知的で洗練された先輩
サーシャさんに連れて来られたその場所は、国の死体安置所、だった。
僕「え、、、ここ、ですか?」
サーシャ「そうだ。」
王国騎士である僕とサーシャさんはこういった場所にも縁が無いわけでもない。
けれど、僕が非番の日に、
そしてわざわざサーシャさんが僕を無理矢理連れて来なければいけなかった場所、とも思えなかった。
(別に仕事の日に来れば良いのに、、、)
ふと、思う。
そういえばサーシャ先輩も今日は非番だっけ?
てことは、非番の日にわざわざ二人して死体安置所に来たってのか?
流石にもう一つ説明が欲しいところだった。
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結論から言うとサーシャさんはある人に遺体を見せに来たようだ。
僕はただの付き添いだった。
安置室。
遺体の保管されている部屋。
その中の一室。
サーシャさんはある人をそこへ連れて行き、
遺体を見せていた。
僕「、、、、、、、、、」
その人、初老の女性は遺体を前にして泣いていた、、、。
僕は、遠目から、それを見ていた、、、。
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夜。
僕はいつものマスターの店でお酒を飲んでいた。
いつもと少し違うのは
隣にサーシャさんがいること、だった。
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サーシャさんとお酒を飲みに来た理由は、「暇だから」だった。
お互い非番でする事が無く、たまには食事でも行こうか、という先輩の提案に僕が乗った形だ。
当初、食事しながら雑談をして、仕事の話になり、僕のダメ出しから始まって、剣術指南の話、上司の問題、王家の問題、社会問題、環境問題など、話す話題は多岐に及んだ。
普段は横暴な先輩もその根っこにあるのはれっきとした王国騎士だ。
その考え、信念などはとても勉強になった。
やはり、女性ながら騎士の第一線を駆けているこの人は凄い人なんだな。
僕はいつしか尊敬の念を抱いていた。
抱いていた。
、、、、、、しかし。
僕「、、、、、、、、。」
僕「せ、先輩、ちょっと飲み過ぎじゃないですか?」
八杯目に口をつけようとする先輩を心配して声をかける。
マスター(リオウ君が言える事かね、、)
なんてマスターの小声が聞こえてきたが、
僕は気にせず
僕「明日仕事だし、あんまり飲み過ぎると、、」
と、僕は先輩を思って発言したつもりだったのだが
サーシャ「うっさい!!!わたすにすさすすふな!!!」(※訳 私に指図するな!)
怒り狂うサーシャさん。
完全に酔い潰れていて、
呂律が回っていない。
(先輩、お酒弱かったんだな、、、)
その怒り狂う姿からは先程の知的で洗練された先輩の姿など見る影もない。
僕「はあ、、、、、、」
僕に、凶暴になった先輩をコントロールする事は出来ない。
僕は観念して先輩のお酒にちびちびと付き合う事にした。
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サーシャ「ぐあああああ」
テーブルには空になったグラスが所狭しと並んでいる
サーシャ「ぐあああああ」
気持ち良さそうに寝ている先輩
サーシャ「ぐあああああ」
たまに、寝言の様に何かを発する先輩
サーシャ「んーーー、もう、、、やだあ、、、、、、すやすやすや」
僕「、、、、、、、、、」
僕は今日何度目かの頭を抱える仕草をしていた。
ふと気がつくとサーシャさんは酔い潰れて眠ってしまった、ようだった。
僕「参ったな、、、」
頭を抱えた手が重い。
寝た子は起こすな、と言うが、、、(僕も起こしたく無いが、)起こすしか、、、無い。
僕は、腹を据える。
ふう、、、
そして。
僕「起きてくださいよ、先輩!」
僕は強めに体を揺さぶる。
僕「先輩!!」
ゆさゆさゆさゆさ
僕「先輩!!」
ゆさゆさゆさゆさ
ゆさゆさゆさゆさ
ゆさゆさゆさゆさ
しかし。
そこは強靱な精神の持ち主、全く起きる気配が無い。
僕「ま、、、まいったなあ、、、、」
ゆさゆさゆさゆさ
ゆさゆさゆさゆさ
僕「先輩ー起きて下さいよ〜」
ゆさゆさゆさゆさ
ゆさゆさゆさゆさ
僕「せんぱいー」
僕の声も心なしか力が無い。
と、そんな困っている僕を見て、見るに見かねてか僕にマスターが話しかけてきた。
マスター「あの、リオウ君?」
僕「あ、はい。」
なんだろう?と思ってマスターの方を向くと
そこには
困った顔したマスターが
苦笑いして
マスター「あの、もう、お店閉めたいんだけど、、、」
そこに立っていた、、、
僕「、、、、、、、、、、、」
僕「、、、、、、、、」
僕「、、、、、」
僕は、その言葉で固まってしまったと思う、、、
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バタン!!!
