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「大っ失態だわ! なんてこと! 眠りこけてしまうなんてっ」
頭を抱えて羞恥に床を転げまわる。
「お嬢様、汚いので床を転がらないでください。それから眠りこけただけでなく、王子殿下にこの部屋まで運んでいただいております」
「いやあぁぁぁあ! もうっ、もう! マリアったらなんで私を起こさないの⁉︎ 私を容赦なく叩き起こすことで貴女の右に出るものはいないじゃないのっ! なんでちゃんと仕事をしないのよ! 職務怠慢よ!」
「仲睦まじい様子でしたし、殿下にこのまま寝かせておくようにと言われておりましたので致し方なく。いい年して泣き疲れて眠りこけるようなとんだお子様令嬢の世話をさせられるとは夢にも思わず、私も専属侍女として大変恥ずかしい思いをいたしました。別途迷惑料を請求いたします」
「なんってこというのよぉぉお! お、お、お、お子様令嬢ですって⁉︎ なんという侮辱かしら! お父様に言いつけるわよ⁉︎」
「出来るものならご勝手にどうぞ」
「うぐぅ…………」
私よりよっぽどお父様に信頼されているマリアだ。
私が多少文句を言ったところで、お父様はむしろ「いつも迷惑かけてすまないね」と本気で迷惑料を払いかねない。
「…………ねえ、私最近思うのだけど。失言って私より貴女の方が多くないかしら?」
「残念ながら。私は時と場所と相手を弁えております」
「私、貴女の雇い主の一人娘なのだけれど⁉︎」
「はあ」
それで? と冷たい目を向けられる。
「くっ、なんでこんなに偉そうなのかしらっ……」
床にうつ伏せで寝そべったまま、あまりの悔しさで絨毯に爪を立てる。据わった目でしばらく睨みつけるが全く気にするそぶりも見せず涼しい顔をしている。
「その呪いの鉄面皮どうにかしないと嫁ぎ遅れるわよ?」
「呪いの鉄面皮、でございますか」
「ええ、庭師のカルロがそう呼んでたわ」
「今度はカルロですね。情報提供感謝します」
指をバキバキ鳴らしながらウォーミングアップを始める。
あら、そういえばメイドのアニスはどうなったのかしらね。無事かしら。
まあ口は災いの元だもの。アニスとカルロに何かあっても自業自得ね。私のせいではないわ。
ええ、断じて私が口を滑らせたせいではないわ。
胸の内で言い訳をしながら大きく2回頷く。
一頻り騒いで気持ちが落ち着いたので、のそのそと力なく近くのソファへ移動する。
「あーあ。想定外のことばかりで今回は台本から外れた行動ばかりしてしまったわ。こんな調子で大丈夫かしら……」
「想定内でしたので問題ございません。お陰様で一番の懸念事項も解決しそうです」
「懸念事項? 何かあったかしら?」
「お嬢様はお気になさらず。
それと週末の孤児院訪問ですが、殿下方もおいでになるそうです。その際は先日お伝えした通り、台本はございませんのでお好きなように振る舞ってくださいませ」
「まあっ、本当? 楽しみね!」
「ですが、その前にリック様からご招待を受けております」
「招待?」
「はい。もしご都合がつけば是非とも見ていただきたいものがあるのだと仰ってました。こちらを」
手渡された封筒を開けてサッと目を通す。
その内容に知らず目が輝いた。
「っ! 行くわ。すぐお返事してちょうだい」
「かしこまりました。良いお誘いだったようで何よりでございます」
「ええ、ええ! ふふっ、とてもね」