天才飴
「はい、次の子、アーンしてー。」
一列に並べられた幼児達の口に、小さなキラキラ光る飴を入れている白髪の老人。
飴をもらった子供は、その先のエアシューターのような丸い入り口に誘導されて行く。
「神様、あんなに天才飴配って大丈夫なんですかね?地上が天才で溢れちゃいますよ。」
次の子供の集団を連れて来た新人の天使が、神様の横で子供達の頭数を数えていた先輩天使に、小声で尋ねた。
エアシューターは母親の子宮に直結している。
ここは、出産を司る神様の世界。現世に生み出されようとする赤ん坊に最後の祝福を与える場所だ。
「良いんじゃない。あれは、神様が下さる祝福なんだから。それに“天才とは1%の閃きと99%の努力“と20世紀最大の天才物理学者が言ってるし。天才飴ごときで、天才にはならないわよ。」
「え!?そうなんですか?」
「いや、効果はあるのよ。だけど、飴の効果には時間の制約があるの。大体、3歳ぐらいまでかな。天才にも分野があるから、鍵開けの天才とか、ポーカーの天才とか幼児にあっても仕方ない才能でしょ。花開く前に効果が切れちゃう。」
「へぇ、色々な飴があるんですね。」
新人天使は神様の横に置かれた籠の中に入っている様々な色をした飴を覗きこむ。
「そうね、歌の天才、数学の天才、絵の天才、面白い所では悪戯の天才、なんて飴もあるのよ。」
「全部、神様が作ってるんですか?」
「・・・そう思う?」
「先輩、何なんですか?その間?」
先輩天使はちょいちょい、と後輩を列から少し離れた所に連れていくと、その耳に囁いた。
「あの飴はね、自然発生するの。だって、あの天才飴の正式名称は“やだマジウケるーうちの子天才“飴、なんだよ。」
「・・・何ですか、それ、親の期待?しかも、死語。」
「寒いよね。」「はい、寒いです。」
そう言って天使達は仕事に戻っていった。
その頃の地上では、ある夫婦の元に待望の子供が生まれていた。そして、2年後、実に写実的に昆虫の絵を描く息子に、夫婦の妻が身悶えて言った。
「やだー、マジ?ウケるー、うちの子、天才なんですけどぉ。」
神様の元にある籠にキラキラ光る天才飴が一粒生まれた瞬間だった。