家の扉を開け、先輩をベッドに乗せ、僕は どかっ と、椅子に座る
僕「つ、疲れたーーーー」
マスターの店と僕の部屋はそう遠くは無い。
とは言え人を1人抱えて連れてくるのはそう楽な事では無かった。
僕「疲れた、、、、」
でも。
疲れたとは言え
僕「先輩って軽いんだな、、、」
僕はそんな感想を漏らしていた。
ベッドを見ると
先輩が、がーがー、イビキをかいて寝ている。
このパワフルな先輩からは想像も出来ないくらいの、軽さだった。
(そういえば、ナナミも軽かったのかな、、、)
ナナミを抱き抱えた事は無かったから、実際の所は分からないが、何となく先輩とナナミは同じタイプのような気がした。
(体が小さくて、気が強いところは似ているな)
僕は椅子に座って、一人ニヤニヤしていた。
手にはいつしか飲み直しの弱いお酒。
窓からの月を見上げながら
僕は
そんな物思いにふけっていた、、、。
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僕「、、、、、、、、、、」
僕は窓から月を見ながら、昼間の死体安置所に行った時の事を思い出していた。
僕「、、、、、、あれは」
僕「、、、誰の、遺体だったんだろう。」
遺体。
遺体を見て泣いている人。
遠目から見ている僕。
僕「、、、それと」
僕は気になった点が一つあった。
傷だらけの腕。
シーツからはみ出て見えていた腕には無数の傷があったように見えた。
僕「普通の、死に方じゃ無いって、事だよな」
でも、安置されていた場所は一般の遺体の保管室で
変死の場所では無かった。
僕「何か、理由があるんだろうな」
わざわざ騎士二人が非番の日に遺体を見にいって、その遺体が何でもない訳が無い。
僕「あと、、、それと、あの先輩の態度」
僕はちらりと先輩を見る。
先輩はすやすやと眠っている。
次に、僕は安置所から出て、先輩と二人で歩いていた時の会話を思い出していた。
僕「誰にも言わない?」
サーシャ「そうだ」
サーシャ「私と君はここへは来ていない。」
サーシャ「分かったな?」
僕「何故?」
サーシャ「言えない」
僕「、、、、、、」
サーシャ「そして、君も」
サーシャ「今日見たものを忘れるんだ」
僕「え?」
僕「、、 、何故、ですか?」
サーシャ「それは、、」
サーシャ「言えない」
僕「何故、、、」
と、先輩は何かを考えるように
間を置いて
サーシャ「すまなかった」
と、僕に謝罪の言葉を伝えてきた。
サーシャ「君を連れて来た事は私のミスだった」
サーシャ「私の弱さがそうさせてしまった」
サーシャ「すまない。忘れてくれ、、、」
サーシャ「もう一度言う。」
サーシャ「私と君はここへは来なかった。」
サーシャ「、、、いいね?」
僕「、、、、、、、、、」
僕もまた、間を置いて
僕「分かり、ました。」
と、先輩の意を飲む事を伝える。
サーシャ「良かった。ありがとう」
先輩はにっこり笑ってそう言った。
そして
サーシャ「それが、君を守ることになる。」
僕「、、、、、、、、、、」
その言葉を最後に、僕と先輩はあの遺体の事を話すのを止めた。
僕「、、、、、、、、、、」
意識は月明かりに戻る。
月を見ている僕
僕「言わない、知らない事が、僕を守る事になる、、、、か」
そこが、意味深だな、と僕は思った。
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考え事をしていたら
本当に夜遅くなってしまった。
寝よう
僕はそう思って机に体を持たれかけさせた。
ベッドを見れば美しい女性。
が、すやすやと眠っている。
不思議な光景、、、、
僕「、、、、、、、、、」
(喋らなければ本当に美人なんだよな、、、)
そんな、本人に聞かれたら怒られるであろう事を思いながら、
僕の意識は暗闇に落ちていった、、、
、、、、、、
、、、、
、、、
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夢、、、、
また夢をみている。
誰?
