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第四章 教皇の来訪 8

 全く意味が分からない。皇妃が外れの宮殿に追いやられたことなのか、それとも皇帝と皇妃の不仲がなのか。

 何を指して言っているのか、それが自分のせいだとはどう言うことなのか。


 不穏な言葉にも関わらず、その内容に全く不似合いな教皇の茶目っ気のある表情に、ロザリアは戸惑うしかない。

 レオンもまた、あからさまに怪訝な顔をしている。


「あの……猊下? 何故……いえ、何がわたくしのせいなのでございましょう?」

「皇帝陛下が皇妃を遠ざけるに至ったこと、でございますな」

「お待ち下さいませ。十数年前のお話でございますよね? そんな幼い頃のわたくしが原因って……」

「まぁ、私も人づてに耳にした話ではあるのですがな──」




 ロザリアの三歳の誕生日、皇帝臨席のもと、四大公爵家の一族を集めた正式な披露目が、帝都にある大聖堂で行われた。

 参席者は全員が直系の者、つまりは聖印を有する者である。


 父レナートに抱き上げられて、ロザリアは参席者の前に連れて行かれた。この日は左肩近くの背にある聖印が見えるよう、オフショルダーのドレスを着せられていた。

 羽織っていたケープが外され、参席者たちに聖印を検めさせる。  


 その後で主席神官による祭祀が厳かに行われ、最後に直会となった。披露目を済ませていない者は参席できない。

 そのため、この場にはロザリアより幼い者はいなかった。


 半年ほど先に生まれたヴァネッサとは、この日初めて顔を合わせたのだが、すぐに仲良くなった。

 二人でじゃれ合って遊んでいるうち、少し年上のレベッカを見つけて懐き、三人でずっと一緒にいた。


 大人たちが会食をしている中、三人だけで固まって菓子を食べていると、ふらりと皇帝が近づいてきた。


「私には皇子しかいないが、女の子も良いものだな。なんとも華やかで、場が明るくなるようだ」


 やたらと陽気に大笑いしているのを、レベッカが嫌そうに見やって、そっと距離を取っている。

 気の強いヴァネッサは関心を示す様子もなく、黙って菓子に手を伸ばしていた。


 幼いロザリアは、とても偉そうな初めて会う大人を不思議な思いで見上げていた。

 浮かれたように、やたらと笑っているのが何故なのか良く分からない。理解はできないが、自分の父親や他の大人たちとは何かが違う。


 そんな物怖じせず、じっと見上げてくるあどけない幼女に気を引かれたのか、皇帝は徐に歩み寄ると、いきなりロザリアを抱え上げた。


「これはまた、ずいぶんと可愛らしい姫ではないか!」


 知らない大人に突然抱き上げられ、嬉しそうに頬ずりされたロザリアは、びっくりして硬直してしまった。

 間近に見えた目が澱んでいて、怖くてたまらない。接している肌から悍ましいものが移ってくるような気がした。


「……やぁっ!」


 恐怖のあまり頭が真っ白になり──


 目を焼くような強い白銀の光が、室内を埋め尽くすように迸る。

 やがて光が収まった後には、気を失ってぐったりとした幼女を抱えたまま、呆然と立ち尽くす皇帝がいた。


 しばらくの間、呆然としていた皇帝が我に返った後は、前代未聞の騒動となった。本当の意味で皇帝が我に返ったからである。


 皇帝の要請で四人の公爵が別室に移った。そこで皇帝が語り出したのは──

 数年前からの記憶があやふやであること。朦朧としていた中にも断片的に残っていた記憶から、何か薬物のようなものを使われ、思考を誘導されていたらしいこと──という衝撃的なものであった。


 すぐさまブランシュ公爵の指示で本宮内の一斉捜索が秘密裏に行われ、麻薬や媚薬のような怪しげな薬物やら呪具、先帝の愛妾である叔母からの皇妃宛の手紙などが押収された。

 また、侍従や侍女の中にも薬物で洗脳されていたらしい者が見つかった。


 結局、皇妃は本宮から出され、外れの宮殿に追いやられることになった。

 処罰に至らなかったのは、悪質ではあるものの、皇帝を篭絡して愛妾となるための手練手管の一環と見做す程度の証拠しか見つからなかったためである。


 今に至るまで、その経緯どころか、皇妃が遠ざけられたという事実すらも公にはされていない。帝国で唯一の皇子の生母であるがため、なのであろう。


 だが、その甘い対処とは裏腹に、皇帝は皇妃に対し怖ろしいほどに冷淡だった。

 元々は敬虔な信徒であった皇帝は、己の意に反して愛妾などに耽溺させられたことが許せなかったらしく、面会を請う皇妃の申し出をことごとく一蹴した。




 事態の収拾を指揮したブランシュ公爵が、教皇へ内密に報告してきたという、自分に関わる重大な内容を聞かされて、ロザリアは困惑していた。

 幼かったからなのか、恐怖のあまり記憶が飛んでしまったのか。三歳のお披露目自体を良く覚えていない。


「やはり、わたくしのせい……なのでしょうか?」

「そうですな……私が思いまするに、幼かった聖女様が皇帝陛下の異常を無意識に感知して、これまた無意識のうちに拒絶されたのではないかと」

「拒絶……でございますか?」

「相当に怯えられていたとのことでございますからな。異常を拒絶されるあまり、無意識に浄化のお力を使われたのでございましょう。迸った光の色は白銀だったそうですからな」


 皇帝の精神を冒していた悪しき薬効を、神聖力で浄化したと言うことらしい。


「聖女の浄化とは、闇の力や呪力による穢れだけではなく、薬物のような人の心身を蝕む悪しきものすらも消し去れるのか……」

 

 レオンが感嘆混じりに呟いた。

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