周囲を見回して更に訝しげな顔になった。


「お身体はいかがでございますか?」

「……ロザリア嬢? 教皇猊下まで……? これは一体、何事だろうか」


 不思議そうに尋ねられ、ロザリアは神妙に答えた。


「陛下は皇宮にお戻りになられた後で倒れられたと伺いましたが、そのまま七日間も寝込まれていらっしゃったのです」

「七日!?」

「さすがに、これ以上は私も待てませんでしたのでな。聖女様にご同行願って、陛下を癒して頂いたのです」


 二人の言葉に皇帝は目を丸くし、慌てたように側に控える侍従長を見やった。侍従長が頷くのを見て、呆気に取られている。


「……気落ちしていたのは確かだが、よもや七日も寝込むなど……そこまで脆弱だとは、我ながら何と情けない……」


 己の不甲斐なさを嘆き始めた皇帝に、ロザリアは慌てて現状を掻い摘んで説明した。


 厳しい顔で聞いていた皇帝は、示された呪具を見やって明らかな狼狽を見せたかと思うと、先ほど侍従長が目を向けた扉に向かって駆け出して行った。唐突に名を叫びながら──


「ロゼッ!!」

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