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序章 いざ舞踏会へ 2


 『お父様……どなたにお願いするつもりでいらっしゃるのかしら。我が家の格に見合うお相手で、軋轢の生じない方なんて、そうそう簡単には見つからないと思うのだけど……』


 仕度が整ってから既に一時間は経とうとしている。美しく着付けられた衣装を乱さないために、自室だと言うのにソファで寛ぐこともできず、背もたれのない椅子にずっと姿勢を正して座っているのは、気鬱も相まって少々辛い。


 ロザリアが大きな窓に目を向けると、空は赤く染まり始めていた。やがて室内は薄闇へと変わり、侍女が明かりを灯していく。そろそろ家を出なければ、舞踏会の入場に間に合わない。


 自分よりも、侍女たちの方がやきもきしているように見えた。正直なところ、ロザリアにとっては自分の卒業ではないのだから、舞踏会への出席自体はどうでも良かった。


「ただの舞踏会なら喜んで欠席するのだけど――」


 そうもいかない。本当ならば今日この日のために、ロザリアは親しい友人と共に、長いことかけて準備してきたことがあった。この日――皇子の卒業の場が最適なタイミングではあったのだが。


 そうこう思案しているうちにも時間は過ぎていく。今から出掛けても遅刻は確定である。政治手腕に長けた父ブランシュ公爵といえども、どうにもならなかったらしい。


「他に効果的な場はあるかしら……」 


 ロザリアが諦めの溜め息を吐いた時、慌ただしく扉がノックされた。飛び込むように部屋に入ってきたのは、先ほどとは違って満面に笑みを浮かべた母である。


「リア! お迎えがいらしたわよ!」

「え……?」


 娘の戸惑いなど気にする風でもなく、母はロザリアの手を取って立ち上がらせる。


「お母様。あの、どなたが……」

「さぁさぁ、急いで。もう時間はないわ」


 問いにも答えて貰えず、母に早く早くと急かされて小走りで従った。相手は気になるものの、最も効果的な場に臨めるのであれば否やはない。安堵の思いとは別に、これから為すことへの緊張が湧いてくる。


 長い廊下を抜けて足早に階段を降り、母と共に玄関前のホールへと向かう。そこで待っていた青年の姿に、ロザリアは驚いて目を瞠った。


「え!?」


 純白の詰襟服とズボン、青紫の襟と銀糸のエギュレットが付いた純白の上着、その上に纏う長い純白のマント。そのどれにも銀糸の刺繍がふんだんに施されており、サッシュやマント留めは青紫。

 神聖教会を象徴する色を纏った聖騎士団長の礼装――それを一部の隙もなく身に着けた長身の青年は、生来の髪も瞳も白銀と青紫だった。


「叔父様……?」


 帝都にいるはずのない叔父レオンがそこにいた。レオンはロザリアの姿を認め、同じように目を瞠る。だが、それも一瞬のことで眩しそうに目を細め、優しい笑みを向けて近づいてくる。


「ロゼ、久しぶりだな。ずっと手紙のやり取りはしていたが、まともに顔を合わせるのは二年ぶりか……。随分と綺麗になっていて驚いたよ。もう立派な淑女だな」


 父がロザリアの衣装や装飾品の色合いだけを指定した意味が、今ようやく分かった。聖騎士団長の礼装に合わせたことで、まるで元から決まっていたパートナーにしか見えない。


「叔父様、どうして? 聖地にいらっしゃるとばかり……」

「教皇猊下のお供で帝都に着いたばかりなんだ。皇宮の迎賓館で旅装を解いている時に兄上が飛び込んできて、いきなりロゼのエスコートを頼まれた……と言うより、ほぼ命令だったけどな」


 苦笑するレオンの顔を見上げ、ロザリアは胸が詰まりそうになった。七歳で初めて会ってから十五歳になるまで、ずっと傍で見守ってくれた大好きな叔父。聖騎士となって帝都を離れて行った時には、寂しくて悲しくて、何日も泣いて過ごしたほど辛かった。


 あれから二年、二十五歳になったレオンは相変わらずの整った顔立ちではあるものの、以前よりも精悍さが増し、聖騎士団長としての風格が感じられた。

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