そこには泣いている女の子。
いつもは気丈に振る舞っている女の子が泣いている。
どうしたの?
と、僕は声をかける
でも、その女の子は
ずっと泣いているままで
何も答えなかった。
僕はその子の事を抱きしめた。
好きだったから。
泣いて欲しく無かった
その子には笑っていて欲しかった。
でも、
その子は
泣いていた。
、、、ずっと
泣いていた、、、、、
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「ナナミーーーーーーーーーー!!!」
僕はその自分の声で目が覚める
僕「はあ、はあ、はあ、はあ、」
僕「、、、、、夢?」
僕「、、、、、、、。」
僕「、、、、、、、、夢、か」
夢で、良かった。
汗をかいていたようだ。
僕は安堵していた。
だって見たく無かったから。
あの子が泣いているのは
見たく無かったから。
ちゅん、ちゅん、
ちゅん、ちゅん
ふと、雀の鳴き声に気がつく。
朝、、、、?
窓を見ると日が差し始めていた、、、
、、、、、、、、。
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ちゅんちゅんちゃん
僕は雀の鳴き声にふと気がついた
、、、、、、。
この辺りは雀が多い。
朝はとかく雀の鳴き声で大抵の人は目が覚めた。
窓を見るとやはり日が昇っていた。
僕「ふあ、、、、、、、」
僕は伸びをして起きる準備をする。
むにゅっ
ふと、気がつくと僕はベッドの上
むにゅっむにゅっ
僕「あれ、、、僕は、、、」
頭が働かない。
ん??
あれ、僕は椅子で眠っていなかったっ
け?
むにゅ
、、、、なんだろう。
さっきからこの手にある感覚は。
むにゅむにゅ
クッション?
なんかすべすべしている。
なんかあったかい、、、
そんなものあったかな、、、、
と、僕は今何を手にしているのかな、と
確認しようと、手の方に
目を向ける、
と、
むにゅ、、、、、
そこには
上半身裸の、
サーシャ
先輩。
が、すやすやと、、、、
僕「、、、、、、、、」
僕は、
その場で
固まってしまっていた、、、
むにゅ。
と、その時
サーシャ「ん、、、」
サーシャ「なんだ、もう朝か、、、」
と、目を覚ました先輩。
僕「、、、、、、、、、、」
サーシャ「、、、、、、、、、、、」
だらだらだらだら
僕の背中に冷や汗が流れる。
サーシャ「、、、?」
ふと
先輩は(何かに気が付いたように)
ゆっくりと目線を下に落とす。
その先には僕の手。
僕の手?
先輩は僕の手を見る。
僕の手は、、、
先輩の、、、、、
先輩の、、、、、、
胸。
むにゅっ
僕「あ、、、、、、、」
先輩の顔が見る見る内に赤く、なる。
先輩の顔から見る見る内に蒸気が噴き出してくる
サーシャ「り、、、、」
それはまさにマグマが噴き出す直前のよう、、、、、で、、、
サーシャ「り、、」
サーシャ「り、、、」
サーシャ「り、、、、、」
サーシャ「リオウーーー!!!!!!」
バキィイイイイイイイイイイイイイイイイイ
、、、、、、。
、、、、。
、、、、。
、、、、。
静寂の朝に。
僕の叫び声が響き渡ったのは、言うまでも無かった、、、、、、、、