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第四章 教皇の来訪 12

 「それはそうと、聖女様。先ほど、レオンが朴念仁だという話に、随分と激しくご同意なされていたようでございましたが?」

「あ、いえ、そんな……そうでございましたか?」

「ええ、それはもう、力強く頷いておられましたな」

「……お恥ずかしい限りでございます」


 ロザリアは頬を赤らめて目を伏せる。


「……実はわたくし、叔父と顔を合わせたのは二年ぶりでございましたの。それで、少々箍が外れてしまいましたようで……我慢できずについ、長年の想いを伝えてしまったのでございます」

「ほう……それは、それは。その応えが朴念仁だったと言うわけですな」


 興味深そうに頷きながら言う教皇に、ロザリアは苦笑を浮かべた。


「叔父の半生では、愛情に触れる機会が少なすぎましたので、わたくしに対する愛情がどういう種類のものなのかが分からないようでございますの」

「ふむ……?」


 教皇がいぶかしげに首を傾げる。次いで、何かを思い出すように右上に目を向けた。


「先ほどのあれは、私には嫉妬にしか見えませんでしたがのう」

「嫉妬? 叔父が……? あの、あれとは何のことでございましょう?」


 何を指して言っているのかが分からない。不思議な思いで尋ねると、教皇は悪戯な笑みを浮かべて言った。


「ブランが自分の姿に人化するのを止めさせるように、と要請した下りですな」

「はぁ……そのようなやり取りがあったことは、確かに覚えてございますが……それは、嫉妬になるのでございますか?」

「聖女様も意外と──」


 くすりと笑っている。


「──男心と言うものがお分かりではないようでございますな」


 なんとなく心外だった。レオンのことは良く分かっているつもりでいたから。


「聖女様が、代わりになりそうな他の男性の名前を挙げた途端、レオンは慌てたように自分の姿で良いと妥協したではないですか」

「はぁ……」

 

 確かにミカエルやヴィクトルやダミアンの名を出した時に、レオンが嫌そうだったのは間違いない。

 でも、あれが嫉妬かと言われても良く分からなかった。逆を考えてみた。


『例えば……叔父様に聖獣が付いていたとして、それが私の姿で、他の女性の姿に変えるとしたら……ってことかしら? 例えば、ヴィーや姉様の姿の聖獣を、叔父様が抱き締めたり撫でたり……』


 単なる想像だというのに、胸がもやもやした。はっきり言って不快である。


『わたくしのこれは、間違いなく恋愛感情からの嫉妬ですわね……。叔父様が他の女性に触れるのは嫌ですもの。でも……親兄弟や友人でも、自分より別の者に関心を持たれたら、ヤキモチを焼いてしまうこともあるのじゃないかしら』


 レオンの場合は判別が難しい。自分を唯一の存在と思ってくれているのだから、より他の者に親しくしているのを見れば、嫉妬を覚えることもあるように思う。

 それは独占欲で、恋愛感情に根差したものだけではない。


『でも……他の男性を引き合いに出すのは、叔父様でも理解しやすいかもしれませんわね。今回のような人化がどうとかではなく、もっと恋愛的な内容で、具体的にイメージできるよう誘導してみるとか……』


 そんな悪だくみめいたことを考えていると、教皇が面白そうに尋ねてきた。


「何やら、大層お愉しそうですが、一体何を考えておられるのですかな?」

「叔父に、わたくしを恋愛対象として見てもらうにはどうしたら良いかと、作戦を練っておりましたの」

「はははは……これは、また」

 

 教皇はからからと愉快そうに笑う。そんな陽気な様子をちらりと見ながら、ロザリアはふと気になったことを聞いてみた。


「聖地には、男性の神官も女性の神官もいるのでございますわよね? 聖騎士団には男性しかいないようですけれど……聖地では恋愛や結婚とかはあるのでしょうか?」

 

 神聖教会の内情、特に聖地に関しては、実のところ良く把握していない。ロザリアが知っているのは、せいぜいが帝都の大聖堂くらいだった。

 そこには確か、女性の神官はいなかったように思う。


「聖地は都市と言うには少ないですが、千人ほどが居住しております。半分ほどが神官となりますが、それには聖騎士も含まれます。人の営みがあるのであれば、恋愛や結婚があるのは当然のこと。神が望む倫理を守って暮らす世俗の地と変わりありませぬよ」

「そうなのですか……。では、聖地でも恋のさや当てがあったり、結婚相手の獲得で争ったりと言うことがあるのでしょうか?」


 あくまでも素朴な疑問として口に出しただけだったが、教皇は違う意味に捉えたようだ。


「学院の舞踏会では、妙齢の女性たちに随分と騒がれておりましたな。確かに、我が聖騎士団長は聖地でも人気がございますが……さや当ても何も、当の本人が朴念仁でございますからな」


 意図していない答えが返ってきたが、気になっていなかったわけではない。内心で苦笑しながら、ロザリアは頷いた。

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