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軽くお腹を満たした後、庭園を案内されることになった。
私の腰くらいまでの高さしかない低い木が道に沿ってずっと先の方まで植わっている。丸い形の白い花が満開で真ん中に橙色の小ぶりな実が付いている。
殿下は身を屈めて手近にあった花のひとつを慈しむ様にそっと撫でる。
「この庭園で父上と母上は出会ったそうだ。2人とも一目惚れだったらしく、すぐ婚約したらしい。それからも何度もこの場所で過ごしたと聞く」
「まあ素敵なお話ですわね。両陛下がそのように出会っていらっしゃっただなんて存じ上げませんでした」
「今でも暇を見つけては来ているらしい」
「まあ。ふふっ、そんな夫婦関係になれたら幸せでしょうね」
「私もそう思う。理想の夫婦だと幼い頃から思っていた」
ふたりでそっと見つめ合う。
やはり殿下の瞳は私を惹きつけるのか思わず見惚れてしまうと少し見過ぎたせいか、すっと視線を逸らされてしまった。
残念に思いながらも傍に咲く白い花を指差す。
「殿下、この実をご存知ですか?」
「実? この橙色の部分のことか?」
「ええ。このハクラゲナの木ですが、花が朽ちた後の実を煎じて飲むと毛量が増えるそうです。これだけの数を育てているとなると王家では薄毛と長年戦っていらっしゃったのかと愚考いたします。我が侯爵家は薄毛のご先祖様は少なかったようですが、遺伝の事を考えますと殿下も早めに飲んで対策した方が良ろしいかと」
「は?」
「ぶはっ!」
殿下の目が据わった気がするが、口元はまだ弧を描いているので問題ないだろう。後ろの侍従は何故か吹き出した後、耐える様に肩を震わせている。
「あ、ああ、いや、レフィーリア嬢は博識なのだな」
「以前王宮へ来た時にあまりのハクラゲナの多さに何か意図があるのかと思い、すぐに調べましたの」
「き、勤勉だな。とても素晴らしいことだと思う」
「ありがとうございます」
そうして他愛もない会話をしながら散歩をして何事もなく殿下とのお茶会は終わるーーわけがない。
そう。事件は起こすものだ。