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第四章 教皇の来訪 7

 「内宮の警備は近衛隊の役目だが、皇妃の住む宮殿は警備対象に入っていなかった。あそこだけは、近衛ではない他の騎士隊が担当していたんだ」

「何故ですの?」

「さぁ? 私が騎士になった時からそうだった。だから、特に深く考えたことはなかったが──」

「近衛が警備対象としないのは当然じゃな。皇族ではないからじゃ」


 教皇が切って捨てるように言う。


「ええっ?」

「え?」


 ロザリアとレオンは、同時に驚愕の声を上げていた。思わず顔を見合わせた二人は、次いで同時に顎ひげを撫でている教皇へと、続きを請うように目を戻す。 


「聖女様はともかく、其方まで知らぬとはな」


 レオンに苦笑を向けて、教皇は続けた。


「神聖帝国は、神の思し召しによって建てられた国。神が示された一夫一婦制も、国法によって定められている。本来、皇妃などと言う地位は帝国にはないのじゃ」

「皇帝の妻は皇后──と言うことですか」

「そうじゃ。じゃがのう、皇子を産んだとはいえ、あの者が皇后となるなど誰も認めまいて。改宗を拒んだ異教徒である上、それまでの経緯もあるからのう。苦肉の策だったのじゃろうな」

 

 小さく息を吐いて教皇は首を振り、更に話を続ける。


「本来は、妃は皇太子や皇子の妻のことを指しておった。当然、皇后よりも格下となる。そこから流用したのじゃろうが……つまりは名目が変わっただけで、実質は愛妾のままと言うことじゃ。皇子の母として体裁を整えただけのこと」

「それで、公式行事には一切顔を出すことは無かった──いや、出せなかったのですか」

「うむ、資格がないのだから当然じゃな」


 だから、正式な妃となるための教育に皇妃が関わることはなく、その立場となるロザリアに干渉してくることもなかったのだろう。 

 仮とはいえ皇子の婚約者である者に、母である皇妃との目通りが全く無かった理由がようやく分かった。


「それにしても……叔父様は近衛として内宮の警備をされていたのに、一度も皇妃殿下に会われたことがないというのも不思議ですわね」

「皇妃の宮殿は内宮の最も奥まった外れにあって、皇帝の住まわれている本宮からは、かなり離れているからな」

「そうなんですの? わたくし、内宮のことは良く分からなくて。皇后宮と皇太子宮は本宮と回廊で繋がっているというのは、お父様からお聞きしたことがありますけれど。今は主がいないために閉鎖されているのでしたわよね?」

「ああ、そうだな。内宮には、その三宮殿とは格が下がる宮殿が他に四つあって、本宮に一番近い宮殿を皇子が使っている。一番遠い宮殿が皇妃の住まいで、他の宮殿は今も使われていないはずだ」


 そこまで聞いて、ロザリアは不思議でならなかった。


「何故……なのでしょう? 正式な皇族ではないとはいえ、皇妃殿下は陛下の妻というお立場なのですよね? 普通は、もっとお近くにおられるものではないのでしょうか?」

「多分だが……不仲なのではないだろうか」

「え?」


 レオンが言いにくそうに答える。両親の仲があまりにも良いために、ロザリアにはその発想は全くなく、予想外の言葉に虚を突かれてしまった。


「私は陛下の身辺警護をしていたこともあったが、本宮へ皇妃が訪問することも、ましてや陛下が皇妃の宮殿へ向かわれることも、私の知る限り一度も無かった。時折、皇妃の使いの者が本宮へ参ってくることはあったがな」

「そうなんですの?」

「当時の騎士団長から聞いた話では、皇子が幼少の頃までは本宮に一室を賜って、陛下と共に暮らしていたのだそうだ。それがある時を境に、まだ幼い皇子と引き離され、皇妃は外れの宮殿へと移された。特に何か事件めいたことがあったわけでもなく、理由は分からないと言っていたな」


 幼い子と引き離してまでと言うのは尋常ではない。ロザリアが小首を傾げていると、教皇が笑みをこらえた表情で、悪戯っぽく言った。


「大変失礼ながら……それは聖女様のせい、でございますな」

時間切れ、いつもより少し短くなってしまいました……

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